軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24話 ウルの騒動その一

◇◇◇

「なんだか大変だったみたいねー」

帝国騎士団の任務についた私は、魔法使いの先輩であるマルチダ先輩の補佐として吹き抜けの天井裏から、パーティーの始まった大ホールを見守っていた。

「何かしてくるとは思っていましたけど、まさか最初から声をかけてくるとは思いませんでした」

もしかしなくてもウルのパーティーの目的って、最初から最後まで私? 折角、招待して頂いたんだから、馬鹿なことばかり考えてないで少しはパーティーを楽しんだらいいのに。

「リネットちゃんから話は聞いてたけど、想像以上に強烈ね」

大ホールの吹き抜けの天井裏は高さがあるので、空を飛べる魔法使いが担当している。

かといってずっと飛び続けるのはしんどいので、魔法使いのために設置されている場所で異変が無いかを確認しつつ、何かあった時に速やかに対処出来るように待機している。

「あの子でしょ?」

そう言ってマルチダ先輩は、真下の大ホールで、グラスを片手に一人でいるウルを指差した。

その表情はどこか険しくて、機嫌が悪く見える。

「まだ何かやらかしそーな顔してるわ」

「私もそう思います」

ウルは、私に負けると微塵も思っていない。

この機会に私を意地悪な姉に引きずり戻して、自分は虐められる可哀想な妹に戻る気でいる。もしかしたらアレンの婚約者すら、まだ私から奪えると思ってるんじゃない?

「アレン隊長の婚約者? 無理無理、アレン隊長はリネットちゃん以外、女に見えてないし、あの子、アレン隊長が一番嫌いなタイプの女じゃない」

「わ、私以外どうのこうのは分かりませんけど、私も、アレンはウルを選ばないと思います」

アレンはウルの妄言に騙されるような人じゃないし、何より、ウルには可愛い以外の魅力が何一つ思いつかない。

(確かにウルは可愛いと思う。でもそれだけ。性格だって破綻してるしね)

「アレン隊長がリネットちゃん以外の女に靡くはずがないってこと!? やだぁ、リネットちゃんラブラブー!」

「そ、そんなこと言ってません! マルチダせんぱ――」

「きゃあ!」

「!」

「何?」

観察していたウルが急に大きな悲鳴を上げたと思ったら、ドレスが赤く染まっていた。

一瞬、血かと勘違いしてしまいそうだけど、赤く染まった正体は、ウルが持っていたグラスの中身だった。

「グラスを落として、中に入っていた飲み物がドレスにかかったみたいですね」

「ほんと、騒がしい子ー」

何事かと、ウルの周りには人が集まっていて、その中には騒ぎを聞きつけた別の帝国騎士団の姿もあった。

「ただ飲み物をこぼしただけでしょ? 放っておきましょ」

「そうですね」

天井裏からでは声まで聞き取れないが、輪の中心にいるウルの表情は、お決まりのか弱い女性を演じていた。

◇◇◇

「よぉ、リネット」

「サイラス先輩」

マルチダ先輩の補佐が終わり、大ホールの天井裏から次の現場に向かう途中、帝国騎士団の制服ではなく、礼服を着たサイラス先輩に遭遇した。

「今日はお休みですか?」

「まぁな、親父がワードナ侯爵令息としてパーティーに参加しろ、って、五月蠅いんだよ」

貴族間では色々ありますからね。きっと、ワードナ侯爵とコット殿下の間に何か繋がりがあるのでしょう。いくら帝国騎士団が誇り高い仕事だと言っても、時には家のことを優先しなくてはならないこともある。

「サイラス先輩が招待客の中にいて下さるなら、安心です」

ただ、休暇中とはいえサイラス先輩がいてくれるのは心強い。有事があった時には間違いなく動いてくれるだろうし、率先して招待客を守ってくれるだろう。

「そ、そんなに頼りにされちゃあ仕方ないな! 仕方ないから、何かあったら、俺がお前を守ってやる!」

ん? 守るのは私ではなく招待客では?

サイラス先輩の言葉は少し引っかかったけど、言い間違いか何かだと思って、深く追求するのは止めた。

「リネット、妹と会ったのか?」

「パーティーが始まる少し前に会いましたよ。騒ぎは聞いてるんじゃないですか?」

「まぁな、メルランディア子爵家が家族総出で、よりにもよってアレン殿下に喧嘩を売るとか、頭大丈夫かと思ったぜ」

「あはは」

正確には、喧嘩を売られたのは私で、アレンは巻き込まれただけですけどね。

「他は? 大丈夫か? 何かされてないか?」

「……心配してくれるんですか?」

「て、帝国騎士団の先輩として、仕方なくな!」

「ありがとうございます、サイラス先輩」

最初に会った時はあれだけ敵視されていたのに、随分な変わりようだ。

――――こうやって心配されるのは、いつもウルの方だった。

『大丈夫? 意地悪姉に虐められてない?』

『意地悪姉になんかされたら言えよ! 俺がまた、腹を蹴りつけてやるよ!』

『可哀想なウル嬢、僕が慰めてあげます』

『ウルと結婚して、これからは僕が君を守る』

心配されて注目されて守られるのはウルばかりで、ウルはいつも、ご満悦だった。

あの時は何が良いのか分からなかったけど、心配されるのも守られるのも見守られるのも嬉しい、って、アレンで学んだ。

(だからって、嘘をついてまで心配されようとは思わないけどね)