軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23 2号の秘策

剪定剣。これなら効果があるかもしれない。走り、近づき、斬りつける。

「これならっ!」

まただ。またすり抜けた。他の攻撃を当てた場合と同様、モヤモヤが僅かに揺らぐのみ。

剪定剣の効果が全く見られない邪神は平然と言う。

「……そうか、貴様が持っていたのだったな。失くしたとはいえ、元はオレの所有物だ。ついでに返してもらおう」

「うーん。これなら効くと思ったんですけどね」

「いくら強大な代物でも、力を引き出さねば意味がない」

「あっ! 力を解放する鍵ってやつですね! どんなのですか!? ヒント! ヒントだけでいいんで!」

「な、なんだ、その反応は……?」

あれ? どうしてそんなに引き気味なの? 表情だけでなく仕草すら曖昧な邪神だが、戸惑っている様子が分かった。

ただ教えてくださいってのは失礼だったな。反省。

「すみません、好奇心が抑えられなくて。条件を満たさないと力を発揮しないのはロマンに溢れているなと思っただけです。言葉の通り、金属の鍵があるわけじゃないですよね? そこだけ分かれば満足しますから」

「あ、ああ……その通り、鍵と呼ばれる条件がある」

「ですよね! ですよね!」

「だから、その反応は何なのだ……」

分かって満足。できれば条件の詳細も知りたいけれど、それは欲張りだよね。

諦めるか、駄目を承知で質問するか悩んでいると、困惑していた邪神は気を取り直したように言う。

「力を解放するには剪定剣の真なる名、いわゆる銘を知らねばならぬ」

「ぽいぽい! それっぽい! いいですね!」

「……大丈夫か?」

何故か邪神に心配された。人の身を案ずるようなキャラじゃなかったはずだけど……。

怪訝に思われていることを察したのか、彼は咳払いをしてから口を開く。

「して、剣の銘だが……貴様には話した気がするがな」

「聞いてないですよ?」

「そうだったか? ……ああ、そうか。貴様は貴様でも並行世界の方だったな」

邪神はわざとらしくクツクツと笑い、2号を見やる。

知られては困るであろう剣の銘。大事なことを彼はなぜ2号に喋ったのだろうか。しかも、それをわざわざ私に伝えた意味とは。銘を知られても困らないということか、何か罠が仕掛けられているのか、はたまた……いや、そういうのどうでもいいや!

私は邪神そっちのけで2号に近づく。

「2号ちゃん! 聞いたんでしょ! 教えて、ね? ね?」

「アンタ、頭大丈夫? どうしちゃったの?」

まずい。2号ちゃんは平常通りご機嫌ナナメだ。

口を閉ざされては堪らない。誰の頭がおかしいんだと反論したいところ、私は精一杯に愛想よく言う。

「頭は大丈夫じゃないかも! 剣の名前を聞いたら治ると思う」

「うわっ……キモチワル」

「キモチワル? ……随分と個性的な名前だね。テンション下がっちゃった」

「気持ち悪いのは剣じゃなくてアンタよ」

あ、私を気持ち悪いって言っていたのか。剣じゃなくて良かった良かった。

ユミエラ二人でワイワイやっている間、邪神は隙あらばコードを使おうとするがパトリックが全て阻止していた。

一人でやらせてごめん。彼は邪神から目を離さず、私に言う。

「どう考えても裏があるだろう! 聞いても言うなよ!」

それは無理だ。好奇心に殺されてやろう。猫と心中も悪くない。

嫌だと答えたら揉めるだろうし……私が答えあぐねていると、2号が代わりに返事をする。

「大丈夫よ。私、聞いたみたいだけど忘れたわ」

「はあ!? どうかしてる! 頭大丈夫!?」

「アンタにだけは言われたくない。見たこともなかった剣の名前なんて、覚える気ないわよ」

えぇ……テンション下がる。

どんな響きかだけ知りたいな。三日月宗近っぽい名前かデュランダルっぽい名前かで心持ちが変わってくる。

そこだけ教えてと2号に泣きつこうとしたとき、小さな声が聞こえた。確かに聞こえるが、高いか低いかも分からない不思議な声色だ。

「無理だったか……。力を振るうのもやむを得まい」

邪神の不穏な発言を聞いた瞬間、底知れない恐怖感を覚えた。

攻撃は効かずとも抑えるだけなら簡単だと思っていた相手を、確かに私は怖いと思った。

今、邪神に一番近いのはパトリック。「危ない離れて」の言葉は間に合わなかった。

注意を促す暇もなく、彼は吹き飛ばされた。

「パトリック!?」

思わずパトリックが飛ばされた方向に向かおうと、邪神から気をそらしてしまった。

隙を見せたら最後、私たちは動きを止められるのだ。サノンが力を使い果たした今、あれから復帰する手段はない。

それに気がついたとき、邪神は既に、コードを言い終えそうだった。

「管理者コード発動―当該空間の対象を停――」

周囲がスローに見えるくらいに頭を回して考える。どうすれば阻止できる?

近づき物理攻撃。無理。とても間に合わない。

ブラックホール。ブラックホールは発動するまでに僅かな溜めが、その後の黒球消滅にも間が空く。普段なら気に留めない時間だが、今は瞬きの間さえ惜しい。

シャドウランス。即座に発動可能だがヤツには影が無い。開けた場所故、近くに手頃な影も無し。却下。

ダークフレイム。指から飛ばす魔法。ファイアボールと変わらない速度。比較的遅い。間に合わない。

手元にある剣を投げる。ダークフレイムよりは速い。でも間に合うかどうか……。

万策尽きた。三十メートルも無い距離が、とんでもなく遠く感じる。

勝算の高いことはやっておこうと、剣を振りかぶる。ああ、筋肉を縮める時間がもどかしい。

邪神を見据えて狙いを定めたところ、違和感を覚えた。

謎のモヤモヤ本体ではなく彼の足元。地面が黒い。黒々とした丸い影が、ハッキリと出来ていた。

考えている暇は無い。影があるならアレが使える。

発動までのタイムラグは私から見てもほぼゼロ。神速の黒槍が邪神を貫く。

「シャドウランス!」

「――ちっ、邪魔されたか」

この隙に私は邪神に肉薄する。これで大丈夫。

危なかった。一秒にも満たない時間で事態が急変したな。

私を救った謎の影はすぐに消えてしまった。それと同時に私の影からレムンの声がする。

「ボクも一応、仕事しないとね」

「あの影はレムン君が?」

「ボクは闇の神だよ? あれくらい出来て当然」

「では常に影をお願いします。邪神の真下で」

「いやあ、それがね、今ので結構、疲れちゃったんだよね」

レムン君、虚弱体質すぎない? 一瞬、地面に影を作っただけで辛いって……。

しかし、窮地を救われたのだ。体力の無さについては言及しないことにする。

レムンとの会話もそこそこにして、私は邪神に注意を向ける。

集中を切らさなければ、ブラックホールも近接攻撃も間に合うのだ。先と同じ轍は踏むまい。

それと警戒しなければならないのは、パトリックが後方に吹き飛んだ原因だ。チラリと見ただけだが、彼の無事は確認できている。

邪神が出した衝撃波のようなものだろう。

予備動作を見逃すまいと気を張り詰めていたところ、体が浮き上がる。

「えっ?」

そして私は、後ろに吹き飛ばされた。

あれだけ警戒していたのに。邪神から一時も目を離さなかったのに。何の予備動作も詠唱もなく衝撃波が発生した。

恐らく、事前に察知することは不可能。

威力は弱い。私やパトリックなら体に何の影響も無いだろう。

ただ飛ばされるだけ。それがあまりに致命的。

「管理者コード――」

またか。

同じことの繰り返し。芸が無いと言いたいところだが、またしても危機的状況だ。

純粋な魔力を放出し、空中で体勢を整える。これだけで結構な魔力消費になってしまう。

邪神の姿を目視。少し移動していた。当て推量で魔法を使っていたらと思うと肝が冷える。

「ブラックホール」

本日何度目かも分からない闇属性最上位魔法を使い、邪神のコード発動を妨害する。

地面に着地すると、後ろからパトリックが駆け寄ってきた。

「大丈夫か?」

「大丈夫。パトリックも平気そうで良かった」

「しかし……まずいぞ」

「うん、どうしようね」

邪神に対して有効打を出せない私たちは、長期戦を見据えて根比べする気でいた。ヤツが詠唱を始めたら攻撃して、妨害を延々と繰り返すだけ。

交代で眠れば数日は平気で続けられる。その稼いだ時間で何かしらの方策が見つかれば良し、向こうが諦める可能性だってある。

しかし、あの衝撃波が加わると話は別だ。ダメージ無しでも確定ノックバックは強い。

パトリックが飛ばされた先程、私が飛んだ今と、ギリギリの局面が続いている。

警戒していれば邪神がコードを言い終える前に邪魔できるだろう。でもそれを何時間も続けるのは無理がある。

「こちらからの攻撃手段が無いのが厳しいな」

「これを続けるのは大変だよね」

「向こうもまだ何か隠しているはずだ。疲弊したところで奥の手を使われたらどうしようもない」

「行動不能って、実質即死みたいなものだしね」

邪神がコードを言い終えても、私たちは動きを止められるだけ。そう思うとあまり危機感を持てないが、戦闘中に動きを止められるのは死んだも同然だ。

私たちの最終手段であるエリクサーが使えない分、即死攻撃を乱発してくるより厄介かもしれない。

あれ? エリクサーって行動不能に対しても使えるのかな?

気になったので、私は影に向かって問いかける。

「レムン君、レムン君、あのコードっていうのにエリクサーは使えますか?」

「使えるとは思うけど……アイツは空間を丸ごと指定するつもりだよ? 誰がエリクサーを使うの?」

あー。実質的には全体即死攻撃を放ってくる相手と戦っているのか。辛いなあ。

それにしても、エリクサーの効能は謎だ。やはり蘇生薬というよりかは……いや、今考えることじゃないな。

「それじゃ、散開で」

「分かった」

私とパトリックは頷き合った後、左右に分かれて走る。

どちらかが吹き飛ばされても、どちらかが攻撃。交互に戦えば大丈夫なはず。

「ふん、小賢しい真似を」

そう邪神が言ったと同時、またしても私は空中に舞い上がった。

やっぱりこれ、予備動作も予兆も無いから防ぎようが無い。

邪神は私狙い、後は頼んだパトリック……と思ったところで、視界の端に宙を舞う彼の姿が……。

全方位なの? 強すぎない? 私だったら技名を考えて……ああ、技名とか言わないから厄介なのだった。

「私がやる!」

今回はパトリック温存で行こう。

先程と同じように、魔力放出で体勢を整えて魔法を使おうとする直前、邪神は黒球に包まれた。

私以外にブラックホールを使うのはユミエラ2号だけだ。彼女は着地した私の横に来てマイペースに言う。

「どう? アンタなら勝てそう?」

「動くなら言ってよ! 魔力無駄遣いしちゃったじゃない!」

「ああ、無理そうってことは分かったわ。アンタも大したことないわね」

「はぁ? 邪神の前に2号を倒した方がいいかもね」

「ふーん、分かってるじゃない」

え? 分かってるって……何を?

私が疑問を差し込む前に、口の端を釣り上げた彼女は楽しそうに口を開く。

「アイツを倒す方法、私は知っているわよ」

「えっ? ホント!?」

「私が無策で邪神に喧嘩を売るはず無いじゃない。初めから、アイツを倒す道筋は考えてあるわ」

「すごい、流石2号さん。そんなのがあるなら最初から言え」

今だけは2号ちゃんを褒めてあげようと思ったが、後半で本音が漏れてしまった。本当に最初から言え。今までの攻防は何だったんだ。

して、彼女の秘策とは一体……。

ユミエラ2号は心底楽しそうに……客観的にそこまで楽しそうではないけど表情筋が死んでいるユミエラ基準では心底楽しそうに言う。

「アンタには教えて上げない」

「は?」

「私がメインでやるから。その後は流れで分かるわよ」

「はあ?」

「アンタは目眩ましをして頂戴。アイツに向かって、出来るだけ大きなブラックホールを」

彼女はどこまでもいけ好かない。

味方なら味方らしくして欲しい。そんな態度だと背後からの銃弾で死んでも仕方ないぞ。

しかし、やることはやるか。今の私は完全に無策。彼女の秘策に乗るしかあるまい。

邪神の向こう側に回り込んでいるパトリックにジェスチャーで下がるようお願いしてから、2号に確認を取る。

「やるよ?」

「いつでもいいわよ」

彼女は何をするでもなく、私の隣に平然と立っていた。本当に大丈夫?

まあ、やるか。なるべく大規模なブラックホール。邪神を中心にして、私たちの立っている所ギリギリまでの大きさなら問題ないだろう。

「……ブラックホール!」

漆黒の球体が出現する。半分は地面を巻き込んでいるのでドーム状に見えるはずだが、私からの視点では真っ黒な壁が出来たようにしか見えない。

その時、ユミエラ2号が私の耳元で囁いた。

「後はお願い、ユミエラ1号」

「え?」

2号は柄にも無いことを言う。1号と呼ばれたのも初めてかも。

何事かと横を見ると、彼女は前へと走り出していた。そして、黒い黒い壁の中へ。

「危ないっ!」

「剣の名前は――」

ブラックホールの出現と消滅にはタイムラグがある。その僅かな時間に範囲内から脱出すれば回避が可能。

逆に言えば、時間内に範囲に入ると……。

それを彼女はやってしまった。闇の中に飛び込んでしまった。

黒い球体は、全てを消し去りながら、中央に向かって収縮を始める。

瞬きの間に、黒球は完全に消えてしまった、ユミエラ2号を巻き込んで。

「……え?」

眼前に巨大クレーターが出来ている。気圧の差が出来て、足を取られそうなほどの追い風を受ける。大穴の中央には邪神が変わらぬ姿で立っている。ユミエラ2号は消えている。

「…………うそ」

嘘だ。何かの間違いだ。2号はきっとどこかに隠れていて、邪神に不意打ちをするつもりなのだ。

呆然と周囲を見回す。彼女はいない。隠れられる場所も無い。

まさか、まさかね……。

「……あ」

濃密な魔力が体に流れ込んでくるのを感じる。可視化するほどに濃い闇の魔力。

受け入れられなかった事実を突きつけられる。これは、この現象は……。

「ああ…………」

酔いそうなくらいに大量の魔力を、私は凄まじいスピードで吸収していく。

体に馴染む、慣れ親しんだ魔力。そりゃあそうだ、だって同じユミエラの残滓なのだから。

「この感覚、久しぶり」

何年ぶりかのレベルアップ。今まで経験したことのない、急激な力の上昇を感じた。

私は強くなった。圧倒的に強くなった。その強さを身に宿し、彼女が死んでしまったことを改めて実感する。

ユミエラ2号は、私の魔法に飛び込んで命を落とした。