軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13 エリクサーを求めダンジョンへ

場所を移動して今はダンジョンの中。ウッキウキで先導するレムンの背中を、私とパトリックが追う。

並行世界の私に対抗する手段として装備を整えることになった私たちは、エリクサーを手に入れるためにここにいる。

ダンジョンの位置する場所はバルシャイン王国王都のすぐ近く。王都近郊にある二つのうち、難度の高い方だ。俗に裏ダンジョンとも呼ばれるそこは、学園在学時にはたまに利用することがあった。

国軍の兵士や冒険者、学園の生徒などは簡単な方のダンジョンに行くのでいつでも空いていて使い勝手が良い。

パトリックも在学中はここでレベル上げをして、今ではレベル99目前だ。効率的にはそこそこだから……むむ? 学園入学時の彼はレベル10にも満たなかったはずだ。それが、このダンジョンメインでレベル上げをしていて、もうレベル90付近?

レベル99に必要な経験値ってどれくらいなんだろう? パトリックの成長速度から考えるに……もしかして私は学園入学のずっと前にレベル上限に到達していた?

私の幼少期の努力は無駄な……いや、考えるのは止めよう。精神衛生上よろしくない。

数時間前、エリクサーを入手しに行くことが決まった私たちは、すぐさまリューと一緒に王都に移動。そして今に至る。

前を歩くレムンはサノンへの愚痴を漏らすが、機嫌は良いままだ。

「いやあ、サノンもケチだよね。太陽が出ていればどこへでも移動できるんだから、ボクたちを運んでくれてもいいのにね」

「瞬間移動は便利ですよね。私も出来るようになりませんか?」

「どうしてお姉さんは神の権能を手に入れたがるのかな」

「私個人の欲求ではなく、人間が皆持つ欲望な気がしますけれど」

会話しつつ奥へ奥へと歩き続ける。

レムンは最深部までの最短経路が分かっているようで、迷いなく進んでいく。

少し面倒なのは道中の魔物だ。彼らはレムンをそこにいない者のように扱い、横を素通りして私やパトリックの元に向かってくる。

魔物が襲うのは人間のみなので、やはりレムンは神様なのだと実感する。

最奥までそろそろだろうか。そこでパトリックが小声で話しかけてきた。

「ユミエラ、前にここのボスは危険だと聞いたが一体何なんだ?」

「そんなこと言ったっけ?」

「確かに聞いたぞ。このダンジョンのボスとは決して戦ってはいけないと」

ゲームの記憶が確かなら、ここのボスは巨大なゴーレムだ。最強クラスの物理防御と魔法防御を兼ね備えているが、攻撃力と素早さがイマイチ。

倒すのにただただ時間がかかるのでレベル上げに向かず、ドロップアイテムもしょぼいので美味しいダンジョンとは言えなかったはずだ。

……ああ、思い出した。それで彼には相手をしないように忠告したのか。

「言ってたね。でもね、戦っちゃ駄目なのは強いからじゃなくて硬いからだよ。レベル上げ効率が悪い」

「それは……ユミエラらしい」

「たまに私らしいって言うけど、それって褒め言葉?」

「……………………褒め言葉だ」

謎の間があったが、まあ褒められたっぽいので良しとしよう。曲がり角から飛び出た魔物を回し蹴りで倒しながら、そう思った。

特にトラブルもなくサクサク進み、一時間もかからずに五十階層のボス部屋前まで到達することができた。

突入前にレムンに確認しておく。

「エリクサーはこの先にいるボスを倒せば入手できるんですか?」

「ダンジョン内の確率は操作できるから、必ず手に入るよ」

「それは良かった。何周もするのは嫌ですから」

「ボスを倒すのだけはお願い。ここまで余裕のお姉さんたちなら大丈夫でしょ」

ゲームでのエリクサーはボスのランダムドロップだった。本編クリア後にその情報が分かった私は、ユミエラ戦に備えてこのダンジョンを周回したのだ。

そして硬すぎるボスに散々苛ついてエリクサーをゲットした。アイテムの効果はパーティーメンバーの一人のHPとMPを全回復。HP0で戦闘不能の状態から1ターンで全快できるアイテムはとても貴重だった。

理不尽なほど強い裏ボス相手に使い所を誤ってはいけない。そう勿体ぶった私は、結局エリクサーを使わずにユミエラを倒したのだった。貧乏性には使えない回復薬、それがエリクサーだ。

「それじゃ行こうか」

ボスの間の扉が開く。奥に鎮座しているのは巨大なゴーレム。材質は何かの金属で、見るからに防御力極振りだと分かる。

侵入者を察知して一つ目が光りだしたゴーレムを見て、パトリックは嘆くように言った。

「確かにアレは苦労しそうだ」

「任せておいて。私にいい考えがある」

私にはゴーレム対策の秘策があった。この世界はゲームのようでゲームと違う。戦闘はHPという数値の削り合いではなく、本当の殺し合いだ。弱点狙いが有効だし、戦略も重要になってくる。

鈍く光る装甲板を素直に削る必要はないのだ。狙いは関節部。構造上、絶対に装甲が薄い。その中でも頭と胴を繋ぐ首の関節部が弱点と見た。

頭を落とせばゴーレムはすぐに稼働停止するはずだ。もし動いても、大幅な制限がかかるはず。だって目があるのが頭だし。たかがメインカメラ、されどメインカメラ。

金属の巨人に向かってゆっくり歩く私は、後ろから声をかけられる。

「俺の剣で良かったら使うか?」

「素手でいいの。精密な動作が必要だから」

自分の剣は家に置いてきてしまった。剣だと的確な弱点狙いをできるか怪しいので素手でいい。いや、素手がいい。

ゴーレムに遥か高くから見下される。ゆっくり振り上げられた巨大な腕を眺めつつ、どうやって首元まで辿りつくかを考えた。

ここは相棒に協力してもらおう。以心伝心の私たちは合体技も即興で出来てしまう。

「パトリック! 合体技よ!」

「……何だ?」

出来なかった。それはないぜと私が振り返ったところに、ゴーレムの腕が振り下ろされる。

私を潰そうとする巨腕を片手で押さえながら、私は彼と打ち合わせをする。

「あの、パトリックが地面を隆起させて、私が大ジャンプする感じのアレ」

「それならそうと言って貰わないと分からない」

「うん、ごめん」

よし、仕切り直しだ。ゴーレムを押しのけてもう一度掛け声を発する。

「パトリック!」

「分かった」

パトリックの土魔法が発動する。私のいる僅かな区画のみ、石の床が上へ上へと迫り上がる。もうゴーレムの身長を越した。

特製のジャンプ台が上昇を止めると同時に、私は自らの力で天高くへと飛翔した。

そして、頭が天井に突き刺さる。

「……お兄さん、あれって何がしたいの?」

「俺にも分からん」

レムンとパトリックの呆れ声が聞こえる。私は天井から頭を引き抜こうとしながら、ダンジョンでやる技じゃなかったなあと思った。いつか、空に浮かぶ強敵を相手取るときに改めてやってみよう。

これも作戦だし。元々こういう技だし。そんな態度を取りながら、私は体を反転させて天井を蹴った。

ゴーレムの頭上めがけて一直線。動きの鈍いヤツには反応が出来ていない。

落下スピードを上乗せした最強の手刀が、ゴーレムの首元に突き刺さる!

「……あ、ちょっとズレた」

ピンと伸ばした私の指は、ゴーレムに深々と突き刺さっている。正確にはゴーレムの胸、一番装甲の厚そうな部分。

手を引き抜き、地面に着地する。同時にゴーレムの巨体は後ろへと倒れていった。

「お見事」

「違っ……まあね、これが私の実力よ」

関節が弱点とか、長々と考えていた自分が恥ずかしい。頭脳プレーをするつもりが完全な脳筋ムーブになってしまった。

ゴーレム氏サイドにも問題がある。ただの人間の素手で即死とは情けない。最強クラスの防御力が聞いて呆れる。彼が弱いのか、私が強すぎるのか。ああ、虚しい。

「はあ、帰りますか」

「あれ? いっこだけでいいの?」

「エリクサーって何個もあるんですか!?」

てっきりユニークアイテム的な存在だと思っていた。ドロップ率が極端に低いだけで、ゲームでも複数個入手可能だったのかもしれないな。

レムンは両手を使い、指を七本立てる。

「エリクサーは全部で七つ。ボクの権能で絶対に出てくるように出来るから、あと六周しようか。お姉さんたちの力ならすぐだよね?」

「本当に、全部で七つですか?」

「……ボクは嘘なんてつかないよ? ホントだよ?」

絶対にもっとあるな。エリクサーは複数個あるとはいえ、数が有限な貴重な物だ。この疑り深い神様が、全て放出するとは思えない。

しかし、七つあれば十分過ぎる。あまり問い詰めずに次の周回に向かおう。