軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20 暗殺一週間

私はできることなら貴族の家に生まれたくはなかった。礼儀やダンスなど習わなければいけないことが多いし、貴族特有の社交辞令が過剰な会話も嫌いだ。

しかし、貴族に生まれて良かったかもしれないと思う瞬間もある。それはおいしいお菓子を食べているときだ。おいしいものを食べようと思うと相当にいい値段がする、庶民ではなかなか手が出せないだろう。

自分で買うこともあるし、王妃様や他の貴族からの貰い物を食べることもある。

今日は王妃様から送られたクッキーを食べようと思う。クッキーと言っても、王妃様が選んだものなので相当おいしいのだろう。

「リタ、紅茶をお願い」

「かしこまりました」

メイドのリタは紅茶を淹れるのがとても上手い。部屋の掃除も完璧にしてくれるし、雇い主が父ということに目をつぶれば完璧メイドと言えるだろう。

おいしいお菓子においしい紅茶、私は今日も幸せです。

……おや? 紅茶の味がいつもと違う気がする。舌先もピリピリするし茶葉を変えたのかもしれない。もしかしたら粗悪品なのかも。

「ねえ、この茶葉っていつものやつ?」

「はい、いつもと同じものですよ」

粗悪なのは私の舌の方だった。お菓子も下町で買ったやつで満足できるし、やっぱり貴族になんてなるもんじゃないな。

翌日に飲んだ紅茶の味も変に感じた。もしかしたら風邪のひき始めかもしれない、今まで風邪なんて引いたことはないが。

「失礼、あなたがユミエラ嬢で間違いないかな?」

放課後、念の為早めに休もうと部屋に帰る途中で学園で見なれない男に呼び止められた。

「はい、私がユミエラです」

「私は王国の魔道具開発部から来たアラスターという。君に魔道具の開発実験に協力して欲しくてね」

協力する義理は無いが開発中の魔道具には興味があった。

「はい、あまり時間がかからないのであれば」

「ああ、すぐに終わるよ。そこの空き教室に用意をしてある」

私に話が回ってきたということは、どうせ何かの耐久試験か何かだろう。どこかに連れて行かれるかと思ったが、学園の教室で済ませられる実験らしい。

「これは新しいタイプの魔封じの枷でね、王国一であろう君の魔力にも耐えられるかを実験したいんだ」

アラスターに見せられたのは手錠のような形状をした魔道具であった。確か魔封じの枷とは、対象の魔法を使用不能にする魔道具だ。

私は彼に魔封じの枷を付けられる。材質は分からないが鉄なんかの比ではない程の重さを感じる。魔法的にも物理的にも丈夫に作られているのだろう。

空き教室に男一人と手錠をした女生徒、なんだか犯罪じみた絵面になってしまった。

「この状態で魔法を使えばいいのですか?」

「ああ、魔法の出力をだんだんと上げていってくれ。これが耐えられそうになかったら私が終了の合図を出そう」

私は彼に言われた通り、小さめの魔法を発動しようとするが何も起こらなかった。少しずつ放出する魔力の量を増やしていくが、何か変化が起こる様子はない。

最終的には全力で魔法を使おうとしたのだが、それすらも失敗に終わった。この魔道具すごいな、私の魔法に耐えたのはこれが初めてだ。

「これで全力です。すごいですね、この魔道具」

人生初かもしれない敗北に感動半分、悔しさ半分で打ち震える私の耳には、アラスターの話が耳に入ってこない。

「よし今だ! さっさと殺してずらかるぞ!」

いやまだだ、私はまだ負けていない。魔法で無理なら物理で勝負すればいいだけの話だ。

「ふんっ!」

私は渾身の力を込めて魔封じの枷を引きちぎる。枷の鎖の部分は簡単に壊れてしまった。よし、これで魔封じの枷とは1対1の引き分けだ。

「あれ?」

気がつくと私は周囲を武装した男に囲まれていた。アラスターは下卑た顔で男たちに命令をしている。

「おい、何をしている! さっさと殺せ!」

「あの、すみません」

「ああそうだ、魔道具の実験なんて嘘だよ。ここまで簡単に引っかかるとは思わなかったがな」

「あの、これ壊しちゃったんですけど」

「え?」

アラスター以外の男たちは枷を引きちぎった私を見て硬直していたが、彼は今その事実に気がついたらしい。

機嫌が良さそうに笑っていた彼の顔はだんだんと青ざめていく。

「じょ、冗談ですよ。実験の協力感謝します。では、私はこれで」

「それは無理があるでしょう」

私はどうやら殺されようとしていたらしい。魔法を封じたくらいで私を無力化できると思われてたことは心外である。

アラスターと男たちは私が捕らえ、国の兵士に引き渡すこととなった。学園長いわく、彼らを学園内に手引きした者がいるはずなのでまだ注意が必要だという。

その2日後の夜、胸に違和感を感じて目を覚ます。すると目の前には覆面を被った男がいた。まさか変質者? 胸を触られたのか?

「ば、バカな……」

驚愕で目を見開く男の手には大きなナイフが握られていた。私の服の胸の部分には穴が空いている。恐らく刺されたのだろう、私自身には傷一つ無いが。

「ええと、暗殺者的な人で合ってますよね?」

「ひっ、化物」

またしても私は殺されそうになったらしい。暗殺者の彼のレベルは知らないが、これくらいで私が殺せるわけないだろうに。

「そんなわけで2回も暗殺されそうになってるから、私に近づかない方がいいわよ」

パトリックは学園の廊下で話しかけてきたが、彼とはしばらく距離を取った方が良いだろう。

「そうだな、ユミエラの足手まといになっても困るしな。あと2度あることは3度あるとも言う」

おいパトリック、そんな不穏なことを言うな。短期間で3回も暗殺されそうになってたまるか。

「あ、危ない!」

窓の外から弓矢が飛んできた。当たっても怪我はしないだろうが、服が破けるのは嫌なので矢を手で掴む。

「射手を捕まえてくるから! パトリックは一応、隠れてて」

弓を放った下手人を捕らえるべく、窓から外に飛び出す。ヤツは絶対に許さん、パトリックに当たったらどうしてくれるんだ。

もしかしたら学園は暗殺者の巣窟になっているのかもしれない。明日は休日だが、学園の外に出かけようと思う。

「囲め囲め! 囲んで串刺しにしろ!」

王都の路地裏で、私は20人ほどのならず者に囲まれていた。いかにも悪者という風体の彼らは槍や剣で武装している。

「はあ、ダークバインド」

「うわあああああ、何だこれは!?」

彼らは影から伸びた腕に拘束されていく。いい加減に我慢の限界だ。

今までは暗殺者の尋問を国の兵士に任せていたが、今日に至るまで黒幕の素性は判明しない。私自身が犯人探しを始めてもいい頃合いだろう。

「あなた達のリーダーは誰ですか?」

誰も名乗りを挙げないが男たちの視線が1人の男に集中する。囲めと指示を出していた人だ。

「あなたがリーダーですね? 誰に依頼されたんですか?」

「知らねえよ」

「シャドウランス」

影から槍が飛び出して男の腹を貫く。辺り一面に血が飛び散った。

「ぎゃあああああ」

次に回復魔法で傷を治す。彼には傷跡も残っていないだろう。

「ヒール。これを何回くらいやれば喋りたくなりそうです?」

私には殺さずに効果的な拷問をする技術はないので、これを繰り返すしかないだろう。絶対に死なないし、傷も残らないので人道的な拷問と言えるかもしれない。

「これはひでえ」

「人間のやることじゃねえ」

「やっぱりアイツは化物だったんだ」

人道的とか言ったが、周囲の男たちの反応はあまりよろしくないようだ。

「別に話してもらうのはリーダーさんじゃなくてもいいんですよ?」

私が周囲を見渡すと彼らは途端に口をつぐみ、私から目線を逸した。

「本当に知らねえんだ、信じてくれ! 顔も見せないヤツに、王立学園から出てくる黒髪の女を殺せって言われただけなんだ!」

リーダー格の男が必死の形相で訴える。

「まだ足りないみたいですね。心配しないで下さい、百回繰り返しても魔力は無くなりませんから」

「違うんだ! 本当だ! お願い信じてえええええ」

遂に彼は泣き出してしまった。どうやら本当に知らないらしい。

他の暗殺者たちも同じように知らない人物から依頼されているのだろう。捜査が進まないのも納得だ。

どこにいようと襲撃を受ける私の安息の地は、自分の部屋だけになってしまった。1度夜に潜入をされたが、今は部屋に結界を張っているので大丈夫だろう。

リューの背に乗り空を飛び続けるという案もあったが、流石に空では寝られないし常に飛ぶリューの負担も大きいので没となった。

自室にて、リタに淹れてもらった紅茶を飲みつつ溜め息をつく。

未だに紅茶は変な味に感じる。これが続くようなら医者にかかったほうが良いのだろうか? 他の物の味は普通なのだが。

それにしても最近の襲撃はなんだか雑になってきた。普通暗殺と言えば毒とか……

「ねえ、リタ。この紅茶飲んでみてくれない?」

リタに私が今飲んでいたカップを差し出すと、彼女は青い顔になって震えだした。

「お、お許しください。妹が人質に取られているのです……」

やはりそうだったのか。この1週間、私は毒入りの紅茶を飲み続けていたらしい。おそらく弱い毒で効果が少なかったのだろう。

「ねえ、これに入っている毒ってどんな毒?」

「ええと、一滴で致死量の強い毒だと渡されました。それを毎回5滴ずつ……」

流石に気づけよ私。

ゲームで毒は何段階か強さがあり全てが固定ダメージだったが、現実でもその仕様なのだろう。

割合ダメージだったら今頃死んでいたかもしれない。いや、死にそうになったら気がつくか。今回の件は私のHPが底なしだったことで発生した悲劇だ。

「それで、あなたにそれを指示したのは……」

リタに私を毒殺するように言ったのは、おそらく彼女の雇い主だろう。

「はい、旦那様です」

リタはもう言い逃れはできないと諦めたのか、正直に白状する。

私を殺そうとしているのは、私の父だ。