軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19 ダンジョン周回

「ユミエラ、今度の夏季休暇なんだが、よければうちの領に遊びに来ないか?」

パトリックにアッシュバトン辺境伯領へ遊びに行くことを誘われたが、私は残念ながら休暇中の予定があった。

「ごめんねパトリック、今年は行きたい場所があるの」

去年の夏季休暇は自室と図書室を往復する日々であったが、リューという移動手段を手に入れた私は遠くへ足を伸ばす予定がある。

あ、さてはパトリックもリューに乗って帰省したいだけだな? 私に声を掛ける理由にも納得だ。

「リューが目当てではないからな、友人を遊びに誘うのは当然のことだろう?」

彼には私の考えていることがお見通しらしい。よくよく考えてみると、彼は空を飛ぶのが嫌いだった。

「パトリックって高い所が苦手だったものね」

パトリックの意外な弱点が高い所である。彼は誰でも怖がると言うが、フィル君はすぐに慣れて空の旅を楽しんでいたぞ。

話は変わるが、フィル君とリューは最近も2人だけで遊んだりしているようだ。

「いや、あれはそういう次元では…… まあいい、どこへ行くんだ? またドラゴン退治でもするのか?」

「バリアスに行こうと思っているの」

「バリアス? ああ、ダンジョンか」

彼の言う通りバリアスはダンジョンがある街だ。いや、街が周りにあるダンジョンと言うべきか。

バリアスのダンジョンは宝箱の中身の質が他とは一線を画する。それを目当てに人が集まり、周囲が街になったという歴史がある。

「そう、ダンジョン産の剣が欲しくてね」

私も学園で剣術を1年ちょっと習っている。高レベルの力押しだけではなく、技術的なことも最近は身につけつつあるので自分の剣が欲しくなってきたのだ。

「何もダンジョン産でなくとも、近接メインで戦うつもりでもないんだろう?」

私も剣はサブくらいにしか考えていないのでこだわりは無い。

「市販の剣はね、本気で振ると折れちゃうの」

「……それは大変だな」

いつもの事だがパトリックにドン引きされた。

「それでダンジョン産も一振り買ってみたんだけど、それも壊れちゃってね。それ以上の品になるなら自分で取ってきたほうが早いと思って」

ダンジョンの宝箱から手に入る武器は未知の金属が素材であったり、追加効果が付与されていたりと高性能なものが多い。

「それでバリアスか。あそこの物なら1番品質が良いだろうしな。気をつけて行ってこいよ」

ゲームではレベル上げならドルクネスの闇ダンジョン、装備集めならバリアスのダンジョンが鉄板であった。装備の性能はランダムなので、欲しい属性と付与効果が一致するまで周回するのだ。

ダンジョン周回の夏休みが始まる。

夏季休暇初日、私はリューに乗ってバリアスの街まで来ていた。騒ぎになるのでリューには街の外に降ろしてもらい、少し歩いて街に入る。

バリアスの街はダンジョン目当ての傭兵団やどこぞの兵士たち、彼らを相手にする商人たちで賑わっている。

まず宿を確保した私は早速ダンジョンに向かう。これからダンジョンに入るであろう人たちがたむろしていて、人口密度が非常に高い。

「すみません、ダンジョンに入りたいんですけれど」

ダンジョンの入り口で受付をしているお姉さんは眉をしかめる。

「ここは許可証が無いと入れません。賑やかしならすぐに帰ってください、忙しいので」

失念していたが、バリアスのダンジョンはその人気ゆえに許可制だ。私は用意していた許可証を差し出す。

「ごめんなさい忘れてました、許可証はあります」

「国王陛下のサイン!? ええと、ユミエラ・ドルクネス……あのレベル99のユミエラ様?」

彼女は私のことを知っていたようだ。私の存在がどこまで知れ渡っているのかイマイチ分からない。

すぐに許可を貰えた私はダンジョンに入る。

バリアスのダンジョンは光以外のすべての属性の魔物が出現する。それが理由でゲームではレベル上げに向かないと言われていたのだが、レベルがカンストしている私には関係のない話だ。

私の目当ては50階層のボスの間に出現する宝箱だけである。ゲームではその宝箱は一定以上の性能の装備が確定で出るようになっていたのでそれ狙いだ。

低階層では同業者もチラホラと見えたが、20階層を越えた辺りから人の姿を見なくなった。

手付かずの宝箱をいくつか見つけたが、どれも中身は低品質の装備ばかりだった。まあ、ボスの間以外はこんなものだ。ゲームのようにアイテムボックスのような便利なものは無いので、勿体無いが持ち帰ることはしなかった。

1周目

「ふふふ、よく来たな。まさか我がダンジョンの最深部まで至る人間が現れるとは……」

このダンジョンのボスは山羊の頭をした悪魔だ。いつもの闇属性ダンジョンのボスは喋らないデュラハンだったので、人語を解する魔物に出会ったのは生まれて初めてとなる。

「いい武器下さい、ブラックホール」

願掛けをしつつ攻撃すると、悪魔は大きな魔石を残して消滅してしまった。現れた宝箱から出たのはそこそこの品質で火属性の剣であった。私が前に壊してしまったダンジョン産の剣と同程度の品なのでハズレだろう。

ダンジョンはボスを撃破すると入り口に転移できるようになる。理屈は知らない。そもそも無限に湧き出る魔物とか、いつの間にか補充されている宝箱とかダンジョンは謎が多すぎる。

私がダンジョンを制覇したことで騒ぎになったが、構わず2周目へと出発する。魔石と武器はいい値段で売れた。

2周目

「ふふふ、よく来たな。まさか我がダンジョンの最深部まで至る人間が現れるとは……」

山羊頭の悪魔に先程と同じことを言われた。どうやら、再配置された魔物は前の記憶を引き継がないらしい。

「いい武器下さい、ブラックホール」

宝箱からは金属製の全身鎧が出た。いらない。

3周目

「ふふふ、よく来たな。まさか我がダンジョンの最深部まで至る人間が現れるとは……」

50階層までの道順をだんだんと覚えてきたので、ここまで来る時間が短縮できた。

「いい武器下さい、ブラックホール」

風属性の槍、ハズレ。今日はここまでにして宿で寝ることにする。

10周目

「ふふふ、よく来たな。まさか我がダンジョンの最深部まで至る人間が現れるとは……」

中々目当ての武器が手に入らない私は、もしかしてボスの倒し方を変えれば良いのではと思い立った。

「いい武器下さい、シャドウランス」

水属性の杖、ボスの倒し方は関係ないらしい。

11周目

「ふふふ、よく来たな。まさか我がダンジョンの最深部まで至る人間が現れるとは……」

良い武器が欲しいという物欲がいけないのではなかろうか、大事なのは無欲な心である。

「いい武器いりません、ブラックホール」

土属性のハンマー、はい知ってましたよ。

ボスが落とす魔石だが、初めは希少価値から非常に高い値がついた。しかし、私が市場に流しすぎたことにより、だんだんと値崩れが始まった。これからもボス魔石の買取価格は下がり続けるだろう。

20周目

「ふふふ、よく来た…… ん? 我はお前に会ったことがあるか? いや人間がこの階層においそれと到れるはずがない」

山羊頭の悪魔が今までのことをわずかに思い出し始めた。すまない、私の剣のために死んでくれ。

「おお、これは!」

宝箱から出てきたのは光属性の剣であった。重厚な見た目のそれは今までの物とは存在感からして違う。私の全力に耐えうる一品かもしれない。

光の剣と闇の魔法の二刀流というのもいいかもしれない。私は歓喜しながら剣を手に取る。

「痛っ」

剣に触れた瞬間、指先にピリッとした痛みが走る。もう一度触ってみても同じ結果であった。

どうもこの剣、光属性というよりかは対闇属性としての性質が強いらしい。私の闇属性の魔力に反応してしまっているようだ。本来であれば闇属性を持つのは魔物だけなので人に害は無いのだろうが。

剣にすら魔王扱いされているようで悲しいです。

私が夏季休暇の期間しかダンジョンに潜らないことを口にした所、ボスの魔石が投機の対象になったらしい。供給が多く値崩れしているうちに買って、供給が無くなり値上がりした頃に売りに出すのだ。

今度は魔石の値段はだんだんと上がり始めた。

50周目

「ひっ、もうやめてくれ! ん? 我は一体何を…… お前のことは知らないはずだが……」

山羊頭の悪魔はついぞ、記憶を引き継ぐことは無かった。しかし本能の部分で覚えているのか、私を見ると恐怖に襲われるらしい。

悪魔だが可哀相になってきたし、休暇も残り少ないので今回で最後にしようと思う。

「今までお世話になりました、ブラックホール」

結構前に出た光属性の剣以来、私の力に耐えられそうな品は手に入っていない。普段の行いは別段悪くないはずだが、私の運が悪すぎる。

また駄目なんだろうなと思いつつ宝箱を開けると、馴染み深い魔力が宝箱から溢れ出た。

「これは、闇属性の魔力?」

宝箱の中に入っていたのは闇属性の剣であった。

一般的な両手剣より短く、片手剣よりは長い。片手でも両手でも使えるバスタードソードというやつだろう。光を一切反射しない刀身からは闇の魔力が感じられる。

前の光の剣は神聖な存在感を放っていたが、この剣からは禍々しい威圧感を感じる。呪いの装備とかじゃないよね?

闇属性の武器は光属性のそれより珍しい。ゲームでは登場しなかったので、存在を知ったときには驚いたものだ。

まさか今までの悪運はこれが出る布石だったのだろうか? その真偽は定かではないが、私と闇属性は切っても切れない関係にあることは確実だろう。

「パトリック、はいこれバリアスのお土産」

「これは魔石か? ずいぶんでかいな」

ボスの魔石は貴族や投資家がこぞって買い求めた結果、私が初めて売ったときよりも値が釣り上がっていた。それを持っているということがステータスになっているらしい。

「ダンジョンボスの魔石、最後の1個は記念に持って帰ってきたの」

「それって今話題のアレだろ? こんな物貰えるわけが――」

パトリックは頑としてそれを受け取ろうとはしなかったので、代わりにかさばらないので持ち帰ってきたダンジョン産の短剣を彼に渡した。

パトリックは魔石を売ってお金にするか、もしものときのために大事に取っておけと言う。お金は大事だとも言った。

私はそれを49個売ったお金があるのだが……