軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6-12右 悪しき国王

◆6-12右 悪しき国王

黒い手帳の正体は、中身をあらためても終ぞ分からなかった。

そもそも存在の記録が無い物なので、筆者も年代も不明。紛れ込んだと考えるのが妥当だが、出どころも侵入経路も分からない。

内容を読んでも、若い女性が書いたであろうことしか類推できなかった。

私たちは首を捻ることしかできない。エレノーラだけは熱心に読み込んでいた。

「すごい共感できますわ! この方の恋愛は最後どうなったのかしら……」

筆者は片思いを拗らせていたようなので、叶わぬ片思いのプロフェッショナルが共鳴するのも頷ける。

後日改めて目録を精査するということで、手帳はロナルドさんの預かりとなった。

謎な物を見つけたせいで本来の目的にやっと入れる。

今は亡き、私の左側がいる薄明の国。そこには初代国王が居座っているらしい。左ユミエラ救出作戦にあたり、少しでも進展があればと王国の禁書庫に来た次第だ。

初代陛下は戦乱の時代にバルシャイン王国を造り上げ、世界に平和をもたらした名君……ということになっているが、実際の人柄などは分からない。そこら辺が書いてある資料が無いかと聞いてみると、ロナルドさんは紙束を大事そうに取り出した。

「これなら初代陛下の人柄が分かると思う」

時代を経て黄色くなった紙を、手袋をしたパトリックが受け取る。

左半分が動かない私は、彼が捲った紙に目を通す。走り書きではあるものの読みやすい文字が流れていたそれは……。

「……日記、ですか?」

「その通り。初代陛下の側近が記していた物で、初めて見たときは僕もショックだったな」

「そんなにギャップが?」

「うん、初代陛下はイメージよりもずっと……悪い人だった」

◆ ◆ ◆

○月✕日

悪い悪いとは思っていたが、王の風体は本当に悪い。

方々へ吹っかけていた戦も一段落し、これで落ち着いて内政に取り組めると昨日は書き綴ったものであるが、一番の敵は身内にいるとは良く言ったものだ。

本日の昼過ぎ、武装した集団が騒ぎを起こしていると急報が入った。

賊であっても見逃せぬし、敵兵の残党である可能性も高い。その場所はちょうど残存部隊が潜んでいるやもしれぬと王が数名の手勢のみを率いて向かったばかりであった。

正規の戦いでは勝利したのに、偶発的な戦闘で王が命を落とすなどあってはならぬ。

副官殿に報告したところ彼はすぐさま先遣部隊を率いて飛び出してしまわれた。

敵部隊の規模によっては後詰の必要も出てくる。

部隊編成に駆け回っていると、副官殿に引っ張られた王が帰ってきた。

主君の無事を喜んだのも束の間。なんと、通報のあった集団というのは王の一派だという。

王は通報者が不届き者であると憤っていらしたが、間違った民を責める気は起きなかった。規律正しい副官殿の部隊に連れられた国王は、正規軍に連行される盗賊にしか見えなかったのだ。

無精髭に、動きやすさを重視した簡素な鎧、叩き切ることに特化したナタのような剣、怒鳴るような喋り方に、豪快なガハハという笑い声。

どれを取っても大国の主となった人物とは思えない。賊か傭兵か、良くとも蛮族の長であろう。

我らが王ながら何とも情けない。

無駄働きを労ったところ副官殿は、王が無事で良かったと表情をほんの少し綻ばせた。これほどまでに忠義者である副官殿が、冷酷で無慈悲だと嫌われていることに私は納得していない。

□月△日

悪い悪いとは思っていたが、王の頭は本当に悪い。

長らくの交渉がついに実り、いよいよ明日アッシュバトン公との直接対談が実現する。

バルシャイン王国のこれからは、明日の成果に大きく左右されることは誰の目にも明白だ……が、王は何も分かっていなかった。

破竹の勢いで領地を拡大したバルシャイン王国は、アッシュバトンにひどく警戒されている。無論、全ての土地が城塞に、全ての民が兵士に変わりうる彼の地に攻め入る心算は無い。

このままでは互いに睨み合ったまま不可侵を貫くことになる。それも一つの平和の形であるがしかし不安も大きい。

次代のアッシュバトン公が自らの領土に引きこもっている確証も無ければ、我らの中から打倒アッシュバトンの声が上がることも考えられる。

だからこそアッシュバトン公と繋がりを作ることは急務であった。

最低でも友好国として同盟を結びたい。理想を言えばバルシャイン王国の傘下に加わってほしい。

国境沿いの防備を考えれば、こちらが頭を下げて税や物資の優遇措置を取ってでも、アッシュバトンが王国の一部となる利点は大きい。

……という内容を説明したが、上手く伝わらなかった。

「馬鹿だから分かんねえけどよぉ、いつもみてぇに攻めちまえばいいんじゃねえのか?」

とは我らが国王陛下の言である。かのアッシュバトン公をそこらの豪族と一緒にするあたり、本当に馬鹿だから分かっていないのだろう。

明日の準備で忙しいというのに工夫を凝らし、人形を使って一人二役の会話形式でも説明した。

「アッシュバトンって? いつもみたいに攻め入ればいいじゃない」

「いいや。ダメな理由が四つあるから順番に説明するんだぜ」

「聞かせて聞かせて」

という調子で。懇切丁寧にゆっくりと解説したのだが、王に理解している様子は見られなかった。

明日が不安で仕方ない。

□月☆日

悪い悪いとは思っていたが、王の態度は本当に悪い。

いよいよ会談当日。昨日の不安は見事に的中した。

アッシュバトン公の居城は質素堅実を体現したような場所だった。住心地など二の次で、いかに敵を退けるかのみ考えられた城だ。

侵入者への備えも万全だろう。会談が破算になれば我らの命は無いかもしれない。

そんな危険地帯に王本人が乗り込むことで、こちらの誠意を見せ信用を得る心積もりだ。

……しかし、王を連れてくるべきではなかった。王不在ではアッシュバトン公の心証が悪くなるであろうが、あの馬鹿はいない方がマシだ。

客人としてあくまで丁重に扱ってくださったアッシュバトン公に対し、王の態度はすこぶる悪かった。

アッシュバトン公へ終始疑いの眼差しを向け「強いというのは虚偽ではないのか?」という趣旨の発言を繰り返したのだ。

私が昨日、散々アッシュバトン公の凄さを説明したせいで、王のプライドが傷ついてしまったらしい。そうなると私が原因かとも考えたが、説明無しでも王は無礼な態度を取っただろう。

ついには「実際に戦えば真実が明らかになるはずだ。やれるものならやってみろ」と、明らかな挑発を始める始末だった。

副官殿が抑え込んでいなければどうなっていたことか。

恐らく一騎打ちであれば王が勝つだろう。個人の武勇で王の右に立つ者がいるはずがない。

しかしアッシュバトン公にはレベル差を覆す凄みがあった。面白い若者だと呟いた公には、私はもちろん王と副官殿も及び腰になっていた。

副官殿が王を外へ連れ出した後、命を差し出すつもりで謝罪をしたが……こちらに敵意が無いことは伝わったのだろうか。

会談は明日に改めてとなったが今夜にでも我々は殺されるかもしれない。

その場合はこれが私の遺書になる。

何もかもが悪すぎる王であるが、本当の悪人ではない。

民が戦禍をこうむることに心を痛める良心はあるが、それ以上に喧嘩っ早いだけなのだ。

小競り合いで済むものを、ちょっとした挑発で頭に血が上り、全面戦争に持ち込んでしまう。

そんな王に付き従えて……いや、遺書かもしれないのだから本心を綴ろう。

もう少しまともな人物に仕えたかった。我らが王は色々と悪すぎる。

◆◆ ◆

「悪いって……そっち?」

確かに初代国王はイメージよりも悪い人だった。でも……そういう意味?

私と顔を並べて側近の手記を読んでいたパトリックも流石に絶句している。

明らかにミスリードを誘ってきたロナルドさんは、これまた別な意味で悪そうな笑みを浮かべていた。

「どうだった? 悪い人だったでしょ?」

「わざと誤解を与える言い方をして、驚く様子を楽しむ性格の悪い人ではなかったですね」

「まあまあ」

貼り付けた笑いでニコニコ笑うロナルドさん。初代国王はどちらかと言えば彼みたいな悪さだと思っていた。

建国の立役者だった魔王を政治力で左遷したわけで……。側近の日記に登場した頭と風体と態度の悪い王様とイメージが合致しない。

自分勝手な暴君らしいと言えばそれまでだが、側近の日記からは独裁者ぶりはあまり伝わってこなかった。文句を言いつつも、この書き手は間違いなく国王を敬愛していた。

あとそうだ! パトリックのご先祖様も出てきた。歴史から考えるに、この後の交渉は上手くいきアッシュバトン公は辺境伯になるのだろう。

「パトリックのとこって戦闘民族だよね」

「本筋から離れているぞ」

まるで「家のことだし昔のことだから自分には関係ないです」って顔でパトリックは言ってるけど、個人戦に限ればパトさんがアッシュバトン歴代最強説あるからね?

さて、少し本題から脱線している間にロナルドさんは別の資料を準備していた。