軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6-11左 魔王の真実……?

◆6-11左 魔王の真実……?

魔王と勇者と私。勇者は魔王を封印し、私は魔王を殺した。

被害者になってばかりな魔王を中心として因縁の3人が薄明の国で出会ったのだ。

「今のお二人の事情は分かりませんが、私はあなたの味方をします」

勇者伝説の裏を知っている私としては魔王の味方をしたい。

現世で交渉が決裂したのは、彼がバルシャイン王国を滅ぼそうとしていたからだ。もう実現不可能な野望なのだから今は気にしなくていい。……いいのかな? 魔王も勇者と同じで生き返ろうとしてるかも?

魔王の隣に並び立ちながら、私は横目で彼に問いかける。

「あなたの今の目的はなんですか?」

「アイツの生き返るなどという戯言を阻止すること」

「自身に蘇生の意思は?」

「苦行しか無い世界に戻りたいなどとは思わん」

お、世情が荒れてるときに流行るタイプの宗教みたいな考え方してるぞ。でも大丈夫かな? 薄明の国は天国や極楽浄土とは言い難い。

魔王の心中はさておき生き返る意思が無いことには安心した。気兼ねなく魔王の味方ができる。

黒い鎧の彼は、私を怪訝そうに見た。

「我輩の側に立つつもりか?」

「勇者と一緒に生き返るつもりでしたけれど、あんな人は信用できませんから」

王様然とした風貌に騙されていたが、勇者はバルシャインの初代国王だったのだ。簡単に忠臣を裏切るような人は信用できない。行動を共にして現世への道を探すのも、彼を生き返らせてしまうのも到底許せなかった。

仲間ができても、魔王は私顔負けの無表情さを崩さずに敵を注視していた。

「そうだな。確かに王のような見た目のアレは信用できん」

「ちなみに何とお呼びすれば? お名前の方が――」

「魔王で良い。アイツが勇者を名乗っているのだ。応えてやろうではないか」

死の間際、私は魔王の名前を聞いている。せっかくだし呼ぼうかと思ったが止められてしまった。

別に勇者に対抗しなくていいんだけどね。何なら勇者も名前で呼ぶけど? 一応は王国貴族なので初代国王の名前くらい知っている。あーでも長いんだよな。じゃあ勇者と魔王でいっか。

魔王は私の死因や左半分については一切触れず、憮然とした態度で勇者を見据えている。そして視線はそのまま、黒い手帳を取り出してサラサラと何かを書き込んだ。

手元を見なくてちゃんと書けているのかな。あとは内容が気になりすぎて、そっと魔王ににじり寄り手帳を盗み見ようとする。しかし直前で手帳は閉じられてしまった。

書き物が終わっただけみたいで気づかれた様子は無い。そして魔王は鼻を動かす。

「この香りは?」

「香り……? あっ、もしかして香水ですか?」

「良いものを使っているな」

少ししか付けていないので、魔王に気が付かれたのに驚いた。

魔王は花とか香水とか興味ない、ユミエラタイプの人間に見えるので意外だ。私は猫耳おじさん改めヨンラム氏に貰った香水を取り出し、魔王に渡してみる。

「ほう、これか……少し試しても?」

「どうぞどうぞ」

魔王は自らの黒い手帳に香水を吹付け、香りを楽しむ。「よいな」と呟く彼は手帳を広げたままで目を瞑った。

今のうちに中の文章、覗いちゃお。

『やっぱアイツちょームカツク! 久しぶりに会った子は半分こになっててビックリ!!!』

…………見なかったことにしよ。

香水瓶を返してもらいながら、自分の記憶処理を急ぐ。

今の状況に集中しなきゃ。魔王が味方にいるとはいえ相手は勇者。左半身だけでは苦戦するかもしれない。

寝返る格好になった私を見て、勇者は困ったなと笑いながら言う。

「どうしてだい? 君は生き返りたかったはずだろう?」

「お二人の事情を知っているからです。裏切って、何百年も封印して……自覚はありますよね!」

聖人みたいに振る舞う彼の本性を私は知っている。

指を突きつけると彼は、演技がかった悲しい表情をした。

「現世で彼と面識があったのなら知っているか。責任は僕にある、認めよう。しかし本意では――」

言い訳しようとする勇者の言葉を、魔王の怒声が遮った。

「黙れ! お前の言い訳は聞きたくない」

「何度も言っただろう!? 君は一時的に都から離れた方が良かったんだ。戦乱時に出来上がった君への畏怖も、時間が解決してくれる」

それっぽい理由を勇者は述べるが、そんなのいくらでも後付できる。言い逃れできないであろう、魔王を封印した理由を尋ねる。

「封印したのは何故ですか?」

「彼を起点に魔物が溢れ出した以上、国王として対処に当たらないわけにはいかない」

……あれ? 確かに。

行き違いの勘違いで魔王が勝手に魔王化して、仕方なく封印されちゃった。確証は無いが筋は通っているような?

あ、でもアレがあった。

「王妃様! 聖女と呼ばれたあの人です! 分かりますよね!」

私が再度、指を突きつけると勇者はキョトンとした顔で答えた。

「彼女がどうかしたのかい?」

「白々しい。略奪愛をするなら恨まれる覚悟もするべきです」

「僕が、誰を誰から略奪したというんだ」

「彼からです! 彼と王妃の恋仲を引き裂いたって知ってるんですからね」

これは言い逃れできまい。魔王も怒りのオーラを発している。

どう言い逃れするつもりだと勇者を睨んでいると、彼は首を捻りながら言った。

「いや、二人は交際すらしていないはずだが?」

えっ。

いやいや騙されちゃ駄目だ。魔王と聖女は交際していて、それを後から勇者が奪った。ちゃんと魔王から聞いている。

勇者のちゃぶ台返しに一番激怒したのは魔王だった。

「とぼけるな! 我輩たちは恋仲だった」

「君が彼女を好いているのは知っていたが……ずっと気持ち悪がられていたじゃないか」

魔王は絶句する。

なんて酷いことを言うんだ。こうやって無いことを吹聴して周囲の人間関係を滅茶苦茶にするつもりだな、許せない。

憤った私は反論しようとするが、魔王に制された。

「いまさら問い詰めても仕方ない。ああ……この黒い髪と瞳さえ無ければ」

「魔王さん……」

うぅ。どうしてこの世界は、黒い髪の人間に対して辛辣なんだ。

やはり勇者も黒髪差別に染まりきっているんだ。唯一の理解者だった聖女の気持ちを勝手に代弁して、魔王から遠ざけたに決まっている。

魔王かわいそう。絶対に最後まで味方するぞ。

黒髪連合を眺める勇者は「違う違う」と首を振る。

「いや、黒い髪とか関係なく、行動が気持ち悪がられていた」

え? 行動?

「例えば、そうだな――」

勇者は昔の出来事を語る。

ある朝目覚めた聖女。カーテンを開けて朝日を浴びていると、窓から手が届きそうな木の枝に紙が結ばれていることに気がつく。なんだろうと確かめてみれば、差出人不明の恋文であった。受けるにしろ断るにしろ、返事ができずに困ってしまう。

翌朝、また木の枝に手紙が一通。

「――そして次の日も枝に手紙がくくられていた」

素敵な話じゃん。

ネタバレかもしれないけど、私は魔王に確認する。

「その手紙を書いたのは――」

「ああ、我輩だ。懐かしいな」

やっぱり。ロマンチックだなぁ。

勇者の昔話は続く。

「ロマンチックな手紙の渡し方ではあるが3日連続ともなると怖くなってくる。しばらく彼女は部屋のカーテンを閉めたままにしていた」

おや、雲行きが怪しくなってきたような?

「しばらくして。手紙の件をすっかり忘れた彼女は、癖でカーテンを全開にした。そこには紙がびっしりと隙間なく結ばれた木の枝が」

「ひっ」

思わず悲鳴が出てしまった。ほっこり恋バナかと思ったら本当にあった怖い話じゃん。

神社のおみくじ結ぶ所みたいになっている光景を想像すると……だいぶ気持ち悪い。

嘘だよね? 魔王さんはそんなキモいことしてないよね? 手紙が放置されているにも関わらず毎朝毎朝、木登りして新鮮なラブレター配達してないよね?

彼はすかさず反論する。

「それのどこが気持ち悪い!」

やったのは事実なんだ……。

でも待て。私はキモいと思ったけど聖女本人がどう感じたかは分からないぞ。私の一縷の望みは、次の勇者の言葉で完全に打ち砕かれた。

「怖がった彼女は、泣きながら僕の部屋に来たよ」

あ、怖いことがあったときは、魔王の所じゃなくて勇者の所に行くんだ。

魔王かわいそー。完全に黙っちゃった彼に代わり、私が反論する。

「そんな、ちょっとした行き違いみたいなエピソード一つじゃ納得できません」

「他にもあるよ」

待ってまって、もう聞きたくない。

聞きたくないけど頑張ろう。魔王が何をしていようと、私だけは味方でいてあげよう。

「一日に何度も、彼が偶然を装って彼女にぶつかりそうになったり」

「うっ」

「彼女が自室に戻ったら、部屋の中が赤い薔薇で埋め尽くされていたり」

「キモっ」

思わず言っちゃった。

まずいと魔王を見ると、彼は「えっ?」と驚いて私の顔を見つめていた。

彼の味方がいなくなってしまう。頑張ってフォローしないと……。

「赤い薔薇、嬉しいですよ。好きな人からそんなプレゼントされたら嬉しいに決まってます!」

「そうであろうな……では何故気持ち悪いと?」

「そ、それはあまり親しくない人から突然されるのを想像したからで……あっ」

あまり親しくない人から突然……だから魔王は気持ち悪がられたんだろうな。

魔王はそこまで気づいてないようなので取り繕うべく頭を回転させるが、その前に勇者が口を開いた。

「そうなんだ。大して親しくもないのに、突然手の込んだプレゼントをするから重くて気持ち悪いと思われるんだ」

魔王の無表情は崩れなかったが、若干目が潤んでいるのは気のせいじゃないはずだ。

そうかぁ、魔王は恋の邪魔をされていなければ、不当な理由で封印されたわけでもないのかぁ……。

私はそーっとそっと勇者の方に移動して、ゆっくりと回れ右した。

魔王に信じられないと目を向けられる。

「貴様も裏切るのか……?」

貴様“も”? 私がしたのは紛うことなき裏切りだけど、それ以外は要検討だよね。

「ごめんなさい。こっち側につけば生き返れそうなので」

まだ魔王に味方したい気持ちはあるけれど、最優先は生き返ることだし……。

「そんな王みたいで薄気味悪いやつの言う事を聞くな」

「僕のことをそう思っていたの? ショックだな」

「そもそも誰だ貴様は!」

誰だ貴様はって……。恥ずかしい過去を暴露されたからって、その反論は無理筋だろう。

突拍子もない言いがかりをつけられた勇者はしかし、当然とばかりにうなずく。

「そうだね」

「見た目も喋り方も、全く違うではないか!」

「でもこっちの方が王様らしいだろう?」