軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11. 合宿最終日

美香が朝ごはんを食べにホテルのレストランに行くと、なんだかヨレヨレの集団がもくもくと朝食を取っていた。秋人も薫もアークのメンバーもとても疲れた顔をしていた。

特に秋人はあまり顔色がよくない。

「おはよう、如月くん。昨日はごめんね」

美香が申し訳なさそうに小さく頭を下げ、テーブルにつく。

「おはようございます、工藤先輩」

秋人は喉をコホンと咳払いしてから、答えた。

あの少女が口に含ませた毒は、エリクサーと後からやってきたアークエンジェルのリサのおかげで中和できたのだが、傷ついた喉の粘膜はまだ少し痛んでいる。内臓を攻撃された時の回復は、即効力がやや落ちるのだ。

因みに、薫はいつも惜しげもなくエリクサーを投入しているが、Sランクパーティーのアークエンジェルをして、「何考えてるかわからん」と言われる暴挙である。あれは間違っても栄養ドリンクのような扱いをする価格の代物ではない。

美香はビュッフェで持ってきてた、ロールパンとスクランブルエッグ、サラダとヨーグルト、オレンジジュースの朝食をテーブルの上に載せた。

秋人はパンケーキにたっぷりのメイプルシロップとフルーツ、それからカフェオレである。いつもより少ない甘味に美香は心配になった。

「大丈夫?具合が悪いなら今日のスケッチはお休みした方がいいよ」

と美香が言うと、秋人はぶんぶんと首を振った。せっかくなので、ちゃんと仕上げて帰りたい。初めてのスケッチなのだ。

「大丈夫です。ホテルの人がパラソル貸してくれるらしいので、日陰作って描きます」

と秋人が言うと、美香は困ったように頷いた。

そういえば…と美香が周囲を見渡す。もう既にアークのメンバーも薫と当夜も、食事を終えて席を立っていた。

「アークエンジェルの皆さん、怒ってなかった?」

「それは、大丈夫。楽しかったみたいです」

実際、桜子を除く4人はあまりそういった類の作業を今までしてきたことがなかったからか、おおいに楽しんだようだった。

「できたら見せてって言ってました」

「えっと…それは…ふふふ」

美香は笑って誤魔化した。薄い本をあまり秋人の関係者に見せたくはないのである。特に絶対に意味が分かってないであろう秋人にだけは。

「如月君、そういえば喉どうかした?」

少し喉を気にしている秋人に気が付き、美香が尋ねると秋人は困った顔をした。

「ちょっと、えっと、風邪気味で」

「いやだ、昨日遅くまで手伝わせたからね。ごめんなさい」

美香は眉を寄せる。

「大丈夫です。すぐ治るので」

慌ててそういう秋人に美香は「そうだ」と言って、持っているハンドバッグから小さな袋を取り出した。

「私もエアコンで喉を傷めることが多いから、いつも持ち歩いているの。よかったらこれ舐めてね」

のど飴をいくつか取り出して、秋人の手に載せた。

「ありがとう…ございます」

「うん、お大事にね」

美香がふわりと笑った。その笑顔が、秋人はなかなか忘れられなかった。

彼女が去った後、もらった飴を口に放り込む。

「甘い」

小さく呟いた。

美香が部屋に戻ると、華と輝美がなにやらコソコソやっている。

「何してるの?あなたたち」

地を這うような低い声に、びくりと二人は肩を震わせた。

「ち、ちがうのよ。ちょっと、ちょっとだけおまけ本を作ろうかなって…相談を」

「今度は家に帰ってからになるから、美香に無理やり手伝わせたりしないから」

と言い訳しつつ何やら背中に隠しているものを、いつものおっとりした動きを裏切るような速さで美香が取り上げる。

「あ、だめ!返して!!」

華が叫ぶも、美香はそれを見てブルブルと震えていた。

「これは絶対にダメです!」

美香が珍しく声を荒げる。

「大丈夫、分からないようにするから」

「絶対に、本人ってバレないように、ほら、名前も変えてるし」

二人はあわあわと言い訳をする。

「名前が違うだけじゃない!!絶対に、秋人くんと神崎さんの本はダメ!!本当にやったら絶交だからね!もう試験の時にノートも見せないからね!!」

「そんなぁ」

ぼやく二人の背後から、部長が現れた。

「ドア、開けっ放しで恐ろしい話をするなよ」

「ぎゃっ」

華と輝美が飛びあがる。美香の手から渡された原稿をチラリと部長は眺めたあと、深々とため息を付いた。

「これは、やめとけ。相手は弁護士だぞ。それも、超がつく凄腕の」

部長の言葉に、二人はがっくりと肩を落とした。

「こんなにお世話になってるのに、恩を仇で返すような真似をしないの」

美香の言葉に、二人は「はあい」と渋々受け入れた。

桜子がホテルの中を歩いていると、反対側から加賀谷凛子がやってきた。どうやら、昨日撮影した写真を薫に見せにきたらしい。

ふと、桜子は思い立って彼女に声をかけた。

「加賀谷さん?」

「ふわっ、桜子さま!どういった湯加減で?」

凛子の言語中枢は、相変わらず崩壊している。

「あの、ちょっとお願いがあるんだけど…」

桜子は声を潜めて囁いた。それはかなり色気のある仕草だったので、凛子の脳は焼けた。

「はい、なんでもやります。任せてください」

全面降伏である。今ならエレンディールの全株だって譲るだろう。

「あの…昨日撮ってたかお…神崎さんの写真って…分けてもらえたりする?」

衝撃発言に凛子の理解が追い付かない。

凛子は薫のことを、かなり頭がよくて顔がよくて金も持っているが、自分も含めて女運がカンストレベルで悪い残念なイケメンだと認識している。正直、桜子は男の趣味が悪いと思った。

しかし、これは桜子的にかなり勇気の必要な発言だった。自分から異性の写真がほしいなどと思ったこともなかったし、それを誰かに頼むのも初めてだった。

ただ、昨日彼が見せてくれたスマホの待ち受けが嬉しくて、自分もしたくなったのだ。柄にもないことを言っているなと思うと、一気に頬が赤くなっているのを感じる。

「お仕事で使うので…だめなら…いいんだ」

もごもごと言い訳を口にする。

その姿は「なんでもいうことをきいてあげるべき」というコマンドを凛子の脳髄に打ち込んだ。

「はいはい、なんでもございますよ」

商売道具のパソコンを起動させる。写真管理アプリの「弁護士」というフォルダにはズラリと薫の写真が並んでいた。半数以上が本人の許可がないというのは、凛子だけの秘密だ。

「これ、これなんかどうです?隠し撮りでいいショットでしょ」

今度のイベント用のポスターにこっそり使おうと思ってた着替え中の薫の隠し撮り写真を提示する。物憂げな表情と、かなり多めに開いている胸元がポイントだ。

いい写真だ…本当に顔だけはいい男だなと凛子は思った。

「これは、ダメなやつなのでは」

桜子があたりをきょろきょろ見回す。

「桜子様にお渡しするので、他では使いません」

使おうかと思ってたがリスクが高いのも事実なので、これは桜子に献上することにした。桜子の為になるなら、本望である。

「え、っとじゃあ…もらっちゃおうかなー」

桜子がスマホを取り出す。

「連絡先交換してもいい?」

と凛子の女神がスマホの画面を見せて言うのである。加賀谷凛子はその場で昇天した。