軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6. 水着回

合宿の中日は、自由時間なので美術部の皆で泳ぎに行くことになった。

「とりあえずプールか。如月は水着は持ってきてるだろ?」

部長に聞かれて秋人は首を傾げた。

「はい、一応。持ち物に書いてあったから。でも、今日はスケッチしないんですか?」

「一日は自由時間だ。遊んでもいいし、描きにいってもいいが、せっかくだから少しくらいはプールに顔出しておけば」

「はい」

言われるまま、秋人はプールに行くことになった。実はプールや海で泳ぐのは初めてだった。ダンジョンの中で仕方なく泳いだことは山ほどあるが。

だが、しかしそこは大変なことになっていた。

「あ、霧崎さん」

秋人が手を振る。なんとプールにはアークエンジェルの全員が顔を揃えていたのだ。

部長も顧問も開いた口が塞がらない。完璧なプロポーションの美女が大胆な水着でズラリとプールでくつろいでいるのだから、男性には目の毒である。

「大人だわ」

華が呟く。自分だって高校生にしてはなかなかのものだと思っていたが、流石に20代の女性には敵わない。

「くっ」

女子は全員及び腰になった。

「秋人君、神崎先生はお仕事?」

康子が尋ねる。ちなみに康子は黒い水着でかなりセクシーである。顧問は顔が真っ赤だ。

「たぶん。昨日エレンディールの社長が来てたので、今日は撮影だと思います」

「エレンディール?撮影?!」

「はい。着用モデルの」

「着用モデル!!」

女子が声を揃えて叫ぶ。

「如月君、神崎さんってモデルもしてるの?」

中の一人が秋人に尋ねる。

「ううん。エレンディールは薫が出資している会社で、 探索者(シーカー) の服とか作ってるとこなんだけど、お金がないからモデルやってくれって頼まれたんだ」

「ええええ、見たーい」

「こら、仕事邪魔するんじゃないぞ」

顧問の言葉に皆がっかりと肩を落とす。

「もしかしてあれじゃない?」

一人が指さす方向、プールサイドのテラス付近にカメラマンと女性、それから長身の人影が見えた。

「あ、ほんとだ」

全員がそちらに視線を送っていると、大きな怒鳴り声が聞こえた。

「無理!俺は本職じゃないの!!そんなことできるか!」

「いいじゃん。ボタンの一つや二つや三つや四つや全部、ぱーっと外しても」

「絶対嫌だ」

「そこを何とか」

「職業倫理に背く行為はしない!」

「そんなぁ…」

怒号が薫で、情けない悲鳴が凛子である。

薫がふと気が付いてプールサイドを見ると、全員がこちらに注目していた。薫の顔色がさっと変わる。

「あ…」

「あーせんせー、せっかく頑張って好感度上げてたのに、今ので完全にマイナスっすね…」

当夜の容赦ない突っ込みに撃沈する。

「加賀谷さん」

不意に凛子の傍に、いつの間にか秋人がいる。

部員全員「え?」と思った。さっきまでそこにいなかった?と。美香だけがあわあわしているのを見て、既に知っていた桜子以外のアークのメンバーは、彼女は秋人の正体を知っていることを悟った。

「加賀谷さん、薫が嫌がることさせるのやめてください」

秋人の真顔の抗議に、凛子はぺろっと舌を出す。それから、ニンマリと悪いことを思いついた顔をした。

「じゃあ、秋人くんが着てボタン外してくれる?」

「え?」

「秋人くんでも私は別にいいよ」

「あ、じゃあ…」

秋人が承諾する前に薫が秋人の口をふさぐ。

「児童虐待で訴えるぞ」

重低音の薫の言葉に凛子は天を仰いだ。

「だめかー、じゃあ自分がやるって言うかと思ったのに」

「弁護士舐めるなよ」

薫の機嫌が急降下である。

凛子はプールサイドの反射を使ったライティングで物憂げな半裸のイケメンの画像は諦めたくなかった。次のパンフレットのメインビジュアルにどうしても使いたいのだ。

実はナイショだが、前に撮影した薫の写真は、こっそりブランドコンセプトのビジュアルにも使っている。薫の目に入らない媒体を選んで掲載しているのだ。

「なかなか大変だな」

桜子がつい口を出してしまった。恩人二人が困っている姿を見かねたというのもある。

「き、霧崎桜子様」

凛子の目がキラキラしている。憧れのSランク 探索者(シーカー) を前に、凛子の野望は吹っ飛んだ。

「あ、あのどうしてこちらにいらっしゃっておいでなのでございましょうか?」

言語がかなり崩壊している。

「少し休みをもらって皆で来ているんだ。康子!」

振り返ってリーダーを呼ぶ。桜子の行動に驚きつつ康子が駆け寄った。

「何?」

「アパレル系って何か契約あったっけ?」

「ん-、ドレスはあるけどそれ以外は大丈夫」

「そっか…うん、じゃあ私ではだめか?」

桜子の提案に凛子は魂が抜けたような顔で

「は?」

と呟く。

「そのビジュアル、私ではダメかな」

凛子の頭の中で、いっきに秋冬のメインビジュアルが薫から桜子に書き換わった。

「まったく問題ございません。ぜひお願いいたします」

平身低頭で凛子が承諾すると、桜子はにっこりと秋人と薫に向かって笑ってみせた。

しかし、納得しなかった男が一人。

「だめだめだめ!!!」

薫が桜子の前に立ちふさがる。

「女性にそんな恰好させられません」

「彼は顔に似合わず紳士だな」と桜子は妙な感心をした。しかしである。

「いや、でも今私それよりかなり露出の高い恰好なんだが…」

「は?」

薫はその時初めて桜子が水着の、しかも結構大胆なビキニを着ていることに気が付いた。

「いや、それは…っ!!!」

桜子は「へえ、人間ってこんな風に赤くなるんだな。漫画だけかと思った」と呑気に考えた。そのくらい薫の白い顔が急激に真っ赤に染まる過程がわかりやすかった。

「あ…」

思わず俯く薫に、凛子の怒号が炸裂した。

「ちょっと、スケベ弁護士!うちのなけなしのサンプル鼻血で汚したら殺す」

「凛子ちゃーん、先生いじめないで」

当夜がティッシュを薫に渡しながら文句を言う。

「先生は、このツラであり得ないけど女慣れしてないんだよう。おまけに初めてお付き合いした女に殺されかけたくらい女運がないんだよう」

「うるさいっ」

当夜の頭にティッシュの箱が当たる。

「ひどい、フォローしてるのに」

めそめそと当夜が泣き言をいいながらも、かいがいしく薫の面倒を見ている。

「…秋人、神崎さんは面白い人だな」

ぽつりと桜子が呟く。

「いつもはもうちょっと、こう…かっこいいんです…よ?」

秋人が必死にフォローの言葉を探している。

「いや、でも、あの顔で女慣れしてないのは、逆に点数高いよ。うん」

康子の言葉に、他のアークのメンバーもうんうんと頷いた。

撮影が再開したのは1時間後で、薫は2つだけボタンをはずすことで妥協した。

「えー、2つーーーけちーーーー」

と凛子がさめざめと泣いていた。