軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16. 謝罪

「もう、本当に心配したんだからね」

「無事でよかったわ」

アークエンジェルの仲間に囲まれて霧崎桜子は苦笑を零した。

「悪かった。ほんとに。今度ばかりはダメかと思ったからな」

彼女も生きていることに感動している。絶対に死ぬと思っていた。

あちこち傷だらけだし、腱やら筋肉やらかなりのダメージも受けてた。雷撃系の魔法の影響で火傷もしていたし、何より右手中指の欠損はかなりの痛手だ。

幸い切り落とした指を丁寧に持ち帰ってくれたおかげもあり、見た目はもう元通りに治してもらったが、感覚を戻すのには時間がかかるだろう。それでも、生きていることに何百回でも感謝したい気持ちだった。

あの指輪から毒が回るように思考が波にのまれていく感覚。自分が違う生き物に書き換えられていくおぞましさ。咄嗟に自分で自分を殺そうと思ったが、もう手遅れだった。辛うじて仲間に逃げろ、自分に構うなというだけで精一杯だった。

あの少年

大きな綺麗な目の彼に願った

殺してほしいと

彼は泣きそうな顔をして、微かに首を振った。

申し訳ないことをした。まだほんの子供だったのに。

アークのメンバーは桜子が元気なことにほっとしていた。

帰還魔法を利用したことも、彼女を置いてきたことも理性では間違っていなかったと分かっていても、感情は追いつかない。特にそのことを決めたリーダーは、帰還して以降殆ど食事も喉を通らず、げっそりとやつれていた。

後藤に泣いて縋って桜子を助けてほしい、殺さないでくれと何度も何度も頭を下げていたのを皆が知っている。

彼女の目が赤いのは、ふとした瞬間に桜子が生きていることに感動して泣いているからだ。今もお茶を淹れる手が小さく震えている。

仕方ないなぁとメンバーは小さく笑った。

そんな幸せもあの人が助けてくれたからだ。

「それでさ、桜子。会ったんでしょ」

回復魔法師のリサが桜子の肩をつつく。

「ん?」

思考の海から浮かび上がって桜子が首を傾げると、アークのメンバー全員が桜子のベッドの周りに円陣を組んで詰め寄った。

「あんたを助けられるのなんて『秋人様』しかいないじゃない。どんな人だった?」

タンクのヨナがばんばんとベッドを叩く。

「どうだった?やっぱりナイスミドルだった?」

キラキラとした瞳でそう尋ねるのはリーダーの康子。

「えー、違うよね。筋骨隆々のマッチョマンだよね?」

ヨナがそれを否定する。

「えー、やっぱインテリ眼鏡でしょ」

斥候の久美が不満そうにつぶやく。

「違うよー。ロマンスグレーのおじさまでしょ」

リサが不満の声を上げる。

「あんたたち、己の性癖出しすぎ」

桜子はふーと深くため息を付いた。

「で、どうだったのさ」

全員から期待を込めた目で見られて、桜子はぽりぽりとほほを掻いた。

「まあ、確かにたぶん如月秋人だったと思う」

「おおおおお」

興奮の声が上がった。皆まだ見ぬ英雄の姿にあこがれを持っているのだ。Aランク以上しか参加できないパーティーでも一度も見たことがない幻の探索者。

全員が期待に満ちた目で桜子を見る。

「でもさ、三人いたんだよねー」

桜子がうーんと唸ると全員が首を傾げた。

「きた途端ぶっ倒れた鉄砲玉っぽいのと、すっげーやな感じのセクハラ男と、アイドルみたいな美少年の三択」

「・・・・・」

「どれだと思う?」

桜子の問いに

「いやーーーーー」

と全員が叫んだ。

「は、入りづらい」

薫がドアの前で立ち尽くす。中の会話が丸聞こえである。もっと防音のドアにしろよと薫は恨み言を吐く。「セクハラ男」呼ばわりは辛い。

躊躇っていると、横から秋人が高速でノックした。

「どうぞ」

と中から声がしたと同時に、秋人が素早くドアをあける。そして、朽木家直伝の1秒土下座を展開した。慌てて薫も続く。なぜか当夜まで続いた。

「この度はわたくしの不手際で霧崎さんに怪我を負わせてしまいまして、誠に申し訳ありませんでした!!!」

「この度は、わたくしの言動で霧崎さんに不愉快な想いをさせましたところ、誠にもって申し訳ございませんでした!」

「なんか、よくわかんないけどこいつら悪くないので、許してやってください!!」

大音量の謝罪と共に三人床に手を着いて頭を下げる姿を見てアークのメンバーは言葉を失う。

「えっと、もしかして…如月秋人…さん?」

リーダーが恐る恐る呟く。

「僕です」

秋人がさらに深く頭を下げる。

「秋人の保護者をやっています。神崎です」

薫も同じくさらに深く頭を下げる。

「えっと、友人の朽木です」

当夜も一緒に頭を下げた。

「わあーホンモノだー」

どうするのさ、これっという視線で桜子を全員が見つめている。

「あはははははは」

桜子の口からメンバーですら聞いたことがないような笑い声が響いた。

「いや、本当にごめんなさい。なんかおかしくて。すごく綺麗な土下座だったから見とれてしまった」

桜子は目尻の涙を拭きながら立ち上がり、秋人の向かいに同じく床に座り両手をついた。

「如月さん、神崎さん、朽木さん。助けていただいてありがとうございました。感謝のしようもありません」

彼女の言葉に続いて、アークのメンバーが全員同じく床に伏す。

「うちの大事な桜子を殺さずにいてくださってありがとうございました。おかげで私たちは大切な仲間を失わずに済みました。感謝してます」

代表してリーダーがそうささやくと、全員同じタイミングで頭を下げた。

「本当に、ありがとうございました」

深々と一同で一礼したのだった。