軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15. 懺悔

帰還のスクロールで戻ってきた二人は深刻な顔つきをしていた。出迎えた後藤たちは、だからてっきり桜子は死んだのだと思った。

「あの、これ彼女の指なんですが、一応培養液に入れて持ってきたんです。くっつきますか?」

薫がジップで閉じるタイプのビニール袋を後藤に渡す。

「え?」

後藤が戸惑いながらそれを受け取る。

慌てて秋人が抱えている桜子を見ると、かなり怪我をしてはいたが、生きているようだった。

「桜子…」

恵子が涙声で呟く。二人は親戚関係だ。言えば助けてやってくれと縋りそうで言えなかった。

秋人は抱えていた桜子と当夜をゆっくりと降ろした。

「病院…に」

彼はそのまま地面に崩れ落ちた。巌が手を伸ばす。

「秋人くん!」

「手当をお願いします」

薫もそう呟いて意識を手放す。二人はそのまま昏倒した。

秋人が目を覚ますと、隣に薫が眠っていた。ギルドの医局のベッドだろう。起き上がると椅子に座った後藤がいた。

「後藤さん」

秋人が首を傾げた。じっと動かないギルドマスターは泣き明かしたような目をしていた。

「あの、桜子さんは…」

「無事だよ。今治療を受けている」

「そう…ですか」

無事ではないことは秋人が一番よく知っている。

彼はがっくりと項垂れた。

驕っていたのだ。自分は強いと、いい気になってた。穴があったら入りたいというのはこういう気分なんだろうと秋人は思った。

しかし、後藤は秋人の想いにはさっぱり気が付いていなかった。

「すまなかった」

後藤は深々と頭を下げた。

「え?」

秋人が戸惑っていることにも気が付かず、後藤は続けた。

「君や神崎先生の善意を利用した。彼に言われたよ。信じるのではなかったって」

「薫は普通の人なので、きっと 探索者(シーカー) の感覚は理解できないと思います」

ふっと秋人が小さく笑う。隣の薫は眉間にしわを寄せている。

「いや、それは違うよ。秋人君。」

後藤は秋人の言葉を否定する。

「それは、違う。我々が間違っていた。君はまだ子供で人を殺すような使命を与えるべきではなかった。たとえ、どれほどの犠牲を払おうとも、それは大人が解決するべき事だった。」

「・・・」

「君が如月秋人だということに甘えていた。たまたま今回はその罪を犯さずに済んだが、それは私の功績ではない。君のやさしさと神崎先生の献身の賜物だ」

後藤の表情は苦い。

「私は君が怖かった。君の力とそこまでに積み上げてきた死の重みを恐れた。それなのに、今度はそこに一つ加わるだけだと切り捨てた。ダブルスタンダードというやつだ。卑怯で自分勝手な考えだ。それは許されることではない」

彼の瞳から一筋の涙がこぼれた。

「私は自分がこんなに醜悪な人間だとは思っていなかった。どこにでもいる普通の善良な男だと今の今までそう思っていた。神崎先生はそれを見抜いていた」

後藤が薫を見る。審議官とはよく言ったものだと思う。今でもあの時の彼の瞳が、後藤の裏切りに傷ついていた瞳が忘れられない。

「後藤さん、でもそれは仕方ないことです」

秋人が言う。

「だって後藤さんは僕だけのギルドマスターではなくて、みんなのギルドマスターだから。他の 探索者(シーカー) も守らなくちゃいけない。だから、僕だけを大切にする訳にはいかないんです。 探索者(シーカー) を一番たくさん守るための最善手を打つのが ギルドマスター(あなた) の役割だ」

後藤が俯く姿に、秋人は苦笑を浮かべる。

「普通に考えたら、妥当な作戦でした。それに、後藤さんは僕を一人で行かせるつもりはなかったでしょう?Sランクの二人の他に、僕のことよく知ってる巌さんまで無理して呼んでくれてたじゃないですか」

一人で行くと決めたのは秋人だ。だからその事をどうか罪には思わないでほしいと秋人は言う。

「桜子さんのお見舞いに行きたいです」

秋人が言うと、後藤は

「行けるようになったら声をかけるよ」

と言って、涙をぬぐったあと病室を後にした。

病室のドアが音を立てて閉まった後、

「君は優しすぎる。あんなの殴ってやればよかったのに」

ぼそりと薫が呟く。

「起きてた?」

「知ってたくせに」

薫は眉間にしわを寄せたままだ。

「さっきのは俺に言ってたんだろ」

「さあ」

秋人が肩を竦めた。

「でも児童虐待で訴えなくていいからね」

「ほれみろ」

薫はぶすくれている。そんな薫の姿を見ていると、秋人は何故か生きている実感が湧いてきた。

「薫、助けにきてくれてありがとう」

秋人が囁くと、薫はふんと鼻を鳴らす。

「タクシーにもお礼をいっておきなさい。あれがいなかったら間に合ってなかった」

「はい」

「もう寝なさい。明日は学校休んでいいから」

「はい、おやすみなさい」

長い夜が終わった。

一夜明けての病院前。

秋人と薫は死にそうな顔色で佇んでいた。

「なあ、そんなに落ち込むことねえって。ぜったい、霧崎さんは怒らねえって」

当夜がそういうも秋人は大きく 頭(かぶり) を振った。

「当夜、確かに回復魔法師の中には欠損を治せる人もいるけど、それは見た目が治っただけで、リハビリが必要なんだよ。彼女の手は本当に血のにじむような努力の結晶だったんだ。あの剣技をこれからまた一から積み上げなくちゃいけなくなってしまった。」

ぶるぶると秋人が震えている。

「いつもなら絶対あんなミスしないのに。僕の所為だ」

がっくりと肩を落とす。

「いや、たぶん首落とされなくてラッキーって思ってると思うぜ」

という当夜のつぶやきは聞こえていないようだ。

反対に薫の方も真っ白な顔色をしている。

「とんでもない暴言を吐いたからな…ふふふ…ははは」

咄嗟の事とはいえ、なぜ脳裏に浮かんだのが「ハラスメント講習会」の言ってはいけない方の言葉だったのか。若いお嬢さんが答えられない質問をと思ったけど、よりによってなぜそれだったのか!

「そりゃあね、確かに効きましたよ。霧崎さんの人格を一瞬とはいえ表に出すことはできましたけど、あれはない」

どこをどう聞いてもセクハラ親父のセリフである。

「ないわー、ほんとマジでないわー」

ぶんぶんと頭を振っている薫を怖いものを見る目で当夜は見つめた。

「せんせー、そろそろお見舞いの時間っす」

「黙れ、タクシー」

「あっくん、おれいつになったら人間に戻れると思う?」

「謝らないと、謝らないと…ぶつぶつぶつ」

カオスだった。