軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17. 支配の指輪

「ほほう。これがそうなんですね」

薫はガラスケース越しに宝箱から取り出された指輪を眺める。

「鑑定士の桐原です」

「あ、弁護士の神崎です」

そこで名乗るのは弁護士なんだ…と全員が思ったが、薫は気にしない。

「体調不良のところ、ご無理を言いまして申し訳ないです」

物腰が穏やかな鑑定士は、ぺこりと頭を下げた。

「いえいえ。うちのパーティーが持ち帰ったものですから」

薫は、今一度その指輪を見つめる。

「それで、聞きたいこととは?」

「第五位の固有魔法で鑑定されたとのことで、もしかしたら私より深く内容を把握されているかもと。私の鑑定をチェックしていただきたいと思いまして」

超がつくエリートベテラン鑑定士の桐原がそんなことを言い出すものだから、後藤も慌てた。

「桐原さんの見立てに疑う奴はいないよ」

後藤の言葉に桐原はふうっとため息を付く。

「かなり荒唐無稽な鑑定結果なんだ。ちょっと自信がなくてね」

「なるほど」

薫が頷く。

「それでは、桐原さんの鑑定の内容を聞いてみましょう。私は、 探索者(シーカー) 歴がまだ半年ちょっとなので、正直『 探索者(シーカー) の常識』にはとんと疎くて。桐原さんの鑑定内容がどれほど荒唐無稽でも、別に変に思わないですよ」

薫の言葉に、桐原は少しほっとしたような顔で頷いた。

「この指輪には支配の魔法が施されています。これを装備したものは、ダンジョンボスクラスのモンスターに変化します。今回はダンジョンボスが装備していたので、より強化されたんだと思います」

うんうんとその場にいた全員が頷く。

「そして、この指輪を装備するのはモンスターだけではありません。人間にも装備され、指輪に支配されます」

その場の空気が凍り付いた。

「人間がダンジョンボスになるって、んなアホな」

当夜の言葉はその場の薫を除く全員の気持ちだったが、薫は違った。

「そうですね。むしろ…人間に向けてのアイテムかと思います」

淡々と薫は告げる。ぎょっとして周囲の全員が薫を見る。

桐原はさらに躊躇った後、俯き、薫を見る。薫は一つ大きく頷いた。

「そして、これは人工物です」

桐原の言葉は、しんとその場の音を消し去った。

「人工物ってどういうことですか?」

聖夜が尋ねると桐原は少し俯いて、さらに告げた。

「術式はダンジョンでドロップされる魔法式とよく似ているのですが、この指輪の素材はステンレスなんですよ」

「すてんれす?」

素材のあまりの意外さに、当夜は言葉を失った。しかし、その場にいた幾人かはその重要性を即座に理解した。

「なるほど、人工物だ」

「ええ、ダンジョンで排出される鉱物ではないですね」

「おそらく耐水性の付与が難しかったんでしょう。素材にその部分を頼ったわけですね。ステンレスなら錆びないですから」

後藤、薫、聖夜が唸る。秋人と当夜はよくわからないという顔で黙っていた。

「ダンジョンでドロップされるアイテムは、ダンジョンで排出される素材でできている。ステンレスは人工的に加工する金属だから、出てくることはないんだよ」

と薫は二人に分かるように説明した。

「霞が関のダンジョンから出てきたアイテムが人工物で、それは腕利きの 探索者(シーカー) をダンジョンボスにできるアイテムだなんて、やばい案件じゃないですか」

薫が遠い目で告げる。

「国家レベルの陰謀ですよ」

聖夜も眉を寄せた。

「え?そうなの?」

という顔の二人。

後藤は内線に駆け寄った。

「すまんが、総理大臣にアポをとってくれ」

桐原はふうと息を吐いた。

こんな鑑定結果を告げてもなかなか信じてもらえないだろうと思っていたのだ。

「あなたがいてくださってよかった」

桐原が薫に向かって頭を下げるが、薫はフルフルと首を振った。

「私は効果までは理解できてましたが、素材はわからなかったです。まだ覚えたての魔法だったので、コントロールできませんでした。ただ…何かこう不穏な空気のようなものを感じたんです」

薫の言葉に桐原は大きく頷いた。

「おそらく、貴方のその魔法はこれを設置した者の悪意に反応したんじゃないでしょうか」

「なるほど。そうかもしれません」

敵意や悪意の元となるアイテムだったから、反応したのかもしれない。

「ただ、本来はもう少しレベルを上げないと使えない魔法だったみたいで、今はうんともすんとも利きません」

薫の言葉に桐原を大きく目を見張った。

「あの時は夢中だったんで、ありったけの魔力を注ぎ込んで無理やり起動させた感じでした。おかげで、今も頭痛が酷くて」

「それは無茶なさった。魔力回路専門の医師に見せた方がいいです。私に伝手はあるので紹介しましょう。鑑定系の我々も魔力回路によく負荷をかけてしまうんです」

桐原の申し出をありがたく受けて、薫たちは帰路についた。

「あと一つくらいは依頼受けるつもりだったけど、なんかやばそうなのが来そうだなあ」

薫がぼやく。秋人は苦笑して頷いた。

彼は国家レベルの陰謀だのなんだのはあまり興味がなかったが、あの指輪の厄介そうな仕様は理解できた。

「確かに、薫がダンジョンボスになったら、僕は攻撃できないね」

秋人の言葉に当夜は

「すっごい厄介そうなダンジョンボスになりそう」

と呟いて、聖夜に肘で小突かれた。

「あ、先生!」

難しい話はパスと鑑定の場所についていかなかった茜が、薫たちの姿を見て走り寄ってきた。

「よかった!楠本さんから電話があって、今日の公判の準備は出来てますか?って」

茜の言葉に、さっと薫は顔色を変えた。

「え?ちょっと待って!俺、何時間寝てたの?」

あわあわと薫が慌てながら、己の腕時計を確かめた。

「え?もう12時?え?日付が進んでるの?嘘だろう」

薫の様子に全員が青くなる。

「やばい!遅刻する!!走って行くしかない」

「ここから?」

当夜が叫ぶ。

「僕が背負っていくよ」

秋人の言葉に、ほんの少しの誘惑を感じながら薫は小さく首を振る。

「いや、ありがと秋人。」

さぼったツケを払わされているのだ。払いきるまでは頼るわけにはいかない。

「ただ、後藤さんに謝っておいてね」

薫は秋人の威力を最大限に発揮する手段を、後藤対策に振り分け、駆けだした。

「先生!スーツは?」

茜の声がドップラー効果のように背後に流れていく。

「控室で着替えるしかないかなぁ」

薫は全速力で駆けながら、そうぼやく。

資料は幸い収納魔法に入れてオアシスでの休憩時間に確認していたから問題ない。

「兼業弁護士はほんと疲れる」

苦笑と共にビルを駆け上がった。

後日、ビルの隙間を駆け抜けるバンパイアの怪談がまた広がることになり、後藤の頭を抱えさせることになる。