軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16. 宝箱

「薫!薫っ!!しっかり」

慌てて戻った秋人が薫を抱きかかえるが意識がない。

秋人が顔面蒼白で薫にすがりついている。恐慌状態である。

「秋人!」

ばんっと音がして、当夜が秋人の頬を殴った。受け身も取れず秋人が地面に転がる。

「当夜!何やってんの!?」

茜が大声で叫ぶと、ヨロヨロと秋人が起き上がった。

「目、覚めたか」

「うん、ごめん」

当夜の声に秋人が頷く。打たれた頬は赤く腫れて痛々しい有様だった。

「ちょっと!やり方ってもんがあるでしょ」

茜の苦情に当夜は首を竦めた。

「ごめん。茜ちゃん。当夜は悪くない。ちょっとグルグルしちゃって」

憔悴しきった顔で秋人が囁くと、茜も口を噤む。

茜も当夜も、秋人がどれほど薫を大事に思っているかよく分かっている。

「神崎先生はガス欠だ。大丈夫。問題ないですよ」

二人のやりとりがなかったように、薫を介抱していた聖夜が言うと、秋人はホッと胸を撫でおろした。

「先生はなぁ、 探索者(シーカー) になった瞬間からものすごい魔力量だったから、たぶん魔力切れってなったことなかっただろうなぁ」

当夜がぼやく。

普通は初心者の頃にやってしまい痛い目を見る魔力切れ状態だったが、薫は無尽蔵の魔力持ちだったため、今まで限界まで使うという事がなかった。

「第四位の 雷神の雷鎚(トールハンマー) を撃った後に、もう一段強いの使ったんだから、いくら先生がバケモン並みでも潰れるぜ」

当夜が肩を竦めると、秋人は首を傾げた。

「薫、第五位使ったの?」

「たぶん。聞いたことない詠唱だった」

「先ほどの宝箱に触らないよう言われてたね」

聖夜が魔法回復薬を薫の口元に流し込みながら、頷く。

朽木兄弟は比較的薫の近くにいたので、聞こえたのだろう。

「鑑定系が出るかもって言ってたから、それかな」

薫の顔色が良くなったのを見て、秋人があからさまに安心した顔になった。

「それで、これはどうやって持って帰る?」

聖夜が宝箱からある程度距離を取りながら言う。

「ここに置いていくのはまずいよな。」

「うん。たぶん今回のアイスドラゴンが強化されてたのも、これが原因っぽいもんね」

当夜の言葉に秋人も頷く。

帰還のスクロールで帰るにしても、どうにか運ばないと別のモンスターの手に渡ったり、 探索者(シーカー) の手に渡るのも困ったことになりそうだった。

「うーん」

当夜が唸る。こんな時に一番知恵が働きそうな人物はまだ寝たままである。

「こうしよう」

秋人の提案に、皆微妙な顔をしたが渋々頷いた。

薫が目覚めると、そこは見知らぬ部屋だった。

調度品の雰囲気からしておそらく病室だろう。差し詰めギルド併設の治療院というところかなとあたりをつけた。

傍には誰もいない。ナースコールのボタンがあったので、押そうとして頭を上げると途端に激しい頭痛に襲われた。

「うう、いたたたた」

顔を顰める。二日酔いになったような気分だった。

「薫、目が覚めた」

扉を大きく開けて秋人が駆け寄ってきた。薫の呻き声をきいて飛んできたらしい。おそらくコントロールできなかったのだろう、ドアがなんだか酷い音を立てて傾いているが、秋人にとってはどうでもいいことだった。

「秋人、無事だったか」

「こっちのセリフだよ。もう本当にびっくりしたんだからね」

珍しく怒っている秋人に苦笑しかけ、薫が目を見開く。

「その頬、どうしたんだ?」

自分が気を失うまでそんな怪我はなかったはずだ。

白い大きな絆創膏は丁寧に治療されているが、顔である。痛々しい。

「治療魔法師は呼んでもらえなかったのか?」

薫が眉を寄せると、秋人は苦笑した。

「呼んでくれたんだけど、他のメンバーを優先してもらったし、このくらいの怪我なら自然に治した方がいいって。あんまり治療魔法に頼ってばかりだと、人体が持っている治癒力が落ちるってドクターに言われた」

「そっか」

薫はまだ納得しかねるような表情だったが、秋人は気にしなかった。

薫が倒れた時、自分はパニックになった。

もし、あれが敵陣の真っただ中だったらと思うとぞっとする。

倒れた薫を連れて帰らないといけない自分があの調子では、二人で共倒れだ。帰還さえできればいくらでも治療できるのに。

当夜が殴ってくれなかったら、自分はあの時何をしてたか分からない。本当に心の底から彼に感謝していた。

「薫、前に一人でダンジョンに行く方がいいかって聞いたよね」

「うん」

秋人の言葉に薫が頷く。

「僕は、今回本当にみんなに助けてもらった。パーティーで探索するってこういう事なんだなって。みんなと一緒に行けてよかった。」

秋人のてらいもない笑顔に薫も微笑み返した。

薫は、秋人が誰かといることを喜んでいることが嬉しかった。

「ぽやぽやしているところを申し訳ないんだが、先生、ちょいと後藤さんが話があるってさ」

当夜が、後藤を連れてきた。薫と秋人が顔を見合わせる。

「宝箱、持って帰ってきたのかい?」

薫の言葉に当夜が頷く。

「僕が氷魔法で分厚い氷の真ん中に入れて」

「俺が蹴って持って帰ってきた」

二人の言葉に薫の顔を引きつる。

「触るなって言ったけど、それは想定の範囲外だったな」

「最初秋人がやるって言ったんだけど、取り込まれるって先生が言ったからさ。もしも、万が一秋人が操られでもしたら俺たち全滅じゃん。だから俺が蹴ったんだよ。俺なら秋人が止められるからな」

当夜の覚悟の決まった言葉に薫は不思議そうに彼の顔を見た。

そこには、 探索者(シーカー) になるのを嫌がって、ふらふらしていた青年の姿はなかった。

「ふうん」

薫はチラリと秋人を見て、それから当夜に頷いて見せた。

「いいんじゃない?」

その言葉に、当夜は自分が今回改めた覚悟を見透かされたようで、気恥ずかしくなりそっと目を逸らした。

後藤は例の宝箱をまず氷から取り出し、中身を取り出すことにした。

ギルドの危険物扱い専門のスタッフが、遠隔操作でロボットアームを使用して取り出す。何重にも防御のかかった部屋でのことだが、それでも立ち会っていたメンバーは不安そうに見つめていた。

中身は一つの指輪だった。なんの変哲もないデザインだったが、何かの魔法を帯びていることは分かった。

「うーん」

鑑定しているのはギルド所属の鑑定士だ。この道30年の大ベテランである。

「これは、嫌な術式ですね」

鑑定士は唸った。

「どんな術式だね」

後藤が尋ねる。鑑定士は眉を寄せた。

「この宝箱を開けた者に強制的に装備される仕様の箱になってます。指輪の方は、強制的にダンジョンボスにする支配の魔法がかかるようになっています」

「モンスターを強化するってことか?」

「・・・・・・・・それだけだといいんですが」

鑑定士は自信なげに言い淀んだ。

「これ、最初に見た人は審議官って言ってましたよね」

鑑定士が唐突に後藤に尋ねる。

「呼んできていただけませんか?意見が聞きたい」

「分かった」

渋い顔のベテラン鑑定士の表情を見て、後藤は収容されている薫の病室に向かった。その時、ちょうど薫が目を覚ましたところだったのだ。