軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11. 赤坂第4ダンジョン 2

平地を行くようにフロアをほぼ直線で進めるので、5人はあっという間に20階層まで進んだ。それでも、茜と聖夜は肩で息をしている。

「今日はここまでにしましょう」

薫の言葉に二人は無言で頷いた。

20階層にはオアシスがある。キャンプの準備をしていると、聖夜が荷物から自分の包丁を取り出した。武器ではないので、普通のステンレスである。

「夕飯は私が作ります」

「おお」

薫がその腕前に拍手している。包丁さばきが見事だった。

「兄貴はステーキ焼くのも上手いよ」

「じゃあ、これを」

いそいそと秋人が、以前に捕獲した魔物肉を取り出す。

「高級食材だな、何の肉?」

「ドラゴン」

「うわあ」

茜が歓声を上げた。

ドラゴンの肉はダンジョンで獲れる魔物肉の中でも最高級品だ。都内の高級レストランで年に数回出るか出ないかの幻の食材である。

アメリカのダンジョンで秋人がひっそりと確保しておいた物だった。

こうしてその晩はパーティーの食事は聖夜が作ってくれることになった。

「焼き加減が絶妙!」

「美味しい!」

と大好評である。当夜は褒められて照れている聖夜を見てほっと安堵の息を吐いた。

「聖夜さんは、家でも料理はしてる?」

「はい。一人暮らしなので」

「今度、肉の焼き方を教えてください」

薫が神妙な顔でそんなお願いをしている。ステーキを焼くのにはコツがいると力説していた。

「神崎先生の趣味は料理なんだ」

当夜が言うと、兄はああと手を打った。

たわいもない時間の中、二人のレベルの話になった。ギルドカードを確認すると、かなりの進み具合だった。聖夜は25から32、茜は4から16まで上がっていた。ちなみに当夜も秋人たちに付き合って潜っているうちに38まで上がっている。

「聖夜さん、固有スキル出てます?」

「はい。えっと『攪拌』…え?混ぜるってことかな??」

謎のスキルである。ふむ…と薫は唸った。

「今日の動きからして、切断はモンスターを細切れにしたりする効果に加えて、パーティーの食料事情を高める効果付き、燃焼はアンデッドでも簡単に燃えてたし、復活してこなかった。コントロールしたら、もしかして生焼けとか炭化するまで燃やすとかできそうだったよね。」

「はい」

「それじゃ、攪拌にも何か料理にちなんだ効果があるはずだな」

5人はうーんと唸った。

モンスターに向かって混ぜることに何か意味があるのだろうか。聖夜は感覚的にはなんとなく効果は分かるんだけど、今一つはっきりしないと言う。

「おそらくだけど、まだ確実に取得されてないんじゃないかな」

と秋人。だいたい、固有魔法や固有スキルはレベルが10上がるごとに取得できるのだが、時々もう少しレベルが必要な場合がある。

薫の 雷神の雷鎚(トールハンマー) も、第四位の固有魔法だったが、レベル45を超えるまでは使えなかった。

「まあ、明日やってみよう」

薫の結論に皆が頷く。

「茜さんは1つ出たかな」

「はい」

にっこりと茜が笑う。【正拳突き】とかなり分かりやすいのが出た。

「拳の技だね。足技がくることもあるんだよね?武闘家とか拳闘士は固有スキルの第一弾が何が出るかは法則はないんだっけ?」

薫が聞くと当夜は頷く。

「でも、こうやって色々考えると何か法則ありそうだよね」

「そうだな。後藤さんに今度聞いてみるよ」

ギルドの方でも研究しているかもしれない。自分たちが当たり前と思っていたことが、実は当たり前じゃなかったこと、それがたった半年しか 探索者(シーカー) をやってない人物の提言から気が付いたことに驚いている。

当夜は、ダンジョンについてはもういろいろなことを知っているつもりだったが、実は何も分かっていないのではないかという気持ちになった。そうなると、なぜか見慣れたオアシスですら少し不安を覚えた。

32階。ダンジョンボスがいる最下層だ。薫がアップし始めた。薫の第四位固有魔法は 雷神の雷鎚(トールハンマー) 。たいがいのダンジョンボスを一撃で吹き飛ばすド級の攻撃魔法だ。ただし燃費が悪く、クールタイムが30秒ほどかかるのが難点。

その分を秋人がカバーしている。二人だけでもおそらくこのダンジョンを踏破するのは何も問題なかっただろうに、こうやって連れてきてくれたことに当夜は感謝していた。

「汝の敵を打ち砕け

【 雷神の雷鎚(トールハンマー) 】」

薫の杖先から激しい雷撃か打ち出される。

以前よりコントロールされ威力の増したそれは、あっという間に現れたデュラハンを撃ち砕いた。

「うーん、過剰攻撃」

薫がため息を付く。まだコントロールが上手くいかないらしい。威力を抑えて打つことができれば1日で数回使えるのに、現状は1回が限界だ。

「ダンジョンは閉鎖しないから、迷宮核は傷つけないでね」

秋人に言われながら最下層のボス部屋の奥に入る。ガラス体がひしめくそこには、キラキラとした百合のような迷宮核が咲いていた。

その周囲に咲いている花が音梨草だ。

ガラスでできたスズランのような花だが、葉は普通の植物のように緑色だ。

初めてこれを地上に持ち帰ったのは秋人の母だった。

持ち帰った理由は、綺麗だったから。ガラスの花に、植物の葉が付いているので飾ったら喜ぶかと思ってと、その時懇意にしていたギルドの受付嬢にプレゼントしたらしい。

受付嬢は驚いてすぐラボに持ち込んだ。薬効はすぐに知れて、一大発見となったのである。

「綺麗」

茜が感嘆の声をあげる。普通のペーペーがこの光景を見れるのは、少なくても 探索者(シーカー) になって5年くらいはかかるのだが、彼女は自分が運がいいことは分かっていた。

「写メ撮っていい?」

「いいよ」

薫が応えると嬉しそうに携帯を取り出す。秋人も何枚か写真を撮っていた。当夜は珍しいこともあるもんだと思い尋ねたら、今までスマホで記念に写真を撮るのを知らなかったという何とも物悲しい理由を聞いてため息を零した。

音梨草は必要な数だけ取って、ある程度の株は残して置く。取りつくしてしまってこの花がもう生えなくなっては困るからだ。

簡単そうに一同は採取しているが、迷宮核の攻撃をかわしつつの採集である。薫の防御魔法と秋人の遠隔攻撃があるからこそ可能な採取だった。

音梨草は採取後、3時間ほどでダメになってしまう。秋人は音梨草を氷魔法で綺麗に覆った。音梨草と氷の間にほんのわずかな隙間を入れて、ガラスで覆ったオブジェのようにも見える。

これができるからこの薬草は秋人だけが運べるのだった。

「迷宮核を破壊しないから出口は出ないので、もう一回戻ります」

薫の言葉に当夜、聖夜、茜の三人は愕然とした顔をしたが、

「…というのは冗談。これを使います」

薫の手にはお高いスクロールが握られていた。

「帰還のスクロールーーーー」

何故いつもアイテムを紹介するときに、薫は猫型ロボットの真似をするのか、当夜には理解できない。

このスクロールには帰還の魔法が仕込まれている。使い切りのアイテムだが、かなり高額だ。

秋人も薫もゴールデンウィーク中に2つやってしまいたかったので、これが必要だったのだ。

あと残り1つくらいは受けようかと思っているが、ゴールデンウィーク明けてからでいいかなと後藤と話していた。

「半径1メートルの中に入って」

薫の言葉に従って、皆がぎゅうぎゅうと薫の周囲に集まった。

「それじゃ、帰還します」

スクロールを広げ、帰還の魔法が発動した。

5人は、あっという間に地上に戻った。