軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10.赤坂第4ダンジョン 1

「は、初めまして!朽木聖夜です」

90度直角のお辞儀を前に、ピンクの髪の少女が困惑している。

「兄貴、秋人はそっちじゃない」

「え?」

兄は慌てて体を起こした。

「はじめまして。如月秋人です。よろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げる華奢な少年の言葉に、聖夜は慌ててもう一度同じことを繰り返した。

「お兄さん大丈夫か?昨日眠れたかな…」

「意地でも体調管理はしてきてると思うけど」

当夜は緊張でがっちがちの兄を初めて見た。

兄に間違ってお辞儀されたのは小林茜。加藤法律事務所で保護している 初心者(ルーキー) 探索者(シーカー) である。

「先生、あたしも連れてってくれるのありがたいけどさ、あたし、かなり場違いじゃね?」

茜は薫に尋ねる。

秋人と薫は別格のSランク。当夜と聖夜は名門朽木家の直系だ。自分だけが一般人で初心者で底辺だ。

「茜さんの初心者月給がもうじき切れますからね。今のうちに少しレベルを上げておいた方がいいですし、色々と教えてもらいましょう」

薫はまったく気にしていないようだった。

茜はチラリと聖夜を見る。

折り目正しい所作、丁寧な物腰、癖のない言葉遣い。どう見ても上流階級の教育を受けた人だ。さらに、その横に立っている当夜を見る。

茜は当夜がそんな凄い家柄の人間だとは思っていなかったが、こうしてみると育ちの良さは隠せない。

ふうっとため息を付いた。どう見ても己だけが場違いだ。

「装備は朽木家のものをお借りできたので、これを使ってくださいね」

茜は恐る恐るそれを手に取った。何かの魔法がかかった防具と、あかがね色のナックル。

「当夜と同じ武術系の武闘家でしたよね? 彼が色々教えてくれると思いますから、頑張って」

茜は装備の貴重さに顔面蒼白だったが、薫は気にしない。

「茜、防具の着方は分かるか?」

当夜が尋ねると、彼女は無言でうんうんと頷く。着方は分かるが正直着たくない。壊したら一生借金漬けだ。

「あんま気にしなくていいぞ。それうちにはたくさんあるやつだから」

「いや、そういう訳には」

「装備を気にして怪我したら、先生にすっごいお高い回復ポーション口に突っ込まれるぞ。そっちの方が怖いだろう」

「うえええええ」

茜の泣き声が木霊した。

赤坂第4ダンジョンは、アンデッド系のモンスターが出現する。

しかし、スケルトンは案外簡単に倒せるので、上層階は初級の 探索者(シーカー) にとってはいい訓練場である。

「えい」

掛け声とともに茜が拳をふるうと、スケルトンが粉々に砕けた。

【切断】

スキルと共にスケルトンがバラバラになる。通常の剣で切ったスケルトンは死なないが、聖夜のスキルで切るとスケルトンは再生しなかった。それどころか、切った端から食べ物系のアイテムに変化するのでびっくりである。

「こんなスキルだと思ってませんでした」

聖夜が驚いて自分の両手を見る。彼の両手にはオリハルコンで作成した包丁が握られていた。これは、この日の為に薫が後藤に頼んで製作してもらったものだ。

「なんか、すごい絵面だな」

当夜が兄の両手にある包丁を見て困惑する。

「スキル使った方がレベル上がるからね」

秋人の言葉に薫も頷く。

「ああ、だから無法者狩りしてたのか」

当夜は、3月にダンジョン中の悪党を薫と二人で狩っていた経験を思い出した。

実はモンスターではなく 探索者(シーカー) 相手でもレベルは上がる。敵味方関係なく、ダンジョンに存在しているモノ同志の潰しあいがあれば、勝った方にレベルが付与されるのだ。あまり大きな声で言っていないのは、 初心者(ルーキー) 探索者(シーカー) を狩る輩が増えることを恐れているからである。

「ドロップ品はとりあえず全部回収しておくね。後で鑑定しよう」

秋人がばらばらとドロップされた食品系のアイテムを回収する。

秋人の収納魔法はかなり容量が多いらしく、どのくらい入るのかという薫の質問に、眉を寄せて真剣に悩んでいた。今度海の水でも入れてみようかと本人は思っている。

「赤坂第4ダンジョンは全部で32階層だし、今回は閉鎖はしないから、ゆっくりでも2日で攻略できるよ」

秋人の言葉に、聖夜と茜は何か変な事を聞いたなという顔をした。しかし、すでに秋人の方法に慣れっこになってしまっている薫と当夜は「そうだね」と返事している。

「あの…ダンジョンって2日とかで攻略できるんっすか?」

茜は聖夜に向かって恐る恐る尋ねた。

「いや、そんな筈は…ここはアンデッド系だし」

ふるふると聖夜が首を振る。アンデッド系のモンスターはさほど強くはないのだが、完全に殺すのが面倒なのだ。

二人はお互いに素早く目を合わせた。そして心の中で「同志よ」と連帯感を深めたのだった。

5人は聖夜と茜のレベリングを前面に、かなりのスピードで進んでいた。7階層あたりまでで二人はかなりのレベルを上げることができた。

8階はボスがいる。聖夜と茜の緊張感が増したが、当夜は二人の衝撃を思って目を反らした。

「それじゃあ、さくっと行きましょう」

薫が声を掛けた途端、秋人の気配が変わった。彼の両手に双剣が現れる。

8階の階層ボスはフレッシュ・ゴーレム。ポップした瞬間、秋人が一閃するとあっという間に塵に返った。

「・・・・・・・・・え」

聖夜と茜が無言で立ち尽くしていると、薫はにこりと笑って

「しばらくモンスターが出てこないので休憩しましょう」

と言い出した。彼の手にはポーション瓶が握られている。

「休憩?」

「ここで?」

ボス部屋って休憩するところだったっけ?と二人は習ったことを思い出そうとするが、残りの三人は既に休憩する気満々である。

秋人に至ってはポーションですらなく、持参したコーヒー牛乳とクッキーを食べている。

二人は常識というものが音を立てて崩れていくのを感じた。

今日は秋人が潜るので、赤坂第4ダンジョンは一般の探索者は立ち入り禁止にしてもらっている。なので、ここにいる5人以外は敵である。

9階層に降り立った時に、薫が杖を取り出した。

「身体強化の駆け足は今日はなしね。茜さんがまだ出来ないから」

「分かった」

秋人が頷く。

「それじゃあ、障害物排除の方向性で」

「うん」

当夜がさっと耳を塞ぐ。薫が秋人以外の人間に防御魔法をかけた。

【 圧縮衝撃波(ハイ・プレッシャー) 】

轟音と共に、秋人の魔法剣が炸裂する。

ダンジョンの通路壁ごと秋人が切り裂いたのだと分かったのは、土煙が収まってからだった。

「見通しばっちり」

薫が遠くを見るように目を細めた。

はるか先の壁まで見渡せる平地が広がっていた。モンスターもほとんど今の一撃で蹴散らしてしまったのだろう。

「行こう」

秋人の声と共に薫が歩き出す。当夜は唖然としている二人の肩をぽんと叩いた。

「大丈夫。今日のはまだ大人しい方だから」

当夜の言葉に二人はなんとか気を取り直して後に続いた。

残ったモンスターを狩るのは自分たちの役目だと思い出したのだ。当夜はよろよろと歩き出す二人を気の毒そうに見つめた。