軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4. アドバイス

眼鏡を修理に出して数日後、今度は人間国宝大塚から連絡が入った。

「出来たぞー」

と自慢げな様子だった。秋人は薫とそれからレオネアと一緒に大塚邸に向かった。

大塚邸に着くとすぐに応接に案内され、内浜手作りの美味しいおやつをふるまわれた。

そうこうしているうちに、ドタバタと足音がして大塚が駆け込んでくるのは前回と変わらずだ。

「おう、秋人!頼まれてたもん仕上がったぜ」

ニヤリと彼が笑う。その手には紺色の天鵞絨張りの指輪ケースがあった。

「開けてもいい?」

「もちろん」

秋人はそっと小箱を開く。そこには、注文した通り、いやそれ以上の品が鎮座していた。

「まあ、なんて綺麗な」

レオネアが思わず呟く。

不死鳥の魔石から出来たエタニティリングは、波打った表面で光が乱反射してキラキラと美しい輝きを放っていた。淡いピンク色の薔薇を連想させる優しい仕上がりだった。

「その小さい金色の金具を押すとネックレスに早変わりだ」

秋人が言われるまま色の変化している部分を押すと、指輪の鎖が通った状態に変化した。

「すごい!」

薫が思わず声を漏らす。形態変化が焔の桜よりスムーズになっている。

「動きはなめらか、一片の魔力も外に放出してねえ。反対側を押せばお前の術式が発動する。まあビーコンみたなもんだな。嫁は魔力がねえんだろ?瞬間移動はこの指輪にほどこしたお前の魔力の型に向けて跳ぶ感じだな」

「本人限定はどこでセットするの?」

「お前が最初に指に嵌めた相手限定だ」

「なるほど。初回限りってことだね」

「それくらいにしないと、奪われた時に困ったことになるだろう」

「うん」

秋人と大塚が順番に指輪の機能を確認していく。

収納魔法、防御魔法の出力も申し分なかった。

「これで、嫁も安心だな」

「まだ、残念ながら嫁じゃないんだけどね」

秋人は苦笑をこぼした。

「大塚さん、ありがとう。想像以上だ」

秋人が囁くように礼を言うと、大塚はふわりと笑った。

「俺の最高傑作だ。この先これ以上のものが作れるとは思えねえがなあ」

「?」

秋人は不思議そうに首を傾けた。

「まあ、技術と気力と体力の問題だ。いい仕事ってのはそういう全てが揃ってないと出来ねえんだよ」

困ったように大塚は笑った。今回の仕事はかなり体力を消耗したらしい。

「ま、俺には山本がいるからな。あいつは俺が今まで育ててきた中では一番見込みがある。今後はアイツも贔屓にしてやってくれ」

「おじいちゃん、どこか悪いの?」

秋人が不安そうに尋ねたが、彼は笑って首を振った。

「いいや。ただまあ、俺もいい歳になったなぁって、ふと朝起きた時にそう思っただけさ」

と不思議な笑顔を浮かべて、大塚は言った。

帰りの車中で秋人は薫に尋ねた。

「大塚のおじいちゃん、大丈夫かな?」

秋人は年齢の割にはるかに人の死を見てきた。つい先日もエファネルを自分の腕の中で看取ったばかりだ。しかし、こんな風に寿命で誰かがいなくなる予兆をを実感したことはなかった。

「大丈夫よ、秋人。彼は健康だったわ」

レオネアがそう囁くと、秋人は少しほっとしたように頷いた。

「朝起きたり、食事をしたりする時にふっと老いを感じるの。そうしたらね、ちょっと不安になったりするものなのよ…年寄りっていうのは」

と彼女はイタズラっぽく笑った。よく考えるとレオネアは大塚より年配なのである。見かけはそうは見えないが。

そういえば…彼女の寿命はもう尽きようとしていると、ブラフォードは言っていたと秋人は思い出した。

秋人は、心臓のそばが何かヒヤリとするような、締め付けられるような、そんな気持ちになった。

「私も、もうかなりの年月生きたからね、気持ちはわかるわ」

と外見にそぐわない言葉で彼女は囁く。

「でも、最後にそうね、一つだけやり残したことがあるから、それは叶えていきたいわね」

と自分に言い聞かせるように彼女は小さく呟き、目を閉じた。

レオネアをホテルに送ってから自宅に戻るともう夕刻だった。

秋人は指輪を美香にすぐに届けようか少し迷った。一応まがりなりにも 婚約指輪(エンゲージリング) のつもりで作ったものだ。いきなり押しかけて「これどうぞ」というのは違う気がした。

「薫は師匠に指輪渡すタイミングってどうやって決めたの?」

秋人の問いかけに薫は天を仰いだ。

「あの時は、ほんとはクリマスプレゼントとして渡す予定だったんだけど、なかなか二人になれなくて…桜子さんは寝ちゃったし、俺も一緒に居眠りしちゃって…」

うーんと唸る。

「朝起きたら桜子さんが近くにいて、ああ、幸せだな、よかったなって思ったら渡してた」

とその時の気持ちを端的に表現するとそんな纏めになる。薫は秋人に柔らかい笑みを浮かべた。

「俺は俺、秋人は秋人。やり方はいくらでもあるさ。特にその指輪は婚約指輪かもしれないけど、工藤さんの安全を守る役割も強い。秋人がいいと思ったタイミングで渡しなさい」

「そうだね」

秋人が大きく頷く。

「ただし」

薫の言葉の続きを秋人は「せつどあるおつきあいを」と予測していたが、違った。

「大塚さんにいくら払ったかだけは絶対にバラすなよ。賭けてもいいけど受け取ってくれなくなるぞ」

「わ、わかった」

秋人は人形のように何度もコクコクと頷いた。

秋人と大塚の間には魔力回路の達人としての友情や同志のような繋がりはあるが、出来上がったものの対価に関してはきちんと相場の通りに支払っている。それは薫が取引の最初から秋人に口をすっぱくして伝えたことだ。

金銭のトラブルは人間関係をダメにする最たるものだ。どんなに仲が良くても、親友でも、一旦このトラブルが起こると元の通りに修復されることは殆どない。

薫はそういう人間関係を嫌と言うほど見てきたのだ。

相手との関係を尊重したいのなら、きちんと見合った相場の額を支払なさいと薫は秋人に教えてきた。そして、秋人もそのとおりにしてきたのだ。

「まあ、俺が秋人ならこの指輪は工藤さんの身の安全を守る為のアイテムで、秋人が無茶しなくて済む効果があるってことをできるだけアピールするよ」

「うん、そうだね」

秋人は神妙に頷いていたが、薫は少しだけ考えた。

秋人少年は嘘がつけないし、すぐ顔にでる。そのことを美香はよくよく知っているのだ。

「それでも、もしどうしても白状させられそうになったら、正直に言いなさい。秋人の誠意はちゃんと伝わるから」

と有能弁護士はアドバイスしたのだった。