軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22. 首都高封鎖

「後藤さんですか?すいません?神崎です」

桜子の肩の上で、薫は後藤直通の緊急電話番号にコールしていた。

『どうされました?』

後藤は恐る恐る聞き返した。正直この弁護士から緊急電話がかかってくるのは碌な話ではない。

「工藤さんが攫われました」

『なんですって!え?でも今は学校では?』

学校にいる間はギルドの護衛はついていない。秋人の結界に魔力持ちが下手に触れると敵認定されるので、ギルドの護衛は近づかないことになっているのだ。

「それが、おそらく彼女に横恋慕しているアホな学生に誰かが入れ知恵したらしくて。こちらの魔法契約の裏をかいた誘拐です。大学生らしいと聞いています」

『な、なんと!』

後藤はどう返事をしていいか分からず困惑している。

この電話は秋人が相手を血祭りにあげる予定なので見逃せって事だろうか?と一瞬考えたが、流石に薫が弁護士なことを思い出した。

「彼女を誘拐した車は首都高を走行中です。おそらくあと5分ほどで秋人は追いつきます」

『あ、嫌な予感』

「私も桜子さんと追いかけています。しかし、あとさらに10分?10分ですかね?桜子さん」

「12分見て!」

「12分だそうです。12分で追いつきます。なので、首都高を封鎖してください。危ないので」

『うわあ、当たった!!!絶対それだと思ったあああああ!!!』

後藤の叫び声が聞こえた。薫は冷静に告げた。

「封鎖していただけたら、神崎家で3つ依頼をうけます!無料で」

『即応します』

素早い計算の元、後藤は快諾した。これで今年度の予算を3割削減できる。

「封鎖してくれるそうです!」

薫が電話を切りながら桜子に報告する。

「無料って…」

桜子が呆れたように呟く。そもそも首都高を封鎖するのは秋人の安全のためではない。通行中の車の、いわゆる一般人に迷惑をかけないためだ。

あちらが頼みこそすれ、こちらが譲る謂れは無い筈だ。

「いやあ、俺も秋人も金はもう持ってるので」

「当夜くんへの報酬は?」

「俺が払ってもいいけど、でも多分、当夜もいらないって言うと思いますよ。我々『神崎家』なんで」

薫が柔らかく笑うので、桜子はふうんと軽く返事を返した。

無理やり放り込まれたワゴン車の後部座席で、美香は両脇を大きな大学生に挟まれて座っていた。

「あなたたち、元宮くんの知り合いなの?」

美香が恐怖に震えながら問いかけると、彼らはヘラヘラ笑った。

「ああん?お嬢ちゃん、元宮くんのガールフレンドなんだろ?」

「そうそう、なんでも言う事聞く女だって自慢してたぜ」

美香の顔が激しい怒りで歪んだ。

「私は一回も彼の彼女だったことなんてありません!勘違いです!下ろしてください!!お姉ちゃんを殴ったわね!許さないわよ!!」

「何が『許さないわよ』だよ。今から自分がどんな目に会うかわかってんのかね」

ゲラゲラと一団はバカにしたように笑った。

「今からホテルに行くんだよ。そこでてめえを裸にして写真を撮ってやる。だいたいそれでどの女も大人しく言う事きくようになるぜ」

中の一人が美香の腕を掴んで顔を近づけた。

「可愛いじゃん。もうここで試しちゃおうぜ。こんなやらしい体してんだから、男の経験だってあんだろ?」

ニヤリと笑う男を美香が必死に腕で押し返した。

「触らないで!!」

暴れる美香を抑えようとして、中の一人が苦情をこぼした。

「だめだめ。スポンサー様が一番だってよ」

「へえへえ」

男は肩をすくめて、美香から手を離した。

「す、スポンサーって元宮くんのことでしょ。最低!」

美香が怒鳴るも彼らはけして首謀者として元宮の名前を出さない。

「いやいや、元宮くんは確かにおれたちの可愛い後輩っすよ。好きな女に学校中の皆の前で恥かかされたって泣いてたから、俺たちが自主的に慰めてあげようって話でね」

「そうそう。俺たちが自主的にあんたをホテルに連れてって可哀想な後輩にプレゼントしようって思っただけ。元宮くんはなーんにもあんたに関係してないよー」

それが、おそらく薫の魔法契約の裏をかく作戦なのだと美香は悟った。

「そもそも魔法契約もさ、お嬢ちゃんが『本当は元宮くんの方が好きだから解除してほしい』って言いさえすれば無効だしな」

「なんなら、あんたのそのおっきな胸で元宮くんと俺たちが楽しんでる写真を彼氏に送ってやるぜ」

男たちは「そりゃあ名案!」と大笑いしたが、ぞわっと美香は鳥肌がたった。そんなことを想像されるだけでも吐き気がする。

「誰があんたたちなんかに触らせるもんですか!そんな事していいのは秋人くんだけよ!!」

思わず美香が叫ぶ。

ガン

と車の天井からものすごい音がした。

車中の全員の目が車の天井に向かう。

「え、本当?」

声は天井から聞こえた。美香は思わず目を見張った。その声が誰のものかも、走行中の車の天井に誰がいるかも美香だけが分かった。

さらに、グシャと音がして車の天井から拳が突き出た。

「は?」

大学生たちは現実とは思えない光景に思わずその拳を呆然と見つめる。運転している大学生だけは、バックミラーを確認して青くなった。さっきから周囲に車がいないのだ。

「美香、それ…」

拳がぐるっと50センチくらいの円を書くと綺麗に天井に穴が空いた。そこからひょいと美しい顔が逆さまに覗き込む。

「今の話…」

「や、やだやだやだ。聞いてたの!?嘘!嘘じゃないけど嘘!!い、今はその話はあと!!」

美香が叫ぶ。

「確かに」

秋人は恋人の言葉の正しさを理解した。

理解できないのは大学生たちだ。今自分たちに何が起こっているのか、分からない。

走行中の車の天井に穴が空いている。そこから人が覗き込んでいる。正直ホラーである。

「返してもらうよ」

闖入者はさらに大きく円を描いた。そこから天井を剥がして投げ捨てた。彼が破った天井がどこかへ飛んでいき、車の中は嵐のように荒れ狂った。

思わず運転手は急ブレーキをかけた。しかし、それより早く闖入者は大事な宝物のように丁寧に女を抱き上げ、攫って行った。

ギギギギギギー

と大きな擦過音がして防音壁に車が擦られる。

ぎゃあああああ

と車中からは悲鳴が聞こえた。

「秋人くん!」

ふわりと重力に反するように秋人が美香を抱えて狂乱する車から飛び降りた。

「無事?」

「うん。全然怖くなかったよ。きてくれるって知ってたし」

「お姉さんは大丈夫。マヌエルさんと冬由がいるから。二人とも治療魔法持ちだし」

「うん」

秋人はそっと美香を地面に下ろした。それから大切そうに美香を抱きしめた。

暖かい、優しい、いい匂いがする秋人の大事な美香だ。何も欠けることなく無事だったことにホッとした。

「大丈夫よ」

とそっと美香が秋人の背中に手を回して、強く抱きしめ返した。

「…さっきの話…」

と秋人が思わず蒸し返してしまった。美香は体操服なのでちょっと薄着だ。

「それは、また今度」

と彼女は真っ赤になって小さく呟いた。