軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17. 球技大会 1

翌日、皆で朝食の卓を囲み、秋人とレオネアは辞去した。大塚は指輪は

「2週間でできる」

と請け負って、弟子たちの顔色を真っ青にさせたが。

秋人はその間にけりをつけないといけない相手がいた。

元宮敬人との決戦である。

指輪ができる少し前が、球技大会の開催日だ。

球技大会には薫、桜子、当夜、冬由、レオネアと護衛のマヌエルが来る。当日は朝から薫が早起きしてお弁当を作っていた。

「人数が、人数が多い…」

流石にこの人数を満足させるだけの量を朝から作るのは大変なので、前日から作れるものは作っているが、それでもかなりの量だ。卵焼きだけでも1パックである。

「おはよう、薫、すごい量だね」

秋人がテーブルの上に山と積まれたおかずの山に驚きの声を上げた。

「炊飯器を容量の多いのに買い替えててよかったよかった」

と薫が胸を撫で下ろしている。桜子も当夜も秋人もよく食べるから、最近買い替えたのだ。

「はい、これは秋人のお弁当。がんばれよ!」

生徒はクラスで食べるので、山から取り分けて秋人の分を別に詰めてくれていた。

「一回戦はサッカーで、2回戦は野球だろ?どっちも出るのか?」

「うん。どっちも途中までね」

体が弱くて全部は出られないという設定らしい。

「行ってらっしゃい」

「行ってきます!」

秋人が笑顔で出かけて行った。そこから薫は必死の様相で大人5人+子供1人分の弁当を作ったのである。

「薫さん!起こしてって言ったじゃない」

桜子がそれから30分後に寝癖のついた髪のままで起きてきた。

「いや、昨日遅くまでダンジョンだったでしょ。お弁当は俺が作るからって言ったし」

「ああああ、豪華お弁当だあああ。悔しいーーーー美味しそうーーーー」

桜子ががっくりと肩を落としているのを、薫はくすりと笑って見守った。

当夜もひょっこりと現れて、お重の中を覗き込む。

「あ、先生!俺、唐揚げ余ってたら朝飯にも食いたいっす」

「そう言うと思ってたよ」

薫は諦めたように当夜の皿に、余った唐揚げを載せている。その横で無言で冬由が皿を出す。

「はいはい」

冬由の皿にも薫は唐揚げを載せた。

彼女は結局学校には行けてない。流石に色々と知識が足りていないことがわかって、基礎的な学習が必要だった。それに適当な学校に放り込むと、 救世来神教(エルミネイト) が連れて帰ってしまうかもという懸念が拭えなかった。秋人と同じ学校なら守ってやれるので、同じ敷地内にある轟学園中等部一択だ。

「準備出来次第編入試験受けれるように手配するよ」

というわけで、冬由は家で通信で授業を受けることになった。当初、

「なんで、私が!」

と文句たらたらだったのだが、やはり学ぶのは好きらしい。結局大人しく授業を受けている。しかし、今日は休みということにした。

「10時になったら出発するよー」

と薫が号令をかけると、全員素早く朝食の片付けをして身支度を整えた。

轟学園の球技大会は時間短縮から、サッカーは20分ハーフ、野球は5回までの短縮仕様で行われる。複雑なタイムスケジュールでグラウンドやコートの使用時間が決まっているが、今回のサッカー第一試合は一際ギャラリーが多かった。

例の賭けの話もそこそこ出回っており、さらに校内でワンーツーを誇るイケメン対決なので、異様な盛り上がりだった。明らかにクラスじゃない観客が試合前のグラウンドをグルリと取り囲んでいた。

「きゃーーーー如月くーーーーん、がんばってええええ」

という黄色い悲鳴が圧倒的に多いので、1、2は争っていても順位は確定しているのだが。それが元宮は不満だった。

元宮が忌々しい思いでギャラリーを眺めていると美香の姿が見えた。彼女は第二試合の出場予定なので、こちらの試合に顔を出したのだ。

「美香!俺を応援にきてくれたんだね」

と元宮が芝居がかった仕草で美香に駆け寄るも、彼女は元宮には目もくれず、

「秋人くん!」

と当然、彼氏の秋人に声をかけていた。

「応援にきてくれたの?」

にこっと秋人が微笑むと「きゃー」という悲鳴が上がった。秋人は案外いつもは笑わないのだ。

「応援というより、監視?」

美香が首を傾げて小声で呟くと、秋人は笑って誤魔化した。美香は念押しする。

「一点でいいんだよ」

「うん、わかってる」

わかっているが、実行するかは別問題である。美香はじっと秋人の目を覗き込んだ。

「必要以上に弱いものいじめはしないように」

と釘を刺す。秋人は降参と両手を上げた。

「クラスの織田がサッカーを教えてくれたからね。彼の作戦通りにするよ」

ニコニコと秋人が笑う。美香はその笑顔で察したのか、がっくりと肩を落とした。

「ほどほどにね…」

美香の彼氏は案外執念深いのだ。

「いや、しかし本当は梶原を見にきたんですけどねぇ」

梶原が怪我をしたと噂を聞いたが、どうも本当らしい。水谷はJ1のパレオ川崎のスカウトマンだ。せっかく早起きしてまでこんなどうでもいい試合を見にきたのは、意外な掘り出し物だと別のチームが目をつけた選手の名前を聞いたからだ。どうにか頼み込んで父兄席を確保したため、お目当てが出ないにも関わらず来る羽目になってしまった。

その人は梶原が怪我をしたので二番手の元宮にスカウトを切り替えたらしいが、水原はきちんと調査をして元宮はリスクが高いと断じていた。

「素行が悪い選手はいらない」

というのが水原のモットーである。アスリートは謙虚でなければ大成はしない。

「しっかし、先輩、なんかやたらと騒がしいっすね」

きゃーきゃーと黄色い声援が繰り広げられている。元宮の対戦相手にどうやら半端ないイケメンくんがいるらしい。

「あ、あの子じゃないっすか」

後輩の名坂が指さす方向、華奢な少年がセンターサークル付近に立っている。スラリとした手足の長い少年だ。

「確かに、なんか雰囲気あるな。俺がアイドルのスカウトなら名刺渡してたかも」

水原が苦笑しながら双眼鏡を覗いていると、しっかりと彼と目が合った。どきりと心臓が跳ね上がる。

確かに目があった。しかし、ここからあそこまでかなり距離がある。まるで覗いていたのを察したように、少年は目を合わせにきたのだ。

戦う者の目だった。

ぞくりと水谷の背中に電気が走った。

その目を持つアスリートはたいがい成功する。

「おい、名坂。あの子撮っとけ」

スカウト用のビデオを一応片手に持っている後輩に向けて、水谷は命じた。

「ええ!?俺たち芸能事務所所属じゃないっすよ」

と名坂はぶちぶち言うも、先輩の命令には逆らえず渋々カメラを回し始めた。

試合開始のホイッスルが、満員のグラウンドに鳴り響いた。