軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7. 成果

秋人が特訓から帰ってくると、薫が夕飯の支度をしていた。

「ごめん!遅くなった!手伝うね!!」

秋人が慌てて着替えに走るも、薫は笑って否定した。

「シュートの練習だったんだろ?休んでていいぞ。どうだった?」

「うん。楽しかった!一回見せてもらったらすぐできるようになったよ!」

「それは…どうなんだろう」

薫は半笑いである。

実際、梶原のボレーシュートを一回見ただけで、秋人のフォームは劇的に変わった。ゴールにも入るし、なんなら威力もかなりある。一度などはゴールネットを突き破ったので「ステイ、ステイ」

と智輝に言われる始末だ。

「如月君、一緒に全国高校サッカー目指さないか?」

と当然梶原に勧誘されたが、秋人はギルドカードを見せて大会には出られないことを話した。梶原は金色のギルドカードの意味に数分理解が追いつかず

「え?如月秋人が16歳?高校生?年下?え?え?」

と混乱していたが、そこはスーパーアスリートの理解力の高さで何とか乗り切った。万能薬を最初に見せてもらってたこともあり、案外すんなり受け入れたようである。

「梶原先輩はものすごくサッカーが上手だった。たぶん智輝の野球くらい」

「そりゃあすごいな」

夕飯を食べながら訓練の話を聞いていた薫は素直に感嘆した。一回しか試合での智輝はみていないが、あれが尋常のレベルではないことくらいは、インドア派の自分でもわかる。

「そんな上手いのに轟学園になんできたんだ?」

と当夜が首を傾げる。轟学園は文武両道ではあるが、スポーツでプロを目指すランクの選手がくる学校ではないことも事実だ。

「なんか高校生になって急に上手くなったんだって」

「へえ、そういうこともあるんだなぁ」

夕飯のテーブルには秋人と薫、当夜の他に桜子と冬由がついている。そしてこのテーブルの全員がスポーツとは縁遠かった。

「んで、万能薬で治したのはどう言い訳するの?」

桜子の言葉に秋人は「うーん」と唸った。

「一応、球技大会までは怪我は治ってないフリをしておこうってことになったんだ」

「なんでまた」

「球技大会が終わったらたぶん元宮はいなくなるから、怪我の度合い知っている人いなくなるからね。それから電気治療がたまたますごく効いて、劇的によくなった!ってことにして復活しようって」

秋人がにこやかに笑顔を浮かべながら元宮の死刑宣告をしている。

「えげつない」

と当夜がつぶやくも、秋人は平気な顔でコロッケをぱくついた。

薫は先日小姫に言われた言葉を思い出していた。

「いや、うちの龍、全然理性的ちゃいますやん」

と心の中で呟いた。なぜか関西弁だ。

秋人は全力で元宮を折る気である。よほど美香のことを名前で呼ばれているのが腹に据えかねているのだろう。

「俺も気をつけよう」

と薫は心に誓った。

一階下に越してきた美香の元へ、秋人は薫に言われておかずの差し入れに向かった。

現在、美香は姉の佐紀と二人暮らしである。佐紀は就職したてでバタバタしているので家事はほとんど美香が受け持っている。美香は受験生なので、気を遣った薫はおかずの差し入れをよくしているのだ。

「こんばんわー」

インターフォンを鳴らすと美香が「はーい」と返事する。紺色のエプロンをかけた美香が玄関口に現れた。

「いらっしゃい、秋人くん」

「これ、薫のコロッケ。今日食べないなら冷凍しておけば一週間くらいはもつよ」

「わあ、美味しそう。ありがとう」

美香は笑顔でコロッケを受け取る。

「あ、今ね、この前神崎先生に教えてもらった肉じゃが作ってたの。味見してくれる?」

「うん」

秋人は嬉しそうに頷いた。

2LDKのマンションタイプの住居は女性の住まいらしく、薫たちの部屋とはだいぶ趣が違う。

秋人は物珍しげにきょろきょろしていたので、美香に笑われてしまった。

「女の子の家って感じだなあって」

「そんなに違うかしら?」

「うん、なんか優しい感じがする」

秋人がにこりと笑って美香を見つめる。ここには美香と同じ空気が漂っている。

「美香と同じだね」

「秋人くん…」

何となくいい感じになって二人近距離で見つめ合っていると、不意に

「ただいまー」

と玄関から声がした。二人はぎくりと飛び上がるほど驚いた。

「あれ?如月君、来てたのか?あ、差し入れだ!コロッケ!美味しそう!!」

佐紀がめざとく美香の手元のタッパーを見つけて喜ぶ。

「ああ、うん。そう差し入れを持ってきたんです。それで今から美香…さんの作った肉じゃがを味見させてもらうところ」

「おお、そうかそうか。君の先生の料理の腕前は確かに素晴らしいが、うちの妹もひけをとらんぞ」

ひひひと姉が笑う。年頃の姉は二人のいい雰囲気などお見通しだ。

「せ、つ、ど、あ、る、お、つ、き、あ、い、を」

と謳うように言いながら自室へと引き上げていく姉の後ろ姿を、恨めしげに美香が見つめる。

「なんか、ごめんなさい」

「いや、うん。僕もごめんなさい」

二人、微妙な空気のまま台所に向かった。

秋人はなぜかそのまま食卓に座って、二人の食事に付き合うことになった。

「高校男子なんだからもう一食くらいいけるでしょ」

という佐紀の偏見に満ちた説得に、秋人が折れた形だ。流石に一食まるまるは無理なので、おかずとお茶を並べてもらった。

「へえ、球技大会でそんなことになってるのね」

佐紀が例の賭けについて秋人に尋ねたので、秋人は素直に答えた。

「ひひひ。美香はまんざらでもなかろう。イケメン男子二人が自分を取り合っているのは」

「嬉しくないよ。私は元宮くんのことなんてこれっっぽちも好きじゃないもん」

美香が頬を膨らます。

「ごめんね。でも絶対勝つし。元宮は潰す」

秋人の宣言に、佐紀は微妙な顔をした。

「すごい自信だけど、ほんとに大丈夫なの?相手は一応サッカー部のエースでしょ」

ともっともな心配をぶつけるも、3S 探索者(シーカー) 様は本日の練習の成果を踏まえて頷いた。

「うん。でも本当のサッカー部のエースの人にコーチしてもらって、フィールドの半分からあっち側なら百発百中で入るようになったから大丈夫。一点取れば僕の勝ちだもの」

秋人の言葉に美香は不安そうな顔になった。

「秋人君、一点とるだけだよね?」

「・・・・・・」

「一点だよね?」

念押しする美香に秋人は笑って誤魔化した。

「えー、なんかおもしろそうなんだけど、父兄は見に行けるの?」

「一応見学できるけど、お姉ちゃん仕事でしょ。平日だよ」

「うそお」

佐紀ががっくりと肩を落とす。

「見学は事前申請が必要だったと思います」

秋人の言葉に佐紀はうーんと唸った。

「入ったばかりだから有給まだないんだよなぁ。でも妹の学校行事ですって言ったら抜けさせてもらえるかな」

「小学生じゃないんだから…。っていうか、見たいのは私の競技姿じゃないじゃない」

美香のツッコミに佐紀はへへへと笑った。

のんびりとした平和な時間を過ごしたあと、秋人は自宅へと戻った。

秋人はこの優しい時間を守るためならどんなことでもしたいと、改めて心に誓ったのだった。

ちなみに、肉じゃがは大変美味しかった。胃袋を掴まれるメニューの代表格なのも頷けると秋人は納得したのだった。