軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6. 特訓

地下ダンジョンで薫は、ことのあらましを小姫に話して聞かせた。

【なるほど。童が理性的な龍で感謝だな、そのアホ男は】

「そんなにですか?」

【ああ、通常の龍なら龍珠を『俺の女扱い』などされたら、魂ごと砕くぞ】

「うへえ」

薫が顔を顰める。

「うちの秋人がいい子でよかったです」

現在、薫はなんてことはない基礎魔法の習得に励んでいる。本日は温度調節系の魔法だ。当然、かなり苦戦している。魔法を使うところまではそれなりにできるのだが、いかんせんコントロール関連が薫は下手くそなのだ。

【しかし、そなたは本当に魔法師には向いておらぬのう】

呆れとともにディスられるのは、薫だって辛い。しかし、歯を食いしばって修行しているのである。

「ちなみに、どういうタイプが魔法師に向いてるんですか?」

【想像力豊かなタイプじゃな。常にくりえいてぃぶでないと魔法を使ったり、発展させたり、新しく作ったりはできぬのじゃ。その点、童は魔法師に向いておる。むしろ剣士の方が本来は向いておらぬだろうが…】

「?」

【童の魔力の出力を抑える弁のような役割を果たしておる。最近では剣鬼の手解きも受けておるし、副産物としていい傾向だな】

「剣鬼って桜子さんのことですか?」

【そうじゃ。あれはな…千年に一人の天才剣士じゃ。おそらく、童を殺せるのはあの娘だけじゃな。そして、童もそれを分かっておる】

「そんなことにはさせませんよ」

大切な秋人を、大事な桜子に害させるなど想像するのも苦しい。だから、そんな事態は絶対に避ける。

薫は決意を新たに、魔力のコントロールに勤しむのだった。

「うーん、まっすぐは飛ぶんだがな」

織田ははるか遠くへ飛んでいくボールを見てため息をついた。

「しかし、よくこんな広いグラウンド借りれたな」

「色々とツテがあって」

織田と秋人は放課後サッカーの練習をしていた。

秋人が後藤に頼んで手配してもらったグラウンドは、元々は 探索者(シーカー) の修行用の運動場である。仮設で設置したゴールポストのはるか先へボールが転がっていく。ちなみに転がったボールは秋人が魔法で回収している。

「まあ、ボールが破壊されなくなっただけでも進歩なんだがな」

側で見物してた智輝が言うように、訓練当初

「とりあえず思い切り蹴ってみ?」

という織田の言葉に頷いて、秋人が蹴ったボールは足元で破裂した。

「うん、知ってた。そうなるんじゃないかなーって俺は思ってた」

智輝大爆笑である。

「智輝は野球の練習はいいの?」

秋人の問いかけに

「球技大会開催前は練習場使えねえんだよ。5月に使用できないとか最悪だから、部活は外部のグラウンド借りてんだけど、今日はそこも市民解放デーとかで使えねえんだわ」

と嘆いた。

「俺も秋人と一緒に野球してえ。2回戦は俺と野球しようよー」

とどうやら勧誘のために来たらしい。

「僕甲子園は行けないよ」

「知ってる。ただ純粋にお前と野球してえだけ」

智輝は楽しそうに笑っている。

轟学園の球技大会は一回戦ごとに種目が変わる変則的なルールだ。今年は一回戦がサッカー、2回戦が野球、3回戦がバスケである。

秋人には球技やスポーツの楽しさと言うものが今ひとつ理解できないのだが、織田や智輝のひたむきな努力を見ていると、おそらくこれは素晴らしいものなのだろうなという気持ちにはなるのだ。

「とにかく、俺が拾ったボールはピンポイントでお前の足元に落とすから、ゴールに向かって打て。どこからでもどの角度からでも打て。その訓練をする」

「了解。あと、いい感じの動画見せて。見て覚えるから」

「何それ怖い」

智輝と織田が震えていると、遠くから「おーい」と呼ぶ声がした。

「あ!梶原先輩!こっちです」

松葉杖をついた轟学園の男子生徒がゆっくりとやってくる。

「すいません。無理言って来てもらって」

いつもの不遜な態度と打って変わって織田がハイパー低姿勢なことに、秋人と智輝はぽかんと口を開いていた。

「織田の目がハートだ」

「うん、びっくり」

ぼそぼそと智輝と秋人が話している横で、織田が梶原に賭けの説明をしていた。

「…てことで、コイツにボレーシュートを仕込んでやってもらえませんか?」

「うーん、構わないけど…俺、今足がこんなだから見本はできないけどいいかい?」

「全然オッケーです!ありがとうございます!!」

直立不動から90度直角お辞儀までを織田は流れるように披露した。

「おい、梶原先輩が怪我をおしてコーチしてくれるってんだから、礼くらい言えよ、礼くらい」

と織田が肘で秋人を突く。

「あ!もしかして、元宮に怪我させられた本当はキャプテンだった先輩?」

「おまっ、ストレートすぎる」

織田が慌てて秋人の口を塞ぐも、梶原は苦笑で止めた。

「織田、あんまり証拠がないこと言いふらしちゃだめだよ」

「でも、先輩の自転車のブレーキが故障してたなんておかしいっすよ。俺、悔しいです」

織田がきゅっと唇を噛み締める。

「先輩だってJからもスカウト来てたし、大学だって推薦の話があったのに」

「仕方ない。運も実力のうちだ。それに俺は学科の成績もいいから大学には入試でちゃんと入る。リハビリしてもう一度上を目指すよ」

にこりと梶原は笑った。少し寂しそうな笑顔に織田がぐっと拳を握る。それがとても難しく大変な道のりだということは、織田じゃなくても分かった。

「うーん」

秋人は天を仰ぐ。

「普通の怪我ですよね?」

「?」

秋人の問いかけに梶原は意味が分からず答えられない。

「瘴気が絡んでいたりとか、精神的な傷があったりとか、不治の病とか、足切断の危機とかの怪我ですか?」

「いや、そういう区分なら『普通の怪我』だよ。右膝靭帯損傷」

梶原は面白そうに口元に笑みを浮かべて頷いた。

「秋人!お前先輩の怪我に対してそんな大したことないみたいな…」

逆に織田が憤慨して秋人に抗議する。

「いや、そうじゃなくて。普通の怪我ならたぶん普通の万能薬で治るから、代償なしでもいけるかなぁって」

「は?」

織田と梶原がぽかんと口を開く。

「絶対治らないような怪我とか病気だと、大事なものをお供えしないと効かないんだけど、普通の怪我なら万能薬で治ると思うので。コーチ代代わりにどうぞ」

はいっと手渡された、どこからともなく出てきた金色の瓶を見て二人が絶句した。

黄金色のガラスの小瓶。

万能薬は、オークションなどで数年に一回、出るか出ないかの幻の秘薬である。世界中の金持ちという金持ちが、こぞって落札する世界最高峰の高額アイテムが、無造作に手渡された。

「お前、それいつも持ち歩いてんの?」

智輝がうんざりしながら尋ねる。

「うん。エリクサーもたくさん持ってるけど、あれは一般人には効きが悪いんだよ。また美香やクラスのみんなが、何かに巻き込まれて怪我したらいやだなって思って、新潟の姫に何本か貰ってきたんだ。流石にぽんぽんはあげられないけど、智輝ならいいよ。いる?」

「いや、いいわ。そんな恐ろしいもの栄養ドリンクみたいに気軽によこすな」

幾分、秋人のおかしいところに慣れている智輝の方が立ち直りが早かった。

「え?え?これ本物?」

梶原が小瓶を持って震えている横で、織田が感動していた。

「秋人!ありがとな!!」

「うん。今回は特別ね。見本見せてもらいたいし、僕、元宮のこと嫌いだから嫌がらせしたい」

「おけ!先輩!誰かに盗られたら大変なので、ここでぐいっと飲んじゃってください」

「うん、それがいいと思う。ここ 探索者(シーカー) のグラウンドだから目立たないし」

秋人がコクコクと頷く。智輝は「絶対そんなことないと思う」と心の中で思っていた。

言われるまま万能薬を飲んだ梶原の足は、5分もしないで元通り治った。3人はしばしその効果の高さに呆然としていたが、秋人は若干不満げだ。

「少し筋力が落ちた状態で復活してますね?ごめんなさい。流石に元通りは無理だったかぁ。横着しないでいいのもらいに行けばよかったかなぁ」

秋人の言葉に3人はぶんぶんと大きく首を振った。靭帯損傷である。正直梶原本人としては今期絶望だったし、何なら大学でのサッカー部入部も本当は危ぶんでいた。

「い、いや、いやいや。き、如月君、如月君だったかな。ありがとう。十分だよ。俺の人生を救ってくれてありがとう!!」

と梶原が涙目で秋人の手を取り礼を言っている横で、織田と智輝は青い顔で相談していた。

「…っていうか、これまずくね?どう言い訳するよ?奇跡?奇跡がおこりましたってか?」

「万能薬ってそりゃ価格が天井知らずな筈だわ。やべえな。神崎さんに秋人に簡単に出すなって説教してもらわんと…」

秋人は機嫌良くボールを梶原の足元においた。

「それじゃ、先輩。一回あそこまで打ってみてもらえます?コピーするんで」

と笑顔で宣った。