軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10. 探索者連盟本部

「なかなか壮観だな」

島の中央に聳え立つ白い塔が 探索者連盟(シーカーギルド) 本部だった。青空にくっきりと白い塔だけが映えている。その周辺の建物はせいぜい10階立てが最大という低階層だった。

「アルデバルダはこれしかありませんからね。あとは職員の家族が住むための環境だけです」

「はあ、職員さんは世界中から集まってるんですか?」

「そうです。日本の方もいらっしゃいますよ」

と薫の問いにマヌエルは微笑んだ。

塔の中はほどよい気温と湿度が保たれていて、本物の植物が植物園のように植っていた。

「綺麗!」

秋人が光取りのために複雑にカットされた窓を見てため息を漏らす。陽光は反射していくつも地面に小さな虹を作っていた。その模様さえ計算されたように複雑な意匠を作り上げて。

「ああ、キラキラだからな」

と薫が呟くと、聞こえていたように秋人が振り向いた。

「何か言った?」

「言ってません」

ジト目の秋人を薫が笑顔で誤魔化す。

「仲がよろしいんですね」

マヌエルが呟くと、薫はにこりと笑って見せた。

「家族ですからね。当然です」

と囁くと、マヌエルは少し苦い笑みをこぼした。

「どうぞこちらへ」

彼の案内のもと、中央のエレベーターに乗り込んだ。

「総裁がお待ちです」

との言葉に薫は秋人は遠い目をした。そりゃあ、これだけお預けくらったら待ってもいるだろうさと。

かなり登ったところで、エレベーターが「ちん」と軽い音を立てて停止した。エレベーターホールから出ると、いくつかの古風な木製のドアが並んでいた。

「マヌエルです。ミスター神崎とミスター如月をお連れしました」

と扉に向かって彼が告げるとドアが自動で開いた。思っていたより近代的な建物のようだ。

「ようこそ、アルデバルダへ」

にこやかに微笑む銀髪の紳士が、おそらく 探索者連盟(シーカーギルド) 本部総裁レドリック・ブラフォードその人だろう。50代前半だろうか、薫が想像していたより若く、頑丈そうな紳士だった。

総裁の他には数名の見知らぬ人物がいた。服装からしても下っ端ではないだろう。高級そうなスーツやジャケットを身に纏って、偉そうにふんぞりかえっていた。ブラフォードが一番腰が低いほどである。

「初めまして、神崎薫です」

ニコリと薫が微笑むと、思わず全員が息を呑んだ。法曹界では「天使のスマイル」と言われている薫の戦闘体制だ。当然相手の行き先は地獄である。

「初めまして、如月秋人です」

同じく秋人が続く。それから薫は秋人の横に憮然とした顔で突っ立ている少女を示し

「 救世来神教(エルミネイト) の工作員の女性です。放っておくわけにもいかないので連れて歩いていますがあしからず」

と紹介した。

薫の言葉に全員が不本意そうな複雑な顔をする。もちろん彼らは彼女がどういう存在でどういう状態かを知っている。

捕虜か囚人のようなものを大事な総裁がいる部屋に連れてくるとは何事だという気持ちと、放置して逃げられたり自分たちに被害が出るのも怖いし、責任は取りたくないという気持ちの真ん中で揺れているのが手に取るようにわかった。

「ごほん、いや随分苦労をおかけしましたね。申し訳ない。どうぞ座ってください。そちらの女性は隣の部屋で待機してもらってていいかな?部屋はロックがかかるので逃げられる心配はない」

とブラフォードが場を仕切った。秋人は頷き少女の手を引いて隣の部屋へ連行する。その姿をぼんやりと薫が追っていると、

「なりそこないが」

と誰かが呟いた。

「土下座…ってまだ生きてますよね?」

と薫が小さく囁くと、ブラフォードは苦いものを飲み込んだような顔になった。

「どの方がしてくれるんでしたっけ?」

と笑顔の薫に、そこにいた全員が目を逸らす。

フンと薫が鼻を鳴らしてる間に秋人が戻ってきた。即座に部屋の様子がおかしいことに気がついて薫に視線を送るも、薫が目を逸らしたので、だいたいの事情を察した。

「えっと、本題に入ってください」

秋人が仕方なく仕切り直すと、ブラフォードが神にでも出会ったような笑顔で頷いた。

「ええ、ええ、そうしましょう!」

にこやかにソファをさし示し、二人は腰を下ろした。

「まずは瞬間移動の魔法から」

ブラフォードが合図をするとマヌエルが書類をテーブルの上に並べた。

「素晴らしい魔法式です。こんな無駄のない見事なものは見たことがない」

彼がため息とともに讃えた。反対側に座っている別の紳士も大きく頷いている。

「私も見た時は久々に興奮しましたよ。作成者の如月夏実というのは君のお母上かな?彼女はさぞ立派な魔法使いだったんだろうね」

と笑顔である。どうやら研究家のようだ。

「協力者の加藤というのは、あなたの親戚かね?」

彼は興奮を隠しきれないようで、薫の方を覗き込む。

「いえ、師匠みたいなもんです。(魔法ではありませんが)」

「そうかそうか!いや、しかし、見事なものだ。人類の夜明けだよ。これで各国の距離が格段に縮まる。すばらしい発見だ!飛行機も列車も車も船も全て過去のものになるぞ!」

興奮冷めやらぬ彼をブラフォードが嗜めた。

「アデライド博士、興奮しないでください。本来はあなたを呼ぶつもりはなかったんですが、どうしてもって喚きちらすから特別に陪席してもらってるんですよ。邪魔したら追い出しますからね」

「わかってますよ。しかし、お二人とも素晴らしい魔法使いだったに違いない!こんな見事な魔法式は 救世来神教(エルミネイト) でもなかなかお目にかかれませんよ」

さらっと何言ったこいつ…

という顔を秋人がした。薫は無表情だ。ブラフォードは深くため息を吐いた。

「まず、言い訳に聞こえるかもしれませんが、我々は 救世来神教(エルミネイト) と関係がある訳ではありません」

額に汗を浮かべて総裁は語る。

「ただ、長年敵対はしております。それで、あちらの残した魔道具や魔術を研究するグループがありまして、博士はその第一人者なんです」

「はあ…」

胡散臭そうに薫が博士を見るも彼は気にしない。

「いや、敵を知るためには色々と研究が必要なのだよ。奴らは人道を無視して実験ができるので、我々より随分と先を走っておる。腹立たしいことにな」

と博士がぼやく。

腹立たしいのは人道を無視していることなのか、先を走っていることなのか微妙なところだなと薫は思った。