軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20. 真・誕生日

翌日は土曜日だった。泣き疲れて眠ってしまった秋人は自分の部屋で目を覚ました。

「あれ?」

目を擦る。まだ少し目の周りがヒリヒリした。

「赤ちゃんみたいに泣いて寝ちゃったのか」

もうどこまでも子供である。秋人は諦めた。こうなったらとことん子供であろうと決心した。

「おはよう」

おずおずとキッチンに向かうと、朝からそこは戦場だった。

「おはよう、秋人くん」

薫の姿がなかったが、なぜか美香がいる。

「秋人!おはよう!今日はいい天気だぞ」

とやたら張り切ってる桜子もいる。

キッチンにはいい匂いが充満しておい、昨日薫が作った唐揚げに勝るとも劣らない量の揚げ物やハンバーグなど秋人の好物が大量に作成されている。ご飯の炊けるいい匂いもしている。匂いからすると炊き込みご飯だ。

「あ、昨日の唐揚げどうなってる?」

一口も食べなかったのだ。秋人が尋ねると、

「ケーキと唐揚げは冷蔵庫に入れてあるから心配しないで。お昼ご飯になっちゃうけど、今日はご馳走だね」

と美香が笑う。

「トースターで温めれば唐揚げ復活するよ」

と桜子が笑った。薫の唐揚げは秋人は冷たいのも好きだ。そう言うと

「ああ、薫さんの唐揚げ冷えても美味しいのわけわからんよね」

と桜子が嘆いた。

「師匠、薫は何も悪くないので口利いてあげてください。凹んでました」

と秋人が言うと、ジロリと迫力のある視線が飛んできた。

「秋人も私に報酬払うとか言ったんだって?」

「ひえ」

秋人が思わず飛び上がる。

「言ったかなぁ…そんなこと」

と思わず誤魔化すと、桜子はニコリと笑った。

「素直でよろしい」

うむと頷く。

「今日は秋人の真・誕生日パーティーだからね。主役のお願いなら仕方ないな」

と桜子は嘯いた。

「ただいまー」

と言う声がして玄関先に当夜とそれから智輝がやってきた。

「よ!」

と片手をあげる二人に秋人は困惑する。二人が抱えている半端ない量の缶ビールとシャンパンの瓶が恐ろしい。

「おはよー」

フラフラとようやく現れたのが薫だ。

「やたら眠い」

と生あくびである。そんな薫を少々心配そうに桜子が諫めた。

「薫さん糖分欠乏症だよ。昨日魔力かなり使ったでしょ」

「ああ、紙の 契約の門(カヴェナント) はかなり魔力消費が激しいからなぁ」

薫はぼやきながらキャビネットから板チョコを取り出した。

「うーん。自分がこれを齧るようになるとは。人生何があるか分からんな」

などと呟いている。秋人は薫の袖を引っ張った。

「食べる?」

「いや、違うよ」

もうっと秋人が笑うと薫も気の抜けた笑顔を浮かべた。

「昨日はありがと、薫」

万感の想いをこめて秋人が囁くと、薫は少しだけ困った顔をした。

「ひどい誕生日になっちゃったから、今日はみんなで仕切り直しだな」

「ひどくないよ。とても嬉しかった。ありがとう」

例の契約書は秋人の収納の中にしまっている。おそらく破られることはないだろう。

誕生会はクリスマスに劣らずの賑やかさだった。差し入れをもって聖夜と後藤がやってきて、麗美の突撃などもあり、さらに小姫も料理をつまみにきた。

聖夜が作ったオードブルが気に入ったらしく

【お代わりを所望する】

とふんぞりかえっていた。聖夜はその幼女が人間ではないことに気がついて、助けを求めるように弟を見つめたが、弟が厳かに首を振ったため、渋々キッチンへ向かうのだった。

誕生日プレゼントは桜子が圧巻だった。

「これは私からね」

と黒縁のメガネを手渡した。

「これは?」

「認識阻害の魔法をつけてもらったの。これで、顔バレは完全に防げるはず」

と。どうやら桜子のファンである職人に「如月秋人の誕生祝い用に作って欲しい」と願ったら、順番を飛び越えて即行で作ってくれたらしい。

「ありがとう、師匠!!」

弟子の弾んだ顔に桜子はご満悦である。

「あれ、大丈夫なんっすか」

と当夜が後藤に尋ねる。

「いやあ、各国首相やら大企業のCEOやら何やらでかなり順番待ちしてるんですがね。あれ作れる人が重度の霧崎マニアなんでね」

因みに女性である。

その他にも西急ホテルのいちごビュッフェ食べ放題のチケット2枚組(後藤)とかドイツ製の水彩絵の具のセット(美香)とか、かっこいい万能ナイフ(当夜)とか、綺麗な色のマフラー(聖夜)とか、18歳未満禁止の本(誰からとはあえて言わない)など、色々秋人のことを想って選ばれた品をもらって秋人は嬉しかった。

両親からも誕生日プレゼントはもらったはずなのだが、実はあまり覚えていない。だから、実質これが秋人の初めての誕生日プレゼントだ。

「みんな、ありがとう」

と秋人が感謝の言葉を伝えた。本当はこんな言葉では足りないのだが、それはきっと皆がわかってくれる。

そして、昨日薫からもらった誕生日プレゼントは、生涯忘れることはないだろうと秋人は知っていた。

「あ、そういえば。これ」

収納から薫が別の封筒を取り出した。秋人は今度はよくよく注意して中を確かめる。

「ギルドの本部からの招集状。俺と秋人に。日付は春休みだな」

薫の言葉通りそこには本部へ来るようにとの指示があった。

「本部ってどうやって行くの?」

と秋人が尋ねた。まず、どこにあるかも知らない。海洋上のどこかにあるという噂だが。国家からの攻撃を避けるために移動する島に存在しているなどと荒唐無稽な話さえあるのだ。

「さあ。迎えがくるとしか書いてないなぁ」

と肩をすくめる薫の呑気さに、秋人は若干呆れる。

「いざとなれば瞬間移動で帰ってこれるだろう」

という算段のようだ。

「僕は、薫が一緒ならどこでも行くけどね」

と秋人が呟いたので、薫はまんざらでもないような顔をした。

「ちょっと、奥さん。あれどう思います?」

「そうですねーちょっと微妙ですねー」

という女性陣の会話を聞いて、慌てて秋人と薫が言い訳を始めるのはほんの数秒先である。

こうして、神崎家における秋人の反抗期は終了した。