作品タイトル不明
12. ゲート・オープン
入り口から煌びやかな様子に秋人は圧倒され、ぽかんと口を開いていた。日常生活ではとんとお目見えしない世界である。
ゲートからは奥に聳え立つデステニー城が見える。その両脇に、絶叫系のアトラクションがずらりと勢ぞろい。赤、ピンク、黄色、水色などのファンシーでカラフルな装飾と、キャラクターがやかましくなる手前ぎりぎりでレイアウトされていて、真ん中には園のメインキャラクターの猫がいらっしゃいポーズで決めている。まるでおもちゃ箱をひっくり返したようだった。
「なにその間抜け面」
と智輝が笑うのも仕方ないだろう。しかし、女子たちは手厳しい。
「何、秋人くんディスってんのよ。初めて来たらこんなもんでしょ」
「そーよそーよ」
と智輝は袋叩きにあった。
「お前ら、そんな事言ってほんとははぐれて秋人と二人になろうとか企んでんじゃねーの」
と苦し紛れに反撃すると、中の何人かがぐっと押し黙る。
智輝は「ふふん」と鼻を鳴らす。
「おーい、秋人。あれ見に行こうぜ」
と智輝が出店のグッズ売り場を指さした。
「ほら、これとか似合うんじゃね?」
とお約束のデステニーワールド一番人気の猫耳付きカチューシャを秋人の頭に載せる。
「んぎゃあああ。かわいいいいい」
女子の黄色い悲鳴が木霊した。周囲の関係ない一般人の女子にまで波及しそうな勢いである。
「あ、これ薫が言ってたやつだ」
と慌てて秋人がカチューシャを外す。
「ええ、辞めちゃうのー」
女子が違う悲鳴をあげる。智輝も
「いいじゃん。ノリだぜ、ノリ」
とか言っている。しかし、秋人は
「神崎家の家訓でデステニーワールドで猫耳のカチューシャは付けてはいけないことになってるんだ」
と厳かに言い放った。
「なんだそれ?」
と智輝が首を傾げる。
「これをつけていると変態に追い回されて大変な目に合う、呪いのアイテムだって薫が言ってた」
「ああ…」
智輝は思わず薫がこのカチューシャをつけているのを想像して、そっと商品棚にそれを戻した。
「他のにしよっか」
「うん」
秋人は素直に頷いた。
結局秋人はカチューシャ型ではなく 帽子(キャップ) 型の猫耳つきグッズを購入した。同じようなものだろうと思うが、 帽子(キャップ) のつばで顔が少し隠れるので、案外カモフラージュになるのだ。
その 帽子(キャップ) を勧めてくれたのが明子で、秋人は
「流石栗原さん」
と褒めたたえた。『気遣いの明子』の面目躍如である。それが面白くない女子の数人が拗ねた顔をしていたが、秋人はまったく気が付いていなかった。智輝の方が慌ててフォローに回っているくらいである。
そこから絶叫系のアトラクションにいくつか並んで、遅めの昼食。全員で座れるほどの空席はないので、適当に散らばって13時に中央のデステニー城の前に集合となった。
「うう、あったかーい」
女子の何人かは根性でミニスカートをはいてきていた。なので、冬の遊園地は地獄である。いくら若い女子高生といえども寒いのは寒いのだ。
「んな無理しなくても、あったかい恰好してきたらいいじゃねーか」
と男子生徒がぼやくと、きっと睨まれて黙り込む。
「お前のために頑張ってんだから、何か一言言ってやれよ」
と智輝が言う。秋人はきょとんとした顔をしていたが、こくりと頷いた。
「寒かったらさっきのお店にあったかいズボン売ってたから着替えられると思うよ」
と秋人なりに頑張って提案したつもりだったが、智輝はあちゃーという顔で天を仰いだ。女子は微妙な顔で押し黙る。
「如月、お前マジで女子に興味なさすぎだろ」
委員長の作原がぼやく。ミニスカート組のうちの一人は作原の想い人だ。正直羨ましいなコンチクショウという気持ちがないといえば噓になる。しかし、秋人という人はどこか浮世離れしていて憎めないのだ。それが、どうやら生い立ちからきている事、それもかなり辛い幼少期を送って来たことから来ていることは何となく察していたので、あまり悪く思えないというのもある。
特定の女子に対してだけの態度というわけではなく、他人に対して秋人はかなり淡白だ。しいて言うなら、木下智輝にだけはほんの少し他の人より親しい。春先の騒動を思うと不思議なものである。
「女子にっていうより、他人にって感じだろ」
サッカー部の織田が結構意地悪くそう指摘するも、秋人は小首を傾げて少し考えてから
「うーん。でも僕、今年初めてクラス全員覚えたから、みんなのこと大切だよ」
と何の照れもなくそう答えた。織田撃沈である。「あ、そう」とかもにょもにょ答えていた。
智輝は小さく苦笑した。
秋人にとってこのクラスメイトが特別になったのは、文化祭の出し物を全員と協力してやったからだ。それ以前は、本当に織田が指摘した通り、彼はあまりクラスメイトに対して興味がなかったのだ。
「クラスみんなで遊びに行くとか初めてですごく嬉しい」
と綺麗な笑顔でとどめを刺されて、織田ががっくりと肩を落とした。これ以上言うと自分が悪者だ。
昼食が終わって皆適当に席を立つ。そのまま少し暖をとりつつ、デステニー城の方へ移動した。全員がちゃんと約束の時間通りに集まっているのは、高校生にしては珍しいことかもしれない。明子がほっと胸を撫でおろしていた。遅刻した子がいたら探しにいこうと思っていたらしい。
「さて…とじゃあ、次は何に行くかねぇ」
と智輝が声を掛けると、あちこちから候補があがる。秋人はそれをのんびりと眺めていた。何か特別にやりたいアトラクションがあるわけではないので、皆が一番行きたいものに決まればそれでオッケーだったのである。
不意に、秋人の耳にだけ聞こえるような微かな音、高音のノイズのような異音を感じた。
慌てて秋人は周囲を振り返る。耳鳴りのようにその音は大きくなる。どこかで…聞いたことがある音だった。記憶の欠片が零れ落ちる。
「ダンジョンが…」
思わず呟いた声に、すぐ隣にいた明子が振り向く。
「如月くん?」
秋人は音の発生源を探した。目を凝らして、魔力を拡散する。たまたま遊びに来ていた 探索者(シーカー) が何事かと目を丸くするほどはっきりと魔力の波を放った。
「どうした?秋人?」
真顔の秋人に智輝が思わず呟く。
秋人の目が一点を見つめる。デステニー城の真ん前、地上から15メートルほどの上空に空間の歪が生じていた。
「ダンジョンが…発生する」
それは、ゲート・オープンと言われる現象で、ダンジョンが開く予兆だった。