軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12. 文化祭 土曜日 18:00

薫は酷い眩暈を伴って目を覚ました。

二日酔いのような状態である。何か薬のようなものを嗅がされて意識を失ったようだ。

「いててて」

軽く身を起こす。体は起こせたが移動はできなさそうだった。なんと片足首に奴隷のような鎖が付けられていて壁に固定されているのである。薫は思わずその時代錯誤な道具をまじまじと見つめてしまった。

「参ったな。かなり趣味の悪いタイプかあ」

ため息を付く。

だいたいこの手の道具を持ち出してくる連中はステレオタイプの勘違い変態野郎が多いということを、彼は嫌というほどよく知っていた。

辺りを注意深く見回す。

石壁の小さな部屋のようだった。正面に鉄製のドアが一つ。まるで漫画やアニメに出てくる牢屋のようなしつらえの部屋である。こういうイメージ先行型の相手はめんどくさい。

さらに薫は意を決して自分の体を確かめてみたが、さほど気持ち悪いことはされていないようでひとまず胸を撫でおろした。捕まるのはともかく気を失うのは勘弁してほしい。失神している間に変態行為を強要されても逃れられないからだ。

ただ、元々着ていた服ではないものに着替えさせられていたのには閉口した。ビラビラの長い衣装である。

「うわあ」

心底嫌そうな声が薫の口から洩れた。

「おや、目が覚めましたか」

という慇懃な言葉に、薫は嫌そうな顔で開いたドアを見つめた。そこには想像した顔と同じものがあった。

「岩井教授…」

「覚えていてくださって嬉しいです」

にこやかに老紳士は微笑んだ。

「えっと、ホンモノの岩井教授ですか?」

「さて、どうでしょう」

男は胡散臭い笑みを浮かべる。

「私を誘拐した目的は?」

薫の質問に男はニヤリと笑って見せた。

「この鍵を手に入れたくて」

男は薫が首から下げていた鍵をどうやら手に入れたようだった。その鍵は薫が先日鎌倉から帰ってきてから見つけて以来、薫の首から下げられている物だった。

「加藤哲也の残した手がかりを我々もずっと探していたんですよ。先生が見つけてくださって助かりました」

男がニヤリと笑う。

「へえ、それが先生のものだってなんで知ってるんですか?」

薫が問いかけると男は笑みを深くする。

「鍵の中身は元々我が教団に権利があるものだからですよ」

「なるほど」

「取り返しただけなので犯罪にはなりませんよ。審議官」

「・・・・・・・・・ふむ」

どうやら、薫のジョブのことは知っているらしい。

「加藤哲也氏が拷問の末殺されたことにあなたは関与しているのですか?」

薫の問いかけに男は嗤う。

「 審判の日(ジャッジメント) は使えないでしょう?」

薫は形の良い眉をギュッと寄せた。先ほどから魔法を唱えようとしていたが、上手くいかないからだ。

「あなたの足に嵌っているそれは、人の魔力を制御する魔道具です。残念ながら魔力放出の全てを抑えることは出来ませんが、魔法を使えなくする事は可能です」

男は淡々と告げる。薫は忌々しそうに足を振った。ジャラリと鎖が鈍い音を立てる。

「ああ、鎖の方は私の趣味ですよ。その輪っかの部分だけが魔道具です」

「悪趣味だな」

「そうですね。鍵さえ奪えれば、あなたは私の好きにしていいと言われております」

ニヤニヤと男が笑う。

この手の笑顔の持ち主にも何度か心当たりがあった。本当に本当に薫は自分の顔が嫌いだ。

「あなたのような美しい人にはその拘束具はとてもよく似合ってます」

男が手を伸ばしてきたのを薫は全速で後退って避けた。

そういう動きをされるとは思っていなかったようで、男は少し困惑した。彼の想定では薫は怯えた様子になり、男の腕に抑え込まれる予定であった。自分の想定ではない動きをされてムッとした男に対して薫は侮蔑の色を隠さない。

「もう勘弁してくれよ。そのセリフとか100回くらい聞いたし。成人してからは、あんまりなかったんだけどなぁ」

薫は深々とため息を付いた。

「あのね、あんたみたいな変態には俺は何度も何度も遭遇してるの。もうあんたたちみたいな変態の思考回路は嫌っつーほど心得ているの」

「なんだと?」

「ちょっとでも反論すると逆上するでしょ。知ってるよ。それで自分が特別な人間だとか思ってて、何をやっても許されるとか思ってるでしょ。分かってるよ!もうセリフだってだいたい耳タコだよ。」

薫は心の底から軽蔑している表情である。

「お前らは私のような選ばれた人間に支配されるために生きているのだ!お前のような取るに足らない存在を可愛がってやるというのだからありがたく思えとか言うんでしょ。きもっ」

まさにそのような内容を言おうとした男は思わずぐっと押し黙った。その様子に薫は心底嫌そうな顔になった。

「マジかよ。もう少し創意工夫してくれよ。芸術家なんだろ、変態教授」

せせら笑う薫の様子に男の眼の色が変わった。

「貴様!なんだその言い草は!躾が必要なようだな」

先ほどまでの取り繕った上品さを浮かべた顔が歪んで、男が真っ赤になって殴りかかった。

薫の左頬を思い切り殴りつける。さらにもう一発殴ろうと振りかぶったところを、薫が体勢を立て直し、男のあごに向かって頭突きを食らわせた。予想外の反撃に男はもんどりって地面に叩きつけられる。さらに、薫は容赦なく男の顔面に全力で二度、三度と拳を叩き込んだ。男が気絶したので「ふん」と鼻で笑う。

「だいたいこの手の輩は、俺がまったく無抵抗で怯えて震える兎みたいに見えてるってとこまで共通してんだよな」

ペッと血の混じったつばを吐いた。

「ふざけんなっ」

薫は昔からこの手の変態にやたらと目をつけられており、対処法を心得ていた。大概の相手は彼を無力な弱い者として見ているので、案外簡単に撃退できるのだ。また、さらに加藤と知り合ってからはやくざ顔負けの喧嘩戦法まで伝授されているので、相手が 探索者(シーカー) で身体強化でもしてない限り負けることはない。

最初に一発もらったのもわざとである。弁護士という職業柄、正当防衛を確保したかったからだ。

男は魔法を使えるようだが、油断していたのか身体強化すらしていなかった。もしかしたら薫を殴るために身体強化を切ったのかもしれないが、それは自業自得である。

それから、薫は嫌そうに男の懐を探り薫が首から下げていた鍵と、さらに足環の鍵らしきものを見つけた。

「しかし、なんだってこの手の変態は、だいたいこの手の鍵持ち歩いてんのかなぁ。俺なら大事にしまっとくけど。どういう風に使うつもりなのか想像もしたくないね…」

薫は簡単に足環を外し、さらに男の足に嵌めて鍵をかけた。そして、男の手の届かないところに放り投げた。こんな忌々しいものを一分でも所持していたくなかったのだ。

男に足環をかけると、岩井教授とはまったく似ていない顔に変化した。何かのスキルか魔法を使って教授に化けていたようである。

「へえ、魔法封じってのは本当なんだ」

と薫は感心した。身体強化の方を制御するリングは存在するが、魔法の方はまだ開発されていない筈である。それらを所持しているということがかなりの脅威だ。