軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6. 朽木一族

途中で運転を交代し、当夜が運転する車は迷うことなく彼ら一族が住む町についた。この町一帯がほぼ朽木家の一族、その傘下の企業で成り立っているといっても過言ではない。

さらに進むとかなり大きな敷地に聳え立つ立派な日本家屋がある。その車寄せに当夜は車を着けた。

薫、秋人、桜子が車から降りる。薫はハッチを開けて荷物を降ろした。

「先生!」

玄関からの声に薫が振り向くと、聖夜がにこやかに手を振っていた。

聖夜が駆け寄って薫の手伝いをして荷物を降ろす。

「お前、先生に荷物おろさせるなよ」

窓越しに聖夜が当夜の頭を小突いた。

「いてっ!や、だって車、駐車場に回さないと」

「そういう時は、降りて荷物降ろしてからしなさい」

相変わらずの兄弟に薫は苦笑した。

「俺がいいって言ったんだよ。効率悪いし」

「お久しぶりです、聖夜さん」

秋人が笑いかけると、聖夜が嬉しそうに頷いた。ゴールデンウィークから3か月振りだった。

「秋人くん、少し背が伸びたね?」

との聖夜の言葉にぱっと秋人の顔が輝いた。

「初めまして、霧崎桜子です」

桜子の挨拶に、一瞬聖夜の動きが止まった、そのあと、一つ息を吐くと

「こちらこそ、初めまして。朽木聖夜です」

と水が流れるような美しい挙動で頭を下げる。桜子はそれに目を見張った。この人、結構やるだろうなと想定する。桜子の目が相手の力量を測る視線になったことに、秋人は気が付いた。

秋人はすべて我流の剣なのだが、桜子の剣を見て、指導を受けているものとそうじゃないものの差を痛感した。その上で思い返すと、聖夜の動きはやはりきちんとした型があったように思ったのだ。

「聖夜さん、僕と稽古してくれる?」

と思わず問いかける。

「え?私とですか?」

ぎょっとして聖夜が聞き返す。聖夜からするとそれはとんでもなく恐れ多いことだった。しかし、桜子は秋人の意図を察して「ふむ…」と首を傾げた。

「いいんじゃないか?道場あるんでしょう?」

と桜子が言うと、秋人の顔がぱっと明るくなる。反対に聖夜の方は引きつっている。

「いい勝負になると思うよ」

にこりと桜子が言う。

「いや、それはないです。絶対」

あわあわと兄が慌てて首を振る姿を、当夜は車の中から同情のこもった目で見つめていた。

「聖夜兄ちゃんばっかりズルいよ!!」

突然甲高い声がして、玄関先から小柄な影が飛び出した。慌ててその体を抱き留めた秋人を見上げて

「いらっしゃい!秋人さん!初めまして!僕、 遊馬(あすま) です!!朽木遊馬!!」

10歳前後の少年が、秋人に抱き着きつつ自己紹介を行う。

「こら!遊馬!!」

慌てて聖夜が遊馬少年を引きはがそうとするも、彼は必死の抵抗をする。

「僕も!僕も稽古つけて!!秋人さん!!」

「え?いや、僕は…」

秋人が困惑しつつ少年をそっと離す。彼はにこりと笑って見上げた。

「だって、あなたがあの『如月秋人』なんでしょう?」

聖夜が慌てて少年の口を背後から抑えたのは言うまでもない。

「申し訳ない」

久しぶりの再会がいきなり一馬親子の土下座から始まったので、薫と秋人はいやいやと首を振った。通された大きな和室の広間でいきなり次期当主が土下座しているのだから、招待された方が困るというものだ。

「他所では絶対口にするなと言っておいたんだが」

「他所じゃないもん、うちだもん!」

一馬が遊馬の頭を押さえながら言うも、遊馬には遊馬の言い分があるらしい。必死で抗議した。

「そう言う事じゃない!本当はダメだと分かっていたのに、興奮して口が滑っただけだろう」

ごんと堅い音がして、遊馬の頭に拳骨が降ろされた。

「ううう」

小さな手で頭を押さえて、涙目で呻いている少年を、秋人は不思議なものを見る目で見つめた。彼のこれまでの環境の中で、このくらいの年齢の子供が傍にいた経験がないのだ。秋人には遊馬の存在は不思議な生き物のように見えた。

「あの、大丈夫です。気にしてませんから」

秋人が言うと、遊馬はぱっと顔を輝かせた。

「ほら、秋人さん優しいもん」

「お前はーーーーー」

ぐりぐりと拳骨で頭を挟まれて

「いたいいたいいたい」

と遊馬が叫ぶ。なんだか、その天真爛漫ぶりがおかしくて秋人は思わず声をだして笑ってしまった。

「他所では気を付けてくれたらいいよ」

秋人が言うと、遊馬は「はい」と大きな返事をした。

「もうそのくらいにしておきなさい」

奥からやってきた女性が囁く。朽木家当主巌の妻、奈美がやってきたのだ。

「当夜も到着時間くらい先持って連絡なさい。お出迎えできなかったじゃないの。今主人を呼びにやってますよ」

当主妻の苦言に当夜は頭を竦めた。

「ごめん、伯母さん。ちょっとせっかくだから湘南の方回ってきたんだ」

「あ、ごめんなさい。僕がカレー食べたいって言ったからです」

秋人が当夜を庇うと、奈美は目を細めてにこりと笑った。

「秋人さん、それでも当夜はいくらでもスマホで連絡入れられた筈ですよ。社会人としてホウレンソウはとても大切なことなんです」

「すみません」

当夜が頭を下げる。奈美は優しそうな笑顔で頷いた。

「改めまして、お初にお目にかかります。朽木奈美です。巌の家内です」

奈美は美しい姿勢で正座をしている。

「いつぞやは、息子の命を救っていただき誠にありがとうございました」

深々と畳につくほどに頭を下げた。

「いえ、僕は!!」

慌てて秋人が止めようとするも

「あなたが征伐してくださった新宿第六ダンジョンは、この一馬が死を覚悟で出向く予定でございました。もしも、あの時この子が出ていれば、おそらく帰っては来なかったでしょう。そうなっておれば、孫の遊馬がどれほどの修羅の道を歩む羽目になっていたか…。感謝しております」

本当にありがとうございました。

一馬、遊馬ともに奈美と同時に頭を下げた。秋人は困って薫と桜子を見る。薫は小さく首を振った。秋人は躊躇いながら頷く。

「お顔をあげてください。それは自分のためにしたことです。ですから、どうか気にしないでください」

秋人の声は優しい。

「あそこは父と母が亡くなったダンジョンでした。僕は仇を討ちたかったんです。だから、どうか本当に気になさらないでください。」

痛ましいものを見る目で、奈美が秋人を見る。秋人はニコリと笑った。

「では、そういうことにいたしましょう。ですが、朽木の一族はこれからも秋人さんや神崎先生の一番の味方であることは変わりありません。男連中がどうもだらしないようですが、私のことを母とも祖母とも思って相談してくださいね。年かさの女性に相談したいこともあることでしょう」

そう朽木の女傑は言い放った。

霧崎桜子はその発言を驚いて見守っていた。その宣言は朽木一族は全勢力を持って秋人や薫の後ろ盾になるという意味だ。そんな宣言を朽木家ほどの家がすることがどれほどのことか、おそらく秋人も薫も分かっていないだろう。

チラリと奈美が桜子を見る。その目は「黙ってなさい」と言っており、桜子はぐっと口を閉じた。