軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

派手過ぎる地下牢侵入   3

『あいかわらず、おまえはやることがおもしろいな』

不意に声がしたので振り返ったら、蘇芳がにやにやしながら姿を現した。

『石も溶かすとは。あんな魔法があるのか』

瑠璃は傷のついた柱の前に現れて、顔を近付けて感心したように眺めている。

アランお兄様が知ったら、どうやってやるんだって何度も聞かれるんだろうな。

でも、こんな物騒な魔法を教えちゃってもいいのかな。

「ルフタネンの精霊王はどうしたんですか?」

『すぐ来る』

会話しながら瑠璃と蘇芳は、亡くなった人がいる牢屋の方に歩いていく。

なんだろうとついて行く途中で、ルフタネンの精霊王も合流した。

『あったか』

『おうよ』

クニが取り出したのは、ふたり分の棺だった。

『連れて行きたいのだろう』

「クニ、マカニ、ありがとう」

彼らには関係ないのに、シュタルク人のために棺を持ってきてくれたのね。

帝国の棺とは形が違うから、たぶんシュタルク形式の棺を持ってきてくれたんだ。

「ありがとうございます。これで家族の元に連れて行ってやれます」

「本当に……こんな……ありがたい」

『こっちはいいが、こっちはだいぶ経っているんだな』

助けた人達の声に混じって、瑠璃の冷静な声が聞こえてきた。

『……干渉したことになるのか?』

『わからんが……』

なんでいっせいに私を見るのよ。

「え? 何?」

「ディアが彼らの家族だった場合、 亡骸(なきがら) であっても会いたいかな」

カミルは精霊王達の言いたいことがわかっているみたいだ。

「それはそうよ。死を受け入れるって大変だし、 弔(とむら) いたいわ」

「亡くなってからだいぶ経つとほら……。家族としては」

あーーーーー、そうか。私にやってって言わせたいのか。

私の我儘に精霊王が付き合ったってことにしたいのね。

「精霊王様方、出来れば綺麗な姿で家族に会わせてあげたいの。大事な人との最期の別れは大事なのよ」

精霊王達に駆け寄り、両手を握り合わせて、上目遣いで最強おねだりポーズよ。

「お願い。我儘だってわかっているけど、家族を失った人達の悲しみが少しでも癒されるようにしてほしいわ」

『ディアに頼まれては仕方ないな』

演技だってわかっているからって、瑠璃ってば笑いそうにならないでよ。

『こいつ、ディアに甘えられるのが嬉しいんだよ』

『蘇芳』

『我々に頼んでくれてもいいんだぞ』

『そうそう。いずれはルフタネンに来るんだし』

『まだ先の話だ』

そこで揉めないで。

予定より時間がかかっているのよ。

「あの……どういう」

ほら、シュタルクの人達が置いてけぼりを食らっているじゃない。

『我らでも、死んだ者を蘇らせることは許されない。だが妖精姫の願いとあれば、このくらいはしてやろう』

私は亡骸に近寄れないようにガードされているから、人々が取り囲んでいる中心から光が溢れたのだけしか見えなかった。

でもシュタルクの人達の驚きと感謝の声を聞けば、何が起こったかはわかる。

時間が経ってしまった亡骸を、生きていた時と変わらない状態まで戻してくれたんだろう。

更に亡骸を浮かせて、棺に納めるところまでしてくれたみたいだ。

毎回思うんだけど、精霊王達ってみんな優しいのよ。

「じゃあ、外に出ましょう」

看守はみんなでしっかり拘束してくれているので、力仕事の苦手な私は壁に空間を繋げ始めた。

ここに来る前に王宮前の広場に寄って、脱出する場所を決めてあるの。

目立つ場所だけど、広場の周りはゴーストタウンのように静まり返っていて、周囲の建物も真っ暗だったから、たぶん大丈夫。

実は大丈夫じゃない方がよかったりもするしね。

だってこっちには近衛騎士団長がいるのよ。

平民がほとんどのシュタルク軍はもう崩壊してならず者ばかりだったでしょ?

でも貴族ばかりの近衛騎士団は、まだ王都に残っているみたいなの。

彼らをごっそりこっちに引き込めれば、もう勝ちは決定よ。

「よし、出来た」

『見て来るー』

『僕も』

カミルの精霊達の真似をして、シロとジンが飛び出して行ったのが微笑ましくて、笑顔で振り返ったら、シュタルクの人達がびっくりした顔で固まっていた。

私の周りの人達はもう慣れていたから、転移魔法の説明をするのを忘れてたわ。

「噂には聞いていましたが、これはすごいですな」

「おお、これが」

「噂?」

「学生達が集まった時に、その……」

あー、あの時に辺境伯の息子もいたんだもんね。

関係者から話は聞いていたのか。

『大丈夫だよ』

『ジンってばー、報告したかったのにー』

「はいはい。ジンもシロもありがとね」

『ふふん』

『わーい、褒められたー』

こんな時でも精霊ってかわいいでしょ? 癒しでしょ?

傷つけたり実験台にしたりするようなニコデムスの気が知れないでしょ?

シュタルクの人達だって、微笑ましげに精霊獣を見ているじゃない。

「順番に出てくださいね。出てすぐの場所で待っていてください」

回復はしても、すっかり痩せてしまっているから体力がなくなっているんだろうな。

歩みはゆっくりだし、よろけている人もいる。

それでもみんな、食べ物を口に出来て外に出られるということで、初めて声をかけた時とは別人のようにしっかりとした顔つきになっているから、休養すれば元の生活が送れるようになるだろう。

急いで来てよかった。

もしかしたら今夜を越せずに亡くなる人だっていたかもしれない。

「これからどうするんですか? 王都に安全な場所はもうないでしょう」

宰相の補佐官だという男性が、捕まっていた人の中では若いおかげで体力の戻りが早いみたいで、近衛騎士団長とふたりで率先して動いてくれた。

「いいえ。ここにハドリー将軍と精鋭部隊を転移して、隠密部隊と協力して軟禁されている人の救出に向かっていただきます」

たいていみなさん、こういう質問はカミルにするのよね。

なのでカミルが答えている間に、私は空間を繋ぐのによさそうな壁を物色した。

広場を取り囲んで並んでいる建物は、商人や職人の団体の建物や平民用の役場みたいだ。

どれも歴史的価値のある素晴らしい建物なのに、壁にひびが入り崩れかけている。

外灯はほとんどついていないので、街も広場も真っ暗だ。

私達のいる場所は精霊獣達のおかげで明るいんだけど、そのせいで建物の傷みがひどいのがよくわかるわ。

「ここでいいや」

いつものようにイフリーに手伝ってもらって、壁一面に線を描いていたら、後ろが急に慌ただしくなった。

『誰か来るよ』

『ほら、明かりが近付いて来る』

「いかがしましょう」

「俺が相手をしますから、みなさんは座ったままで大丈夫です。無理をしないでください」

「私も参りましょう」

カミルと騎士団長が相手をするために前に出たので、私もよっこいしょとイフリーから下りて、カミルの傍に戻ることにした。

近付いて来るのは二十人くらいの制服を着た集団だ。

「近衛騎士団の制服です」

「彼らが見回りをしているのか?」

人がいなくなってしまったから、近衛が見回り?

ひどいなあ。

「なんだ、おまえ達は!」

真っ暗な広場の一角だけ明るくなっていて、そこで隠れる気もなく堂々と立っているんだから、そりゃあ見つかるわよね。

大きな声で 誰何(すいか) した男を先頭に、明かりをこちらに向けて近付いてきた一団は、なぜか途中で足を止め、訝しげにこちらを観察している。

「おい、おまえが確認して来い」

「自分……ですか?」

「そうだ。おまえとおまえで行ってこい」

ああ、先頭にいたのが指揮官なのね。

その割に、命令を受けた騎士の反応が鈍いわね。

厭々命令を聞いているように見えるわ。

「おい、おまえ達、ここで……え? 団長?」

「おお、エヴァレット騎士団長ではないですか!」

明かりに照らされた顔を見て騎士が大きな声を出した途端、

「団長?!」

「まさか、亡くなったと聞かされたぞ!」

「おい! これはどういうことだ!」

「止まれ! きさまら、動くな!」

「無礼な! 今は俺が……うぐっ」

静まり返っていた広場が急に騒がしくなった。

「そうか。私は死んだことにされていたのか。実際はここにいた人達と一緒に、ニコデムスによって地下牢に閉じ込められていたのだ」

「地下牢?! なんとおいたわしい」

「伯爵? ローンズ伯爵ではないですか。覚えておいでですか。ルイがそれは心配していましたよ」

先程まで指揮官の命令に不服そうな顔をしていた騎士達が、目を輝かせて騎士団長の周りに集まり、助け出された人達と無事を喜び合っている。

すっかり無視され、どさくさに紛れて一発殴られていた指揮官は怒りに顔を紅潮させていたけど、数で勝てないので逃げ出そうとしていたところを、イフリーに踏まれて、今は地面でバタバタしていた。

他にも指揮官の側の人間がふたりいて、ガイアが作った石の壁に道を塞がれて動けなくなっている。

よくやったって言いたいところだけども、広場の石畳がはがれちゃってるよ。

どうすっかな、これ。

「き、きさまら! 私にこのようなことをして無事でいられると思っているのか!」

「こんばんは」

私が声を出したら、一瞬で場が静まり返った。

そういえば船に乗った日から今日まで、ジェマとミミとカーラ以外の女性を見ていないわね。

女子供は最初に領地に逃がしただろうから、今の王宮にはほとんど女性がいないのかも。

「私、妖精姫って呼ばれてるの」

「ば、ばばば……」

にっこり笑ったら、指揮官の男はなぜか気絶しそうになっている。

「ディア、こいつの相手なんてしなくていいから空間を繋いでくれ」

「……妖精姫?」

呟いた人を睨んだカミルの目つきの悪いこと。

気の弱い御令嬢なら気絶するわよ。

視線だけで人を殺しそうだからやめなさいよ。

「なんで近衛が王太子の護衛をしていないんだ?」

そうよ。私もそれが聞きたかったわ。

「王太子の護衛は神官とニコデムス神殿付きの兵士がすることになったんです」

「それであそこに神官達がいたのね」

「ディア」

「王太子ならもうハドリー将軍と帝国、ルフタネン、ベジャイアの合同軍に捕まったわよ」

「は……」

みんなを驚かす台詞が言えたから大満足。

あとの説明はカミルに任せて空間を繋げよう。

最近、いい台詞をカミルに取られることが多かったから、びしっと言いたかったのよ。

「そ……うなんですか」

そういえば、捕まっていた人達にも説明してなかったわ。

「はい。ニコデムスの大神官も捕まえました。彼はベジャイアで指名手配になっている強盗殺人団のリーダーだったんです」

「ば、馬鹿な……」

バタバタしていた指揮官は、地面に懐いたまま泣きそうな顔になっている。

王都のこの状況を目の前にしても、ニコデムスをいまだに信じている人がいるっていうのが、不思議でならないわ。

どういう説明をされていたんだろう。

精霊王が王都に呪いをかけたんだとでも言ったのかな。

「それと王太子が父である国王暗殺を自供しています」

ああ、一番の爆弾発言はそれだったわね。

どの人も聞かされた言葉を理解するまでに時間がかかっているようで、反応が鈍い。

理解出来ても、すぐには信じられないんだろうな。

でも私は自分の仕事の分担をきっちりとこなすだけよ。

空間を繋げると、壁の向こう側から眩しい灯りが広場にまで差し込んできた。

王都が不気味なくらいに静まり返っていたから、大勢の人が忙し気にしている賑やかな港の様子にほっとした。

「空間が繋がりました!!」

この場所に空間を繋げるという打ち合わせはしてあったので、ずっと見張っていてくれたんだね。

すぐに報告する声が聞こえてきて、将軍だけではなく、お父様や指揮官クラスの方々が駆けつけてきた。

「ディア、無事か」

「はい。近衛騎士団長をはじめ、地下牢にいた方々を保護しました」

「エヴァレットは生きていたのか?!」

ハドリー将軍がものすごい勢いで突進してきたので、さっと横に移動して道を譲った。

「……お」

そのままこちらに来るのかと思ったのに、壁の前で足を止めて、覚悟を決めるように息を吐いて、

「いいのですか」

私に確認してきたので頷くと、まずは恐る恐る顔だけ覗かせて、広場の様子を見て息を呑んだ。

「なんという……王宮前の広場が……こんな……」

「ハドリー、ひさしぶりだな」

「うおっ!」

悲痛だった顔つきが、近衛騎士団長の声を聞いた途端に喜びに変わった。

「エヴァレット! なんだきさま、心配かけおって。そんな……そんな痩せて」

「おい、泣くなよ。時間が惜しい、軟禁されている者達を助けに行くんだろう」

「誰が泣くか!」

「将軍、通れません」

将軍が空間を繋いでいる場所を大きな体で塞いでいるせいで、後ろで大渋滞が起きている。

「おお、そうだった」

「え?」

「お?」

かたかたと地面が揺れている。

まさかこの世界で初めての地震?!

「ディア」

すかさず隣に来てくれたカミルにしがみつきながら、広場の中央に移動した方がいいんじゃないか、それとも一度みんなを港に移そうかなんてぐるぐると考えていたら、目の前にシロが飛んできた。

『崩れるよー。さっきの建物!』

「え?!」

「……やばい」

全員の注目する前で、王宮の建物が崩れ落ち始めた。