軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

作戦本部を作ろう   2

「きみ達に確認したいことがいくつかあるんだ」

クリスお兄様が真面目な口調に戻ったので、緩んでいた空気がまた引き締まった。

ハミルトンなんて、飲もうとしていたお茶を飲まないでカップをテーブルに戻しちゃったわよ。

そんな緊張しないで平気だよ。

「そもそもどうしてカザーレがニコデムスの関係者だとわかったんだい?」

「前回、ディアとパティの三人で食事をした日に、偶然ジルドに会って、ベジャイアの小物を売っている店を紹介されて……ディアには話したわよね」

「うん。お土産を買ってきてくれたよね」

フライの売り込みをした話も聞いたわ。

え? あの日にもう怪しいと思っていたの?

「あの店とフェアリーカフェは裏通りを使うととても近いの。それで路地に入って店の裏手に出た時に、カザーレの店の前に停まっていた精霊車が走り出したので、道の端に寄って通り過ぎるのを待ったのよ。窓にはカーテンが閉じられていたから、お忍びの貴族でもいるのかなって注目していたら、隙間から乗っている人が見えたの。それがルガード伯爵家の家令だったの」

「フランセルを城内に引き入れたやつか」

すかさず確認するアランお兄様をまっすぐに見て、カーラははっきりと頷いた。

「ヨハネス家の王宮の控室に行くには、ルガード伯爵家の控室の前を通るから何回も見かけたことがあったの。だから間違いないわ」

「そうだったのか。ということは、カザーレの店の船で国外に脱出したんだろうな」

「その時に話してくれたら、手伝ったのに」

「ディアは助けてくれるとわかってはいたけど、自分でどうにかしないと駄目でしょ? 爵位を取り戻したいなんて言っておいて、最初から甘えるなんて出来なかった」

こんないい子なのに、両親のせいでつらい目にばかり遭わされるなんてひどくない?

ヨハネスも悪いけどクラリッサ様だって悪いわよ。

領地に籠ってはいても、友人を招いて派手に遊んでいるって聞いているんだから。

それを放置しているノーランドもノーランドよ。

家族に甘いのはうちも同じだけど、それにしたってもう少しどうにかしなさいよ。

「その時にハミルトンには話したのか?」

「ええ。反対されて何時間も話し込んで説得したの」

「最後まで反対はしてたよ。何をされるかわかんないじゃないか」

「だからちゃんと注意していたでしょ? 誘拐されて監禁されて、ディアを脅す道具に使われるのは嫌だったから、ふたりだけにならないように同じ精霊車には乗らなかったし、第三者の目がある場所でしか会わないようにしていたのよ。ディアの話をちらちらとして、会いたいってカザーレが言い出したらディアに相談しようと思っていたのに、ちっともそういう話の流れにならないんだもの。もしかして利用されただけで彼らは何も知らないんじゃないかって、だったら作戦が無駄になってしまうって慌てたりもしたのよ」

いや、私に会うのは最後の最後にしたいでしょ。

怒らせたらそこで終わるんだから。

「カザーレに口説かれたりはしなかったのか?」

「口説く? いいえまったく」

クリスお兄様がなんでこんな質問をするのかわからないようで、カーラが首を傾げたのを見て、

「口説かれていただろう!」

ハミルトンがびっくりした顔できょとんとしているカーラの肩を掴んだ。

「はあ? 気付いてなかったの? なんであんなに頻繁に誘われていたと思っているんだよ」

ハミルトンに言われてカーラは目を何回か瞬かせて、はっとしたように手で口を覆った。

「口説かれていたの?」

「ベジャイアに行かないかと誘われたことは?」

「何度も誘われたわ」

「それでも気付かなかったのか」

クリスお兄様が脱力している。

アランお兄様はにやにやしそうになって、口元を手で隠して横を向いた。

なんというか、私より鈍い子がいて安心したような不安になったような……。

「ディアを口説くならわかるけど、私を口説くなんて思わないじゃない」

「いや、口説くならきみだよ。きみがカザーレと一緒にいたくてベジャイアに行く。向こうで婚礼をあげるって言い出したら、ディアはどうすると思う?」

「……ベジャイアにお祝いに来てくれる?」

「まあそれもあるけど、心配して向こうでどんな所に住んでどんな生活をすることになるのか確認しに行くだろう」

到着した場所がシュタルクだったとしても、カーラが泣いてカザーレと一緒にいたいと言い出したら、心配した私がシュタルクに滞在するかもしれないって、そういう計画よね。

あいにくだな。

私なら、カザーレの首根っこひっ捕まえて、ずるずる引きずりながらカーラと一緒に帝国に戻るわ。

「ああ……。私はやっぱり駄目ね。囮にもなってない」

「いや、それでよかったんだ」

今までずっと黙っていたカミルが話したので、みんながいっせいに注目した。

ここは傍観者に徹するかと思ったのに意外。

「きみに万が一のことがあったらと考えたら怖すぎる。ディアと親しい人は身の安全には充分に気を配ってほしい。彼女は自分が攻撃されるより家族や友人が傷つく方が許せないんだ」

「カミル」

「きみがニコデムスのせいで死んだりしたら、シュタルクは荒野か砂漠になるぞ。シュタルク国民が全員砂になるかもしれない」

「ならないわよ! 精霊王達がそうしようとしても止めるわよ!」

何を言っているのよ。

他国といい関係を築いて、精霊王と人間の関係もとっても良好なのに、妖精姫を怒らせたせいで一瞬で国が滅びるなんてことが実際に起こったら、精霊王と私は恐怖の対象になっちゃうわよ。

「帝国に対する警戒心だって強くなるし、帝国内の貴族達だってベリサリオに近付かなくなっちゃうでしょ。だからシュタルクを攻めるのにも、こんなに時間をかけているんじゃない。それに一般国民を砂にするなんてありえないわ」

「ディアがショックで落ち込んでいるうちに全部終わっているかもしれない」

「うっ……」

自覚はあるわよ。

大事な家族や友人知人を亡くした経験が、私にはまだないし、信頼されている人達に嫌われたことも裏切られたこともない。

精霊王や家族に守られて、今ではカミルも加わって、好き勝手に生きている。

だからせめて私の手の届く範囲にいる人達は、私だって守りたいのよ。

「こうして無事だったんだから、これからのことを考えましょうよ。クリスお兄様、これからはカーラと一緒に打倒ニコデムス作戦を決行するんですよね」

「そのセンスのない作戦名はどうかと思うけど、それはカーラ次第じゃないかな。今回はずいぶん怖い思いをしたはずだ。それでもまだ囮を続けられるかい?」

「もちろんやるわ」

クリスお兄様に聞かれて、カーラはしっかりと頷いた。

「でも今回、カザーレにきついことを言ってしまって、険悪な別れ方をしたのに大丈夫かしら。いちおう、父が嫌いなのにカザーレが父と同じような態度を取ったから、感情が高ぶったって思ってもらえるようにとっさに演技はしたけど」

「ほう。体調が最悪だったはずなのに、よく考えたな。それなら大丈夫だろう。まずは早めに手紙を書いてくれ。いつもならあんなに感情的にならないのに、自分でもよくわからないと書いてくれればいい。実際だいぶ精神不安定になっていたみたいだし、クスリのせいだと考えるかもしれない」

「わかったわ」

「きみにはシュタルクに行ってもらうことになるが、それも大丈夫……」

「待って。僕も何かしたい!」

落ち着かない様子で座っていたハミルトンが、カーラが返事するより早く声をあげた。

「姉上ばかり危険な目に遭わせて、僕だけ何もしないなんて嫌だ」

「そうだろうな。このままだと功績をあげるのはカーラだけだ」

「でも爵位はハミルトンに」

「何もしないのに爵位をもらうなんて、僕なら断るよ」

「僕もだ」

クリスお兄様の言葉にアランお兄様が頷いた。

「僕もシュタルクに行く。姉がよくわからない男と外国で暮らすと聞いたら、どんな生活をするのか確認したいと思うはずだよ」

「……それはそうだけど」

「カーラ、心配しないで。ふたりとも私が守るから」

「ディアもシュタルクに行くの?」

「あったりまえでしょ」

「危険なのに?」

「ディアに危険はない。ディアが危険なら……いて」

真面目な話の時に何を言っているんだと、カミルの手をべしっとはたいた。

「それと、カーラが我々に協力していることを陛下とブレイン、そしてノーランドに話す必要がある」

「クリス……でも、お爺様はきっと反対すると思うの」

「子供が余計なことをするなって言われないかな」

カーラやハミルトンの不安は当然よね。

「そのあたりを調整するのは僕の仕事だ。きみ達は心配しなくていい」

でも、もうふたりだけじゃないから大丈夫よ。

「爵位を取り戻すことに関しても心配はいらない。ベリサリオが全面的に協力しよう。ノーランドとは適度な距離を取った方が、中央貴族の反対意見を躱しやすい。パウエル公爵の地方の領地の近くがいいかもしれないな」

パティがアランお兄様と結婚してパオロがミーアと結婚したので、ベリサリオと近しい人と婚姻関係を結んでいないのはパウエル公爵家だけなのよね。

お孫さんが男ふたり女ふたりいて、ハミルトンと年齢的にも釣り合う子がいたはず。

ベリサリオやノーランドが後ろ盾になると民族問題が面倒だから、ここはパウエル公爵に頼もうってことね。

「そうだ。アランお兄様、デリルに内密で来てほしいって話してほしいんです」

「デリル?」

「ペンデルスの珍しい魔道具を分解して組み直してほしいと言えば飛んでくるはずです」

「ああ、魔道具としては使えなくしておくのか。わかった」

「待て、アラン」

さっそく立ち上がろうとしたアランお兄様をクリスお兄様が止めた。

「これから多くの人が関わってくると、この屋敷ではまずい。カザーレ達も見張りくらいは置いているだろう」

「転移魔法を使えばいいんじゃないですか?」

「客が増えれば必要な物も増える。どうしても人の出入りは多くなるよ。カザーレ達が屋敷で働いている人に危害を加えないとも限らないだろう? 精霊王に頼んで、ここと精霊の森の屋敷を繋ぐ転送陣を作ってもらうのはどうだろう」

「またそんな特別扱いをお願いするんですか?」

人間には干渉しないって決まりがあって、ベジャイアの風の精霊王にはそれで文句を言ったのに、私ばかり都合よくお願いするのは気が引けるのよ。

「もともと特別枠なんだから、精霊王に相談しない方が悲しまれるよ」

「カミルはモアナに甘えすぎよ」

「ディアこそ、いい加減に普通の人間とは違うって自覚を持った方がいい」

「その辺の話はあとでふたりでやってくれ。他にも精霊王に相談したいことがあるんだ。魔道具を動かなくしたうえでカーラにつけさせて、カザーレ達のたくらみに僕達が気付いていない振りをするんだろう?」

「そうです」

「精霊達はどうするつもりだい?」

クリスお兄様に言われてカーラの精霊に目を向けたら、いつも以上に元気に飛び回っていた。

私の魔力を吸収したせいか、人間だったらつやつやのペカペカになっていそうな感じよ。

「ぶえええええ」

「ディア、ひどい顔になっているよ」

そうでしょうね。

口端を思いっきり下げて、眉尻も思いっきり下げている自覚はあるわよ。

「ひどい顔?」

カミルが横から覗き込んできて、私の顔を見て爆笑しやがった。

「だから精霊王に相談しよう」

「わかりました。シロ、瑠璃に……」

『遅い! ディアはいつも呼ぶのが遅いわよ!』

まだ呼んでいないし、瑠璃を呼ぶつもりだったのに、なぜか翡翠が腰に手を当ててみんなの中央に置かれているテーブルの上に現れた。

『話は全部聞かせてもらったわ。私に任せなさい!』

得意げに言っているけど、盗み聞きはいけないと思うの。