軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新しい村と新しい生活

皇都から精霊の森への街道沿いは、貴族の屋敷が増えて賑やかになってきたけど、精霊の森の外側をぐるりと囲む道を先に進むと、急に建物が途切れてしまう。

そこから先は皇都の開発から取り残された地域で、森の中の道を進み北と東へ伸びる二股にぶつかれば、その先はもうアランお兄様の領地だ。

領地には村がひとつしかなく、精霊の森の警備と整備だけが村での主な仕事で、それ以外の村人は皇都で職に就くか、貴族の屋敷で働いている者がほとんどだ。

貧しくはないけど豊かでもなく、買い物は皇都まで行かないと出来なくて、職場も皇都にある場合通うのが大変で引っ越してしまう人もいて、ゆっくりと過疎化が進んでいる村、若い世代にはなんの面白みもないと思われるような村が、アランお兄様がこれから生活の拠点にしようとしているサニーベールだ。

ここをアランお兄様の領地にしたのは賢い選択だと思う。

領民は精霊王と親しいベリサリオの人間が領主になるのを歓迎するだろうし、目立つ産業もなく領地の大部分が森しかない土地なので、貴族達から不満が出にくい。

アランお兄様はサニーベールを大きくし、職人達の工房が点在する森の中の小さな村をひとつ作る予定だ。

「着いたぞ。屋敷を建てるのはこの村の東側だ」

アランお兄様がここに来るのは初めてだけど、もう多くの人が村を広げるための工事に取り掛かっている。

ベリサリオにいた頃からアランお兄様に仕えていた人達や、フェアリー商会の精霊車部門の人達、仕事の関係で知り合った職人達が、今日も大勢作業をしているはずだ。

「精霊車五台はさすがに派手だったんじゃない?」

新しく作られたホルブルック子爵家の紋章入りの真新しい精霊車が二台と、フェアリー商会のマークの付いた精霊車が三台、ずらりと列になって進んでいるんだよ。

「資材が不足しているとバルトが言っていたんだ。作業している者達の宿舎が出来たばかりで、必要な物を運びきれていないんだよ」

村の大通り……なのよね、ここは。

すれ違うのがギリギリの幅のガタガタ道しかない。

道の両側には新しい領主を歓迎するためか、物珍しいから見物したいだけなのかは知らないけど、村人が建物から出てきて驚いた顔で眺めている。

「どこに向かっているんだ?」

「村の中心にある広場だ」

広場には大勢の村人が集まっていた。警備兵の制服を着た人もいる。

役場を作って開拓や建築作業の求人をしたり、説明会を開いたりしているそうで、側近だったバルトなんて今では村に常駐して責任者のようなことをさせられているらしい。

精霊車から下りたアランお兄様を見る村人の顔は、期待に輝いていた。

どんな整備をするか、今後村をどうしようと計画しているか、村人のためにわざわざ説明会を開く貴族なんて他にいないもん。

「あの方が婚約者?」

「公爵令嬢だって」

アランお兄様がエスコートしてパティが精霊車から下りたら、歓声があがった。

よかった。歓迎ムードだわ。

ここも中央なので赤髪の人ばかりだから、同じ赤髪のパティが婚約者だというのはポイント高いはずよ。

それにさすがは精霊の森を守って来た人達だけあって、精霊獣の数がかなり多い。

精霊獣の見た目って動物系が多いから、広場に様々な動物がいて他では見られない光景になっている。

平民ばかりが住んでいるのに、人口より精霊獣の多い村ってここしかないんじゃないかな。

「私達は先に村を広げている場所を見学するわ」

外から姿が見えないように注意しつつ、なかなか私達が降りてこないので中を覗き込んだアランお兄様に声をかける。

こんな歓迎ムードなら、私は顔を出さない方がいいでしょう。

「挨拶するために来たんじゃないのか?」

カミルに聞かれて、私はひらひらと手を振ってみせた。

「いいのいいの。アランお兄様とパティの初めての顔見せなのよ。妖精姫が顔を出して目立っちゃ駄目でしょ。予定変更」

「なるほど。今日の主役はアランとパティだからな」

「そういうことよ。それより見て」

村の東の出口を出たら、そこは広大な更地だった。

大通りになる場所には道幅に合わせて杭が並べられていて、区画も整理されている。

小さな急ごしらえの建物がふたつあるのは、工事関係者の休憩場や食堂、宿舎だ。

「えーと、ここの左にフェアリー商会の事務所が建つ予定で、右が店? もらった地図に店としか書いてないんだけど。店ってなんの?」

「この村には店がないって言っていたじゃないか。商人を呼ぶんだろ」

おおお。そこから村作りをやるんだ。

ちょっと楽しそう。

「屋敷で働く人の住居がこの辺で、突き当りにアランお兄様の屋敷が建つのね」

「だいぶ広い敷地だな」

「庭を広くするって言ってたわ」

森の木をところどころ残しているので、スローライフにぴったりの緑に包まれた村になりそうだ。

屋敷の予定地の前で精霊車を停めて外に出て、ぐるりと周囲を見回す。

今は工事の人達がいるから賑やかだけど、村の形が整った時、どのくらいの人がここに住んでくれるんだろう。

村を出て行った若い人達が戻ってきたくなるような場所になるといいな。

「もうこの先は森か。もっと中央の方が安全じゃないか?」

森から侵入出来るかもしれないもんね。

「警備には問題ないんじゃない? 情報を集める人材をたくさん集めているアランお兄様だもん。精霊の森の警備兵が、いつの間にか強化されて隠密になっていても驚かないわ」

「いいのか、それは」

「新しい制服に防具、フライもたくさん持ち込んでいるはずよ。カッコいいと思われれば、自分もやりたいって若者が戻ってくるかもしれないでしょ。それに今は森の警備兵は平民にも軽く見られているらしいのよ。フライで颯爽と警備をしてもらって、ちゃんと権限を与えて、働きやすくしないとね」

私達の精霊車以外は街を出てすぐのところで停まったので、荷物を降ろすために人が集まっているのが遠くに見える。

食料や医療品も運んできているのよね。

何もないところを更地にして、道を作って資材を運んで、店や宿を建てて仕事を作って人を呼ぶ。

前世でそういうゲームをやったことあったな。

「ディア、向こうも見てみよう。あっちにも建物を建てるようだ」

「温室じゃないかな。急に移動するとレックス達がついてこれないわよ」

「それが狙いだ」

こんな何もない更地で、ちょっと距離を取ったくらいじゃ意味がないでしょう。

何も言わなくてもレックスとリュイは、少し距離を置いて控えていてくれるじゃない。

つい、いつもの癖でジェマを探してしまうけど、彼女はアランお兄様が領地開発に着手するのに合わせて部署移動になった。

ルーサーともうすぐ結婚して、いずれはパティの侍女になる予定よ。

同じ城にいてもブラッドに滅多に会えないんだから、この村に住むジェマと会うのなんて次はいつになるんだろう。

いずれ結婚して他所の家の人間になる令嬢は、みんなこういう別れを経験するってわかっているけど、子供の頃からずっと当たり前に傍にいた人達と会えなくなるのはやっぱり寂しい。

でも私の場合はレックスとネリーがルフタネンまでついて来てくれるんだし、リュイやミミとも仲良くなれたし、恵まれているのよ。

「ディア? どうした?」

「なんでもないわ。もう皇都はだいぶ涼しくなってきたわね。学園が始まる季節ももうすぐね」

「……カーラのことを考えていたのか?」

「違うわよ」

違うけど、カーラも今年からは学園に通わなくなるのよね。

「連絡は取れているんだろう?」

「手紙のやり取りはしているけど、心配かけないように気を遣っているんだと思う。元気に楽しくやっている様子しか書かれていないわ」

カーラも心配だけどハミルトンはどうなるんだろう。

たぶん侯爵家以上は、伯爵家でも有力な家はノーランドがこれ以上力をつけるのを嫌がって、彼らと縁組をしないだろう。

バントック派の二の舞は御免だという思いが、いまだに根強いのよ。

「侯爵家と辺境伯家は同格なのに、辺境伯家の方が上の扱いになっているのも侯爵家達は気にしているみたい。民族の問題もあるから難しいわ」

「ベリサリオは?」

「うちは第四の公爵家にしようって話が出ているの」

「ああ、今でも侯爵家より上の扱いだっけ」

もしベリサリオ公爵が誕生すれば、王族と全く血縁関係のない我が国初めての公爵家の誕生よ。

ベリサリオが辺境伯じゃなくなるって、いろんな方面に影響が大きすぎるから、まだ先の話だろうけどね。

「ディア、難しい顔になっているよ」

「あ、ごめんなさい」

「楽しい話をしよう。今年から俺も学園に通うことを忘れないでくれよ」

よっぽど暗い顔をしていたのかな。

せっかく一緒に出掛けられたのに、カミルに心配させちゃ駄目だ。

「そうね。制服姿が楽しみだわ」

「俺はきみに毎日会えるのが楽しみだ」

「お昼だけよ? 校舎が別なの」

「それでもいいさ。ずっとひと月に一度くらいしか会えなかったのに、毎日会えるんだぞ」

私も嬉しいって素直に言えばいいのに、カミルの顔を見ると照れくさくて言えない。

そういうことをちゃんと相手に伝えるのは大事だってわかってるのに、こういう時ばっかり意気地なしなのをどうにかしたい。

「ディア?」

「学食美味しいのよ。それに婚約者ならちょっとくらいは寮にも遊びに行けるかも」

「ベリサリオの寮で暮らそうかな」

「それは無理。……でもそうか。これから三年間は冬の間は毎日会えるのね」

「きみが成人したら、会える時間はもっと増える。みんなきみが成人するのを待っているよ。南島のカカオ畑にまた来てほしいし、西島の復興も見てほしい、東島の王宮にもまだ一度も来ていないって、あちこちから要望が来ているんだ」

「忙しそう。でも楽しみだわ。ふたりで街を歩いたの楽しかったよね」

「正確には走ったんだし、囮だったんだけどな。でも確かに楽しかった」

そういう幸せな未来のためにも、ニコデムスをどうにかしないとね。

もうブレインが動き出しているみたいだし、来年には大きな動きがあるかもしれないわ。

「あのさ、前から気になっていたことがあるんだけど」

「え?」

振り返ったら、カミルが真剣な顔をしていたので、私も笑顔を引っ込めた。

「茶化しているんじゃなくて、真面目な話なんだ」

「うん。わかった」

「ディアはさ」

「うん」

「どうしたら子供が出来るか知っているのか?」

………………え?

「な、ななななな、何を急に」

そんな真顔で何を聞いているのよ。

え? ここはどう答えればいいの?

セッ……これはこの世界にはない単語だし、あっても令嬢が言っちゃ駄目なやつだ。

「その反応でわかった。知っているならいいんだ」

「にやにやするな! なんなのよ」

「真面目な話だよ。初夜に驚かれて魔法をぶっ放されたり、精霊獣がドアを破って突入して来たら悲惨じゃないか」

「そんなことしないわよ」

同人やっていたオタクだったんだから、自慢じゃないけど、知らなくてもいいことまで知っているわよ。

でも経験は皆無だから、自分の知識が正しいかどうかはまったくわからない。

「どうして知っているんだ? 前世では病気で早く亡くなっているんだし、今も教えてくれる人なんて」

「いるわよ。私の侍女は結婚して子供がいる人もいるのよ。侍女同士の話が聞こえることもあるし、ほら」

「ほら?」

「エルダがいるし」

「あーー、そうだった。恋愛作家がいたな」

ごめんエルダ。

便利に使わせてもらったわ。

前世のネットや映画や漫画の情報だなんて言っても、納得させる自信がない。

エルダは全年齢向けしか書いていないけど、お姉さま方にそういう話は教えてもらっているらしい。

「ともかく! 五年も先のことなんて今から心配しても仕方ないでしょ」

「五年……そうなんだよ。五年。我慢出来るのか俺。五年だぞ」

「五年五年って、何をぶつぶつ言っているのよ」

「やっぱりルフタネンの法律優先にしよう。それなら三年後に結婚出来る」

「お父様とお兄様達を説得出来ればね」

「…………無理」

だよね。