軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ベジャイア国王と妖精姫   3

呼ぶ前に精霊王が姿を現してしまうのはいつものことだし、全員揃っているのもいつものことだ。

帝国の精霊王って仲良しだよね。

今回はカミルも一緒にベジャイアに行くので、ルフタネンの精霊王も来ている。

珍しくモアナではなく、西島担当の風の精霊王のマカニと南島担当の火の精霊王のクニだ。

西島とベジャイアには因縁があるから、マカニとしては、また何かやらかしそうだと聞いて気になっているんだろう。

南島担当の火の精霊王のクニは、ルフタネンの精霊王の中では一番接点の少なかった精霊王だ。

ライオンの 鬣(たてがみ) のように豊かな長い緋色の髪が印象的な美丈夫で、戦士の理想のような体型をしている。

長い前髪で目元が隠れているせいか年齢不詳のマカニと、帝国で一番長身の蘇芳よりも身長が高いクニのコンビもなかなか素敵よ。

『いつもモアナばかりが帝国に行ってずるいだろう。妖精姫には礼を言いたいと思っていたんだ』

私の頭頂部がクニの胸の下あたりだよ。

視線を合わせて会話したら首が痛くなりそう。

全部で六人。ずらりと姿を現したから、ベジャイア側はぎょっとしていた。

それでもすかさず跪くあたり、腰を抜かして動けなくなっていたどこぞの馬鹿王子達とは違う。

彼ももう自国で処刑されてこの世にはいないんだよな。

あの時一緒にいた公爵家嫡男だったアルデルトが今や王太子だよ。諸行無常ってやつだね。

シプリアンは彼を恐れていたような雰囲気があったから、何か予感していたのか、それともただ彼に弱みを握られてでもいたのか……私には関係のないことだな。

『この部屋にいる全員を連れていけばいいのか?』

「ベジャイアの人は全員行くけど、こちらは私とアランお兄様とカミルだけ。瑠璃達がいてくれるのに護衛はいらないでしょう?」

『無論だ』

私はよくわからないけど、精霊王達はやっぱり人間では太刀打ち出来ない存在として感じられて、本能的に跪きたくなってしまうらしい。

実際に一瞬で国を潰せるくらいの力がある人達で、信仰の対象になるくらいの存在だから当然なんだけど、信仰の対象が普通にその辺を歩いている世界って、前世の常識からしたら信じられないよね。

ブッダやキリストが、暇だから遊びに来たよーって窓から入って来るんだよ?

あ、それでタブークやリルバーンの人達は、精霊王と会えた時に感動で泣いていたのか。

勝手に入ってくんなって、モアナにたまに文句を言っているカミルってやばいな。

「瑠璃達は? 全員で行くの?」

『私は残るわ。戴冠式前の大事な時期だし、中央で精霊を探す人たちが増えているでしょ。留守には出来ないわ。彼らのために動く気ないしね』

『俺も残る。ベジャイアのアホなやつらを見ていると殴りたくなるからな。こいつら、精霊王を裏切っていやがったんだ。そのせいで今年の雨季は大雨になっている』

琥珀と蘇芳がベジャイアの人達を見下ろす顔には明らかに、軽蔑していますって書いてある。

精霊王達はベジャイアで何があったか知っているんだな。

『私も殴るかもしれないわよ。でもベジャイアで暮らす国民が気の毒だし、なによりペンデルスが気になるわ』

今回は翡翠と瑠璃が一緒にベジャイアに行ってくれることになったようだ。

そこにルフタネンのふたりが加わって計四人。こんなに心強い味方はいないわよ。

気を付けなくちゃいけないのは私の身の安全じゃなくて、ベジャイアが滅びないようにすることだもん。

「じゃあ行きましょうか。皆さん立って、こちらに集まってください。まとまって移動しますよ」

私の指示に従っていいのか迷っている臣下達を促しながら、まずバルターク国王とビューレン公爵が立ち上がり、精霊王の近くにふたり並んだ。

彼らを取り囲むように並んだ騎士と大使館員達は、何かあったら国王だけでもお守りしなければとでも思っているのか、死刑を待つ囚人のような死を覚悟した顔つきになっている。

彼らは私が何をすると思っているのかね。

精霊王があなた達を殺す気だったら、精霊の森に足を踏み入れた途端に砂になっているわよ。

「まずはどこから行くの?」

「え?」

『王都で一番賑やかな広場だ』

「はーい」

「え?」

会話の途中に驚きの声が混じるのは、まさか何カ所も行くとは思っていなかったベジャイアの人達が漏らした声だ。

でも一カ所じゃわからないでしょ。ベジャイアの現状を把握したいんだから。

……まあ、出来れば秘匿したい部分ではあるよね。

せめて見せる場所は選ばせてくれと言うかと思っていたんだけど、ぐっと堪えているようだ。

「まあ、タイルの模様が綺麗。建物も色鮮やかで綺麗ですね」

転移した先は王宮にほど近い広場だった。

中央に大きな噴水があり、庶民の憩いの場になっているようだ。

建物の壁の色が青や緑色のような様々な色をしていて、まるで童話に出てくるアラブ系の街並みのようよ。

丸いフォルムが多いので、街の印象が帝国とはだいぶ違って異国に来たって感じがする。

それほど強くはないが雨が降っているので、街が暗く沈んでいるように見えてしまうのは仕方ないだろう。

私達は全員が中に入るような大きな球状の淡い光の中にいるので、雨に濡れることはない。

それにどうやら私達の姿は見えていないようで、国王がいるというのに誰も気にしている素振りは見られない。

広場の周りに軒を連ねる店舗の前には、買い物に来た人達の馬車が停められているし、店にはたくさんの品物が並んでいるようだ。

輸入に頼らないと食料が足らないという割には、値段も多少高いくらいじゃないかな。

「意外と物が豊かだな」

「アラン、ここは貴族が買い物に来る場所だ」

「ああ」

カミルの指摘に、国王達は居心地悪そうにしつつ無言のままだ。

『少し場所を変えよう』

瑠璃の言葉と共に視界が暗転し、明るくなった時には別の場所に立っていた。

建物の造りは先程の広場と変わらない。

しかし壊れている建物が多く、道の石畳が所々砕けて地面がむき出しになり水溜りになっている。

店の中の商品棚にはまばらにしか物がなく、野菜が並ぶ店を見つけて覗いてみたが、量はあっても質が悪く干からびていたり色がくすんでいる。

『先程の場所から徒歩で十分とかからない場所でもこうだ』

軒先で雨を凌ごうとしているのか、生気のない顔で蹲っている人が何人もいる。

行き来する人の数が少なく、服が質素で、着古して袖や襟元がぼろぼろになっている人もいた。

値段がそれほど高くないんじゃない。

あの値段でも手を出せないほど貧しい人達がたくさんいるんだ。

「これは……」

「ここは戦闘があった地域なんです」

答えてくれたのは大使館員だ。

ベジャイアは外国との戦争で戦場になったことはない。

ここで戦闘が行われたというのなら、それは前国王を倒すために行われた内戦の時の話のはずだ。

つまり今ここにいる国王が起こした、いや正確には国王の亡き父親が起こした戦争の爪痕だということになる。

「復興は?」

誰も反応しないで目を逸らすのはやめようか。

王都の街角さえこの状況なの?

国王達は忙しく何をしていたのさ。

『他の場所も行くか』

瑠璃に見せられたのは植えられていたものを盗まれたのか、踏み荒らされ、ところどころに穴が空き、作物の破片が変色して散らばっている畑だった。

そこからは転移ではなく、障害物を無視してまっすぐにかなりのスピードで移動しだしたので、

「ぶつかる!」

目の前に木が迫ってきた時には、思わず瑠璃の腕を掴んで目を閉じてしまったけど、なんの抵抗もなく木をすり抜けてしまった。

「そういう時、毎回瑠璃にしがみつくんだな」

「え?」

カミルに不満げに言われて、慌てて瑠璃の腕を放した。

瑠璃は子供の頃からの保護者みたいなものだから信頼しているし、つい頼りにしちゃうのよ。

『おまえより頼りになるからだ』

「その得意げな顔をやめてもらえませんか」

『ふふん』

『瑠璃、大人げないわよ』

翡翠に注意されちゃってるじゃない。

「こんなとこで焼きもち妬くな」

「うるさい」

アランお兄様まで……。

それよりあっちの屋敷を見てよ。

元は豪勢な建物だったはずなのに、一部焼失して、窓やドアが壊れて幽霊屋敷みたいになっているのよ。

《ここでは戦闘はなかったはずでは?》

《ここは前王の側近の……》

バルターク国王と騎士の会話が聞こえてきた。

たぶん前王側で戦って、処刑されたか戦死した貴族の領地なんだろう。

前王は悪で、その仲間の物は略奪していいと考える輩が大勢いて、どさくさに紛れて屋敷に押し入り金目の物を盗み、火を放った。

でもそれをバルターク国王は知らなかったってことよね。

おーい。情報管理はどうなっているんだ。

復興ってどこの復興をしていたの?

「これは忙しくもなりますね」

「…………」

無言かい。

「店に並べられた作物の品質が悪かったのは、雨のせいですか?」

「……いえ、このところ年々、作物の出来が悪く不作の年も多かったんです」

国王は悲痛な面持ちで考え込んでしまっているので、答えてくれているのは大使館員達だ。

「そういえばベジャイア北西部の山脈の麓に、一面に青い花が咲いて、それが綺麗で有名な村がありましたね。今は季節ではないのかしら」

「あそこも……年々花の数が減って、色も白っぽくなって、あまり観光客がいかなくなりまして」

「そうですか」

それがなぜなのかわからなくて、復興の成果が上がっていないと。

『凡庸な国王と自分が贅沢することしか考えない貴族ばかりが揃うとこうなるのね』

翡翠の言葉が、ぐさぐさとベジャイアの人達に突き刺さっているのが見えるようだわ。

『どこの国にもいるよなあ。昔からやってきたことをそのまま同じようにやっていれば仕事が出来ていると思うやつ。人間が他の生き物より優れているのは知能だけなんじゃないのか? 脳みそを使わなくなったら魔獣以下だぞ』

クニの言うことは間違っていない。

それにこの有様を見てお怒りなのかもしれない。

でも、ただでさえひどい有様を私達に見られて、ベジャイアの人達はどん底まで沈んでいるのに、さらに追い打ちをかけないであげてよ。

『ルフタネンは平和で……え?』

もうそれ以上はやめろと肘打ちをしてから、相手は帝国の精霊王じゃないのにやってしまったと気付いた。

「あ、つい……」

『あははは。いやいや、そんな細い腕でどつかれても痛くはないが、威勢のいい姫だというのは本当なんだな』

『ディア、グーで殴らないと、こいつは感じない』

クニもマカニもおおらかな精霊王でよかった。

というか、基本的に精霊王はみんなおおらかよ。

人間がアホなことばかり仕出かすから怒られるのよ。

『しかし、腰骨あたりに当たるんだな。正面を向いていたら急所に……』

『黙ろうか』

『クニ』

翡翠とマカニに本気で肘打ちを入れられて、それはちゃんと痛かったらしくて、クニは打たれた場所を押さえて呻いた。

『あの馬鹿の言うことは気にするな。話を続けよう』

「ルフタネンの精霊王がすまない」

瑠璃とカミルに挟まれても、どう反応すればいいかわからない。

新生ディアドラを忘れてたし……。

アランお兄様?

こちらに背を向けて笑いを堪えているけど肩が震えているわよ。

悲惨な状況のベジャイアの人達と、私達のこの温度差をどうすんのよ。

『他の場所も行くか? 洪水で湖のようになっている村もあるぞ。それとも北の砂漠側に行くか? 古い国境警備の砦が見えるし、突っ立っているだけの兵士がいるぞ』

「……バルターク国王、少しお話した方がよさそうですね。どこかゆっくりお話出来る場所はないですか?」

『王宮に行けばいい』

ふらりと目の前の空間が歪んで、ベジャイアの風の精霊王を除いた三人の精霊王が現れた。

『会いたくないと思って風のやつは置いてきた』

『あいつは百年ほど反省させる』

『なかなか呼ばれないと思ったら、何をしているんだおまえらは』

風の精霊王の印象が強すぎて、ベジャイアの精霊王は非常識だってイメージが出来ていたけど、他の三人は普通なのよね。むしろ地味なくらいかもしれない。

国がこの様子では怒りたくもなるよなあ。

「では、王宮に案内してもらってよろしいですか?」

全部で精霊王が七人。

彼らがずらりと並んでいる中で、振り返ってバルターク国王に問いかけた。

この状況で問いかけられて、嫌だと言える人はあまりいないだろうな。

「…………わかりました」

絞り出すような声で国王が答え、騎士達は力なく肩を落としている。

いかんなあ。

ここで何かあった時に、そんなんじゃ国王を守れないぞ。