作品タイトル不明
十三歳になりました! 4
私の言葉を真に受けて……と言うと騙しているみたいね。
そんなことはないわよ。真面目に話しているわよ。
皆がモニカに注目したので気をよくしていたら、カミルがタイミングよく協力してくれた。
「もう精霊の森は完全に復活したのか?」
「そうよ」
「だったら、次の段階に進むべきなんじゃないか?」
「そ……う私も思っていたところよ」
次の段階って何さ。
「琥珀様の住居が皇都にあって、その森に魔力が満ちたのなら、中央の他の場所にも魔力が戻っているはずです。今度はそれぞれの領地に精霊のいる場所を見つけて、領民達も精霊と触れ合えるようにしなくてはいけないのでは?」
そうか。そうだった。それよそれ。
私もそれは考えていたところよ。
「精霊の森で精霊を見つけられた方なら、どうすれば精霊と触れ合えるかもうご存知ですよね?」
オーツ伯爵のご令嬢に微笑みながら首を傾げてみせると、彼女は嬉しそうに何度も縦に首を振った。
名前はなんだったかな?
一度に十人くらいずつ紹介されるから覚えられないよ。
「それを今度は御家族に伝えて、一緒に領地で精霊を探してください。精霊の森は琥珀の住居なので、あまり多くの人を招き入れることは出来ません。自分の順番を待つより、領地に精霊のいる自然豊かな土地を作る方がいいですよ。そういう場が出来れば、精霊王も遊びに行きます。蘇芳なんて神出鬼没にあちらこちらに出没しているようですよ」
「出没って……」
カミルに呆れた声で言われてしまった。
クマ出没注意と精霊王出没注意は似たようなものよ。
対応を間違えると死ぬんだから。
「私からも、是非お願いしますわ」
モニカまで戻ってきてくれちゃったよ。
「それと気になっていたのですけど、みなさん、精霊王の担当地域をもう一度確認なさってくださいな。人間の区分けと精霊王の担当地域は別ですよ? 琥珀様の担当地域は帝国の東部から皇都までです。中央といってもランプリング公爵領は翡翠様の担当です」
「えええ?!」
「そ、そんなはずは……私の領地も作物があまり実らず……」
おいおい。
この人達に誰も教えていなかったの?
「コルケット辺境伯?」
思わずにっこり笑いながら振り返ってしまったわよ。
「も、申し訳ありません。翡翠様の担当といえど中央は、琥珀様の精霊の森を台無しにした者達のいる地域なので別扱いにすると言われておりました」
現当主のヴィンス様の背後で、前当主のドルフ様が片手を顔の前にあげて頭を何度も下げている。
そうか。悪いのは私に知らせてくれなかった精霊王達か。
あとで文句を言っておこう。
「ではノーランドもですか?」
「私も聞いていませんでしたわ」
私とモニカに注目されて、今度はノーランドの現当主と前当主がコルケットと同じように苦笑いして頭を下げていた。
「でもパティは、自分の領地の半分が琥珀の担当で半分は蘇芳の担当だって知っていましたよね?」
「はい。お父様が精霊省に確認したので知っています」
確認すればわかるんじゃないか。だったら連絡しなさいよ。
お役所仕事ってそうよね。
聞けば説明してくれるけど、自分達からは教えないのよね。
「で、ではうちも半分は蘇芳様の?」
ヘガティ伯爵が慌ててノーランド辺境伯家に尋ねている。
「半分どころか、ほぼ全部蘇芳の担当でしょうね。そうじゃないと琥珀の担当地域が広すぎでしょう? あとで精霊省から中央の各領主に、領地のどの部分がどの精霊王の担当か、ひと目でわかる資料を届けていただきますのでそれを参考になさってください。辺境伯方、もう中央も別扱いは終わりです。精霊王方もですからね!」
天井を見上げて強い調子で言ってから、はっとして頬に手を当てて微笑んだ。
せっかく今日は穏やかで可愛らしいイメージを保っていたのに、台無しになるところだったわ。
「この際ですので、他の誤解も解いておきますね。皆さん、フェアリー商会の商品は私が作ったと思っているようですけど、違いますよ?」
カミルとお父様が、皆に見えないように体ごと私のほうを向きながら、何を言い出すんだ? と心配そうな顔で見てきた。
横並びの端と端にいたアランお兄様とクリスお兄様は、戻ってきた辺境伯やらルフタネンの人達やらがいるから、感情を顔に表すわけにいかなくて、無表情のまま遠くを見ている。
スザンナとパティ、お母様の女性陣は、男性陣と私の表情を見比べて、笑ってしまいそうになるのを懸命に堪えている感じかな。
たぶん私、身内に一番信用がない。
いろいろやらかしているからね。
「例えば精霊車。フェアリー商会といえばチョコと精霊車ですよね。先程みなさんに、次は領地内に精霊と領民が触れ合える場所を見つけてくださいとお話しました。ベリサリオでも精霊王の存在を知ってすぐ、私とお兄様ふたりで手分けして領内をぐるりと回ったんです。その時、揺れる馬車での移動がつらくて、精霊は物を浮かせられるのだから馬車も浮いて移動すれば揺れないんじゃないかと思ったんです。それで、そういう馬車を作ってほしいと商会の人にお願いしました」
効果を高めるために言葉を切り、広間をゆっくり見回してからにっこりと微笑んでから、
「私がしたのはそれだけです」
あっさりと言い切った。
「……確かにそうだけども」
ざわざわと騒がしくなった広間で、うちの家族だけが静かだ。
お父様が疲れた様子で目頭を指で押してため息をついた。
「そこから先は商会の方が職人さんと協力して頑張ってくれたんです。私にはどの材料がいいかということや、形はどうすればいいかなんてわかりませんもの。それに職人さん達も、女の子がやってきてこうしろああしろと言われても、本当にそれでいいのか迷うと思いません? ですから大人の人達が話を進めてくださって、それをまとめていたのはアランお兄様なんです」
突然名前を呼ばれて、アランお兄様がはっとした顔で振り返るのと、広間にいた人達がアランお兄様に注目するのがほぼ同時だった。
「精霊車に合わせて街道の整備を担当したのもアランお兄様ですし、カートリッジも私が言い出しましたけど、実際に作成したのは商会の優秀な魔導士とアランお兄様なんですよ?」
アランお兄様連呼。
もうみんな、私じゃなくてアランお兄様にしか目が向いていない。
「アランは次の新年祝賀会で成人して、近衛騎士団で研修を受けるため皇都に住みます。ベリサリオ内の街道整備はほぼ終わりましたので、フェアリー商会の精霊車部門は皇都に移動する予定です。いずれは帝国全土の街道の整備と、精霊車の普及を目指して別会社にするかもしれません。もちろんアランに責任者になってもらいます」
フェアリー商会の精霊車部門は、帝国の輸送をまったく変えてしまうだろうと言われている大注目の事業なのよ。
その責任者がベリサリオの次男だとクリスお兄様が断言したのよ。
これってかなり重大発表でしょ?
同じ貴族の子供でも、嫡男と次男では雲泥の差がある。
どんな大貴族だって、次男には自領のごく一部や財産を多少分け与えて、それ以外のすべてを嫡男が相続するものなのよ。
たいして裕福ではない貴族の場合、嫡男以外は何ももらえないなんてこともあるんだから。
だから今までは、たとえベリサリオ一族だとしても、アランお兄様に注目する人は少なかった。
それが今日からは、大注目よ。
精霊車や街道整備の事業が、この後どれだけの収入を生むか、チャリンチャリンとお金の音が聞こえている人もいるかもしれない。
しかも未来の皇帝付きの近衛騎士よ。
ここで一気に結婚したい子息ランキングで急上昇マークがついたアランお兄様だけど、すでに隣に可愛い御令嬢がいるのに気付いて、上がったテンションが一気に冷めた人もたくさんいると思う。
今まではアランお兄様に娘を嫁がせる決断をしたグッドフォロー公爵を、否定する声もあったらしい。
でもこれからはグッドフォロー公爵家は上手くやったなと言われるんじゃないかな。
だからね、情報は大事よ。
流れてくる噂なんて当てにしないで、自分から集めに行かないと。
「精霊車を開発した頃は、お父様は皇宮での仕事が忙しく、クリスお兄様は商会全般の総括と当主の仕事で忙しかったので、アランお兄様が活躍してくれたんです。それと洋服部門も好調ですね。そちらはお母様が中心になって開発していて、今ではスザンナも協力してくれているんですよ。私がしたのはフェアリーカフェの料理を決めることくらいかしら」
「カフェだって、今ではフェアリー商会の顔だよ」
「ええ、もちろんそうですわね、お父様」
「あとはトマトケチャップ開発か」
「それはエドキンズ伯爵家の方々の頑張りの賜物ですわ。私は味をチェックしただけです」
「……あれも食べ物だね」
「……そ、そうですわね」
自分で言い出しておいて、自分で衝撃を受けているんだけど。
もしかして私が前世から持ち込んだのって、今のところチョコと下着関係とラジオ体操だけ?
偏りがひどいな。
「あ、パック旅行もありましたわ。でもあれは、隣接している国との行き来を工夫すれば、他所でもすぐに出来ますわね。ね? 妖精姫の名前が目立っていたせいで、みなさん、私には優秀な兄がふたりもいることを忘れていませんか?」
どや。
私への注目が、これで分散されたでしょう。
「最初にアイデアを出すのが難しいんだけどな」
「カミル、しっ」
せっかく丸く収まりそうなんだからやめてよね。
ルフタネンにもラジオ体操を普及させて、北島の人達に毎朝公園でやらせるわよ。
カードにスタンプを押してもらわないと罰金にするからね。
「ベリサリオ辺境伯閣下、妖精姫様、大切な祝いの席で騒ぎを起こし、大変申し訳ありませんでした」
伯爵トリオがいっせいに跪いたので、家族たちも慌ててそれに続いた。
私なんて階段を三段上っているから、一気にひとりだけ偉そうになっちゃったわよ。
「このお詫びは如何様にも。我々に出来ることでしたら、何なりと申し付けください」
なんでもいいって、そんな簡単に言っちゃっていいの? なんて、脅かしたりはしないわよ。
「多くの人の不安を考えて、説明しなかった我々も悪いのです。いい機会でした」
「あら、お父様。せっかくですからお願いしましょう?」
笑顔で言ったら、ぎょっとした顔をされたんですけど。
お父様ってば、私が何を言い出すと思っているのかな?
「ディ……ディア?」
「先程お話した通り、中央は次の段階に進む時期です」
先程お話したのはカミルだけど気にしないで。
細かいことは気にしたら負けよ。
「でも今日いらしていない方は御存じないでしょう? 伯爵方が責任を持って、中央の領主の方々を集めて、今後どうすればいいかを伝えてください。精霊との接し方も、知っている方がまだ知らない方に教えて差し上げてください。そうして全ての領地に精霊が住む自然が戻った時、帝国は本当に新しい時代を迎えられるのです。出来れば戴冠式までに、ある程度は先行きの見える状況にしていただきたいわ」
「そ、それはもちろん」
「それだけでよろしいのですか?」
「それだけって、大変ですわよ。いくら精霊が戻っても一日や二日で精霊を得られはしません。不安になる方はたくさん出てくると思います。私もしばらくはベリサリオと皇都を行き来しますので、何かあったら相談に乗りますわ」
「ありがとうございます!」
「おお、我らの領地にも精霊が」
まだ挨拶を終えていない人の列からも感嘆の声が上がった。
やったぜ。やり遂げたぜ。
広間の空気もほんわかと温かく、好感度もアップ。
中央の貴族達に大きな貸しも作れたし、いいことずくめの場の収拾の仕方よ。
これぞ妖精姫でしょう。
「せっかく、食べ物以外は何もしていないってイメージになりそうだったのに、また、頼りになる妖精姫の話が広まるじゃないか」
カミルが横でぶつぶつ言い出してるけど、そんなことはないでしょう。
私は、あれが欲しい、これが欲しいって言うだけの我儘なお嬢さんだって思われたわよ。
「ディア」
あ、クリスお兄様は無視です。無視。
絶交中だから。
「だって、みんなの前でカミルに抱き着いたりするから!」
「子供か!」
ああもう喋っちゃった。
突っ込みを入れずにはいられなかった。