作品タイトル不明
十三歳になりました! 3
やっぱり引き篭もってちゃ駄目ね。
今年は特に忙しくて、ルフタネンと精霊の森とベリサリオを行き来する以外、他所に顔を出していなかったのよね。
彼らが私と話をしたくても、私が顔を出すのは御令嬢だけが参加するお茶会ばかり。
たとえ息子を売り込む手紙を書いていたとしても、私に来る前にお兄様達や執事達に燃やされているんだろうな。
六歳の時から友人の数があまり増えていないっていう驚きの交友関係、すごいでしょう。
それでこういう席で声をあげるしかないと思ったのかもしれない。
ここで私が強い態度に出たら、妖精姫は傲慢だって噂が帝国中に流れる可能性もあるから、私が本気で怒れないだろうという打算もあるんだろうな。
でもね、親父ばかりが騒いで、私と結婚する立場の息子達は背後に隠れているのよ。
今年はカフェが出来て高等教育課程の生徒とも話せる環境になったのに、彼らに話しかけられたことなんて一度もないよ?
まず彼らに話をさせて、私と親しくさせるのが先じゃないの?
もしかして、お兄様達の警戒網を突破出来なかった?
ここは、あまりことを大きくしないで明るい雰囲気にしないとね。
せっかくの誕生日会なのに、深刻な雰囲気にしちゃ駄目よ。
それに私が傷ついたり怒った顔をした場合、今日はカミルも横にいるんだから八人の精霊王が飛んできてしまう危険がある。
この広間が砂場になってしまうのは回避したい。
「私はカミルが好きなんです!」
だから私は頑張った。
私の意志で決めた婚約なんだと示さなくてはと、明るく年相応な雰囲気でカミルに抱き着いた。
私とカミルの仲を邪魔すると、精霊王が怒りますよって教えてあげたかったのよ。
「私がカミルと結婚したいって両親にお願いしたんです。なんで突然、私達の仲を引き裂こうとするんですか?」
カミル、そこで驚いて硬直しないで。
抱き着いたくらいで今更なんなの?
「妖精姫はまだ幼い。一時の感情で将来をお決めになってはいけません」
おい、そのやれやれって顔をやめろ。
結婚相手もまともに決められない子供がいなくなるくらいで、騒いでいるのは誰なのさ。
「成人するまでに相手を決めるのは、あまりお勧め出来ません」
「まだ二年もあるじゃないですか。もう一度よくお考えになってはいただけませんか?」
「結婚は家と家との繋がりが大切なんですよ」
「だったらなぜ、娘に直接話すんだね? 私に話を通すのが筋ではないのか?」
ですよねー。
帝国で一番高位貴族のお父様を無視しちゃいけませんよね。
この人達、ベリサリオの縁談に口出し出来る人達じゃないですもんね。
それよりカミルに抱き着いた私はどうすればいいの?
自然に離れればいいの?
抱き着いたままでいればいいの?
「くそ……」
いかん。
迷っているうちに、カミルががしっと腰に腕を回してきた。
これじゃもう動けないや。
「も、申し訳ありません。辺境伯閣下。しかし誤解しないでいただきたい。我が息子をという話ではないのです」
え? そうなの?
「もちろん我が息子を選んでいただけましたら、そんな光栄なことはありませんが、先程お話なされていたラーナー伯爵家やカーライル侯爵家など、優れた御子息がおいでになるじゃないですか」
「ほお、きみはベリサリオだけではなく、侯爵家嫡男の結婚にも口を出すつもりか」
「い、いえ。国のために……」
「皇太子殿下はこの婚約をお認めになっているのにか?」
お父様のお怒りモードがこわいよ。
でもビビらせちゃ駄目よ。
ここはもっと根本の不安を取り除かないと、ベリサリオへの不満が溜まっちゃうよ。
ふと横を見たら、こちらを見ていたクリスお兄様と目が合った。
そういえばずっと無言よね。
いつもなら、私を助けるためにすぐに駆け寄ってくるのに。
なんだろ? むっとした顔をしている?
私に怒っているの? それともカミル?
不思議に思って首を傾げたのに、クリスお兄様はそのまま前を向いてしまった。
まさか、ここに来て私がルフタネンに嫁ぐのはやっぱり嫌だとか言わないわよね。
デリルと婚約させればいいとか考えてない?
それとも、私と結婚したいならカミルがどうにかしろよってこと?
いいわよ。
クリスお兄様がそういうつもりなら、こっちにだって考えがあるんだから。
ちらっとクリスお兄様がこちらを見たから、口元だけ綺麗に弧を描いて笑ってみせてから、不意に表情を消してふんっと横を向いた。
視線の端で、クリスお兄様が慌てた顔をしているのが見えたけど、もう遅いもん。
無視よ無視。絶交よ。
「ニール伯爵、他家の婚姻に口出しするのは無粋ですよ。ましてや辺境伯家や侯爵家の婚姻に伯爵家が口を出すのは不敬ではないですか?」
前を歩いていたラーナー伯爵が引き返して来てくれた。
私の中で、伯爵の好感度が爆上がりよ。
「それに先ほどお話した通り、うちの息子ではまだ力不足です。そちらのイースディル公爵閣下は、ルフタネンの精霊王を後ろ盾にしている方だということをお忘れではありませんか?」
「そ、それは……妖精姫と婚約すると精霊王に伝えたからで」
「逆です」
思わず口を開いてしまった。
いっせいに注目されて、慌てて扇を開いて口元を隠した。
「カミルは私に相応しい相手になるために、精霊王を後ろ盾にしてから婚約を申し込んでくれたんです」
確かそうよね。実はよく覚えていないんだよね。
だって、後ろ盾はあってもなくても気にしていなかったもの。
王位継承者じゃなくて、全属性精霊獣をそだてていればよかったのよ。
伯爵トリオもその背後にいる息子達も、精霊がいないか、いても一属性なんで対象外よ。
「それにカミルは、チョコの原材料を持ってきたんだよね」
おお、デリルも援護してくれるのね。
ラーナー伯爵家の存在がこんなにありがたくなる日が来るなんて。
「遠く南の島々や東方まで、転移魔法を駆使して貿易に出かけられていると聞いてます。それに比べたら僕は、まだまだ子供です。僕だけじゃなく、成人する前に彼ほどの功績をあげている人は、そうはいないんではないですか?」
よし、私からも意見を言うぞって、後方に並んでいる人達も見えるように前に出ようとして、まだカミルの腕がウエストに回されていたせいでつんのめりそうになった。
ちょっと放して。動けないでしょ。
「皆さん、誤解されているのではないですか?」
手を放してもらうために指を掴もうとしていたらカミルが一歩前に出たから、今度は私まで引っ張られて前に出てしまった。
私、ひとりでおたおたしているように見えていない? 大丈夫?
「私と結婚しても、ディアは週の半分はベリサリオにいますよ?」
「は?」
「……え?」
「それは……どういう」
伯爵トリオだけじゃなくて、周り中から間の抜けた声が上がっているんですけど。
あれ? そういう問題?
帝国に顔を出せばいいだけなの?
「御存じだと思いますが、私にはもう両親がいません。家族は兄だけです。その兄はルフタネン国王なので住む島が違いますし、互いに忙しくそう簡単には会えません。商会の仕事もあり、たびたびお会いしているベリサリオ辺境伯夫妻が、いずれは私にとって両親になるというのはとても嬉しいことですし、それを北島の者達は理解してくれてます。なにしろ妖精姫とベリサリオは北島の恩人ですから」
「カミル」
お母様がカミルの肩に手を置いて優しく微笑んだ後、伯爵トリオのほうに冷ややかな眼差しを向けた。
今まで黙っていたけど、お母様も怒っているみたい。
「冷たいな。私も親戚のような気分でいるんだが」
「パウエル公爵。ありがとうございます。公爵にはいつもよくして頂いてます」
「うちの婿ですから、あげませんよ」
「妖精姫の最愛の人を奪うなんて、そんな怖いことは出来ませんよ」
いつの間にか列を逆に歩いて戻って来ていたパウエル公爵とお父様が、仲良さげに笑いながら話し始めた。
ありがたいねー。理解者がこんなにいてくれて。
でも、怖いって単語が聞こえたような気がするんですけど?
「本当に……結婚してからも帝国に?」
「ニール伯爵とおっしゃいましたか? 我が国の王族に対して、ずいぶんと先程から失礼ではありませんかな」
そうでした。
今日はサロモンの御父上であるマンテスター侯爵が来ていたんでした。
若い人だけでは箔がつかないからと、息子に留守番させて奥さんと帝国に滞在しているのよ。
家を出ているはずのサロモンに、侯爵家の留守番させるっていうのがおかしいんだけどね。
「待て、侯爵。不安や疑問は早く解消しておいた方がいい。私は、ディアが皆に祝福されて結婚出来るようにしたい」
いつの間にか、広間の空気が変わっていた。
さっきまでカミルを不満そうに見ていた人達が、いつの間にかずいぶんと好意的な視線を向けている。
さりげなく両親がいないとか、私の幸せを考えているって発言しているせいで、好感度がアップしているのかもしれない。そこにパウエル公爵やラーナー伯爵まで結婚を祝福している雰囲気になっていては、これ以上ごねたら伯爵トリオが悪者だ。
「それに、ディアと婚約するということは身の危険があるということも承知しておいていただきたい」
「身の……ニコデムスですか?!」
「はい。婚約が決まってから、何度も刺客が送られています」
はい。これで私の婚約者に立候補する人はいなくなりました。
伯爵達の背後で、御子息が逃げ腰になってるよ?
「彼らは手段を選びませんから、家族や侍女も狙います。周りで何人も死人が出れば、婚約解消すると思っているんでしょうね。ルフタネンは少し前まで政権争いが激しく、私は子供の頃から命を狙われていたので、自分の身を自分で守れる者しか雇っていません。おかげで被害はありません。ベリサリオでは従業員の家族も城に住んでいるんですよね?」
「そうだ。ベリサリオ城は国境を守る砦の役目を負っているので、城内なら安全だからね」
私とカミルは、なんの心配もない。手を出したら、相手が砂になるだけだ。
問題は、その周囲の人達よ。
カミルの傍にはたぶん忍びみたいな人達がいる。
ベリサリオは領民まで妖精姫を守る気満々。
でも伯爵家が住んでいるような豪華だけど普通の屋敷では、あっという間に死人が出るかも。
「そ、そんな危険なことになっているんですか?」
「ニコデムスはどこまで卑怯なんだ!」
共通の敵が出て来たおかげで、みんなの心がひとつになったわ。
そして私に求婚する人は、たった今絶滅しました。
カミルがいるからいいんだけどね。
いや、ここは誤解を全て解いておこう。
まだ私の腰に手を回していたカミルの手を、周りには見えないようにはたいた。
「せっかくの機会です。皆さんにいろいろと誤解されているようですので、お話させてください。お父様、よろしいですか?」
「……かまわないが」
何を言い出すんだと心配しているな。
パウエル公爵やルフタネンの人達が傍に来たから、今、私の周りに人がたくさんいて埋まっている気がするので、背後の階段を三段ほど上った。
「カミルとの結婚は、アゼリア帝国の精霊王達も祝福してくれています。それはもう、帝国には妖精姫がいなくても平気だと思っているからですよ」
『え?』
どこかから声が聞こえたようだけど、ここは気にしない。
「精霊の森に琥珀が戻り、森が生き返ったのはモニカ様の功績です。別邸で御友人方と魔力を放出し、精霊に語り掛け、新たに精霊を得られた人が増えています。精霊王は精霊や精霊獣と人間が、互いを信頼し合い楽しく過ごす様子を見るのが大好きなんです。精霊の森の奥には、精霊獣を思いっきり遊ばせられる広場もあるんですよ」
こうしてみた感じ、中央貴族の中で複数の精霊を連れているのは御令嬢ばかりだ。
入り口近くのカフェには男性も来ているけど、短時間ではそう簡単には精霊と巡り合えないからね。
「そしてモニカ様と私に、精霊の森の屋敷をお与えになられたのは皇太子殿下です。きっと、こうなることを見越しておられたのでしょう」
知らんけどな。
今頃、クシャミしているかも。