軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

突撃ルフタネン   前編

ルフタネンにある私の屋敷……って、すごい金持ちっぽいフレーズね。

しかも自分で建てたんじゃないのよ? プレゼントよ。

帝国では皇太子に、ルフタネンでは国王に屋敷をもらっている私ってすごくない?

男に貢がせる魔性の女って感じ?

むなしくなるからやめよう。

この屋敷に来るのは久しぶりで、まだ二度目だ。

転移用に用意した何も置かれていない部屋は、天井がドーム状になっていて、高い位置にある窓から明るい日差しが差し込んでいる。

放置された屋敷と人が住んでいる屋敷の差は、埃が積もっているかどうかだけじゃなくて、耳を澄ますと聞こえてくる生活音だったり、料理の香りだったりするでしょ?

たとえ留守にしている時でも、人が住んでいる場所ってぬくもりが残っているものよ。

この屋敷には、ちゃんと人が住んでいる気配がしていた。

持ち主である私が滅多に顔を出さない屋敷なのに、手入れをして、日常的に人が住んで維持していてくれている雰囲気が、何もないこの部屋にいても感じられて嬉しくなった。

カミルはそういうことを 疎(おろそ) かにする人じゃないとは思うよ?

でもこの屋敷を大事にしてくれるってことは、私を大事にしてくれるってことにも繋がる気がして、ほっとするもんよ。

「本当に前触れなしで大丈夫なんですか?」

「カミルも突然来たことが何度もあるわよ」

「ベリサリオは、そういうのに慣れてますから」

ネリーは心配そうで、さっきから落ち着きがない。

ジェマのほうはどんと構えているのは性格なのか、年の差なのか。

「まずは第一村人を探しましょう」

「村人?」

「廊下を歩いていれば、誰かに遭遇するでしょう。それでだめなら調理場に行こうかな」

「うわー、気の毒だ」

私の屋敷なんだからいいでしょう?

問題はカミルの予定よね。

突然押しかけたから、北島にいない可能性もあるのよ。

もしそうだったら、ちょっと……だいぶ残念だな。

でもカミルが、時間が空いた時に少しでもいいから会いに来てくれって言ってたんだもん。

いつも自分ばかり会いに行っているって言うからさ、私だってちゃんと会いに来たと言えるようにしたいわけよ。

試作品を渡すという用事もあるんだしね。

「どっちに行きます?」

「正面玄関はどっち?」

「さあ?」

部屋から出たところで、もう足が止まってしまった。

三人とも、屋敷内の位置関係を把握出来てない。

はぐれたら大変だ。

「ちゃんとついて来てよ。ともかくここは右に行くわよ。ダンジョンを攻略する時は右からよ」

「ダンジョンて大袈裟な……」

ジェマが前を歩いて、その後ろに私とネリーが横に並んで歩いていく。

ジェマだけは護衛ということで、魔道士用のローブに似た長い丈の上着を着ていて、私とネリーはシンプルなドレス姿だ。

ちょっと立ち寄っただけって感じを出したいから、あまり煌びやかなものにしたくなかったのよ。

「そこも右に、あ」

突き当りが小さなホールになっていたので、そこを右に曲がろうとした時に、廊下の向こうからふたりの侍女が歩いてきた。

以前ここに来た時に話したことのある侍女だわ。

「こんにちは。よかった、人がいた」

「ふぇ? よ! よ、よ、よ」

「よよよ?」

持っていた荷物がどさどさっと足元に落ちたのに彼女達は気付いていないのか、目を見開いて硬直している。

「ど、どど」

「ど?」

「大丈夫? あなた確かリュイさんよね?」

侍女同士、ネリーは名前も覚えていたようだ。

前に出て笑顔で話しかけたら侍女達ははっと我に返り、その場に膝をついた。

「も、もも申し訳ありません!」

「なにが?」

「落ち着け」

思わずジェマと私で突っ込みを入れてしまったわよ。

こんなに驚かれるとは思わなかったわ。

「ふたりとも深呼吸して。何も問題は起きていないわよ」

ネリーは慌ててふたりの傍に駆け寄り、自分も膝をついてふたりに話しかけた。

「突然押しかけて驚かせてしまってごめんなさい」

「あ……え? あ」

「ディ、ディアドラ様……」

「こんにちは。ひさしぶりね」

私も彼女達に近付いてしゃがんで、手をひらひらと振って挨拶した。

「は、はい! おひさしぶりです。お目にかかれて光栄です!」

「いらっしゃいませ。あ、違う。お帰りなさいませ?」

「そうね。私の家だものね。ただいま」

ようやく落ち着いたようなので、ふたりにも立ってもらって、ネリーとジェマも手伝って荷物を拾い集めた。

突然は駄目ね。

ベリサリオは皇太子が来ても放置していたから、あんな感じを想像していたのよ。

こんなに動揺されるとは思わなかったわ。

「ディア様のお部屋は使える?」

「はい。いつでも使用出来るようにしております」

ネリーの質問にリュイという侍女は胸を張って答えた。

「ディア様、いったんそちらに参りましょう」

「そうね。掃除が行き届いていて、とても気持ちいいわ。あなた方のおかげね」

「も、勿体ないお言葉!」

「光栄です!」

なんなのその仰々しい返事は。

もっと顔を出して親しくならないと駄目かな。

成人したら、ここに滞在して嫁入りの準備を始めるんだもんね。

「ひとりが部屋に案内している間に、もうひとりはお茶の用意とカミル様への連絡をお願い出来る?」

「ネリー、お茶はいいわよ。カミルが忙しいようなら、荷物を置いてすぐに帰るんだし」

「いえ! ぜひゆっくりしてください!」

「カミル様、きっと暇です!」

暇って言いきるのもどうなの?

そんな縋りつくような目をしなくても、来たばっかりで急に帰るって言い出さないわよ?

「もしディアドラ様がいらした時には、何があってもすぐに連絡するように言いつけられているんです。最優先です!」

「そ、そう。じゃあお願いね」

「はい!」

走るな走るな。

転ぶわよー。

歓迎はされているようでよかったわ。

私が帰った後も何回か荷物を送り、レックスがこちらの人と一緒に家具を置いてくれたので、私の部屋もすっかり居心地のいい雰囲気になっていた。

テラスに続く窓は全部開けられていて、風が心地いい。

窓際には瑠璃にもらったクッションが、そのままの位置におかれていた。

「こちらの方はディア様を崇拝しているんですかね」

「恩を感じてくれているんじゃない? いろいろしたから」

「ディア様が嫁いだら、城は静かになるんでしょうね。その分ここは忙しくなりそうですね」

「ジェマ、私が全ての騒動の原因みたいに言わないでくれる?」

それに嫁いだらこの屋敷じゃなくて、カミルの屋敷に住むでしょう?

なんで最初から別居するのよ。

「失礼します」

はやっ。もう人が来た。しかもたくさん。

先頭にいる人は侍女長さんじゃない?

あれ? あの人はカミルの屋敷で働いているはずよね。

「お帰りなさいませ、ディアドラ様。カミル様は商会のほうにお出かけ中ですので、もうしばらくお待ちください」

侍女長が挨拶している間に、三人の侍女がケーキや果物の載った皿をテーブルに並べ、お茶の準備を始めた。

確かこの屋敷を担当する人達も、自分の身は自分で守れる人達だとカミルが話していたっけ。

なんというか、歩くのも動作も早くて動きに無駄がないのよ。

「カミルに忙しければ無理をしないでと伝えてね。試作品を持ってきただけだから、預けていけばいいし」

「いえ、おそらくすぐに駆け付けると思うので、お待ちいただけるとありがたいです」

「会議とか、商談とか、大丈夫かしら」

「問題ありません。イースディル公爵家では妖精姫が最優先と決まっています」

突然押しかけておいて私が言うのもなんだけど、それでいいのか。

侍女長って無表情だから冗談かどうかわからないのよ。冗談じゃないだろうけど。

ルフタネン突撃はしちゃ駄目だった。

カミルはいいとして、周囲の負担が多そうだ。

城と個人宅では違うわね。

「このケーキ美味しい」

「いつディアドラ様がいらしてもいいように、お好きそうなものを用意しているんですよ」

「リュイ」

「え? 言っては駄目でした?」

いつも?

いつ来るかわからないのに?

「公爵家から予算が出ていますので、お気になさらず」

「そうですよ。私達が食べるので無駄にはなっていません」

「リュイ、下がっていなさい」

「あ……はい」

「いいのよ、大丈夫。そのくらい気さくに話してくれた方が私は嬉しいの」

問題はカミルよ。

何をしているのよ。

もしかして食事だって出来るようにしているんじゃないの?

予算をいくらかけてるの?

「ディア?!」

ドタドタドタっと走る足音が近付いてきたからドアに目を向けていると、部屋の前で止まり切れなくて体が流れそうになるのをドアを掴んで耐えて、カミルが部屋に入ってきた。

商会の建物にいたのよね。この早さは何?

転移して、あの部屋から走ってきたの?

「本当にディアがいる」

えーと、こういう時はどういう挨拶をすればいいんだ?

「来ちゃった」

って、照れ隠しの笑顔で言ってから、心の中で頭を抱えた。

なんだこの台詞は。

「うぐっ」

そして、なんでカミルは胸を押さえて呻いているのよ。

吐血でもしそうな変な音がしていたわよ。

「ひさしぶりに笑顔を見るとすごいな」

「なにがよ」

「かわいい」

「…………」

どうしてくれるの、この室内の空気を。

ほのぼのと子供を見つめるような優しいまなざしの人と、なんとも言えない生暖かいまなざしの人がいるわよ。

恥ずかし過ぎる。

「と、ともかく、試作品を」

「走ってきたから喉が渇いた」

「すぐご用意します」

すたすたと近付いてきたカミルは、当然だという顔で私のすぐ隣に腰を降ろした。