軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大反省とウィキくん

夜が明けるまでグラスプールにいたせいで、起きたらお昼近くで、お兄様達も両親も出かけていて、私だけがお留守番よ。

別にいいもんね。アランお兄様が近衛の訓練に参加するようになってからは、よくあることだもん。

「まだ疲れているから、寝室でのんびりしたいの。ひとりにしてね」

って侍女達に言って寝室の扉をしっかりと閉めて、ノートとペンを手にベッドに乗っかって、天蓋のカーテンもぴったりと閉じる。

こうすれば突然誰かがやって来ても、私が何をしているか見られなくて済むわ。

寝室には居間を通らないと入れないから、居間に誰か来たら知らせてくれるように精霊にも頼む慎重さ。しっかり者でしょう?

ベッドの真ん中で胡坐をかいて、真っ白いままのノートを眺めて、本日何回目かのため息をついてしまった。

昨夜はグラスプールに転移してからが大変だった。

クリスお兄様に連れられて行った会議室には両親も来ていて、ひさしぶりにベリサリオ一族が勢揃いよ。

その中で叱られるのかとしゅんとしていたら、無事でよかったと両親に抱きしめられて、余計に罪悪感が強くなってしまった。叱られた方がよかったかも。

伝令からの報告を受けて、夜会をそっちのけでグラスプールに来た両親は、なんで私を止めてくれなかったのかと、叔母様やお婆様と言い合いになってしまったんだって。

叔母様やお婆様にしてみれば、精霊王に守られている私ならどこに行ったって危険なんてないんだから大丈夫って思っていたのよね。私の考えも、ふたりに近い。使えるモノはなんだって使うべきだと思っているの。

でもお母様にとっては、妖精姫だろうが精霊王が守ってくれようが、娘は娘。

深夜に誘拐犯がいる深い森に行くなんて聞いたら、心配するのは当たり前だろうって涙ぐまれてしまって、叔母夫婦と祖父母と私にアランお兄様まで加わって平謝りよ。

昨夜は転移魔法が役に立った以外は、私や精霊王がいなくても、アランお兄様と兵士達だけで問題なかったのは認める。でもそれは結果論よ。

反省はしているけど後悔はしないわ。少女達の両親だって、うちの両親と同じように娘を心配していたはずだもん。

でもね、カミルとの婚約が決まったのに、私が目立つのはよくないんだって。

今でも私が外国に嫁ぐのは反対だって人がたくさんいるのに、ここで活躍したら、そういう声がもっと大きくなるでしょ?

でも私やカミルは精霊王の後ろ盾がいるから直接は反対出来なくて、私達に文句を言えない分、私の周囲の弱い立場の人達が嫌味を言われちゃうみたい。

今だと、ルフタネンの来賓の中でも若くて立場の弱いキースとかが、嫌味を言われているみたいなの。

性格の悪いやつはどこにでもいるのよね。

帝国の高位貴族には理解者が多いからとても助かっているけど、最近はいろんな家が代替わりしているから、私を取り巻く人達の顔ぶれも徐々に変化している。ノーランドだってコルケットだって、今の当主も話のわかる人達だけど、若いから周囲の意見を尊重せざるを得ない時だってあると思うのよね。

直接私と話す機会のない人の中には、精霊王に守られているからと調子に乗っている嫌な子供だと、私のことを思っている人だっているんだろう。

実際、私と関わり合いになりたくないと思っている人は多そうだもん。

でも外国には行かせたくないんでしょ?

帝国内じゃ縁組ひとつなかったくせにさ。

一生独身で、帝国のために妖精姫をやっていろってこと? 絶対に嫌。

私は普通に恋愛して結婚して、両親に孫を見せてあげるの。

前世で出来なかった分、親孝行をする……って、してないかも。心配させてばかりだ。

なにやってるのよ、私ってば!

やっと恋愛出来て、婚約だって出来たのに、なんで自分から問題に飛び込んでいくの。

普通の生活が目標だったじゃない。

お母様を泣かせたら駄目よ。

胡坐を組んだまま上体を前に倒して、額をぐりぐりとシーツに押し付けて呻いて、そのまま手を前に滑らせ俯せに寝転がった

私の体、柔らかいでしょ。たぶん前髪はめちゃくちゃになっているけどね。

前世のような死に方をしないように、毎日の運動は欠かしていないのに、一番大事な目標を見失っていたわ。

婚約が決まって、浮かれて油断してた。

というかさ、次から次へと問題が起こりすぎなのよ。考えなくちゃいけないことが多すぎよ。

平穏な毎日はどこに行ったのよ。

半分は自業自得?

…………あとでもう一度お母様に謝ろう。

昨夜のことは反省した。

本気で深く深く反省した。

でもこれ以上落ち込んで、時間を無駄には出来ないのよ。

昨夜、会議室で私が叱られなかったのは、みんなで平謝りしたからだけじゃないの。

シプリアンの補佐官が自殺に使った毒が、六年前のバントック毒殺事件の時に使用されたものと同じだったと報告されたからなの。

バントック派を殺した毒じゃないのよ。

私のお友達やその家族に盛られた毒の方ね。

つまり、ニコデムス教が使った毒のほうよ。

シュタルクの王子の補佐官まで、ニコデムスと関係があるってことでしょう。

これは大問題よ。

帝国はニコデムスを敵認定しているんだから。

うちの家族への詳しい報告は隊長がして、アランお兄様とクリスお兄様はすぐに皇宮に転移して、皇太子にも状況の報告をしたの。

もう転移魔法は嫌だなんて、アランお兄様も言っていられないから、皇太子に特別に転移の許可を得て行ったり来たり。大忙しだったわよ。

その間にも、シュタルクの船への強制捜査は行われるし、皇宮にいたシュタルクの来賓は軟禁状態になるし。

その間私は何をしていたかって?

綺麗な服に着替えて、会議室の端でケーキを食べていたわよ。深夜に。

だって両親の見えるところにいないと心配させちゃうし、久しぶりに孫に会えて甘やかしまくりたい祖父母があれもこれもとテーブルにお菓子を並べだすし。他にどうしようもないじゃない。

慌ただしくしていたお兄様達も、会議室に顔を出すたびにお菓子を摘んでエネルギー補充していたから、全く役に立っていなかったわけではないと思いたい。

そして朝方、空が白み始めた時、シュタルクの船と船の間の海面に、憲兵ふたりの死体が浮かんでいるのが見つかったの。

シプリアンはどうやって船を抜け出したのかと疑問だったけど、こんな形で答えが見つかるなんて……。

あいつら、皇族兄弟の誕生日を祝いに来た賓客だったのよ。

帝国は食糧難のシュタルクに、たくさんの援助をしている友好国なの。

それなのに憲兵を殺害して、少女を誘拐に行くってありえないでしょ。

ベリサリオ一族大激怒よ。

売られた喧嘩はきっちり買うわよ。

ベリサリオだけでなく、帝国全土が怒っているんだからね。

憲兵さんにも家族がいるのに、なんてことをしてくれるのよ!

それに、皇族兄弟の誕生日をめちゃくちゃにしやがって。

これでまたエルドレッド殿下の誕生日会へのトラウマが増えたらどうしてくれるの?

もちろん私だって怒っているのよ。

それに頭を整理しないと、もうわけがわからなくて……。

ニコデムスと組んでいるのは誰で、シプリアンは誰の指示であの場にいたのか。

ペンデルスはシュタルクとどういう関係なのか。

正確な情報が欲しいじゃない?

そうすれば取り調べで得た情報が正しいかどうか判断できるし。

「ウィキくん、カモーン!」

むっくりと起き上がってペンを持ち、久しぶりにウィキくんを開く。

一度調べた項目もリアルに変化があれば、ウィキくんに書かれていることも変わるのは知っているけど、そんなに頻繁にはチェック出来ないし、依存してしまうのもどうかと思うのよ。

ウィキくんのことは誰にも話していないから、あまりにいろんなことに詳しくても、情報の出所を説明出来なくて活用しにくいのもあって……それにちょっと面倒というか……。

知りたいことがないと見る気にならないのよ。

リンクがリンクを呼び、どんどん違う項目に飛んでいるうちに、何を調べていたかわからなくなるからね。

でも今日は調べたいことをいくつか決めてあるから大丈夫。

「まずはシュタルク王国について……っと」

最初の方に書いてあることは今までと変わらないな。

歴史も前に見たから、最近の項目だけチェックしよう。

「王権派と反王権派の争いが激化? ニコデムス教徒と彼らを国外へ追放したい貴族とも争いがあって、食糧不足に不満を持った農民が暴徒化。領主を処刑し、帝国の本を参考に精霊が戻ってくるような土地にしようと動き始める地域が出てきたって、そんなひどいことになってるの?!」

よくそれで他国の皇族の誕生日祝いになんて参加するわね。

他にしなくちゃいけないことが山積みなんじゃないの?

「領民と協力して精霊を戻そうとする貴族も出てきているのね。そうしないと殺されそうだしね。もともと精霊を大事にしていた辺境伯と風の民が協力して、独立しようとしているのか。帝国に嫡男が来ていたのは国王の命令で、嫌がらせ?」

嫡男を人質にしようとでもしていたのかな。

でも馬鹿王子が茶会で暴れたせいで、予定を大幅に短縮して辺境伯嫡男は国に帰ってしまって、その馬鹿王子は少女誘拐未遂で地下牢行き。

もうね、本当にアホすぎて……いや、待って? 本当に国内がこんな大変な時に、帝国を敵に回すようなことをするほどシュタルク国王は馬鹿なの? まともな王族はいないの?

これって王族を排除したいと思っている貴族側の差し金じゃない?

たぶん帝国はシュタルクとの貿易を全面停止するわよ。

今回のような犯罪が起こる危険があるからと、難民受け入れも停止。輸出入停止。

それでもベリサリオに近付こうとする船は攻撃対象にするって、お父様が言っていたもの。

おかげでルフタネンやベジャイアの船も、提出しなくてはいけない書類が増えたり、検査が増えたりで迷惑をこうむりそうなんだって。

「ただ王子が馬鹿だっただけだったら、救いようがないわね。シプリアンのことが書かれているのは……」

うーーん。なんと言えばいいんだろう。

我儘いっぱいに育てられた世間知らずの箱入り王子?

集中力が足りなくて、学問が嫌いで、上にふたりの王子がいるから国王と直接面会することも滅多になくて、補佐官を通じて仕事の説明を受けている……ねえ。

「補佐官て、ニコデムス教の毒を持っていたあの補佐官でしょ? おだてると扱いやすくて、いろんな貴族にいいようにあしらわれていたみたいね」

国王からの指示と思って少女誘拐をしたら、実はニコデムスや反王権派の罠だった?

少しは脳みそを使おうよ。

ちょっと考えればおかしいと思うでしょう。王族が少女誘拐の現場に足を運ぶ必要性って何よ。

「もうこいつはいいや。どうせ地下牢に閉じ込められたら、全部吐くでしょう」

馬鹿王子のインパクトが強すぎて影が薄くなっているけど、もうひとり忘れてはいけないやつがいる。

アルデルトの立場ってどうなの?

馬鹿王子ですら遠慮していた公爵子息でペンデルスとの混血。

「表向きは王子が今回の帝国への使節団の代表になっているけど、実はアルデルトが中心になっていたって書いてあるじゃない。でも誘拐を指示したとは書いてないんだよなあ。あれ? アルデルトの父親って反王権派なの? あー、邪魔な国王や王子が消えれば、バルテリンク公爵にとってはありがたいのか」

妖精姫をアルデルトが欲しがるのもそのせいなんじゃない?

ここで反王権派に妖精姫が嫁ぐなんて話になったら、王族はもう終わりでしょ。

よくわからない口説き方をするから気持ち悪いんであって、むしろはっきりと反王権派のために縁組したいと言ってくれた方がすっきりするわよ。

「ディアドラを運命の相手と思っている。彼女を攫ってでも自分のものにしようと……なんですと? 反王権派のためじゃないんかい!!」

ちっとも嬉しくないわよ、こんなモテ方は。

ストーカーよね。それかヤンデレ?

まともに会話もしていないのに、なんで運命の相手って思うのよ。

カミル暗殺未遂もこいつの差し金じゃないの?!

「……カミルについて書かれていることも変わっているのかな?」

ディアドラが婚約者って書いてあったり?

相思相愛とか、ディアドラを愛しているとか書いてあるのかな。

見たい気はするけど、見るのがこわいような、見たら卑怯なような気もする。

私だったら、心の中を見られるみたいで嫌だもん。

「やっぱり、自分に近い人は見るのをやめよう。家族やお友達も駄目」

ウィキくん、政治のことだけとか、私が見ておいた方がいい項目だけピックアップしてくれないかな。

我儘すぎか。

ありがたいと思っているのよ。とっても助かっているの。

「いつも助かっています」

ウィキくんを拝んでいたら、

『居間にジェマが来た』

イフリーが知らせてくれた。