軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ダンジョンの様子

「ねぇ~マスタァ~? 本当にビールで良かったの~?」

新しい階層ができてから、目を覚ましたペタちゃんはご立腹であった。

シルド団長が新しいお酒を見つけ、地上に報告に上がってから結構たったが、いつまでたっても冒険者が大挙して詰めかけてこないからである。

「どうやらセパンス王国の騎士たちは、男性第1部隊の怪我治療の温泉の運び出しに忙しくて酒どころじゃないみたいだし……。

そもそも17階層まで降りてこられるほど実力がある騎士や冒険者が少ないんだよね……」

だいたいそんなところまで降りてくる実力がある国の騎士は、武具、鉄、糸ダンジョンに派遣されるのだ。

それらのダンジョンに派遣したほうが、国益で考えれば正しい選択肢である。

だいたいウチにやってくる他国の騎士は、姫や大貴族の娘さんのワガママでつれてこられた護衛の騎士だ。

しかしそれらも、大半は温泉ダンジョンの11階層の若肌の湯が目的なのだから、11階層までしか降りてはきてくれない。

食事が美味しくて居心地がいいダンジョンなので、フリーの冒険者には一定数の人気があるが。

そんな冒険者もだいたい12階層で酒を探しているか、一攫千金狙いの冒険者でも15階層でトルマリン宝石を狙っているかである。

16階層から下はシルド団長という例外を除けば、セパンス王国の騎士がほとんどなのだ。

「日本酒やウイスキーが12階層までで取れちゃう関係上、かなり強い冒険者でも命がけになる17階層でお酒が取れるだけじゃ割に合わないのが原因か……。

溶けない氷もダンジョン内限定のアイテムだからセパンス王国の関係者しか積極的に取りに来ないからな」

「どうするのよ! このまま不人気階層で終わっちゃったら飯困らずダンジョンは17階層で止まっちゃうわよ?」

「第1部隊の治療用の湯の運搬が終わったら、ヴィヒタさんとか第2部隊は来るとは思うんだけどねぇ……。

でも、セパンス王国の騎士に頼りっぱなしの現状が不健全なんだよね……もっと他国の騎士や冒険者もたくさん最深階層に駆けつけてくれないとな。

でも、まあ、今のところあんまり心配はしてないんだけど」

「なんで?」

「温泉ダンジョンの次の階層で作ろうとしている温泉は、必ず世界中から人が駆けつけてくる確信があるからな。

飯困らずダンジョンでも同等の効果を得るためには、なるべく深い階層に運ぶ必要がある以上、絶対に飯困らずダンジョンの最下層にも需要が発生する」

「次の階層でマスターが作ろうとしてるのって、病気治療の湯だったっけ? そんなにそんなお湯が需要あるの?」

「あるよ! ありまくるよ! そんな湯が地球にあったなら俺だって病気で死んでないよ!」

「……それさぁ、マスターが病気で死んだから過剰な期待をしてるとかってないの?」

「ない!」

まったく……健康のありがたみというものを知らないダンジョンコアはこれだから困る。

19階層の湯で全力で作った病気改善の湯がどれほど恐ろしい効能なのかわかっていないな?

ちょっと調べた所、風邪も口内炎も痔も水虫も性病も白血病も癌も認知症も治るんだぞ?

現代医療を遥かに凌駕した性能だ。

むしろあまりに恐ろしすぎる性能にセパンス王国が他国から侵略されないか心配だから、もっと騎士や防壁の強化が完全に終わってから作りたいくらいなんだよ。

「とにかく19階層を作るのは、鉄ダンジョンの鉄をふんだんに使った防壁が完成してからだな」

「そのお湯って入ってすぐ効能わかるの? どうせ入るのって健康なトウジ隊長とかヴィヒタとかって奴なんでしょ?」

「……言われてみればそうだな、効果効能ははっきり書いておくべきかもしれない。

ダンジョンが文字を書けるとはっきり示すのもどうかと思っていたが、もういまさらだろう……」

俺は、アウフちゃんからのお手紙に視線を向けながらそう思う。

ダンジョンの入口に温泉ダンジョンって書かれてたから、文字は通じるものだと思ってますって書かれてたしな。

そうだな、そんなの書いてたな、完全に忘れてたよ。

「じゃあ、このあらかじめ作ってある19階層の温泉の壁に、効果効能をコピペして……と」

効果効能の文字を壁に貼り付けた瞬間、壁一面が文字で埋まった。

いや、壁一面なんてものじゃなく、床や天井に至るまでが文字で埋め尽くされて呪いの部屋みたいになってしまった。

「は? え? なんだコレ??」

バグったか? いや、ダンジョンにバグなんてあるの?

そう思って、みっちりと書き込まれた文字を読んでみると理由はすぐにわかった。

セパンス王国に言語で存在してない病名の翻訳が過剰になっているのだ。

たとえば「白血病」がセパンス王国の言葉でなんて書かれているかというと。

白血病(※血液のなかの免疫細胞である白血球が異常増殖してしまう病気)(※白血球とは血液の中に含まれる免疫細胞のうちの1つであり主に外部からの病原菌への対抗組織である)(※病原菌とは……免疫とは……細胞とは……)

というように、細胞や病原菌といった概念がまだないであろうセパンス王国民に病名の内容を説明するため、このように延々と注釈が連続してしまっているのである。

数百近い病名の一つ一つに、こんな長ったらしい注釈の注釈による注釈みたいな文章が加筆されてしまった結果、文字まみれの呪いの部屋みたいになってしまったというわけである。

「……これを直すのはめんどくさいな、というか、どう直したらいいのかもわからない」

……よし、これはもう、そのまま通してしまおう。

なぁに、アウフちゃんだって新しい未知の医療の概念を知ることが出来てとってもハッピーだろう。

これを全部書き写して報告する部隊の人は頑張ってください。

まあ、19階層の建築はもっとあとになるけどな……、できれば飯困らずダンジョンがもう1階層成長してからくらいにしたい所だ。

♨♨♨♨♨

それからしばらくして。

ヒトウ隊長率いる第1部隊が、かなりボロボロの状態で帰ってきた。

話を聞いている限り、9階層の歪み直しの湯で、肉体が完治したことによる慢心と、トウジ隊長ら女騎士に実力が追いつかれてきていたことに対する焦り。

そのため最深の26階層を深入りしてしまった結果、手痛い打撃を受けてしまったということらしい。

まあ、至極普通の理由だな。

「ヒトウ、温泉ダンジョンの体力回復の湯の効果は素晴らしいぞ、怪我が治ったあとは、慌てずにこの湯を使って筋力を限界まで鍛え上げな」

トウジ隊長が、歪み直しの湯に手足を漬けているヒトウ隊長らに向かってそう話しかけている。

絶対に元に戻りそうにない形にひん曲がっている腕や足がまともな形に戻っていく。

すごいな、歪み直しの湯、自分で作っておいてなんだがびっくりする性能だ。

「……俺達が完治するまでの間、お前らが代わりに鉄ダンジョンに行くのか? トウジ」

「ああ、せっかく鍛え込んだんだ、試してみないと気がすまなかったからありがたい話だね」

「25階層で戦うための虹の鉱石は貸してやる……25階層で危険を感じるようなら26階層には絶対に行くんじゃないぞ」

虹の鉱石?

「虹の鉱石ってなあに? ペタちゃん」

「なんだったっけ、たしか鉄ダンジョンコアが昔、ひたすら丈夫で硬い、虹の鉱石って金属を作ったのよ。

たしかにめっちゃくちゃに硬いし頑丈なんだけど。

すごく重たくて、おまけに硬すぎて全く加工できないって事で、人間には大不評だったって聞いてるわ」

そういや25階層からのモンスターは、ひたすら皮膚が硬くて地上の武器がまったく通じなくなるんだっけ。

つまり、鉄ダンジョンの深い階層ではその鉱石で作った武器で戦ってるということか。

おそらく何の加工もせず、拾った鉱石に柄をつけたり、紐や鎖とかとつなげて分銅にしたような不格好な石器で戦うハメになってるわけだ。

前世のRPGとかでも、このダンジョンでは馴染みの武器ではダメージが通りません、専用の武器を使ってねってダンジョンは総じてしんどいクソダンジョンだった記憶があるな……。

そりゃ赤の剣とかいう、深層でも使えるまともな武器が出る武具ダンジョンが世界最大のダンジョンに伸びるわけだ。

「赤の剣をクラプス王国に持ち込んだら何を言われるかわかったもんじゃないからねぇ……仕方ないな」

そんな会話の後、トウジ隊長達は鉄ダンジョンに向けて行ってしまい。

代わりにヒトウ隊長たちが、飯困らずダンジョンに在駐することとなった。

そして治療が済んだ集団から順に、体力回復の温泉水を最深階に持ち込んで筋トレを開始しはじめた。

トウジ隊長達、筋肉質の女性の全裸筋トレと違って、ガチのゴリラマッチョ野郎どもの全裸筋トレである。

実に見た目がよろしくない、モニターに映したくない。

さらに筋トレ途中に襲ってくるモンスターを気軽に全裸で倒し、手に入れたビールを背嚢に詰め込んで。

パンパンに膨らんだ背嚢を背負った全裸の男たちが、再度筋トレを続ける。

絶望的な絵面だ、助けてトウジ隊長。

そして背嚢に入り切らないほどのビールや酒が溜まってくると、それを持って全速力で地上まで駆け上がっていく、この時は流石に服を着ている、ずっと着てやがれ。

浅めの階層にいる輸送部隊に荷物を渡すと、11階層の湯でお綺麗になった娼婦が大量に在駐しているダンジョン内のお店でちょっとご休憩を挟みつつ、また最下層へと走って戻っていく。

いい映像だ、保存した。

「ねえーマスター、あれってたしか繁殖行為よね? なんでわざわざ危険なダンジョンの中でそんな事してるの?」

「……ソウダネー、ナンデダロウネー」

「昔の飯困らずダンジョンの貧民層でも、おしりをモンスターとかにかじられるから、そういう事は安全な外に行ってするのが常識だったはずなんだけどな?

わざわざダンジョン内の奥深くでしてる理由がわかんないわね?」

「……そんな事よりさ、ビールがどんどん運ばれていってちゃんと大好評だよ、ほらほら、さっきのお姉さんも冷えたビール美味しそうに飲んでるし」

第1部隊のマッチョといい汗をかいたお姉さんが、料金として譲ってもらっていた溶けない氷でキンキンに冷やされたビールを飲んで幸せそうな声を上げている、全裸で。

「うんうん、一時はどうなるかと思ったけど、ちゃんと好評だったわね、よかったわ」

ここ数日のペタちゃんはご満悦だ。

第1部隊が最深層に入り浸ってくれているし、ビールをじゃんじゃかと地上に運び出していくので、ビールの美味さはだんだん王国全体に広まっていったらしく。

17階層まで降りてこられる実力を持った冒険者も、ちょくちょく17階層までやってくるようになってきた。

温泉ダンジョンの方はというと、トウジ隊長がいなくなってしまったことで、18階層は閑散としちゃうかなと思っていたが。

今度はシルド団長達が18階層の湯に在駐してトレーニングを続けてくれた、全裸で。

元々、テタ王妃を温泉ダンジョン深部にお連れする実力をつけるという大義名分でセパンス王国に在駐しているのだから、新しいお酒が出たからといってそちらにかまけているわけにはいかないようだ。

マッチョ男の全裸訓練を見すぎて腐った網膜に、シルド団長達の裸がスーッと効いて、これは……ありがたい。

「はあ、はあ、シルド団長っ……これは、いつまで……続ければっ?」

「筋力と体力の成長が止まるまで……ですよ、マーポンウェアのためにも、トウジ隊長並の力を私たちも手に入れるのです。

あと、未来の……飯困らずダンジョンが深層で出すお酒のためにもっ……」

後半のセリフは、部下に聞こえないようにぼそっと言っていたが。

お酒に関しては、もう俺の酒知識があまりないから、そんなにいいお酒が今後出てくる事はないんだ……ごめんなさい。

「あと、今は飯困らずの17階層にセパンス王国のヒトウ隊長達がいるでしょう……あの人達があの階層からいなくなってくれないと。

全裸の……殿方が……こっちを見てニヤニヤと……ああ! もう!」

シルド団長が、網膜に焼き付いた光景を消そうと真っ赤な顔で頭を振ってる。

他のメンバーも、何かを思い出したような顔で苦笑いの顔になっていた。

なるほど、17階層にシルド団長達が駐在しないわけだ。

そしてヴィヒタさん達は、ひたすら15階層、16階層の装備品修復と装備品強化の湯に、わけのわからない部品を漬けては運び、漬けては運びを死んだ目で繰り返していた。

何を作らされているのか全然わからないけど、大変そうだな、頑張ってくれよ。

エッチな光景でもなんでもないので、俺はこちらに関しては適当に流し見で済ませた。