軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

半年

王宮近くのアスレチック場では、今日も貴族の娘たちが11階層の湯への同行許可を求めて汗を流していた。

体力的に合格ラインには程遠くとも、この数ヶ月で何人かはデブが解消されて、温泉に浸かる前から美女化した者も現れ始めていた。

「ふはー、やああああっと10周できたぁあああ~~、疲れた~死にそう、でも合格は30周だっけ? 長いなぁ」

「でもずいぶん痩せてきたわ、これはこれでいいのかも」

あまりに合格ラインが遠くて、半分絶望しかけていた娘たちもこれにはニッコリである。

「お嬢さん方、ずいぶん引き締まってきたねぇ、運動はいいことだ」

「ここを30周か……ユーザ陛下、足手まといを連れて行くのめんどくさがってるだけっぽいな」

「20程度回れるなら、休みを多めに挟んで、手伝い増やしてやれば十分いけるだろうな」

「お嬢さんたち、ユーザ陛下は今王宮にいるかい?」

ん?

誰だろう。

なんか、ドスのあるこの声には聞き覚えがある。

そう貴族の娘たちは思った。

声がわかっているのなら、さほど考えるまでもないことなのだが、脳みそが現実を受け入れてこないのだろう。

しばらく誰だろうこのイケメンなお姉さん騎士軍団は?

と、貴族の娘たちは考えて、ぼーっと返事をせずに相手の方を見ていた。

「ん? どうしたんだ、ユーザ陛下はいるのか? いないのかい?」

「…………あ!? あああああああああああああああああああ????? まさか、トウジ隊長!!!???」

ようやく脳みその回路が、眼の前のイケメン女騎士軍団=第1部隊、というふうに繋がった。

え? なにこれ? 11階層の湯まで全部浸かると、あの第1部隊が、こうなっちゃうの????????

「なんだい、誰かわからなかったのか、そんなに変わってしまったかい」

「……まあ、しかたないくらいに変わってしまいましたよ隊長」

「真っ黒い泥の板のようになってた絨毯を、徹底的に洗った後くらい変わりましたよね」

そういって、第1部隊はケラケラと笑う。

野生の狂犬の群れのようだった第1部隊が、美しくも勇ましい軍犬のような佇まいになっていた、正直カッコいい。

これが、11階層の湯の効果……、すごい、やっぱり何としてでも入りに行きたい。

「で? ユーザ陛下は?」

「あ! はい! ちょうど先日お戻りになられました、今なら王宮の方におられるはずです!」

貴族の娘が背を伸ばしてハキハキと答える、しかしその答え方は、前回の恐ろしい軍教官に対しての新兵のような怯えた答え方ではなく。

イケメンの有名人に道を尋ねられた、年頃の女の子のようなハキハキ具合であった。

「只今戻りました、陛下」

「ぶっ……」

温泉ダンジョンから戻ってきた第1部隊を見たユーザ陛下の顔が、変な形にこわばる。

固まったような表情で口を半分開けて、視線が横へと逸れている。

笑ってはいけないというルールで、笑えるものを見てしまった時にする人間の表情である。

「……陛下?」

「あ……ああ、ご苦労であ……がっ………くっ……」

ユーザ陛下はねぎらいの言葉を言おうとしているが、今にも笑いの堤防が決壊しそうでまともに言葉が出てこない。

「ふう、一回思いっきり笑ってください陛下、このままでは話にならなさそうです」

「ぶっ、ぶああああああはははははははははははははははは!!!

嘘だろ!? おい!? まじでか? お前たちこんな可愛くなるの?

いや、まあ、変わるとは思っておったが、ここまで変貌するとは思っておらんかったわ? これもう、ちょっと目付きが鋭いだけの第2部隊じゃろ!!

いかん、苦しい、死ぬ!!!」

陛下は本当に遠慮なく笑った、大爆笑した。

玉座から半分身を乗り出して横に前かがみで倒れ、腹が捩れて引きつって息が苦しくなるレベルで笑い転げた。

まともに話せそうな状態になるまでに、たっぷり2分くらいはかかったかもしれない。

「……陛下、そろそろ大丈夫でしょうか」

「はあ……はあ、ああ、はーーー、すまんな、もう話せる、話せるぞ」

「それでは陛下、折り入ってお願いがあるのですが、数ヶ月ほどセパンス王国に滞在させてはいただけないでしょうか」

「ほう? 理由は?」

だいたい察しはついているといった面持ちで、ユーザ陛下が尋ねる。

「はい、目的は10階層の鍛えられる効果が上がる湯でございます。

ダンジョン内に数ヶ月住み込みで鍛え上げ、他国の巨大ダンジョンの下層に挑める力を身につけたく思います」

それは予想通りの回答だったらしく、ユーザ陛下は、だろうなといった顔でその言葉を聞いていた。

そして、第2部隊の面々は、その続きを言うんじゃない!! といった顔でその言葉を聞いていた。

9階層の作物で地上に戻らなくても生活はできてしまう、住み込みで鍛えさせられるかも知れないという悪夢が現実化しそうだからだ。

「実はな、お前たちが持ち帰った布と糸を使って、すべての女騎士達のこれからのダンジョン探索に役立つ武具や道具を作らせる交渉をしてきておるのだ。

それがすべて完成する期間が約半年じゃ」

「……つまりその武具ができる半年の間は、ここで鍛えていてもよろしいということですか?」

トウジ隊長が歓喜の心を抑えきれないといった様子で微笑みながら答えた。

第2部隊は、あなた達だけで鍛えてきてください! と心のなかで絶叫していたが。

ユーザ陛下の隣に立っている第2部隊の隊長が、すべてを諦めたような表情なのがすべてを物語っていた。

「うむ、第2部隊の皆も鍛えておいてくれ、これからさらに広がるであろう温泉ダンジョンへの対応ができるように、な」

決定的な一言が飛び出した瞬間、第2部隊のメンバーすべての顔が真っ青になり、叫ぶのをこらえるような引きつった顔になった。

新兵教育時代の悪夢訓練の日々が明確に脳裏に蘇り、絶望で眼の前が真っ暗になった。

第2部隊どころか、第1部隊の面々ですら、これはしんどくなりそうだな、って顔をしている、どんな地獄の特訓が待っているというのか。

そんな中、トウジ隊長1人だけが喜びと期待に満ち溢れた顔をしていた。