軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

336.【シュガーの物語】先輩冒険者のミリー

十五年前、ザンザスの冬。

ザンザスではさらさらと粉雪が降ってきていた。

この地方では珍しいことだ。

冒険者ギルドも閑散としていた。

そんな中――ふもふも……。

コカトリスの着ぐるみに身を包んだレイアが、まだ少年のシュガーに声をかける。

「これも大切な仕事だ、シュガー」

「……は、はぁ……」

「街とコカトリスに同化し、案内役を務める。立派な冒険者のお仕事だ。ザンザスのことは頭に叩き込んでいるだろう?」

数年先輩のレイアは変人として有名だった。

だけど有能な冒険者としても知れ渡っていた。

この着ぐるみも、どこからか調達してきたやつだ。

それがどこなのかは、知らなかったけれども。

「も、もちろんですよ!」

「結構。君は物覚えが良いみたいだからね」

ふもっとした腕が肩に置かれる。

……ちょっと生暖かい。

「コカトリスワッペンをつけて、案内役をこなそう!」

そんなわけで、シュガーはザンザスの通りで案内役の仕事をしていた。

もちろんただ働きではない。魔物討伐より格段に安いが、お金はちゃんと出る。

「……なんでもやらないとな」

手を擦り合わせながら、シュガーは呟いた。

お金には余裕がある。父親からの送金は、ザンザスに来て数年経った今も続いていたからだ。

だけどいつまで続くのか、それはわからない。

もしかしたら――すぐにでも送金は途切れるかもしれない。

そしてもちろん、父親の金は必要だったけど頼りきりにはしたくなかった。

冒険者として十分な報酬はあるけれど、でも冒険者はいつまでも続けられない。

懸念はもう一つあった。

ポーションが最近品薄で、高騰が続いている。

「ギルドが言ってたよな、ちょっとした怪我ならポーション使わないほうが安上がりだって……」

このままポーションの高騰が続くと、冒険者稼業はしんどくなる。

「はぁ……」

シュガーはため息をついた。

冒険者になって数年、知識面では優秀との評価をもらってる。手先も器用で採集もできる。

でも魔物との戦い――戦闘力はまだまだ。というよりセンスがあまりない、と自覚していた。

「……そのワッペン、街の案内人かな? ちょっといいだろうか」

「はっ、はい!」

声をかけられ、ふっと顔を上げる。

そこには切れ長の冷たい目をした男がいた。一見、商人風だけれど……なんだかちょっと着慣れていない。

黒髪の美形、年齢は三十代だろうか。何となく年齢が読みづらい雰囲気があった。

でもその蛇のような目とは裏腹に、声と顔には温かみがあった。

「息子へのお土産を探していてね。コカトリスグッズが多くあるのは向こうだろうか、それともあっち?」

「向こうは木材を使ったのが多くて、あっちは金属製のが……俺、案内しますよ!」

「すまないね、最近来てないものだから」

「いえいえ! ザンザスは誰でも歓迎の交易の街ですから!」

シュガーはレイアから教わった決り文句を言って、男を連れて歩いていく。

雪はまだ止みそうになかった。

小一時間後。

雪はさらに強く降ってきた。

通りから人も少なくなり、日中にも関わらず街全体が静かになっている。

シュガーと男は喫茶店で雪の降り具合を見ていた。

男はお金持ちだった。良さそうと思ったものは片っ端から買っていったのだ。

「悪かったね、雪の中を連れ回して」

「いえ、こちらこそ紅茶とお菓子をご馳走になってしまって……」

「何、ほんのお礼だ。おかげで雪が本格的に降る前に買い物が出来た……」

男は買い揃えたお土産の袋を愛おしそうに撫でた。

「チップを上げよう、手を出しなさい」

「い、いえ! そんな……!」

「いいから」

男の言葉には力があった。人を従えることに慣れている声音だ。

シュガーはおずおずと手を差し出す。その手に硬貨の入った革袋が置かれ――。

「っ!?」

ほんのちょっと、魔力を感じてシュガーは手を引っ込めた。

「……ふむ」

「あっ、すいません……」

シュガーには魔法を使うほどの魔力はない。

だけど魔力に対する感受性はあった。手が触れるかどうかで、ようやくわかるくらいだが。

そして確信した。目の前の男は貴族階級に属している。ほんのちょっとだが、感じられた魔力は非常に強いものだった。

「こちらこそすまないね、君は魔力を感じられるのか」

「あっ、はい……。魔法は使えませんけど」

男は特に驚くでもなく、あごに手をやった。

「たまにそういう者もいる。魔法は使えないが、魔力に対する感受性がある者がね」

「……あまり役には立ちませんけれど」

おずおずと皮袋をバッグに入れて、シュガーは紅茶をすすった。

男は苦笑して、答えた。

「まぁ、多くの場合はそうだが……諦めるのは早いかもしれないぞ」

「えっ?」

「集中して、体内の魔力を受け皿のように使うんだ。そうするとわずかに気配を感じることができる……かもしれない」

「そうなんですか……?」

「何年もやらないと身に付かないが。でも抑えていた俺の魔力を感じ取れたんだ。多分、できるようになる」

男はそう言うと、窓の外を見た。

「……雪は少し降り止んだようだな」

「そうですね……。そろそろ行きましょうか」

「ああ、楽しかったよ。ありがとう」

「いえ、こちらこそ。ザンザスが良い思い出になりますように……!」

二人とも立ち上がり、握手をして喫茶店を後にした。

「……ふぅ」

雪の勢いは落ち着いたが、人通りは少ないままだ。

案内すべき観光客の姿は見当たらない。

シュガーは冒険者ギルドに戻ることにした。

とりあえず案内した分、お金を受け取って今日の仕事は終わりだろう。

「うぉぉーい、こっちー!」

冒険者ギルドに入るや、併設されてる酒場から声をかけられる。

シュガーが顔を向けると、そこには見知った女性がいた。

鮮烈な金髪と健康的な血色の良い肌。陽気に屈託なく笑っていた。

「ミリーさん……!」

「誰も来なくてさー、寂しかったんだよ〜!」

大きめのジョッキを振り回すのは、先輩冒険者のミリーだった。

「仕事帰り? ちょっと付き合ってよー!」

「……わかったよ」

シュガーは言いながら、頬が緩むのを自覚した。

彼女はいつでもこうなのだが、それでもいい。

ミリーはシュガーよりも強くて、そして魅力的だった。