軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27.スイング

それから俺は、ヒールマンゴーの生産に注力するようになった。

麻痺治しのポーションを揃える必要があるからな。

計算では俺とドリアードがフルで頑張れば、半月くらいで数が揃う。

ナールにその辺りを聞いてみると、

「一ヶ月でも早すぎますにゃ……。それは本当に驚異的なペースですにゃ」

「……だけど何ヵ月かしたら、麻痺治しのポーションもストックできる気がするけどな」

「麻痺治しのポーションにも使用期限がありますのにゃ……。おおよそ一ヶ月ですのにゃ。時間をかけて集めても、古いポーションは使えなくなっていますのにゃ」

「ふむ……そうだな。何ヵ月もかけて集めても意味がなかった」

ポーションや回復素材の効果には期限があるんだった。

長期間に渡って集めても駄目なわけだな。

麻痺治しのポーションを揃えるなら今回のように、一気にやらないといけないのだ。

だからこの数百年間、その雷精霊の住みかは攻略できなかったのか。

そうなるとこの提携はまさに、冒険者ギルドにとっては待ちに待ったチャンスだったわけだな……。

「よし、ステラやウッドのためにも頑張るか」

ウッドに麻痺は効かないだろうが、他の攻略メンバーはそうはいかないだろう。

冒険者ギルドの要請通り、ちゃっちゃっと作り上げてしまおうか。

ポーションは作っていくが、その間にステラにはウッドの稽古をお願いした。

立ち回りも決めてもらわないといけないしな。

今日は日差しが強い。風はあるが、やや暑いくらいだ。

広場に見に行ってみると、ステラとウッドが組んで何やらやっていた。

ステラが細長い棒を持ち、腰を使ってフルスイングしている。

……まるで野球のバッターのようなスイングだな。

ステラが棒を振るうと、迫力の音が出る。

ブォン……!

綺麗で流れるようなスイングだ。プロ野球選手を思い出す。

この世界には野球はないはずなんだが……。

実に早くてブレのないフォームとスイングだ。

何か変な気がするが、とりあえずもっと二人の近くに行ってみるか。

「熱心にやっているな」

「エルト様!」

「ああ、気にしないで続けてくれ」

俺の方が気になっているんだから。

なぜに野球のフォーム……?

「では……。ウッド、動く雷は丸くて……握りこぶしくらいの大きさなんです」

「ウゴウゴ、おおきくない!」

ふむ、大きさは野球ボールだな。

「はい……それでこちらの体めがけて体当たりをしてきます。狙ってくるのは正確に胸の辺りから膝上くらいまでです」

それ、野球のストライクゾーンじゃないか。

「動く雷は単純です。大きい人も小さい人も必ずその範囲へ直線的に飛び込んできます。なので飛び込んでくる瞬間を逆に狙います。体をそらしながら、返り討ちです……!」

うん、野球だ……。

「ウゴウゴ! わかった!」

「重要なのはよく動きを見ることです。体の軸をぶらさず、冷静に……」

ステラコーチの指導が続いている。

ふむ、まさか動く雷はそんな魔物だったのか……。

だとすると、俺の知識が少し役に立ちそうだな。

この世界にはボールみたいな物は存在しない。球技がないので仕方ないが。

しかし実際に投げられたボールを打ち返す練習は役に立つはずだ。

……野球のスイング練習だけど。

まぁ、ボールはなければ作ればいいだけだ。皮にちょうどいい綿をつめこんで、ボールにしよう。

何もないところをフルスイングするより、わかりやすくなるだろう。

そうだ……ミットも作ってキャッチャーを用意するか。その方が効率的だな。

幸い、身体能力が高くて、ちょっと暇そうな人間はたくさんいる。土風呂に入っている冒険者だ。

ふむ……これは元々、冒険者ギルドから来た話なんだしな。

よしよし、皮はナールの所にはあるだろう。

そろそろアナリアとの待ち合わせ時間だが……後で作ってステラに渡そうか。

大樹の塔の前で、俺とアナリアはヒールマンゴーの育ち方を計測している。

ヒールマンゴーの木は葉が多く、元々は熱帯の樹木だ。

それが並んでいると、一気に南国風の果樹園になるな……。

すくすく――というか、一日ごとに何十センチものスピードでヒールマンゴーの木は育っている。

今ではもう見上げるくらいの大きさだ。

いくつかの木にはもう実が成りはじめていた。

「もうすぐ収穫できそうだな」

「はい、私の知っているヒールマンゴーの大きさまであと少しですね……。それにしても、植物魔法は本当に無限の可能性がありますね」

「こういう貢献の仕方は予想していなかったが……」

せいぜい普通のポーションを作って渡すものだと思っていた。

まさか一部エリアの攻略に必須なポーションが足りないなんてな……。

ゲームだとそもそもポーションが不足するなんてないわけで、まさに異世界ならではの事情か。

おかげで俺はかなりの大金をゲットできそうだし、冒険者ギルドは念願の攻略を成功させられるわけだ。

WINーWINの関係とはこのことだろう。

「まぁ、ヒールマンゴーを育てて終わりじゃないけどな。その後は麻痺治しのポーションに加工しなければいけない」

「あれはやりがいのあるポーションですからね……! そちらはお任せ下さい!」

ぐっと拳を握るアナリア。

薬師も増えてきて、ポーションの生産力も上がっている。

こちらも計算では余力があるくらいだ。大丈夫だろう。

そうしてヒールマンゴーの木を見て回る。

木と木の間にはドリアードが埋まりながら、お昼寝している。

成長力を最大にするために、しかるべき間隔で埋まっている……らしいのだ。

テテトカいわく、この間隔がすごく重要らしい。

ドリアードが近すぎると無駄が出る。成長力には限界があるからだ。

ヒールマンゴーの木もこれ以上は早く育たないのだとか。

「ふんふんー」

上機嫌のテテトカがじょうろを持ちながら、埋まっているドリアードに水をまいていく。

「あ、ご機嫌うるわしゅー」

「ご機嫌よう。ヒールマンゴーの育成は順調なようだな」

「はいー。でも収穫はお任せですけども」

ドリアードの背丈だと、マンゴーの実に手が届かないのだ。

うん、仕方ないね……ドリアードはみんな子供サイズだし。

「気にしないでくれ。冒険者達にやってもらうよう、話はつけてる」

「あちらで埋まってる人達ですねー」

「……そういう認識なんですね……」

「人によっては毎日埋まりに来てるです。ぼくたちと同じで、埋まるのが好きなんですね!」

「ま、まぁ……そうですかね……?」

アナリアの目が泳ぐ。

賢い彼女は、土風呂愛好者の共通点――主に頭部だが。それに気が付いているだろう。

「たぶん、そうですね……。きっと、好きなんですよ……」

しかしあえてテテトカの言葉を否定したり、詳しく触れたりはしない。そういう優しさもまた、彼女の美点なのだ。

見回りが終わると、ナールからちょうど連絡があった。

冒険者ギルドからの手紙に俺は返事をしたのだが、さらに手紙が来たらしい。

内容は次の通りだ。

冒険者ギルドはこの度の協力に、深く感謝します。

ついてはギルドマスター自ら、お礼に伺いたいと。

もちろん断る理由はない。

一度会ってみたいとは思っていた。

こういう交流も大事だからな。すぐにオッケーと返事を書いた。

精一杯、歓迎をしようじゃないか。

ん……?

そういえばザンザスの人は、土風呂がけっこう好き?

……まさか土風呂に入りにきたいわけじゃないよな。