作品タイトル不明
258.流儀
大聖堂に迫る、白い巨大な竜巻。
その周囲をイグナートとヴィクターが魔法で飛行している。
イグナートは巨大な影で出来たカラスに乗って、ヴィクターは風をまとっていた。
「……ホールドは?」
「彼には大聖堂の中を任せた。少々派手にやる、職人達の動揺は困るからな」
聖堂長の部屋から白い竜巻が分離していくのを見て――二人は打って出たのだ。
「レイア殿には近衛ぴよの陸上部隊を任せた。対魔物の広範囲統率なら、俺より適任だろう」
「英断だな」
ヴィクターが頷く。
「そして貴殿と俺の二人で遊撃か」
そう言っている間にも、竜巻の中では白い光が閃いている。そうすると小さな群れが分離するのだ。
ヴィクターが手を振るい、大気を揺り動かす。
分離した小さな群れがヴィクターの元へと吸い寄せられる。
それをイグナートが影魔法で効率よく仕留める。
黒い破片を飛ばす魔法によって、アイスクリスタルはそれぞれ切り裂かれるのだ。
イグナートがぴよっとヴィクターに向き直る。
「このくらいの群れなら、大した復元力はないな。俺達なら魔法一発で吹き飛ばせる」
「ああ、地上部分は向こうに任せるとして――」
ヴィクターが魔力を手に集中させると、そこに電撃が爆ぜる。
彼には複数の魔法適性がある。そのどれもが攻撃的であり、まさに貴族の戦闘の極致と言えるものだ。
「風と雷、か……羨ましいものだ」
こうして魔法を発する瞬間に立ち会うと、よくわかる。
魔法適性のみならず、さらにヴィクターの魔力の量そのものも桁外れだ。
少なくとも普通の貴族の十倍はあるだろう。
さらにコカトリス着ぐるみによって高められた防御力、恐らく隠し持っている魔法具……。
「持って生まれた才能、そして最高の教育とその成果……あのナーガシュ家の後継だけはある」
イグナートの言葉を聞いて、ヴィクターがゆっくりと彼を見つめる。
ナーガシュ家の後継が決まっていないのはイグナートも承知しているはず。
しかし、あえてそう言ったのだ。
「貴殿はホールドと組んでいるのではなかったか?」
「彼と貴殿が本気で争えば、彼に勝ち目はあるまい」
「分野が違う。ホールドは芸術だ」
「そう……彼とはいいビジネスパートナーになれる。だが、それゆえに――あまり無謀な真似はして欲しくない」
また竜巻から小さな群れが分離する。
今度は竜巻の下からだ。
アイスクリスタルは近くの敵にビームを放つ。
迎撃する側からすると、遠すぎれば攻撃の効果は薄れ、近すぎればビームを喰らうわけだ。
強い風と粉雪が舞うなかで、その絶妙な距離をレイアが見定める。
「魔法と弓矢、今です!」
「「ぴよー!」」
レイアの号令によって近衛ぴよが一斉攻撃し、その群れを撃破する。
「今度は向こうです!」
「「ぴよー!!」」
レイアに率いられた陸上部隊も順調なようだ。
見ると、竜巻は少し小さく勢いが弱まったように思える。
もうしばらく続ければ、あるいは竜巻そのものを消し去れるかもしれない。
「……ナーガシュ家を継ぐのは、俺だと?」
「ベルゼル殿もそれなりの地位にいるが、貴殿とは差があろう」
イグナートの認識では、やはりヴィクターの魔物学の教授という地位は非常に高く感じる。
魔物との対決は人類の永遠の命題であり、家柄や魔力だけで選ばれるものではない。
ヴァンパイアの領域でもそうなのである。
「ふむ……俺はあまり後継に興味はないのだが」
「……そうなのか?」
「ここだけの話だが。俺には知的好奇心と家族のほうが大切だ」
そう言うと、ヴィクターは再び稲妻を放つ。
眼下のアイスクリスタルの群れに向けて。
◇
一方、エルトの家。
そこでは草だんごのこねこねが始まっていた。
テーブルの上に広げられた材料をウッドがこねこねしている。
「ウゴ……力を込めてっと……」
「そうですそうです、力が弱すぎるとふにゃっとしますからね。ある程度、ぎゅっぎゅっです。ぎゅっぎゅっ」
アナリアも草だんごを作っている。
もちろん俺もだ。
こねこねこね……。
「ぴよ。ぴよー」(たのしそー)
「ぴよっぴー」(おいしそー)
コカトリス達が俺らの作業を見つめている。
俺は草だんごの材料を手に取り、コカトリスに見せる。
「……やるか?」
「「ぴよー!」」(やるー!)
アナリアがバッグからごそごそと布地を取り出す。
「それなら……この布を被せてやれば羽も汚れませんからね」
「ぴよー」(はーい)
「ぴよっぴー」(こねるー)
ふもふもなコカトリスが隣に来る。
草だんごの材料に布を被せると――。
「ぴよよー!!」(えーい!!)
こねこねこね。
「ぴよぴよーー!!」(こねこねこねー!!)
こねこねこねこね!
荒ぶるコカトリスが、猛烈な勢いで草だんごをこねこねし始めた。
「……す、すごいこね方だな」
「や、やる気ですね……」
「ああ、でも……!」
実は草だんごはこねすぎると固くなる。
ちょうど良いこね具合、というのがあるのだ。
「ぴよぴよぴよー!」(こねこねこねー!)
マズい、この勢いだと……!
カチコチ草だんごが生まれてしまう。
「ストップ、一旦ストップ!」
「ええ、ストップですー!」
俺とアナリアがそう呼びかけると、コカトリスがぴたっと動きを止める。
「ぴよ?」(どったの?)
「ぴよぴ?」(もうできた?)
頭を可愛らしく傾けるコカトリス。
「い、いや……こねすぎるとそれはそれで……」
「そう、固まってしまうので」
「ウゴ……なるほど」
俺達がそう言うと、コカトリスはそーっと布を取った。
「ぴよっぴ」(できてる)
「ぴよぴよ……」(つんつん……)
コカトリスが布越しに草だんごの固さを確かめている。
「少し柔らかめだが、食べられそうな出来栄えだな」
「ええ、そうですね……」
この辺りはドリアードにも好みがある。
固めが好きだったり、柔らかめが好きだったりとあるのだ。
「ぴよぴよ」
「あっ」
コカトリスは布地越しにつまんだ草だんごを見つめ――。
「ぴよ」
テテトカとか間違いなく口に放り込む。
作った草だんごの半分はその場で食べるのがドリアードだ。
ごくり。
そう思っていると、コカトリスは草だんごをそっとテーブルの端に置いた。
「ぴよ」(よし、つぎー)
「ぴよぴよ」(もっとつくるよー)
新しい材料を揃え始めるコカトリス。
それを見て、アナリアがぽつりと呟く。
俺にも意外だった。
「コカちゃんは……すぐ食べないんですね」