作品タイトル不明
213.ボート到着
それからまた一週間ほど経った。
……思ったよりもララトマとウッドには動きがない。
ララトマはたまに家に来て綿を受け取る。
あるいはウッドが大樹の塔に花飾りの練習に行く。
そんなことがあるくらいだな。
しばらくは静観なのかもしれない。
何か機会があればいいんだがな。
「んんっ……」
その日の朝、俺はステラに抱っこされて起きた。
最近のステラは俺の正面で寝るか、背後で寝るか気まぐれに選んでいる。
昨夜は背後だったわけだが……。背後だと、こうして抱っこされるまでがセットになっている。
「……ステラ?」
「すぴー……」
「駄目か……」
ステラは俺のうなじに顔を埋めたまま、半分寝ぼけている。
でもステラからのこうしたスキンシップが嬉しくないと言えば嘘になるし……。
もう少しすれば、ぱちっと目を覚ますか。
「ん……?」
外が騒がしい。
「にゃー!」
「にゃにゃーん!」
ニャフ族が鳴いているのか。
珍しいな、こんな朝から騒いでいるなんて。
何かあったのか?
「んっ、外から音が……」
ステラが目を覚ましたようだ。
変わったことがあるとすぐ起きるんだな。この辺りは一流の冒険者か。
「おはよう、ステラ」
「おはようございます……! 外で何かあったようですね」
「ニャフ族が騒いでいる。行ってみよう」
「私の耳だと、悪いことが起きたのではないと思いますが……」
俺の抱っこを解いたステラがぐいーと伸びをする。
ふむ?
まぁ、何か緊急事態が起きたら俺の家に飛んで来る気もする。
俺はベッドから起き上がり、窓から外の様子を確認する。
……あ。
俺はニャフ族が騒いでいた理由を即座に理解した。
早朝に来た馬車から、コカトリスボートのパーツが降ろされてる。ニャフ族総出だな。
……アラサー冒険者もいるようだけど。
それでニャフ族のテンションが上がっているんだな。
「ぴよー……なにぴよ?」
「ウゴウゴ、どうしたの?」
どうやら起きたらしいディアがウッドに抱えられて窓際にやってくる。
「ウゴウゴ……あれって、ボート?」
「ぴよっ!?」
窓から状況を確認したディアが驚く。
しまった。
コカトリスボートは今、パーツごとにバラバラだ……。
一応、ボートの話はしてあったんだけど。
「……かあさまのつくってくれたボートと、なんだかちがうぴよね……。つくりかた、かえるぴよ?」
……成長してる!
◇
ささっと身支度を整えて家を出る。
とりあえず俺だけ家を出て、状況を見てくるのだ。
騒ぎを聞き付けたのか、結構な人が集まっているな。
「にゃ、エルト様! おはようございますにゃ!」
「おはようございますにゃん!」
「おはよう。ナール、ブラウン」
そこでナールが頭を下げる。
「もしかして騒ぎを聞き付けられたのですかにゃ。大変申し訳ないのですにゃ……」
「ああ、いや……気にしないでくれ」
俺は手を振って答える。
他の村人も起こされた、というよりは好奇心丸出しの顔だしな。周りの雰囲気はとても良い。
「普段から早朝に馬車が来ることもあるからな。大丈夫だ」
村に到着した馬車は全部で五台。
どうやら馬車一台に二個分のボートのパーツが載っているようだ。
……パーツというか、コカトリスの部分が別になっているだけか?
胴体の部分はほぼ完成しているように見える。
その上に付けるコカトリス部分がバラバラに乗せられているんだな。
「へっへへ……いい木材を使っているじゃねぇですか」
近くでアラサー冒険者がコカトリスの頭の部分のパーツを持っている。
「ええ、手応えでわかりますぜ。軽くて持ちやすい……。確かにお値打ち品と言えますぜ」
「にゃん、塗装もなかなかにゃん」
コカトリスボートは黄色だけでなく、赤色や青色、緑色もある。テストで色々と塗り分けたらしい。
「安物はこするとすぐ色が剥げるにゃん……」
「釣り竿とかルアーとかな!」
「にゃん! 買ったばかりのルアーの塗装が落ちるのはテンション下がるにゃん」
本当に楽しそうにボートを降ろしているな。
どこもそんな感じだ。
「一通り降ろして検品したら、湖に持っていきますにゃ。そこで組み立てますにゃ」
この村には結構な職人がもういるからな。
イチから船を作るのなら問題だが、組み立て式なら大丈夫だろう。
「よし、そうしたら俺も手伝おう。大樹の腕ならかなりの量が運べるだろうし」
「にゃ!? よろしいのですにゃ?」
「ああ、せっかくならぱっと運んだ方がいいだろ? 俺も組み上がりを見たいしな」
「にゃ、あちし達は検品しながら朝ごはんを食べますにゃ。一時間後にまた来ていただくことで大丈夫ですかにゃ?」
「わかった、問題ない」
「ありがとうございますにゃー!」
「にゃにゃー!」
あとはウッドとステラにも声を掛けるか。
朝ごはんを準備しているはずだからな。
食べ終わったらボート運びだ。
色鮮やかなコカトリスボートが湖に浮かんだら壮観だろう。
しかしちょっとシュールだな。
コカトリスの頭のパーツが地面に敷かれた布の上に並べられている……。
◇
「よっせよっせ……」
「ウゴウゴ……」
ステラとウッドもボート運びを快諾してくれた。
朝ご飯のサラダを食べ終わって、早速ボート運びだ。
ステラはボート三台、ウッドは二台を運んでいる。
ちなみに俺は大樹の腕で三台分だな。
何気に俺達家族で八台も運んでいる……。
「ステラ、大丈夫か……? 前が見えてないと思うが」
「完全に視界がふさがってるんだぞ」
「すっごいかさなってるぴよ……」
ステラは両手でボートのパーツを山盛りに持っている。
全くふらついてないが、視界はゼロのはず。
いや、音で把握できるのか……。わずかな反響を頼りに普通に行動できるものな。
「このくらいならよゆーです、よゆー」
「……すごすぎますにゃん」
「改めて超人ですぜ……」
アラサー冒険者やブラウンだけでなく、新しく村にきた人達も驚いているな。
「あれがザンザスの英雄……」
「それに領主様も魔法でこれだけの物を……」
ま、まぁ時折は活躍しないとな。
こういうのはまだ、魔法でやった方が早い時もあるし。
「はう……」
そしてウッドの近くにはいつの間にかララトマがいた。
ウッドを見上げながら話をしている。
「重くないのです?」
「ウゴウゴ、全然! まだまだ軽い!」
「力持ちです……!」
ふむ。
今日も空には雲が少なく、風も穏やか。
組み立ててボートを試運転するのも出来そうだな。
「にゃん……ボート、使いますにゃん?」
ブラウンが意味深にウッド達を見ながらささやいてくる。
俺はすぐにその意図を察した。二人をボートに乗せるのか。
「……そうだな。天井部分がなければ、ウッドとララトマくらいなら乗れそうか」
「ですにゃん!」
全く意図はしてなかったが、成り行きでデート作戦が始まる……かも。