軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

205.虎に挑む

その日の夜。

ホーホー、とフクロウが鳴いている。もう寝る時間だ。

家族でわいわいしてると、あっという間に時間が経つ。

教育上、夜更しはしないようにしている。

仕事も詰まっているわけではないし、俺も早寝早起きを心掛けている。

「この体勢は……」

いつも皆で綿ベッドに寝るのだが、今夜はステラからリクエストがあった。

俺とステラは向かい合って寝るのだけど、今日は俺の背後に行きたい……らしい。

ウッドの腕に綿を置いて枕代わりにするのは変わらない。

俺は横に寝転がっている。そんな俺の背中から、ステラがハグするみたいな感じだな。

そしてディアと子犬姿のマルコシアスは俺の体の前にいる。

「しんせんぴよ!」

「わふー……父上に頭ぐりぐりなんだぞ」

ぐりぐり。

と言っても優しくお腹を押すくらいだが。

かわいい。

「……特別ですよね、背後から抱きついてるなんて」

「そうだな……。言われればそうかも」

ステラがどんな表情かは見えないが、楽しそうなのはわかる。

確かに正面からハグすることは、挨拶的にあり得る。ニャフ族同士は良くしてるし。

ぴとっとステラの頭が、俺の後頭部にひっついてる感触がある。

「ふぁ〜……ねむぴよ……」

ディアが眠そうにあくびする。

「ウゴ、俺も眠い……」

「……我も寝るんだぞ」

どうやら皆、眠いみたいだな。

というか俺も眠くなってきた。

ディアとマルコシアスが腕の中にいると、ふわもこしっとりなのだ。

「まさに家族……という感じですね」

ステラが俺の耳元でささやく。

俺とステラはあまり身長が変わらない。

「ん? ああ……」

ドキドキするというか……。

普段も寝る前に近くで話すのだけど、それとは微妙に違う。

「エルト様のお腹って、けっこー引き締まってますよね?」

ふいにステラの手が俺のお腹を触る。

すごい早業だ。

「ちょっ……」

「んふふー……」

俺が言うと、ステラはすっと手を引っ込める。

微笑んでいるステラが目に浮かぶようだな……。

「では、おやすみなさいです……」

「……ああ」

なんというか、手玉に取られている感はある。

でも不思議と嫌じゃない。

少しすると、背中からステラの寝息が聞こえる。

すーすー……可愛らしい寝息だ。

「……かあさまのほうが、ねたぴよね」

「意外とぱっと寝るんだぞ」

ぽむぽむとディアとマルコシアスを撫でて、俺も意識を綿に向ける。暖かくて気持ちいい。

頭の下は綿とウッドの腕だ。家族一緒に眠るわけだな。

いつのまにか鳥や虫の鳴き声も遠くに聞こえる。

……まもなく、俺も眠りについたのだった。

翌朝、目を覚ますと俺は起き上がったステラに抱えられていた。

ちょうどステラの膝に乗るような感じになっている。

「……ステラ?」

「ふぁい……?」

駄目だ、朝はいつもこんな感じである。

配線が繋がってないのだ。

「ぴよー……おはぴよー」

ディアが羽を伸ばして、起き上がる。そして抱えられた俺を見て、一言。

「ぴよ。かあさまがぬぼーっとしてるぴよ」

「……にゃい……」

……ぬぼーっとしてるな。

「わぅ……」

そしてマルコシアスものっそり目が開く。

俺とぱっちり目が合ったが、そのままマルコシアスはまた目を閉じた。

二度寝するらしい。もしくはスルーか。

結局、十五分くらいしてステラのスイッチが入って解放された。

完全に無意識だったらしい。

「す、すみません。抱っこしてました……!」

「いや、いいんだよ……!」

うん、別に何かあるわけじゃないし。

……こっちの方が恥ずかしかっただけで……。

身支度をして、レイアの家に向かう。

冒険者ギルドに呼び出すのも考えたが、やめておこう。

……元はステラのリクエストなので。ちょっと確認するだけだし。

途中、たくさんの釣り竿を持ったニャフ族とすれ違った。

聞くと発注が続けてあったらしい。

……おそらくボートの完成前に釣り道具を揃えようとする人がいるんだな。

ボートが納品されたら、真っ先に湖に浮かべるつもりなんだろう。やる気がある。

あとは心なしか、ドリアード達も少し忙しそうだ。

芸術祭へ向けて気合が入っていると聞いた。

またひとつ目標ができたからな。

悪くない傾向である。

レイアの家に到着し、中に通される。

「大丈夫か、レイア?」

「ええ、どうぞどうぞ!」

相変わらず、レイアの家はごっちゃりしてる……。

とはいえ他人の家なので言わないでおこう。

だが……リビングに見覚えのあるコカトリス着ぐるみが大の字で寝転がっている。

さすがにツッコまずにはいられない。

「……ナナ?」

「はっ……! おはよう、です」

中身は入っていたらしい。ナナはすぐに起き上がる。

「すまん、ちょっとレイアに話があってな」

「お気になさらず……! 申し訳ありません、シャワーを浴びてきます」

「……お、おう」

そのままナナはスタスタとお風呂場に向かっていく。家の間取りはほぼ同じなのでわかるのだ。

俺が作ったんだからな。

「知っておられましたか? ヴァンパイアはあの着ぐるみのままシャワー浴びたりお風呂に入るのですよ……!」

「そうなのか?」

割としょうもない知識だが、初めて知った。

「上位ヴァンパイアの着ぐるみは、丸洗い可能らしいですね。それがステータスと言ってました」

「……やや難解な文化だな」

丸洗いできる布団じゃないんだから。

いや、布団より一緒にいる時間は長いか?

やめよう。考えると種族間の溝にハマる。

ヴァンパイアは着ぐるみ種族。それでいいじゃないか。

俺はややわざとらしく咳払いする。

「こほん、それで……今日来たのはボートについてなんだが。主にステラの……船だけれど」

「あー……っと。なるほど。ええ、問題はないかと思いますが」

「仔細は聞いた。水運も色々と含めて動いているそうだな」

過去にレイアには、木材は当面扱わないと宣言している。これは無用の軋轢を避けるためだ。

現在の所、野菜や果物の生産でクレームはどこからも来ていない。

やはり季節外れの食料品に難癖を付けるほど、暇な人間はいないのだ。

しかし建築や造船用の木材となると話は違ってくるだろう、というのが俺の読みだ。

木材は貴族の利権とがっちり組み合っており、抜け道はない。何の木材を輸出しようとしても、どこかの貴族の利権と衝突する。

無論、人や村をあからさまに直接攻撃するようなアホは皆無だろう。

だがこの村の財政基盤は農作物に偏っている。そこに邪魔が入り、持久戦になると耐えられない。

なにせ村が出来てから半年も経っていないのだ。

貯蓄はあるが、木材を扱うレベルの貴族とはまだ争うのは得策ではない。

これは水運を含めても、である。

「……まずいでしょうか?」

「いや、正面切って争うつもりはないとだけ。来年から客をより増やすのに、水運に手を出そうとしているんだろう?」

俺の言葉にレイアが目を丸くする。

「ご明察です。まだ計画段階ですが」

「この辺りで木材と言うとライガー家か」

「まさに。使者を送っていますが、芳しくはありません」

「なるほどな……。見通しはあるのか?」

「正直、光明はありません。しかし技術の蓄積だけはしておこう、と」

それがボートというわけだな。

最初から大きなことをやろうとすると、失敗した時が痛い。

俺はぐるぐると頭の中で思考を巡らす。

ステラの望む船、水運、木材、ライガー家……。

噛み合うようで、いまいち噛み合っていないのが現状だが……。

しかし意図は悪くない。いや、むしろ大正解のはずである。

物流の改善は常に重要だ。

この村の農作物を早く遠くまで送ることは、村の成長速度に直結する。

……最速でなくてもいい。

だが道筋は必要だろう。

それには――俺もタッチすべきなんだよな。

喧嘩じゃない。表立つ必要もない。

こそっとでも、後押しできれば十分だ。

「俺もそれに関与すると言ったら、どうだ?」