軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

204.きたのぴよ

ミニボートを作っている間にすっかり日が暮れていた。小鳥が夕日に向かって鳴いている。

レイアの所へは……明日でいいか。

工作の片付けをした後、夜ご飯を作る時間になった。

ステラを座らせ、俺は立ち上ってキッチンへと行く。

「夜ご飯は俺に作らせてくれ」

「いいのですか? エルト様……」

「ああ、ステラも疲れてるだろうし……」

工作ではまるで出番がなく、子ども達と並んで見ているだけだったからな。

……なんかしたい、というわけだ。

「てつだうぴよ!」

「出来ることはやるんだぞ」

「ウゴウゴ、何作る?」

子ども達が手伝いを名乗り出てくれる。

嬉しい。

家事も分担すれば楽になるものだ。

「ありがとう。野菜の盛り合わせと餃子にしようか」

四人で作ればささっと終わるだろう。

ディアもマルコシアスも食べる量は少ないからな。

野菜の盛り合わせと言っても、数種類の粉チーズを振りかけているので味は濃い。

最近、ナールから買ったのだ……。ちょっとした贅沢である。

餃子作りもだいぶ手慣れてきた。

皮はマルコシアスとウッド、具をこねるのはディアに任せる。

「ぎゅっぴよ……ぎゅっぴよ……」

薄い布を被せた具をディアがふみふみする。

かわいい。

……手慣れじゃなくて足慣れかもだが。

そんな感じで夜ご飯を作って、皆で食べる。

チーズの振り掛けマシマシは好評だったな。

正直毎日やると俺でも破産しそうなので、たまにしかできないが。

食べ終わった後は片付けて、のんびりした時間を過ごすのだ。

「ぴよー……ぷかぴよー……」

ディアが桶に一緒に入りながら、ミニボートを揺らしてる。

そんなディアをウッドが撫でているな。

「作った甲斐がありましたねー……」

……ステラは今、俺の膝の上に寝ている。

その体勢でマルコシアスを胸元に置いているのだ。

ちょっと前から、ステラは俺に膝枕を要求することが多くなった。

うん、まだちょっと恥ずかしいけど。

「そうだな……。ああいうボート作りは、どこかで習ったのか?」

「いえ……。見ただけです。見れば大抵、出来るので」

「わうー。他の人のボート作りを見て、あれが作れるのか……だぞ」

「子どもの時から、体を動かすことは見ると出来ちゃうんですよね」

……凄い才能だな。

まぁ、打ち返すスイングを見ても納得しかないが。

並大抵の天才でもあんなのは無理だろう。

「でもボートは久し振りに作りました。うまくいって良かったです……!」

「ディアも楽しそうだしな」

よしよし、とステラの頭を撫でる。

「んふー」

満足そうにステラが目を細め、頭をぐりぐりと動かす。

かわいいなぁ……。

やっていることがディアに似ているのは、やっぱり母と娘だからか。

ディアも頭ぐりぐりしてくるもんな。

ステラはたまに動物っぽい……まぁ、深く考えてはいけない。

膝の上に重みを感じる。家族って本当にいいもんだな。

それが重要なのだ。

一方、ヴァンパイアが統べる北の国。

冬は吹雪が止むことはなく、わずかな居住地以外は純白の積雪に覆われている。

その王宮は山の斜面に寄りかかるように造られていた。地熱を余すところなく用いるためである。

王宮は魔物の白骨と宝石により、絢爛豪華の極みにあった。

「いちぴよ、にーぴよ、さんぴよ……」

コカトリスの着ぐるみを身にまとった兵士達が、雪明りを頼りに中庭で訓練をしている。

着ぐるみが一列になりながら、マラソンをしているのだ。

「いちぴよ、にーぴよ、さんぴよ……」

この掛け声の由来は定かではない。

重要なのは定かならないほど昔から、この掛け声が使われてきたという点のみである。

ザッザッとマラソンする兵士着ぐるみを見下ろしながら、薄い金髪の青年は呟いた。

もちろんコカトリス着ぐるみの中からである。

凛とした瞳、細身でありながら肩幅のしっかりした美青年である。

美形の多いヴァンパイアにあってなお、天人のごとき美麗と形容されていた。

「訓練に余念はないようだな」

「はっ……。芸術祭には人が集まりますゆえ、抜かりなきように」

着ぐるみ執事が肯定する。

それに満足そうにすると、金髪の青年――イグナートが手紙を取り出す。

「ナーガシュ殿より書状が届いた。おおむね計画通り、春前に芸術祭を行えそうだ」

「イグナート様、それは朗報ですな」

「うむ、諸国より人を集めるのを怠るな。出来る限り、盛大なものにせよ」

「承知いたしてございます」

北の国は雪と山が多く、交通に難儀する。人を集めるのは想像以上の苦労がある。

そしてそれに見合う成果を上げなければならない。

「しかし、まさか【半身の虎】が見つかるとはな」

「……予想外でございますね」

「うむ、本物かどうかはまだわからんが……」

イグナートは北の国の大貴族である。

その財力を持ってしてもこれまで【半身の虎】は見つからなかったのだ。

それが期せずして、発見の報があった。

「そして噂ではエルフの国で燕が倒されたとか……」

「『ステラの一打、仇敵破る。これこそ英雄、燕よさらば』だそうです。確かに東の国に燕がいるという話はありましたが……」

うむ、とイグナートは机に置かれたトマトジュースを手に取る。

着ぐるみのままなので、ストロー付きだ。

くちばしの部分が呼吸口になっているので、そこにストローを差し込んで飲み始める。

そこでイグナートは驚いた。

「ふむ……!? 甘味が強いが、美味いな。飲んだ覚えがないような気がするが」

「さすが、お目が高い。これは南のザンザス経由で入ってきたものです」

「ザンザス……」

イグナートは着ぐるみのなかで目を細める。

「あの放浪癖の妹が最近、出入りしているらしいな」

「ナナ様はエルフの国に行かれたとか……」

「相変わらず、わからんやつだ。ふらふらと世界中を飛び回って……」

イグナートは再びストローからトマトジュースを飲む。

くぴくぴ……。

トマトの旬は春から夏。冬の今は温室でないと育たたないはずで、味も異なる。

なのにまるで旬のような強烈な味わいであった。

「コー・ティ・エンは遥かに遠いというのに……」

ナナの兄、イグナートはトマトジュースを飲みながら嘆息するのであった。