軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

182.ステラの決意

一方、スティーブンの村。

宴は終わり、雑談となった。

最後にはヒールベリーの村への誤解もなくなったようだ。

「へへぇ、土に埋まると健康的になれるんで……」

「ええ、そうです。嫌がる領民を埋めてるわけじゃないですよ……」

「へへぇ、埋めてもらいたい領民を埋めておられるんで……」

うん……?

なんだか微妙にニュアンスの違いを感じるが、まぁそんなところだろう。

多分、きっと誤解は解けている。

ドリアードとか、自分で埋まってるくらいだし。

ステラは納得することにした。

「肩こりとか腰痛によく効きますよ」

「なるほど、肩こりや腰痛も気にならない体になると……」

村長は高速で揉み手をしながら、震えていた。

ううん……?

やはり何か勘違いをしている気がする。

ステラが首を傾げているとナナが助け舟を出してくれた。

「いやね、温泉みたいなものなんだよ。あるいはドワーフの岩風呂みたいな……そんなに特別なもんじゃない」

ラダンが紅茶をすすりながら懐かしそうに、

「ドワーフの岩風呂……。あれはいいものでしたね。火山の中腹にしか用意できないとか。確かにヒールベリーの村の土風呂はアレに似ているかも」

「あれ、土風呂にはお入りになられなかったんでしたっけ……?」

ステラは去年のお祭りを振り返った。

黒竜騎士団はお祭りの警備に来てくれたが、細かな動向までは見ていなかった。

野菜や果物は食料としてたくさん届けた気がするのだが。

ラダンが苦笑いして答える。

「観光客や村人がひっきりなしに入っていたのでね。本当は試してみたかったのですが、並ぶのも……」

うんうんと黒竜騎士団の面々も頷く。

見るとそこそこ若い騎士ばかりだ。どうやら若手ばかりでこの任務に挑むつもりだったらしい。

「鎧や剣は肩や腰にきますからね」

「そうです……。学校では気にならなかったのですが」

「山道だとなおさら負担が……」

ナナも軽く頷いている。騎士にも苦労があるらしい。

お腹いっぱい食べて、少しうとうとしているマルコシアスがそれとなく言う。

「それなら今度、土風呂に入りに来るといいぞ。事前に手紙をくれれば空けておくだろうし」

「そうですね、好きな人は毎日雨の日でも土風呂に入るみたいですし。エルト様もたまーに入っておられますし」

ステラの言葉を聞いて、村長は驚いたようだ。

目を見開いている。

「……自分でも埋まりに行かれるんで?」

なんだか明後日の方向に真意が伝わっているような気もするが。

「ええ、その通りですよ……!」

とりあえずステラは力強く答えたのであった。

それから村長の家で一泊することになった。

お風呂も借りられたので、さっぱりした気分である。

村長の家は一番高く、村の全容を見渡せる。

夜空はすでに晴れ、窓から星がよく見えた。

ヒールベリーの村から東に来ている分、どことなく夜空も同じようでいて違うように感じる。

ナナとステラ&マルコシアスは別々の部屋に泊まる。

部屋の前で、ナナがひらひらと手を振った。

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい……!」

ナナは両手にバッグを抱え、ご満悦である。

村から産出した石のいくつかを買ったのだ。

「やはり鉱山の村だけあって安く買えたね。ふんふーん」

「……夜更しはしないでくださいね」

「しないさ、大丈夫。ふぁ……一晩抱いて寝れば収納もできるし……。んじゃ、また明日」

「おやすみなんだぞー」

ナナが部屋に入り、ステラとマルコシアスも部屋に入った。

泊まる部屋はこざっぱりしてて、清潔感がある。

ベッドもそれなりにふかふかっぽい。

「わっふー」

ちょこんとマルコシアスが子犬姿になる。

村人の目もないだろうし、息抜きという奴だ。

「明日も早いですしね、早速寝ましょうか」

「わかったぞー」

そう言うと、マルコシアスがぱたぱたと前足を動かす。

「抱っこしてだぞ……!」

「ふふっ、いいですよ」

ステラがマルコシアスを抱き上げ、ベッドへと連れて行く。

そのままベッドに入り、布団をかける。

さっき眠そうにしてたマルコシアスはすぐにでも寝入りそうな雰囲気だ。

うつらうつらしながら、マルコシアスが言う。

「……主や父上、兄上ももう寝てるかなぁ」

「そうですね、ヒールベリーの村でも寝る時刻だと思います」

「一週間、思ったより長いかもなんだぞ」

マルコシアスの呟きに、ステラは寝たままで頷く。

「そうですね……。初めてですものね、ディアとマルちゃん、ウッドが離れるのは」

「そーなんだぞ……。でも感じるんだぞ」

もぞもぞと前足で顔を洗う仕草をするマルコシアス。

「何をですか?」

「我が主との繋がりを。村から離れると分かりやすいんだぞ……」

「……なるほど」

ステラはしっとり毛のマルコシアスを撫でる。

「母上にとって、クラリッサはそんなに大切だったのかだぞ?」

「……わかりません。思えば奇妙な話なのですが、会ったのは村での一回きりですしね」

「感じるんだぞ。母上は後悔してる」

お返しとばかりにマルコシアスがステラの頭を撫でる。

「クラリッサと自分を重ねてるんだぞ」

「……そこまでわかるんですか?」

つぶらな瞳のマルコシアスがステラをじっと見ていた。

「母上は強すぎたから、故郷にいられなくなった。前にそう聞いた……気がするぞ」

「ええ、確かにそうです」

魔王討伐の前に意気投合したとき、ぽろりとそんなことを言った記憶がある。

ステラにとって、体感時間ではそれほど昔のことではない。

「もう帰らないつもりなんだぞ……。これが終わったら、東の国には」

「……ええ、そうです。これが多分、最後の里帰りになるでしょうね」

ステラは寂しそうに呟いた。

「私は故郷を捨てたんです。きっと恨まれてます」

「そうなんだぞ?」

「燕を封じたあと、私はザンザスで生きることを選びました。私を追い出した人達を許して、故郷に残った方が良かったのでしょうが……」

ステラは思い出す。

生まれてから強すぎるがゆえに、姉のターラに国を追い出されたことを。

それが十歳ぐらいの頃だった。

そのターラが禁断の魔法具【燕】に手を出して、国を破滅させたことを。

そして一度だけ故郷に戻り【燕】を封じたのだ。

さらに途方に暮れるかつての同胞に処置の方法を伝えて、自分はザンザスへと戻ったのだ。

……あのあと、同胞達はステラに新しい女王になるよう嘆願してきた。

でもステラはそれを断ってザンザスへと行ったのだ。

「義理は果たしたんだぞ」

「そうかもしれませんね。本を読んだ限りでは、故郷でも私は英雄のままでしたし」

残された人々は嘘と知りながらステラの家名を名乗り続け、ステラの残した方法で燕を抑えてきた。

とっくの昔に終わったと思ったが……終われなかったのだ。

「……だからこそ、決着は付けなくてはいけないのです」