軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

122.地獄のしごき

お昼寝してみると、言われた通りだったな。

すっきりと肩の荷が降りた気分だ。

やはり疲れていたらしい。

目を開けると、ディアがマルコシアスの背中に顔を埋めている。

羽をひろげ、だらーんと覆い被さっている。すっかり溶け合ってるような。

「すやー……ぴよー……すやー……ぴよよー……」

外を見ると、もう夕方近い。

ステラもマルコシアスもウッドもまだお昼寝している。

意外と疲れていたのか、それとも綿が気持ち良すぎるのか……。

最近はお昼寝が日課になりつつある。

でも適度なお昼寝は体にいいらしいしな。それにこの世界では、そんなに働かなくてもいいし。

ふむ、なんだかもったいない休日の使い方をしたような気もするけど、たまにはいいか……。

お昼寝した後は、普通にご飯を食べてだらだらして。そしてまた眠った。

翌朝。

空はからっと晴れて、秋にしては暖かい。

風もなく野球日和と言えよう。

集合場所は第二広場にしたのだか……。

「ぴよー」

「僕の解説席はそこね」

「トロピカルジュースと草だんごはいりませんかにゃー」

わいわい、がやがや。

凄い人が集まっているな。

というより、村全体から集まっているんじゃないか?

俺達を見掛けると、ナールが走り寄ってくる。

「おはよう、ナール。かなりの人だな」

「おはようございますですにゃ……! にゃ、ナナから聞きましたにゃ。黒竜騎士団とちょっとしたゲームをするのだとかにゃ」

「まぁ、そうだが……それでこんなに人が集まったのか? こちらは構わないが……」

野球は観客ありでやるものだしな。

それに観客はほぼ村人しかいない。いわばホームグラウンド状態だ。

「黒竜騎士団と言えば、名門中の名門ですにゃ。一級の娯楽ですにゃ。ちゃんと先方の了承ももらってますにゃ」

「なるほど……」

「『誰もいないところで勝っても、証人がいない気がしますにゃ』と言ったら、好きなだけ見届ければいいと言ってくれましたにゃ」

うまい言い方だな。

そう言われたら、観客を帰すわけがない。

確かに騎士の決闘や御前試合にも、観客はいるものだしな……。

黒い騎士達は鎧を外して、ステラに合わせたのか軽装で広場に集まっている。

待ち合わせ時間よりは早く来たはずだが、気合いが入っているな。

向こうはさらに早く来ていたようだ。

年齢は――俺と同じくらいの騎士はさすがにいないか。大体、二十代だろう。

セッティングされたテーブルに腰掛けてるのは、アナリアとナナ。

……解説席だな。さしずめアナリアはアナウンサー役か。

あとは敷いた布の上に、うつぶせに寝転がっているコカトリスが並んでいる。

そこに皆が寄り掛かるようにしている。

人を駄目にするアレに集まっているみたいな……。

「はーい、草だんごをどぞー」

「出来立てです!」

「ぴよっぴ!」(ありがとっ!)

「ぴよー」(ここでこうしてるだけで、本当にいいのー?)

「ぴよぴー」(いいらしいよー)

「ぴよぴよ」(みんな集まってぬくぬくー、気持ちいいー)

「ぴよー……」(眠くなってきたー)

コカトリスは草だんごとジュースで至れり尽くせりだな……。

というか、俺もコカトリスに寄り掛かりながら観戦したいんだが。

コカトリスが近くにいるが、さすがに騎士も寝た振りはしていないな。

その辺りはナナが説明したのだろう。

デキる着ぐるみである。

「ベルゼル様はあちらにおりますにゃ」

解説席とコカトリス席から離れたところに、椅子とテーブルがある。

そこにベルゼルが一人で座っていた。

ベルゼルも軽装で、今はちゃんと顔が見える。

黒髪の、野性的な騎士。でも野蛮で粗野な感じはしない。高貴な狼とでも言おうか。

あそこの席は……俺が一人で座らないといけないよな。

ベルゼルも俺を見ると立ち上がり、ゆっくりと近寄ってきた。

表情は相変わらず、楽しんでいる――そう形容するのがぴったりだ。

「おはよう、諸君」

「兄さん、おはよう」

騎士達もこちらへ集まってきた。

挨拶を交わし、ルールを確認する。

背の高いマッチョな騎士がリーダーのようだな。瞳が闘志に燃えている。

「交互にボールを投げ合い、この木の棒で打つ……。妙なルールではあるかと思いますが、こと何かを振る勝負であれば、騎士が遅れを取るわけには行きません。領主様が決められた方式。受けましょう」

「「おうっ!」」

騎士から異論は出なかったな。

むしろリベンジしたいのが先に来すぎていて、何でも受けそうな気配だったが。

「それで勝ち負けはどうするんだ? より多く打った方の勝ちなら、さすがにそちらが有利すぎると思うが……」

「いや、力尽きるまでやる。単純にそれだけだ」

「「なっ……!?」」

「黒竜騎士団のモットーは不屈、忍耐、持久……だったな。最後に立っていた方の勝ち。わかりやすい上に、お互いの力も十分わかると思うが」

黒竜騎士団の紋章。

竜に踏まれた騎士が示すのは、まさに不屈と忍耐と持久。

マッチョな騎士はいささか迷ったようだが、かすかに頷いた。

それを見たベルゼルは苦笑いをしながら、

「それで構わんようだな。考えたものだ。持久力勝負なら、なおさら引けない。駆け引きも覚えたようだな」

「団長、フィジカルと気合の勝負であれば、必ず勝ちます」

単純な勝敗の方が、乗ったら引けないものだ。騎士達に道具を渡していく。

ステラはデュランダル(俺のお手製バット)を持参している。

「この勝負なら――私も負けられませんっ!」

初の対人戦だからか。

いや、むしろ中身は合同特訓みたいなものだが……どちらが音を上げるか我慢比べみたいなものだし。

見える。

ゴゴゴゴゴ……!

ステラの背後に、燃え盛る灼熱。

黄金の闘志が……!!

数時間後。

広場には騎士達の叫びが木霊していた。

「ああああっー! も、もう……!!」

「耐えろ……!! 開祖になんと顔向けする!」

すでに騎士も五人のうち、二人が脱落していた。広場でばったり倒れている。

「こ、こんな……騎士の訓練よりも遥かに……!」

「まだまだですよー!」

ステラがぶんぶんとバットを振る。

特に深い意味はないが。

解説席の二人がこれについて話をする。

「また出ましたね、ステラのなんとなくのスイングが……」

「僕が見たところ、今ので十回は振ったね。騎士達も振らないと対等とは言えないんじゃないかな?」

「そうですね、ステラが先に振っているわけですから。振らないわけには……」

ひどい。

ステラは最初から飛ばしまくって、体力を削っている。

それにボール投げでも、遅いボールと早いボールを使い分けて神経を削ったりしているな。

当てこそしないが、これはこれで精神戦になる。なにせ騎士の投げたボールは百発百中で打っているんだもの。

騎士もバットに当てようと努力せざるを得ない。それがまた体力と気力を奪うのだ。

「ぜぇぜぇ……おりゃあああ……!!」

「はぁー……はぁー……」

騎士も日頃から訓練をして、体力には自信があるだろう。

だが野球の練習は甘くない。

ノンストップでバットを振りまくり、ボールを投げ続ければ非常に疲れる。

まして実戦さながらの緊張感の中でなら……。

「さて……では、どうぞボールを投げてください!」

「ふぅ、ふぅ……」

カーン!

ステラはピッチャー返しなんかはやらない。

ただ淡々とピッチャーの足元に返していくだけ。

騎士はそれを拾って、また投げる。休む暇なく。

俺とベルゼルだけは、離れた席から見守っているが……ベルゼルは微笑んだままだな。

「あいつらもよくやっているが、気負いすぎて体が固い。もっと伸び伸びやらんとな」

「……まぁ、そうですね」

さっきから特に家のことも話題に出ない。

この戦いの実況だったり、村のことだったり。雑談程度のことしかない。

「ステラが勝つと、最初からわかっていたのでは?」

「がはは、まぁな。だが、懇願されてしまってな。巻き込んで悪かったが。しかし、この村は本当にエルトがゼロから作ったのか。大したものだ」

「……ありがとうございます」

俺は端的に礼を言う。

うーむ、なんとなく距離感がわからん。

「そら、そろそろ決着がつきそうだな」

見るといつのまにか残ったのはマッチョな騎士一人。残りはノビているな……。

もっとも、マッチョな騎士の体もふらついているが。

「うおおおっ! まだまだぁ……!!」

「その意気やよし……です!」

「エルト、終わったら人目のつかない所で話そうか」

……いよいよ本題か。

わざわざこのためだけに来るとも思えない。

俺は頷いて同意した。

しかし、目の前の光景はなんだな……。

これが地獄のしごき、という奴だろうか。