軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10.あなたはステラ?

「ふぇぇ……助けていただいて、ありがとうございます……!」

エルフのステラが、泣きそうな顔で感謝していた。

いや、まだ壁に下半身が埋まっているんだけどな。

しかしこれはどういう状況だ?

まずは整理しよう。落ち着くんだ。

魔法を唱えたら、木の像が生きているエルフに変わった。

ふむ、さっぱりわからん。

詳しい事情は後で当人に聞いてみるしかないな。

まずは彼女を壁から助け出す方が先決だ。

「まだ助かってない、壁に挟まったままだ。すぐ壁を動かして助けるからな」

「ありがとうございます、ありがとうございます……!」

俺は魔力を集中させると、再度唱えた。

今度は発動してくれるだろうな。

「動け、大樹」

ゴゴゴ……!

大樹の壁が音を立てて動きだし、ステラの周囲から壁がなくなる。

するりとステラが壁から抜け出して、地面に着地する。

ふむ、今度はちゃんと発動したな。

あの魔法の不発はやはりこの少女が原因か。

「はぁぁ……こ、これで本当に助かりました!」

「ああ、そのようだが――体は大丈夫か? どこか痛んだりはしないか?」

「ふぇぇ?」

「んにゃ、地面と壁に埋まっていたのにゃん。君の正体や事情も気になるけど、体はどうにゃん?」

「ええっと、体は大丈夫……です、多分……」

俺とブラウンと顔を見合わせる。多分考えていることは同じだ。

うん、自己申告なんて当てにならない。

とりあえず領内一の薬師アナリアに診てもらうことにしよう。

アナリアの家に到着した俺達は事情を説明して、すぐにステラを診てもらう。

アナリアは迷宮都市の薬師だけに、てきぱきと一通りの診察をこなしていった。

「えーと、特に体調に問題はなさそうですね。少し痩せているくらいです」

「すみません……ありがとうございました……」

「いえいえ、それはどうか気にしないで……」

アナリアが俺をちらりと見る。

そうだな、そろそろ事情を聞いておきたい。

別に敵対したり根掘り葉掘り問いただす必要はない。

とりあえず彼女が今後どうするかもあるしな。

「あー、まず君の名前から聞いてもいいかな?」

「……ふぇぇ、そうですよね。わたしのこと、ですよね……。わたしはステラ・セレスター。見ての通り、エルフです」

「俺はエルト、ここの領主だ。こちらが薬師のアナリア。君を知らせてくれたニャフ族のブラウンだ」

「あ、あなたが領主様っ!? これは大変な失礼を……」

「いや……気にしないでくれ。大丈夫だから」

こほん、と俺は咳払いをした。

聞くべきことは色々とある。

「確認したいんだが、あの木の像――ああなっていたのは、どういうわけだったんだ?」

ある種の魔法や呪い、マジックアイテムの効果で姿を変えられてしまうことはある。

色々な原因があるのだ。

「あの姿はマジックアイテム、魔王のペンダントのせいなんです……」

「ああ、あれか……」

その名前には聞き覚えがある。

確か所持者の魔力を体力に変換するアイテムだったな。

魔力が大きい者がうまく使えば、有効な体力回復手段になる。

ただし変換時に、ランダムでデバフを与えてくるのが難点だが。

「……それで運悪くタチの悪いデバフを引き当てて、木の像に変えられてしまったのか?」

「ふぇぇ、そうです。よくご存じですね……」

「元に戻れたのは、俺の魔法が関係しているのか」

「多分、そうです……。木の像と領主様の魔力が噛み合って、デバフが切れたのだと思います」

同じ植物繋がりの魔力だからだな。

対消滅を起こした、そんなところか。

前世の知識だと、めったに起こらない現象のはずだが――こんなこともあるとはな。

振り返ると、かなりのラッキーで助かったんだな。

そこまで聞くと、アナリアが気の毒そうな顔になった。

「それでそのまま、年月が経って地面に埋まって……なんてことでしょう」

「ええと……長いお昼寝みたいなものだったので、そこはキツくはなかったのですが……」

「タフだにゃん」

「……キツくはなかったのですか……」

意外とステラは木の像になっていたことを気にしていないな。

まぁ、俺達に見せていないだけかもしれないが。

後は彼女が、本物のステラかということか。

さすがに彼女を助けて、そのままリリースするわけにはいかないだろう。

一応、正体は確かめておかないとな。

ブラウンの話だと、ステラはSランク冒険者。

Sランク冒険者は世界中を見てもめったにいない。

今だと七人しかいないはずで、ザンザスにさえSランク冒険者はいないのだ。

しかし、どうやって本人と確かめれば――ああ、いい方法があった。

Sランク冒険者は例外なく魔法を使えるはずだ。伝説にある魔法と同じ魔法が使えれば、まず本物と考えていい。

「……じゃあ君は本物のステラなのか。ザンザスの英雄と呼ばれた、Sランク冒険者の?」

「恥ずかしいですけどそうです……。信じてもらえないかもしれませんけど……」

「ふむ、伝説にあるステラは何の魔法が使えるんだったか?」

「んにゃん! 英雄ステラと言えば怪力の魔法にゃん。ドラゴンもひねり潰す腕力が代名詞にゃん!」

「ええ、劇でもそうですね。とっても堅い黒檀を、指でつまんで曲げるシーンは有名です」

「あの話が残っているんですか? そのぅ、あのお話は正しくないです……」

「…………怪力、【強化】の魔法か。それなら証明するのは簡単だな。ここに黒檀は用意できる」

魔力を集中させ、俺は床から黒檀の切れ端を生み出した。

「ま、魔法で……」

「よし、ちょっと悪いが――試してくれないか。その方が、今後の話もお互いスムーズに進むと思う」

「そうですね……。わかりました、では……」

ステラは黒檀を指先でつまんだ。

ごくりと俺達は息を呑んで見守る。

「ふぇぇ……えいっ!」

グシャ、パラパラ……。

パラパラ!?

黒檀は指先で握り潰されて、消えてなくなっている。

あまりの力に細かい塵になってしまったのだ。

……予想外のパワーだ。

正しくない、というのはそっちの意味か。

「だがこれで、君がステラであることは確定だな」

疑う余地はないな。魔法はそう簡単に真似できない。

俺はステラに向き直った。

「色々と悪かったな、ステラ。君は確かに冒険者のステラだ。そしてそれがわかった今、君は自由だが今後はどうする? 冒険者に戻るのか?」

そこでステラは初めて、俺の瞳をちゃんと見据えた。

口調からは想像もできないほど、しっかりとした意志があるように感じられる。

「ふぇぇ……迷惑でなければ、ここに置かせてはもらえないでしょうか……?」