軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

たまごおいしい

ギャブッシュと親密になったきっかけはりんごのパンケーキだった。

そこから仲良くなり、スパニッシュオムレツや厚焼き玉子を食べてもらったのだ。

思い返してみれば、私はギャブッシュに卵料理ばかりを作ってきた気がする。

でも、これまではできあがったものばかりだったから、目の前で卵を調理したわけではない。

――今回はあえて、ギャブッシュの前で温泉卵を作る。

それが決意。

そんなわけで、雫ちゃんにも手伝ってもらって、台所から卵を持ち出した。

レリィ君と焼きりんごを作ったときにも食材を持ち出せたので、卵やりんごなど生で食べられるものは、持ち出せるようなのだ。

その辺りは私のスキルなので、私の意思で柔軟に対応してもらってるんだろ思う。

ちなみに台所から持ち出した食材に、現地で手を加えた場合も体が強くなる、元気になる効果はあるようだった。

さすが、私の台所。スパダリ力が天元突破。

「椎奈さん、これが源泉ですか?」

「だね。すごいね、しっかりできてる」

雫ちゃんと一緒に、できあがっていた源泉に近づき、観察する。

源泉はギャブッシュか作りあげた巣……浴槽から少し離れたところにあった。

岩盤を割って湧き出たようで、四角い岩の真ん中が丸くくりぬかれ、大きな手水鉢のようだ。

底からどんどん湧いているので、今はお湯があふれていっている。

そこに木製の樋を渡し、浴槽まで自然な傾斜をつけ、お湯を入れる計画みたい。

つまり、源泉かけ流し!

「楽しみだね、雫ちゃん。すごい温泉ができそう」

「そうですね」

雫ちゃんを見て、にんまり笑えば、雫ちゃんもうれしそうにふわふわ笑う。

「あ、イサライ様、聖女様! 源泉は熱いっすから気を付けて!」

二人で笑い合っていたら、丸太を肩に担いだガレーズさんが声をかけてくれた。

ちょうどいいので、ガレーズさんへと振り返り、おーいと手を振る。

「源泉って何度ぐらいですか?」

「んー。沸騰はしてないっすけど、手では触れない感じっすね。即火傷って感じじゃないっすけど、熱いのは熱いっす!」

「作業中ありがとうございます」

答えてくれたガレーズさんにお礼を言って、もう一度源泉を見る。

なるほど。確かに沸騰はしていないが、湯気の感じから見るに、そこそこは熱そう。

60度から80度ぐらいかな?

温泉卵作りには適温だ。

「雫ちゃん、持ってきてくれた卵なんだけど、カゴごとここに沈める感じにするね」

「このお湯につければ温泉卵になるんですか?」

「うん。日本でも観光地とかであるよね」

「……日本」

そう。源泉が高めの温泉地に行くと、ときどきある。

卵を持って行くか買うかすれば、お湯につけたり湯気に当てたりすると、温泉卵ができあがるのだ。

どうやら雫ちゃんは体験したことがないみたい。

「雫ちゃんは初体験?」

「はい……」

「日本でもやったことがないことをを異世界で体験するってすごいことだね」

もしかしたら、悲しくなってしまったかもしれない。

少し心配になったけれど、雫ちゃんは私を見上げて、そっと微笑んだ。

「……楽しいです」

小さな声。

でも、私にはちゃんと届いて――

「……椎奈さんと一緒だから、です」

「んん゛……!!」

心臓が止まる。

「おい、お前! なにおかしな音出してんだよ!」

思わず漏れてしまった心の悲鳴に、ゼズグラッドさんがけっと声を上げる。

どうやら、台所から戻ってきた私たちを見て、近くに来ていたらしい。

「ゼズグラッドさん……これは、抑えきれなかった姉の鼓動です」

「ああ?」

「ほら、私って雫ちゃんの姉だから……」

合意の。

「俺だってシズクのことを妹みたいに思って……って、お前、なにをするんだ?」

「……私は、責任を取ります」

「責任?」

悔しそうに呟くゼズグラッドさん。

けれど、途中で私と雫ちゃんの手元にあるものを見て、はて、と首を傾げた。

そこにあるのはカゴに入った大量の卵。

そう。私の決意の証。

「どういうことだ?」

「さっき、ゼズグラッドさんに言われて、私なりに考えたんです。私がやらなければならないことってなにかなって。それはきっとギャブッシュに向き合うことだろうって思って……」

「……そうか。お前はお前なりに考えてるんだな」

私の真面目な口調にゼズグラッドさんは目尻を拭う。

その涙は悔しさからか、それともギャブッシュを思ってのことか……。

私は意思を込め、ゼズグラッドさんをみつめた。

「まずは源泉で卵を温めます」

「たまごをあたためる」

「次にそれでごはんを作ります」

「ごはんをつくる」

「食べます」

「たべる」

私の言葉を、そのまま返すゼズグラッドさん。

うん。呆然としている。

二度、瞬いたゼズグラッドさんは、はっと我に返って私に顔を近づけた。

いわゆる、ガンつけですね。

「おい! お前、それをギャブッシュに見せるってことか!? お前、ギャブッシュをどれだけ傷つけるつもりなんだ!!」

「でも、私にはそれしかないんです。ごはんを作って、きちんとギャブッシュに伝えます……!」

強い語気とギンッと私を睨みつける金色の目。

でも、私はその目を受け止め、逸らすことなくはっきりと言い放った。

「私は胎生だ、と」

たまごはうめない、と。

「……っ!!」

「もう、だれにも止められません」

「……くそっ、ほかに、ほかに方法はないのか……」

「……あるかもしれません。もっと穏便に平和にだれも傷つかない方法が」

そう。きっといい方法がある。

でも――

「私は自分を偽れない」

まっすぐに金色の目を見上げた。

「たまごおいしい」

「「たまごおいしい」」

あ、ゼズグラッドさんだけじゃなく、雫ちゃんも呟いてる。

「というわけで、ギャブッシュー!」

「シャーシャー?」

大きな声で呼べば、浴槽のあたりの地面を掘っていたギャブッシュがこちらへとドスドス歩いてくる。

しっかりとこちらに近づいてきたのを見計らって、私はギャブッシュに手元のカゴを見せた。

「見て。卵がいっぱい。これから私はギャブッシュと約束したように、卵を温めるね」

「シャー?」

ギャブッシュはかわいく顔を傾ける。

それを確認した私は、紐をつけたカゴを湧き出る源泉へと入れた。

ちゃぷん

「あ、雫ちゃんも入れて」

「……っはい」

ちゃぷん

「これで時間が経てば、ちょうどいい固さにできあがります。ゼズグラッドさん、気にする人がいたら、そのままにしてもらうように声をかけていただけるとうれしいです」

「お、おい!」

「ギャブッシュ。私は卵を温めるっていうと、こうなっちゃうんだ」

ギャブッシュの金色の目をみつめると、ギャブッシュはただ優しく見返してくれる。

『そんなこと、わかっているよ』と。そう聞こえる。

「ギャブッシュ……」

顔を近づけてくるギャブッシュの鼻筋をよしよしと撫でる。

そして、雫ちゃんの手を握り、移動を開始した。

「では、よろしくおねがいします」

「ちょっと待て! どこに行くんだ!?」

歩き出した私たちにゼズグラッドさんの声が追う。

私は一度立ち止まって、振り返って答えた。

「騎士団の厨房に。そこにある食材を台所に持ち込んで、雫ちゃんとごはんを作ってきます……。雫ちゃんと二人で! 二人で作るんですよ!」

「お前! めっちゃ楽しんでんじゃねーか! 責任ってなんだよ!!」

「卵の見張りです」

「ちげぇ!!!」

ゼズグラッドさんは声を上げ、今にも私たちに走り寄りそうな気配だ。

だが、ゼズグラッドさんは追ってこない。

なぜなら、私に卵をよろしく、と頼まれているからだ。

そう……。

ふふんラッシュは責任を全うするんだよね……。

「お前ぇ! その目!!」