軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

責任の取り方

まさか、雫ちゃんが台所に来られるとは思わなかった。

なにこれ。手を繋ぐと一緒に台所召喚されるの?

台所召喚の新しい能力が判明し、そこからは急いで検証をした。

その1。連れてくることができるのは雫ちゃんだけ。

ハストさんやレリィ君でも手を繋いでの台所召喚を試してみたけれど、召喚されたのは私だけだった。

もしかしたら、雫ちゃん以外にも一緒に来られる人がいるかもしれないが、ハストさん曰く、これは異世界召喚された方だからではないか、ということで、たぶん、雫ちゃんと私だけが台所に行けるんだと思う。

その2。台所の中では雫ちゃんは自由。

手を離したとき、雫ちゃんが元の場所に戻るということもなかったし、私だけが元の場所に戻ることもできた。

これは今まで持ち込みをしていた食べ物と扱いは同じみたいで、私がいなくなった後は、雫ちゃんは普通に台所にいることができたようだ。

以上の二点から導き出されることは。

「雫ちゃんと一緒にごはんが作れるね」

つまり。

「ついに進化のとき」

時は満ちた!

「進化、ですか?」

一人で盛り上がっていると、隣に立っていた雫ちゃんが不思議そうに首を傾げる。

今は大まかな検証のあと、もう一回台所に来たところだったのだ。

「この台所はごはんを作ったり、食べてもらうとポイントがたまるんだけど、そのポイントで材料や器具を増やしたり、設備を拡張したりできるんだ」

「すごいです……」

「でね、今までは材料や器具は増やしてたんだけど、設備を拡張したことはなくて……。でも、さすがにこのミニキッチンじゃ二人で並んでごはんは作れないから」

雫ちゃんに言葉を返しながら、目の前の台所を見る。

とっても大好きな台所だが、そこはやはりミニキッチン。

一口コンロは電熱線で、調理台は大きなまな板を置いたら、流し台にはみ出してしまう。そして、流し台もマグカップを四つぐらい置いたらいっぱいだ。

「台所を大きくするから、ちょっと待っててね」

そんなわけで、雫ちゃんにはそこにいてもらって、私は液晶へと向かう。

たまりにたまったポイントを使う!

「電熱線をガスの二口コンロにして、調理台と流し台を拡張、と」

液晶を操作すれば、辺りが白く光る。

そして、現れたのは全体的に広くなった台所!

二口ガスコンロ(魚焼きグリルやセンサー付き)に五万ポイント、調理台と流し台にそれぞれ三万ポイントずつ使ったけれど、悔いはない。

大学そばのはじめての下宿から、社会人三年目の部屋に引っ越ししたみたい……!

「見て、雫ちゃん! 台所が進化した!」

テンションの上がった私は、やった! と雫ちゃんににんまりと笑いかける。

すると、雫ちゃんはふわふわと微笑んだ。

「椎奈さん、すごくうれしそうです」

「うん。これはテンション上がっちゃう……!」

これまではポイントがたまっていることはわかっていたが、なんだかんだとそのまま来てしまっていた。食材や器具と違い、設備関係は使用するポイントが高いからだ。

でも、雫ちゃんが台所に来てくれたことで、ポイントを使うきっかけができた。

「雫ちゃんのおかげだね。雫ちゃんがいるって思うと、踏ん切りがついた」

「私がいたから……」

雫ちゃんは私の言葉を呟くと、ぎゅっと唇を噛んだ。

そして、その黒い目で私をみつめる。

「椎奈さん。私が椎奈さんにできることってありますか?」

「あるよ! いっぱいある。雫ちゃんが私のごはんを食べてくれるとね、すっごくポイントがたまるんだ」

「ポイントが」

「うん。だから、雫ちゃんにはいっぱい食べて、いっぱい笑って欲しい」

そう。なんていっても、雫ちゃんが食べると一万ポイント。すごい。

「あ、でね、ほかにも手伝って欲しいことがあって……」

「はい。なにをしたらいいですか?」

「当初の予定通りなんだけど、みんなにお昼を作ろうと思うんだ。雫ちゃんには、それを手伝って欲しいな」

そう。雫ちゃんが台所に来られたことで、検証のために一時中断していたけれど、みんなのためにごはんを作りたい。

この台所で作ったものを食べれば、強くなって元気になる。

騎士団員のみんなにはまだ実際には食べてもらっていないが、そのことについてもハストさんは説明をしてくれたらしく、食べてもらうことに問題はないのだ。

私たちのために温泉を作ろう! と言ってくれたみんなの手伝いがしたい。

「ギャブッシュも戻ってきてくれたしね……」

どこかへ飛んでいっていたギャブッシュだが、台所召喚のスキルのついて、いろいろと実験をしている間に帰ってきていた。

その足の鉤爪で持ってきたのは大量の大きな石。

……うん。材料だね。

そして、ギャブッシュは少し掘った地面にそれをきれいに並べ、とても快適そうな湯船を作ってくれた。

さらに、源泉もすぐに掘り当ててくれて、残りは脱衣所や囲いを作るだけという状況なのだ。

その作業は騎士団員のみんながやってくれている。

だから、私は――

「……責任を取ろうと思う」

「責任、ですか?」

ゼズグラッドさんが呟いたあの言葉。

こんなにもスムーズに巣……温泉を作ってくれたギャブッシュに私は責任を取らなければならない。

「卵を温めようと思う」

「たまごをあたためる」

「……っ温泉卵を……作ろうと思う」

台所に私の悲痛な声が響いた。

「……椎奈さん、あの私はよくわかってないんですけど……。あのドラゴン、えっとギャブッシュ? は椎奈さんのことが好きで、一緒に卵を温めよう……つまり、子育てしたいって言ったんですよね?」

「……うん。たぶん」

「……その……椎奈さんが卵を温泉で温めて食べようとするって、あの……」

雫ちゃんは言い難そうに目をきょろきょろとさまよわせた。

だから、私はそんな雫ちゃんにわかってる、と頷いた。

「残酷だよね……」

ひどい女だ。

でも、きっとギャブッシュはそこで目が覚めるはず。

あ、この女、ちょっと俺の思ってたのと違うなって……。

「あんなにかわいいギャブッシュを傷つけたいわけじゃない。でも、私は卵は産めないから……」

――食べるから。

そうこれは決意の温泉卵である。