軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

青春の味

台所へと移動すれば、そこは相変わらず、一人暮らしを始めたばかりのミニキッチン仕様。

調理台は狭いし、シンクも小さい。コンロなんて電熱器が一口あるだけだ。

「そろそろ拡張してもいいかも」

うん。ミニキッチンにも愛着はあるけれど、やはりもっと便利にしたい。

私のスキル『台所召喚』は私が台所へと召喚されるという不思議スキルだけど、なんていってもポイントをためることができる。そして、ポイントをためれば材料やキッチングッズ、さらには台所そのものを拡張することも可能なのだ。

「ポイントもいっぱい増えてるし」

ミニキッチンを移動し、液晶を操作すれば、そこにはズラズラと並ぶポイント履歴。

魔獣があらわれてから、一気に増えたそれを見ると、思わずにやついてしまう。

そう! あの日、K Biheiブラザーズにデトックスウォーターを作ったから、そのポイントがたくさん入ったのだ。

『警備兵の感謝』、『警備兵の尊敬』、『警備兵の感嘆』、ほか色々な『警備兵の~』がエトセトラエトセトラ。

ごはんを作ることでポイントが入るけれど、私以外の人に食べてもらうと、一気にポイントが増える。

デトックスウォーターは十人に振る舞い、しかも全員、初めてだったから初回ボーナスでポイント獲得が二倍になっている。

1000×2×10=20000!

「にまんぽいんと」

こんなのほくそ笑まないほうが無理だ。

これで調理台が拡張できちゃう。まな板がシンクにはみ出さないで済んじゃう。

だから、にんまりと笑ってしまうんだけど、そんな『警備兵の~』シリーズの中に、ひとつだけ気になる表記があった。

うん。あの日、みんなにデトックスウォーターを振る舞って以来、何度かこの液晶を見ているんだけど、いつもそれが気になっちゃうんだよね。

何度も首を傾げてしまうそれ。そこには、こう表示されているのだ。

――『警備兵の初恋』と。

「だれかが私に恋してたってこと?」

たぶん、表示を信じるならそういうことだ。

だけど、まったくピンとこない。まったく思い当たらない。

だって、そんな人いただろうか。私を見ると照れくさそうだったり、デートに誘ってくれたり、プレゼントをくれたような誰かが……。

「いないな」

まったくいない。

びっくりするほどハストさんに髪を切られているところしか思い浮かばない。

甘酸っぱさよりもバーバーシロクマの香りしかしない。

「まぁ、レリィ君のときの表記もなんか変だったしね……」

そう。語弊があった。

だから、これもそういう種類のやつなんだと思う。

うん。私に恋してるわけじゃなくて、だれかの思い出の味で、なんか初恋の味みたいな感じかもしれない。

「爽やかな初恋だなぁ」

ミネラルウォーターにレモンにオレンジに洋梨に各種ハーブとはちみつ。

透き通っている。

「青春」

野球部のマネージャーかな。

甲子園に連れてって。

そうして、たくさんのポイントを手に入れたんだけど、そこにはみんなで作ったローストチキンのポイントも入っていた。

これはちょっと予想外。だって、ローストチキンはこの台所で作ったわけではなく、ふつうにみんなで作っただけだったからだ。

材料も調味料も調理器具も調理場所もこの台所とは関係がない。けれど、しっかりとポイントがついていた。

『作成経験値 100pt』

『食事経験値 1300pt』

「一品作ると100ポイントで、食べてもらうとさらに100ポイントがつくのかな……」

今回はローストチキンを作ったということで、『作成経験値』が100ポイント増えたのだろう。

そして、ハストさん、レリィくん、スラスターさんとアッシュさん。さらにK Biheiブラザーズ九人で十三人分のポイントが『食事経験値』として入っている。

「……やっぱり私が食べても増えない」

『OLのはにかみ』をください。

さらに新たな発見もあって、ローストチキンを食べても、みんなの能力は上がらなかったのだ。

だれの体もきらきらと光らなかったし、黒いもやが噴出することもなかった。

外で私が作ったごはんはただのごはんで、だれかの能力を上げたり、だれかの傷を癒したりすることはできないらしい。

つまり、能力が上がるのはあくまで、『台所召喚』のスキルを使った場合のみ。

私が普通の台所でごはんを作って、他の人に食べてもらっても、だれかに私の能力がばれたりする可能性はないのだ。

「でも、ポイントの増加が少ないからなぁ……」

そう。やっぱり『台所召喚』をしないと、ポイントが全然増えない。

なので、効率を考えれば、このミニキッチン(拡張予定)でごはんを作り、ハストさんやレリィ君に食べてもらうのが一番いいのだ。

よって、私はこれまで通り、こつこつとポイントをためながら、夢のキッチンを目指す!

「よし! そうと決まればさっそく作ろう!」

液晶を操作し、必要な材料と器具を交換していく。

まず材料は牛乳、生クリーム、バニラビーンズ、グラニュー糖、りんごともうひとつ。

そして、器具は泡だて器と蓋つきの金属製のタッパー。さらに、計量カップとデジタルスケールも。

「はかりはどのタイプにするかいつも迷ったなぁ……」

そう。計量カップもデジタルスケールもたくさんの種類がある。

それぞれに長所、短所があるから、何個も使ってみたりもした。

計量カップは大きく分ければ、金属製、プラスチック製、ガラス製などがある。

金属製は丈夫だけど、電子レンジにかけられない。はかった液体をちょっと温めたいときなどには不便だ。

プラスチック製は安いし、そのまま電子レンジにかけられるけれど、割れやすく、耐久性はあまりよくない。

ガラス製は少し高いけれど、金属製とプラスチック製のいいところをそのままもっている感じなので、今回はガラス製にする。

うん。K Biheiブラザーズのおかげで、ポイントがいっぱいあるから!

……まぁ、この台所には電子レンジがまだないから、金属製でもいいんだけど。

そして、デジタルスケールは少し高いけれど、0.1グラムまではかれるものに。

……ありがとう。K Biheiブラザーズ……。

あなたたちの顔……忘れないよ……。

バーバーシロクマでのカットしか思い出せないけれど、きっとそれはドラゴン酔いのせい。うん。

そうして、交換を終えれば、いつも通りに辺りが白く光り、理台の上には交換された材料が乗っていた。

「あとは冷蔵庫にある卵とバターを足して……」

調理台の上に揃った材料を見て、にんまりと笑う。

そして、手をピカピカに洗えば、あとは調理をしていくだけ!

「まずは材料の計量!」