軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

警備兵の誓い

魔獣を地鶏に変えた後、ハストさんも空から降りてきた。

ハストさんも空から地鶏に変えたところを見ていたようだ。

まだ空には魔獣が残っていて、あまり話はできなかったが、この力は私が異世界の人間だからではないか、ということだった。

ハストさんが包丁を作ってくれたからでもなく、金髪剃り込みアシメの家宝の剣が実はすごいものだった、というわけではないらしい。

レリィ君が包丁を持ち、魔獣に掲げたけれど、何も起こることはなかった。

……うん。私専用の聖剣ですね。

その事実を曖昧に笑って受け止め、とりあえず二人にデトックスウォーターを渡す。

二人とも怪我などはしていなかったようで、黒いもやが吹き出ることはなく、体がきらきらと輝いた。

そして、その先に待っていたのは――

――蹂躙!

……まあね。もともとね。二人は強かったもんね。

金髪剃り込みアシメの様子を見て、二人があんな怪我をしたら……! といてもたってもいられず、来てみたが、二人は大きな鳥型の魔獣に臆することなく向かっていた。

空から来る敵に対してレリィ君のスキルはとても有用に思えたし、ハストさんはもう人間じゃなかった。

だから、そもそも私が来る必要はなかったかもしれないが、私の料理を食べた二人はさらにすごい。

なんかレリィ君は両手から青い炎をだして、翼っぽくなったそれで空を飛び始めたし、ハストさんは気的なものを放出しはじめて、一気に三体の魔獣の首が飛んだ。まさに無敵。

さらに怪我が治り、強くなった警備兵の人たちも参戦すれば、魔獣の不利は明らかで、あんなにたくさんあった影はあっという間に殲滅された。

一気に押し寄せた魔獣の一団を倒せば、後に続くものはない。

やはり、レリィ君の言っていたように、結界が無くなってしまったわけではなく、魔獣の一団がたまたま外に出てしまった、事故のようなものだったのだろう。

残ったのは訓練場に落ちたたくさんの魔獣の亡骸。

そして、時折、私が変化させた地鶏。

魔獣の隙間をコッコッと歩き回っていた。

そして、ハストさんは一応の安全を確認すると、素早く私を部屋へと帰した。

たぶん、王宮に人が戻る前に私をその場から隠すためだと思う。

ハストさんは今も、私が面倒なしがらみにとらわれることのないように考えてくれているのだ。

……でも、私は大勢の前でスキルを使ってしまったわけで。

まだ人の気配のない王宮の部屋。

一人でこれまでのことを考えてみた。

いきなり召喚に巻き込まれて。

よくわからないながらも、楽しく生きるぞ!と決めて。

ハストさんにごはんを食べてもらって。

レリィ君の体が治り、弟を好きすぎる兄がいて。

警備兵の人たちともちょっとずつ打ち解けて。

ここに巻き込まれ召喚されて、なにか立派な成果を上げたわけじゃない。

でも……。

「……楽しかったな」

……うん。ちゃんと楽しかった。

ハーブの世話をして、台所に感謝して。

悪くない日々だった

「それも終わりかぁ……」

ぽつりと漏らせば、その事実に少しだけ胸が痛んだ。

外ではハストさんやレリィ君、警備兵の人たちは後片付けに追われているんだろう。

でも、私は特にやることがなくて、少しだけ痛む胸を抱えたまま夜になり、いつも通りに眠った。

そして、いつも通りに朝が来て、ベッドから起き上がり、身支度をする。

――きっと今日でこの生活は変わる。

あれだけ大勢の前でスキルを使ったのだから、きっと私のスキルのことはバレるだろう。

ハストさんが動いてくれたり、スラストさんが隠蔽してくれたりするだろうが、警備兵はあくまでこの国に仕える人たちだ。上へと報告する義務がある。

それに悪気がなくても、金髪剃り込みアシメならぽろっと口走りそうな気がする。いつも会話に情報量が多かったしね。

……しかたない。

そうなるかもしれないと思って力を使った。

それでもいいと思ったし、その結果、この生活がなくなるのならば、結果は受け止める。

「よしっ!」

身支度を整え、気合いを入れた。

大丈夫。私はどこでも楽しくやれる。

そして、時間きっかり。

いつもと同じ時間に扉がノックされた。

「イサライ様」

「シーナさん!」

「はい」

いつも通りの低い声と明るい声。

耳に馴染んだその音に私もいつも通りに扉を開けた。

「おはようございます」

そうして挨拶をすれば、いつものように二人も挨拶を返してくれる。

いつも通りのいつもの顔触れ。

――でも、いつも通りもきっとここまで。

これから私が行くのはどこだろう。どんな人たちと話しをするんだろう。

私のスキルをどう扱ってくれるのか。私はどんな待遇になるのか。

……わからない。

でも、それを言うであろうハストさんとレリィ君に負担をかけたくなくて、あえて笑って二人を見た。

「今日はどこへ行きますか?」

どこでも大丈夫だよ、と。

そんなつもりで言葉を発したんだけど、二人の目は優しくて……。

「……いつも通り、詰所へ行きましょう」

「うん。いつも通りにね!」

そう言って、レリィ君はぎゅうっと私の腕を抱え込む。

本当にいつも通り。

そんな二人の様子に私だけがあたふたとしてしまう。

……すごく一人でしんみりとしてたのに、まさかの総スルー!

いや、もちろん昨日の今日だし、全然なにも変わらないっていうこともあるのかもしれない。

昨夜からしんみりしていた自分はいったい……。

まあ、変わらないならそれが一番なので、自分を納得させて、いつも通りに詰所へと行く。

すると、そこにはいつも通りではない光景が広がっていて……。

「えっと……これは……」

思わず声が出てしまう。

びっくりして目をうろうろとさまよわせてしまうけれど、そんな私にハストさんがそっと囁いた。

「王宮に人が戻る前に、どうしても彼らからイサライ様に伝えたいことがあるようです」

「……私に?」

その言葉にもっと驚いてしまう。

そこにいるのはよく顔を見るK Biheiブラザーズの人たち。

昨日、怪我をしていた人たちのようだ。

そして、彼らは今、ビシッという言葉がつくぐらいまっすぐに立ち、きっちりと整列していた。

爪先までも気を張り巡らせているかのような姿勢。

詰所にいるときは上着をきていないことも多いのに、今朝は首の上のほうのボタンまでしっかりと止まっていた。

訓練している時は汚れてもいいように、と少し擦り切れたような皮のブーツを履いているのに、今日はピカピカに磨き上げられている。

……全然違う。

いつもの彼らとは全然違う……!

そして、彼らの真ん中には金髪剃り込みアシメがいて、まっすぐに私を見ていた。

「あなたのことを聞きました。異世界から来た方だと」

いつも高笑いをしている声。

それが今は落ち着き、耳に心地よい音として届いた。

「これまでの私たちの無礼を申し訳ないと思う。異世界から来たあなたに接する態度ではなかった」

『あなた』っていうのは私のこと。

そんな風に呼ばれたことがないからびっくりしてしまうけれど、でも、その金茶の目は真剣で……。

「……あなたは怒っていい。私たちを嫌い、もっと避けても良かったはずだ」

眉を寄せながら、苦しそうに、けれどしっかりと私へと言葉を届けようとしている。

「けれど、あなたは何の迷いもなく、私たちの元へ駆けてきてくれた。戸惑いなく、その力を私たちに分け与えてくれた」

金茶の目だけじゃない。

みんなの目がまっすぐに私を見ている。

「私たちは忘れない。あなたのしたこと――その心を」

そこまで言うと、みんなは一斉に腰に佩いている剣を抜いた。

同じタイミング、同じ動作で抜かれた剣は胸元に掲げられ、まっすぐに空をさす。

「――この剣はあなたのために」

そして、銀色の刀身が光を受けきらっと輝いた。

「あなたの秘密を決して漏らさないと誓う」

大勢の男性が一斉に同じ行動をする迫力。

真剣な眼差しと落ち着いた声。

それがただ私一人に向かっていて……。

「……みなさん、元気になったなら良かったです」

なんだか体の奥のほうが熱くなってくる。

だから声が震えそうになって……。でも、そうならないように必死で声を保った。

「私の我儘ですが、できればあまりスキルのことを知られたくないと思っています。できれば、なにかに縛られるのではなく、自分で楽しいことをみつけたいから。だから、みなさんが私の秘密を守ってくれるのならば、とても助かります」

ありがとう、とお礼を告げて。

でも、と言葉を足した。

「あ、態度とかは今まで通りでいいですから」

「しかし」

「剣も収めてください」

「はっ」

私の言葉に、胸の辺りで掲げていた剣を一斉に下ろす。

……いや、このきびきび感がね。

「いきなり態度が変わると変に思われます。いつも通りで」

こちらを見ているひとりひとりと目を合わせて、お願いします、と視線を送る。

そして、金茶の目にも目を合わせる。

「お前とか田舎者とかでいいですから」

なんか『あなた』って言われると変だし。

「……! そういうわけにはいかない!」

「あ、そうそう、その声。ちょっと怒鳴ってるくらいがいつも通りですよね。なんだかさっきは別人みたいで、騎士かと思いました」

「騎士だ!」

きぃきぃと怒鳴る声。

あっという間に戻ってきた声になぜか安心する。

この耳障りの悪い声がいつも通りだもんね。

「……名前を呼べばいいか?」

「あ、まあそうですね」

『あなた』よりは不自然さもマシかもしれない。

「シー……ナ……」

「え?」

「い、イサライ・シーナ!」

まさかのフルネーム。

どっちかでよくないか。

でも、まぁ名前を呼んでくれるなら、私もちゃんと呼んだほうがいいかもしれない。

「はい。アッシュさん」

呼びながら、にんまりと笑う。

すると、金茶の目は大きくなって……。

「……っ! そうだ! 私はアッシュだ! アシュクロードだ!」

「はい。知ってますけど」

高笑いで草が好き。悲鳴多め。うん。知ってる。

そうしてやりとりをしていると、ハストさんが隣からゆっくりと言葉を発した。

「イサライ様。彼らはイサライ様の秘密を守ります。これからも今まで通りの生活が送れるかと」

「はい」

……今まで通り。

ハストさんに護衛してもらって、レリィ君と一緒に過ごして。ごはん作って、おいしいって言ってもらえる日々。

昨夜から痛くて、警備兵のせいで熱くなった体の奥があたたかいものでふんわりと覆われた気分になる。

だから、思わず口元が緩んでしまって……。

緩んだ口元のまま、ハストさんを見上げれば、そこにあるのは水色の目。

いつもいろいろな感情を表してくれる色。

でも、今はその色がなんだか不思議な色をしていて……。

「イサライ様。私は北へ帰ります」