軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ベーコンエッグ

そうと決まれば、本当にポイントを交換すれば品物が手に入るのか確認しなくては。

ポイントのため方なども気になるけれど、私はとりあえずやってみてから考えるタイプなのだ。

「まずは……どうしよう、なにを作ろう?」

液晶の前で、うーんと首を傾ける。

実は先ほど朝食をとったばかりで、おなかはあまりすいていない。

食事は私の部屋の隣にあらかじめ用意されていて、私の準備ができ次第、そちらへ移動するような感じになっている。

朝は固めのパンとぬるくなった野菜スープだった。

味は普通だし、用意してくれたものに不満はないけれど、もっとできたてのあたたかい……いや、あっつあつのものを食べたい。

「あ、そうだ。ベーコンエッグ」

召喚された時、朝食に作ろうと思っていたメニュー。

さすがにクロワッサンを食べるようなおなかの空きはないけれど、ベーコンエッグぐらいなら食べられる気がする。

ミニキッチンでも簡単に作れるし、材料もそんなにいらないだろう。はじめてにはちょうどよさそうだ。

「よし。じゃあ交換するのは卵、ベーコン、塩……あ、フライパンと菜箸もいるか」

何もないミニキッチンだから、食材だけでなく、調味料や調理器具も手に入れないといけない。

卵とベーコンは10ポイント。塩と菜箸は5ポイントで交換できる。

フライパンは必要なポイントが高くて、26cmの一般的なサイズで蓋も必要だと50ポイント必要なようだ。

「……小さいのにしようか」

目玉焼きなら20cmの小さいものでいいし、オムレツなど小さいもののほうがいい料理もある。

小さいのだと30ポイントで済むし……。

「いや、でも一つ目のフライパンは大きい方がいいよね」

そう。おいおい小さいのも欲しいが、やはり一つ目は大きいの。炒め物にも使えるし、ハンバーグや餃子も一気に焼けるものがいい。

これから先、台所ポイントがどれぐらい増やせるのかわからないから、片手鍋なんかを手に入れられなくても、大きいのにしておけば、野菜を茹でたり、スープを作ったりもできるし。

「これでよし」

液晶をタップして交換する品物を選ぶ。

すると『交換しました』という文字とともに、キッチンが白く光った。

「おおっ、増えてる!」

そうしてキッチンのほうへと振り返れば、電熱器の上にフライパンが乗り、ささやかな調理スペースに卵とベーコン、塩、菜箸が乗っていた。

「あ、これいつもの」

元の世界で買っていた商品。それがそのパッケージのまま、存在している。

よくわからない仕組みだけど、ありがたい。私のスキルだから私が使いやすいようにできてるんだろう。

卵は10個入り。ベーコンは四枚のパックが三つほどテープでまとめられている。塩は海水塩でにがりも適度にはいっている500gのやつだ。

「……しまった。はさみか包丁が必要だった」

塩の袋が切れない。

交換した品物の確認を終えて、ふと足りないものに気づく。

もう一度、液晶を操作して、はさみと包丁を手に入れるためのポイントを確認してみるんだけど……。

「やっぱり包丁かな」

これからのことを考えても、包丁は絶対必要だし、包丁でも塩の袋は切れる。だから、包丁の中でも一番使い勝手がいい三徳包丁が欲しいところだ。

「あー、足りない……」

液晶には三徳包丁を手に入れるためのポイントは30ポイントだと表示されていた。

もともと100ポイントしかなくて、いろいろと交換してしまったため、残りは20ポイントしかない。

「20ポイントでペティナイフを手に入れるか……いや、同じ20ポイントなら調理ばさみのほうがいいかも」

少ないポイントで効率よくこれからも使いそうな道具を選ばないといけない。

そして、少し悩んだ末、私は必要なものを選んだ。

「うん、これだな」

タッチパネルを操作すれば、『交換しました』の文字と共に、またキッチンが白く光る。

そして、調理台の上には袋を止めるクリップが10個ほどと布巾が出現していた。色とりどりでかわいい。さらに、蛇口の横には泡で出るハンドソープも。

「塩は! 手でちぎる!」

しかたがない。だって、クリップ、布巾、ハンドソープの交換にそれぞれ5ポイント、計15ポイント使ったからペティナイフも調理ばさみも交換できなかった。

手で袋を破ろうとすれば、袋がちょっと伸びるし、指が痛いけど、それは我慢する。

ちゃんと袋の封をしたかったし、布巾でさっと拭きたかった……!手も洗いたかったんだ……!

「よし、じゃあ作ろう!」

まずはしっかり手洗い。ついでにフライパンも一応洗っておく。

布巾は5枚セットだったので、一枚を手拭き、もう一枚を台拭き、そして一枚を食器拭きにした。残りはとりあえずそのままで。

そして、食器拭き用の布巾でざっとフライパンを拭いて、電熱器の上に乗せた。スイッチを入れて、フライパンを温めておくのだ。

……電熱器、めっちゃ火力弱いから。時間かかるからね。

フライパンを温めている間に、卵とベーコンの残りを冷蔵庫に入れた。

そして、二の腕に力を入れて、塩の袋を手でちぎる。必死。かなり必死。

袋を伸ばし、薄くなったところを指で破って、その穴を大きく……。

……はさみ欲しい。

切実に。早くポイントためよう……。

「温まった」

そうして塩と戦っていると、フライパンが温まっている。

しっかりと熱されたフライパンにパックから取り出したベーコンを一枚ずつ剥がしながら、フライパンに乗せていく。ベーコン自身から油が出るから、あらかじめ油を入れる必要はない。

「あー、あれも欲しいな、ベーコンの上に乗せるやつ」

名前は確かベーコンプレス。そのまんま。

ベーコンプレスは焼いているベーコンを上から押さえておくもので、ずっしりと重いそれでベーコンをフライパンに密着させるのだ。これを使うとカリカリのベーコンが作れるらしい。鶏もも肉の皮をパリパリにするのにも使えたりするようだ。

すごくやってみたい。でも、もちろん今はそんなポイントはないので、いつかポイントをためて、手に入れよう!

「んー、良い色!」

今はないベーコンプレスに思いを馳せながら、パチパチと音を立てるベーコンをひっくり返す。最初は平べったかったベーコンは少しだけ縮み、ゆらゆらと波立っている。香ばしい油が出て、茶色の焦げ目がとてもおいしそうだ。

そうして、四枚全部をひっくり返すと、そこに卵を割り入れた。

透明な白身がベーコンの上に広がっていく。黄身だけはこんもりと盛り上がっていて、なんかかわいいよね。

ベーコンからはみ出て、直接フライパンに当たったところは、あっという間に白に変わっていった。

そうして、底の面から白くなっていく卵に一つまみの塩をかける。黄身にめがけて塩をふり、最後にぱっぱっと指を振って、全体に。

「よし、水」

味付けをしたら、後は蒸らし。

本来ならコップとかに入れて、フライパンに水を入れるんだけど、今は持ってない。なので、フライパンの蓋に水を適量入れ、慎重に運ぶ。

……情けない姿だけどね。ないものはないから。

そして、零さないようにしていた水をフライパンの上まで運ぶと、その水を鍋肌から滑らせた。

ジュウッと言う音とともに一気に蒸気が上がり、油が跳ねる。

それを抑えるように、急いで蓋をすれば、閉じ込められた音がパチパチ、ジュッ、ジュッっとフライパンの中で踊った。

そうして、フライパンとその蓋で閉じ込められているこもった音に耳を澄ませる。

この跳ねる音……いいよね。

料理してるって感じがする。

水が跳ねていた音が少し落ち着き、グツグツという沸騰する音に変わる。そうして、だいたいの水が蒸発したタイミングで蓋を取れば――

「うん! おいしそう!」

――できたてのベーコンエッグ!

白身はしっかりと固まり、つやっと光を弾いている。

黄味は表面には白く半透明の膜が張っているが、その下に見える黄色はまぶしく、中身はまだとろっとした状態のはずだ。

目玉焼きの下にあるベーコンの香ばしい匂いが最高……!

水を入れる工程の跳ねさえ気にしなければ、小学生でも作れる料理。それでも、久しぶりに見るできたて、あつあつの料理はすごくおいしそうで……。

すると、液晶を操作していないはずなのに、辺りが白く輝き、調理台の上に白いお皿とフォークが現れた。

「わ! これ、いいのかな、使っても」

まさにグッドタイミング。

実はお皿や箸、フォークなどは交換できなかったから、フライパンから直に食べようとしていた。

うん。人には見せられない。

でも、どうせ一人だし、ないものはないのだから左手にフライパン、右手に菜箸で食べようと思っていたのだ。

けれど、こうしてお皿とフォークがでてきてくれた。いろいろ試さないとわからないが、もしかしたら、料理ができれば、お皿やカトラリーなどはこうして出てきてくれるのかもしれない。それだと非常にありがたい。

そんなわけで、フライパンから滑らせるようにして白いお皿にベーコンエッグを移す。

同じお皿にサラダを盛り、クロワッサンをつければ、まさに、私が巻き込まれ召喚されてしまった日に食べようとしていたもの。

今は遠くなってしまった日々にただのベーコンエッグがなんだか感慨深い。

「……できあがり!」

しんみりしそうになる気持ちを立て直すために、あえて明るく声を出した。

すると、目の前が真っ白になって……。

「わっ……と」

左手にベーコンエッグの乗ったお皿、右手にフォーク。

言葉を発したせいかわからないけれど、どうやら台所から体がワープしたみたいだ。

「イサライ様っ!?」

「あ……」

そして、そこには私の護衛をしてくれている騎士がこわい顔でこちらを見ていた。