軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

食パンと台所(神)

台所から峠へ戻ると、立派なキャンプ地ができていた。

中央のたき火はいい感じに燃え、石で囲ったかまどができている。その周りに置かれた丸太は椅子として使えそうだ。

きっとレリィ君が焚き木に火をつけて、ギャブッシュとゼズグラッドさんが、かまどを作ってくれたんだろう。そこにハストさんが切り倒した木を並べて、椅子として使えるようにしてくれたんだと思う。

「すごいですね……さっきまで、ただの広場だったのに……」

「うん。あとはテント張れば生きていけそうだよね……」

わが特務隊のキャンプ能力が高い。

「シーナ様、その鍋は火にかけますか?」

雫ちゃんと二人で感心していると、ハストさんが声をかけてくれる。

「調理自体は終わっているので、このままでも大丈夫なんですけど……」

「じゃあ、熾火にしちゃうね!」

ハストさんに答えると、レリィ君もやってきて、たき火に手をかざした。青い炎がたき火に向かって放出される。

すると、さっきまで赤い火を出し燃えていた薪は、灰色の炭へと姿を変えた。

「ありがとうレリィ君」

「うん!」

いつも通りのすご技。

ほんのりと赤く光る炭に持っていた鍋を乗せて、蓋を外す。

その途端、いい香りがただよって――

「すっごくいい匂い!」

「これはにんにくの香りですね」

「はい。今回はきのこを油で煮た、アヒージョというものを作ってきました」

鍋を覗きこんだレリィ君とハストさんの目がきらきらと輝く。

それににんまりと笑って返すと、すでに丸太に座っていたみんなも声を上げた。

「すごいネ! スラスターの探したきのこがこんなにおいしそうなものに変わるなんて!」

「シーナ、これはどうやって食べるんだ?」

「シャー、シャー?」

わくわくという言葉がぴったりなエルジャさんと、早く食べたそうなゼズグラッドさんとギャブッシュ。

私は雫ちゃんに目配せをして、まずはパンを配ってもらった。

「これはパンに載せて食べるんですけど、ギャブッシュとゼズグラッドさん、レリィ君とスラスターさんはパンを半分にしてもらっていいですか? パンに切れ目が入ってるので、すぐにちぎれると思うので」

「おう!」

「うん!」

「じゃあ雫ちゃんと私は半分こ、ね」

「はい!」

雫ちゃんがパンに入った切れ目に沿って、ちょうど半分にしてくれる。

レリィ君の足元で「レリィと半分こ、はぁはぁ」という荒い息も聞こえてきた。いや、これは聞かなかったことにしよ。うん。

「シーナ君! きのこ料理もだけど、このパンもすごいネ!」

「あ、わかりました?」

エルジャさんが雫ちゃんからパンを受け取った瞬間、わぁ! と声を上げた。

紫色の目がこんがりと焼けた食パンを見て、興味深々と輝いている。

「これは四角いパンをスライスしているのカナ?」

「はい、そうです。これは私のいた世界で、食パンと呼んでいるものです。生地を四角い型にいれて、蓋をして焼いたあと、好みの厚さに切って食べます」

「へぇ! 表面はしっかり焼けているね。……これだけで食べてみていいカナ?」

「はい」

私の答えを待ってから、エルジャさんが食パンを一口サイズにしていく。

切れ目の入った食パンはブロック二つ分でもちっとちぎれた。

「中は白くて、きめが細かいんだネ。では、いただくヨ」

エルジャさんはそう言うと、パクッとパンを口に入れた。

そして、ニ、三回ほど咀嚼して――

「なんておいしいんダ!!」

ぱあ! っと顔を輝かせた。

「表面はサクッとしてるけど、中は柔らかい……! こんな! こんなおいしいパンがあるなんて! ヴォルヴィ! パンだけで食べてみるといい!」

「シーナ様、かまいませんか?」

「もちろん」

エルジャさんに勧められたハストさんの水色の目もきらきらと輝いている。

私がにんまりと笑って返すと、ハストさんはパンをブロック三つ分でちぎり、口へ入れた。

「小麦の香りがいい……それに、パンというのはこんなにもしっとりと柔らかくできるものなんですね」

「このパンは油分が入った生地なので柔らかくなるんですが、さらに型に入れて蓋をして焼くので、水分が逃げずにしっとりした食感になります。これは台所のポイントで交換したものですね」

「こんなおいしいパンがスキルで手に入ったということだネ?」

「はい」

私の言葉にエルジャさんがなるほど、と頷く。

そんなやりとりをしている間にパンを配り終えた雫ちゃんが私の隣に帰ってくる。

まだ立ったままだった私の服の袖をレリィ君がきゅっと握った。

「シーナさん、シズクさんも、座って?」

「うん」

一本の丸太に私を中央にして左右に雫ちゃんとレリィ君が座る。

座る位置は上下関係で決まっている感じではなく、自由にしているようだ。

レリィ君の隣にはスラスターさん(座らず、足元に侍っている)がいて、ちょうどお誕生日席のようなところにエルジャさん。私の向かいにはアッシュさんが座り、ちょっと離れたところにゼズグラッドさんとギャブッシュがいる。ハストさんはエルジャさんの向かいに座っていた。

「シーナ! で、どうやってパンにきのこを載せるんだ? ギャブッシュがもう待てないって言ってるぞ」

「あ、じゃあ、ギャブッシュのパンをもらっていいですか?」

「おう!」

ゼズグラッドさんが半分にちぎった食パンの片方を私に渡してくれる。

それを受け取ると、雫ちゃんが隣から「椎奈さん」と声をかけた。

「これ、パンのかごに入っていたんですけど……」

そう言って、雫ちゃんが渡してくれたもの。それは――

「サービススプーンだ……!」

大皿から料理を取り分けるために使う、大きめのスプーン……! ビュッフェなんかで使うヤツだ。

これは台所でポイント交換をしたものではない。きっと台所がパンかごを出したときに、一緒に入れておいてくれたのだろう……。

「神……」

優しさ、優しさがすごい。心遣いが憎い。

好き……私の台所大好き……。